さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第四章 最強幼女襲来、神々への敵意

神々の無双 sideクラン

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 各世界に散らばったインフェスタの住人の対処をするため、ヒューズドに降り立ったクランはすぐに異分子が向かったと思われるザグナシア王国へ向かった。



 何故インフェスタの住人が、未乃が前世で魔王として治めていた国を訪れるのか、頭脳労働が苦手なクランには皆目見当もつかなかったが、何か良からぬことをすればすぐにとっちめてやろうと意気込んでいた。



「よーし!全速力で行きますです!」



 神としてのオーラを世界に悪影響がない程度に抑えたクランは華麗なスタートダッシュを切ると、目にも止まらぬ速さでザグナシア王国へ走り出した。



 クランが本気で走ると時速一〇〇〇キロメートルもくだらないので、神のオーラより寧ろこちらの方が世界に影響を及ぼしている気もするが、今それを突っ込んでくれる相手をクランは持ち合わせていなかった。







 クランが走り始めた頃、ザグナシア王国は突然の訪問者によって僅かな喧騒に包まれていた。



 現在のザグナシア王国は魔王であったザグナンの死によって王の席が空席のままでいる。ザグナシア王国は絶対的な力を持っていたザグナンを君主として誰もが認めていたので、その席につく者を半端に選ぶことなどできなかったのだ。



 その為今ザグナシア王国の政はザグナンの直属の配下だった何名の魔人が務めているのだが、肝心の王はその者の中からなかなか選べずにいたのだ。



 ザグナンに子供がいれば話はもっと簡単だったのだが、ザグナンは生涯誰も妻として娶らず、子供さえ作らなかったのだ。



 かくかくしかじかで、ただでさえ慌ただしい空気のザグナシア王国に更なる厄介ごとが舞い込んできた。それが魔人たちの目の前にいるインフェスタの住人二人なのだ。



 魔人の一人であるサランはそんな二人に怪訝そうな視線を向けた。彼女はザグナンが死ぬ五〇年前から直属の部下として仕えていた魔人で経験は浅いものの、その実力は誰もが認めているほどの女性だ。



 彼女の目の前にいる二人の異世界人は男二人で、それぞれマイルとフェジットと名乗った。マイルはどこか他人を見下しているような表情が張り付いた虫唾の走る男。フェジットは優しげな雰囲気を装っているが、腹の底は穴が空いているように真っ黒な男。サランが抱いた印象はそんな感じだった。



「突然の訪問については謝罪します。だが我々には時間がありません。ですので簡潔に説明します。我々は神々による悪の所業に打ち勝つべく、全世界の強者たちと共闘し、天界にてのさばる神々を討とうと考えているのです」

「「…………は?」」



 思わず魔人たちは揃えて素っ頓狂な声を上げた。一方インフェスタの二人からすれば予想外の反応だったのか、両者ともが首を傾げるという何とも珍妙な光景が広がることになった。



 インフェスタ側としてはこのヒューズドという世界が神の存在を認識しているかいないか、それを承知ではないので二通りの反応を予想していたのだ。



 一つは神の存在を認識していない場合。まず魔人たちは神の存在の是非を問いてくる。神がいるかどうか定まっていない者たちが、いきなりそんな話をされても困惑する他ないからだ。もう一つは神の存在を確信している場合。フェジットの言った〝神々による悪の所業〟についての詳細を求めてくると考えていた。神とは本来崇め奉る存在なので、そんな神を討とうなどという物騒な話が出てきた理由は誰だって知りたいと思うからだ。



 にも拘らず魔人たちの反応はただ一文字。マイルとフェジットはここにいる魔人たちが阿呆なのかと疑う程に困惑していた。困惑に若干の苛立ちを持ったフェジットは、舌打ちしたい気持ちを必死に我慢して相手の返答を待った。



 そして当の魔人たちにも、当然あれだけの反応をする理由があった。それは魔人たちが命という創造主の存在を知っているからだ。



 命がザグナシア王国を訪れたのは二〇〇〇年以上前の話なので、その当時を知る者はほとんどいないのだが、あの出来事はザグナンが魔人たちに語っていたので、創造主という存在を知らない魔人などいなかった。



 もちろん魔人たちの認識している創造主という存在は、ザグナンの感じた命の印象そのままなので、創造主や神々に対して悪い印象を持っている者などいない。



 魔人たちのおかしな反応の原因はここにあった。ザグナンから聞いていた命を知る魔人たちは、そんな命の配下である神々がフェジットの言うような愚行を犯すのだろうか?と疑問を持たざるを得なかったのである。



 それに加え魔人たちは命の人柄だけでなく、その脅威性もよく聞かされていた。命はザグナシア王国を訪れた際、創造主としてのオーラを解放しただけでほとんどの魔人を死に至らしめた経験があるので、魔人たちは創造主という存在を怒らせたら一巻の終わりなのだと、よくザグナンに言い聞かされていたのだ。



