さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第四章 最強幼女襲来、神々への敵意

世界に散らばった異分子

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 現在存在している世界は、ヒューズド、炎乱、インフェスタ、ライン、バクス、英静の六つだ。ただ、命の言う様にこの六つの中の一つに、前世が女神であった魂を持つ世界があるのなら、その中で可能性が無いのは英静だ。



 理由は命がアランと出会った後に造られた世界が英静だけだからだ。世界というのは確かに魂を持つ存在だが、感情や思いがあるだけで言葉というものを持っていない。例え魂の声を聞くことが出来る命でも世界から伺えるのは声だけで、それは言葉ではないので話なんて聞けないのだ。



 だからアランから裏切った女神の話を聞いた後に、命が前世で女神だった魂を世界に転生させることはあり得なかったのだ。



 つまり前世で女神だった魂の世界は、実質五つの世界のうちの一つということになる。



「命ね、勇者くんと別れた後すぐに前世で女神だった魂がどれくらいいて、どこにいるのか探したんだよね」



 命は裏切った女神の魂を探すことをアランと約束した後すぐに行動に移った。どれが裏切った女神の魂かは判別できなくても、四三いる女神の魂の居場所は特定しておこうと考えたのだ。



「そしたら一つだけ命が創造主になったばかりの頃、世界に転生させてた魂がいたんだ」

「それが裏切った女神というわけですか?」

「絶対ではないけど、ほぼ間違いないと思うよ。世界に転生する程の悪事を働いた女神なんて、その子しか考えられないし」



 確かに神の固有名詞を材料に裏切った女神の魂を探すことはできなかったが、世界に転生していた元女神の魂がいたことで、それが裏切った女神の魂であることはほぼ確定していたのだ。



 だから命はソヨの前世が裏切った女神ではないと判断することが出来た。



「ただ世界の場合、ソヨちゃんみたいに記憶を取り戻して話を聞くとかできないからなぁ。命困っちゃったってわけ」



 世界は感情を持つだけで、知識もなく、脳もなく、言葉も持っていない。そんな存在に前世の記憶を取り戻させて話を聞くというのはあまりにも無理な話だった。それを可能にするには世界の存在定義そのものを変えなくてはいけないので、命はそれをできないというよりはしなかったのだ。



「だからといって、その魂を別の何かに転生させて代わりの魂を世界に転生させるのは、流石にルール違反過ぎるからできないし、こうして他の元女神の記憶を頼りにするしかないんだよね」



 普段天界の暗黙の了解を破ってばかりいる命がルールを気にしていることに神々は若干当惑したが、すぐにそれもそうかと思い直した。



 輪廻転生とは言わば、前世という試験における採点結果だ。前世で良い行い――満点に近い回答をしていればそれに見合った点数――来世が返ってくる。逆に前世で悪い行いをすれば逆の結果が返ってくるというわけだ。



 これは対価と罰とも捉えることができ、それは天界において最も歪めてはいけない事象でもあったのだ。



 それを創造主が歪めては元も子もないので、流石の命も輪廻転生に関しては慎重にならざるを得ないのだ。



「だからわらわちゃんの情報はかなり役に立ったんだよ。ありがとね」

「どういたしましてなのじゃ。これぐらいお安い御用なのじゃ……」



 命に改めて礼を言われたソヨはどこか浮かない表情を浮かべていた。前世で仲間だった女神が世界に転生しているという事実を知ったせいで、落胆しているのだと感じた命には優しく頭を撫でることしかできず、命は歯痒く感じてしまった。



「命様、それぞれの世界に異分子が入り込んでいます」

「……異分子?どれどれ」



 そんなどこか心許ない空気を一変させたのは透き通ったカルマの声だった。〝異分子〟という気になるワードに食いついた命は、世界を見渡せる液晶パネルを眺めているカルマの後ろから顔を出してそれを探そうとした。



 そこには一見普段と何ら変わりのない六つの世界が広がっていたが、創造主である命にはすぐに異分子の正体が分かった。



「ふーん。インフェスタの連中、とうとう異世界にまで手を出してきたんだ」

「なんじゃと!?」



 命が思案するように呟くと、心底驚いたといった感じでソヨが大声を上げた。ソヨは自分の目で命の言葉を証明するために、カルマの後ろにいる命の更に後ろから液晶パネルを覗いた。



「本当なのじゃ……わらわの知っている奴らがインフェスタ以外の世界にいるのじゃ」

「それにしてもカルマよく分かったね」

「記憶力は良い方ですから」

「えらいえらい」



 ソヨは目を見開くと掠れ出た様な声で話した。インフェスタの住人がインフェスタ以外の世界にいるということは即ち、ソヨのように異世界転移の魔法を使ったということになるので、カルマはそれらを異分子と呼んだのだ。



 一方、すぐにそれに気づき命に頭を撫でられ中のカルマを、まるで異形のものを見るような目で凝視しているのは武尽だった。



 カルマはあっさりと言ったが、カルマが気付いた事項は記憶力が良いとかいうレベルの問題ではなかったのだ。



 人間がそもそも存在しないラインを除けば、他四つの世界はインフェスタ同様人間が住まわっている。一つの世界で億単位存在している人間を全て覚えているとまではいかなくても、その人々がどこの世界の人間か判別できるまで記憶しているというのは、頭脳労働が苦手な武尽でなくても異常極まりないことだったのだ。



 確かに同じ人間でも、世界の違いで多少の外見違いは存在している場合もあるのだが、それは本当に極僅かなものだ。それを記憶し見分けるということがどれ程の偉業なのか、武尽は想像するだけで身震いを起こしそうになった。



「ねぇわらわちゃん。因みに異世界転移ができる人ってどれくらいいるの?」

「そうじゃのう……異世界転移は技術もさることながら魔力もごっそり削るもんじゃから、わらわのように普段使いしてた者はいなかったのじゃが、できる者は割といたのじゃ。ちょうど両手で足りるか足りないかぐらいじゃったよ。まぁ、天界に転移するのは魔力量が足りなさ過ぎて、流石に一人でできる者はおらぬじゃろうが」



 異世界転移なんて大魔法が何の代償もなく使える訳もなく、魔法行使にはそれなりの魔力を使う必要があるようだ。その為魔力を膨大に所持するソヨとは違い、他の魔法使いは旅行感覚で異世界転移する者はいなかったらしいが、異世界転移ができない訳ではないのだ。



 異世界転移の魔法を使うことができる者がざっと一〇人前後。その者ら全員がインフェスタ以外の五つの国を訪れているのなら、単純計算で一つの世界に二人の人間が転移したということになる。



「ねぇ、この中にわらわちゃんを陥れた男いる?」



 ソヨが自分の次に実力があると評価した男なら、当然異世界転移の魔法も使えるはずなので、命は念のためにソヨに尋ねた。



「いや、其奴はまだインフェスタにおるようじゃ。ほれ、あそこで踏ん反り返っているムカつく蛇顔の男がそうじゃ」



 ソヨはキョロキョロと液晶パネル内を探したかと思うと、一人の男を指さして答えた。その男は自室のような場所で椅子の背もたれに寄り掛かっており、確かにソヨの言った特徴通りの容姿をしていた。緑がかった黒髪に三白眼、薄い唇は当に蛇顔と言っていい特徴だったのだ。



「ふーん……それにしても、異世界転移してまで何企んでんだか」

「命様、我々が様子を見に行きましょうか?」



 蛇顔の男に対する興味が失せたのか、命は異世界転移したインフェスタの人々の動機を探ろうとした。するとリンファンは自分たちが下界に降り、それを探ることを提案してきた。



「そうだなぁ……お願いしよっかな。でもペアのうち一人はここに一応残ってね。あ、カルマとカルナは一緒でもいいよ」



 リンファンの申し出を受け入れた命はそれぞれの神が管理している、それぞれの世界に神が一人ずつ下界に降りることを提案した。だがカルマ・カルナペアの場合、常に一緒でないと主にカルナの方に問題が発生するのでそこは考慮しておいた。



「じゃあヒューズドからは私が行きますです!戦闘になるかもしれないので、です!」

「その法則でいくとラインには私が出向いた方がいいですね」

「未乃はまだ神になって間もないでありんすから、炎乱にはわっちが」



 バクスは命の提案通りカルマとカルナ。ヒューズドはクラン。ラインを管理する神はハクヲと千歳だが、千歳はどちらかというと治癒の方を得意とする女神なので、ここはハクヲが出向くことになった。



 そして炎乱はルミカ・未乃ペアの管理下にあるが、未乃は神になったばかりで力のコントールが覚束ない可能性があるので、ルミカが向かうことになった。



「英静はどうする?」

「吾輩は行かないからな」

「え、なんで?」



 インフェスタを除いた五つの世界のうち、最後の英静は静由と武尽のどちらが出向くのか尋ねた命に、武尽は素っ気無く返した。



 戦闘狂で普段なら真っ先に戦闘の臭いを嗅ぎつけ食らいつく武尽が、今回は何故か乗り気でないという異常事態に、命は首を傾げるほかなかった。



「あんな小物相手にするより、このガキと遊んだほうが面白そうだからな」

「誰がガキじゃ!失礼なこと言うのでないのじゃ!」



 武尽はソヨの肩に腕をかけて圧し掛かるとからかう様に破顔した。一方ガキ扱いされたソヨは心底ご立腹のようで、武尽に対して毛を逆立てた猫のような反応を見せた。



「そもそも其方、そのチート武器を使うのなら、わらわ絶対に負けるのじゃ。結果が分かっている勝負はつまらないのじゃ」

「ほー、これがどんな武器か分かってんのか」



 武尽が背中に帯刀していた完全無色アブソリュートスケルを指さしたソヨは不満気な表情を見せた。その実力を一見しただけで見極めたソヨに武尽はますます興味が湧いたような声を上げてにやついた。



「詳細までは分からないのじゃが、おそらく命の次にヤバいのじゃ。こんなの無理無理無理ゲーなのじゃ」

「心配しなくてもこれは使わねぇよ」

「おぉ!それなら大歓迎なのじゃ!わらわの力が神にどれぐらい通用するのか試してみたいのじゃ!」



 完全無色アブソリュートスケルは武尽の望みを何でも叶える武器なので、創造主の次に驚異的な力を持っているというソヨの見解は正しかった。だが最初から武尽もそんなチート技術を使うつもりは無かったらしく、ソヨにそう言い含めた。



 例え完全無色アブソリュートスケルが無くとも、武尽は誰もが認める最強武神なので、そんな相手との戦闘を大歓迎してしまうソヨもかなり驚異的であることは間違いないようだ。



「じゃあ、英静には……俺が、行く」

「ありがとう、静由」



 二人の世界で勝手に話が進んでいる様子を静かに傍観していた静由は小さく口を開いた。普段寝てばかりであまり行動を起こさない静由が、ほぼ一〇〇パーセント武尽のせいだったとしても自分から行動を起こしたという事実に、命は未だ嘗てない感動を覚え満面の笑みを浮かべた。



 こうして今後の計画が決まったことで、それぞれの戦いが始まろうとしていた。





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