 そんな命の愛する神々に刃を向けてこの国が……いや、この世界が無事で済むわけがないと魔人たちは確信しているのだ。



 詳細は知らなくとも、魔人たちはこの二人の話に安易に乗るべきではないと、理性と本能両方で感じ取った。



「とーーーちゃくですー!」

「「!!」」



 サランが沈黙を破ろうとすると、その役目を横から掻っ攫う緊張感のない声が響いた。その声の主はもちろんクランで、全速力の勢いそのままに応接間の扉を蹴破った。



「お!異分子二つ発見です!」

「何者ですか?」



 クランは応接間を大きな瞳で見渡すと、マイルとフェジットをVサインで指差した。突如現れたクランに異分子呼ばわりされたフェジットは、怪訝そうな表情でクランに尋ねた。



「私はクランです!命様のお願いでやって来た女神です!」

「命様?」



 フェジットは命の存在を知らなかったようで首を傾げた。一方、魔人たちの方は命の名前が出てきたことで、目の前の少女が本物の女神であることを悟った。



 この少女の前で下手な真似をするわけにはいかないと、魔人たちは緊張した面持ちでクランの言動を探った。



「はっ……こんなちんちくりんのガキが神?冗談は大概に……」



 マイルはクランが女神だとは微塵も信じていないようで、クランを侮辱する言葉を吐いた。だがマイルの言葉は途中で途切れたまま、続きが紡がれることが無いまま沈黙が流れた。



 その僅かな違和感に首を傾げたフェジットは隣にいるはずのマイルの方へ視線を投げた。するとそこにマイルの姿はなく、視線を下に移すと首を無惨に切断され、息絶えたマイルがフェジットの目に入った。



「なっ……」

「もう!です。私はちんちくりんじゃないです!命様に造ってもらったこの容姿を侮辱しないでくださいです」



 生々しい血の匂いが充満し始めた、酸鼻をきわめる光景には似つかわしくない声でクランはぷりぷりと怒りを露わにした。



 絶命しているマイルの一歩先にクランは佇んでいて、フェジットたちは漸くこの殺しをクランが実行したことを認識した。



 クランはフェジットたちが違和感を感じるまで気づかないほど速く、静かに、それでいて力強くマイルの息の根を止めたのだ。フェジットたちはクランが大鎌型の武器でマイルの首を切断した瞬間も、その事実に気づくことができなかった。それ程までにクランは気配を偽っていたということだ。



「な、なんなんだ……」

「あれ?です。そういえばこの人たちって殺して良かったんでしたっけ?です。駄目だったんでしたっけ?です。はっ!命様に聞くの忘れてたです!」



 フェジットの絶望にも似た疑問を完全無視したクランは一人で慌てふためいていたが、人を一人殺した後とは思えないその反応がフェジットたちにとっては異質で、隠しきれない鬼胎を抱いた。



「あっ、でも命様ならすぐ生き返らせることができるです!もし殺しちゃダメでもその時は命様にお願いして生き返らせてもらえばいいです!問題解決です!」

「えっ……」



 一人で勝手に自己完結したクランにフェジットは当惑したような声を漏らした。それが自分の最後の言葉になるとも知らずに。



 刹那の間にフェジットの身体を頭から真っ二つに切り刻んだクランは、血で汚れた大鎌の武器を丁寧に手入れし始めた。その瞳はまるで我が子を愛でる様に優しげで、魔人たちはあまりの衝撃で全身が硬直したような錯覚に陥った。



「あれ?です。結局この人たち何しに来たんです?」



 最初の目的を完全に忘れていたクランは、悲しいほど物言わない死体に向かって可愛らしく首を傾げた。インフェスタの住人の様子を探って対処するという本来の目的を忘れていたクランにとって、その発言はまさしくブーメランだったのだが、残念ながらクランにそれを気付くほどの思考力は無かった。



「あ、あの……クラン、様。この者たちはどうやら私たちと共闘して、あなた様たちを亡き者にしようと考えていたようです。まぁ、その提案を私たちにする前にクラン様が処理なされたのですが……」



 困り顔のクランにサランはおずおずと話しかけると、状況を丁寧に説明してやった。クランの危険性を目の当たりにした直後に対話を試みようとしたサランは、魔人たちからすれば勇者以外の何者でもなかった。



「おぉ!なるほどです!ありがとうございますです!これで命様に報告ができますです。流石は未乃の元部下さんです。優しいです」

「えっ……?」



 クランは一瞬で顔をぱぁっと明るく染め上げるとサランの手を両手で握って礼をした。だが一方のサランはクランの発言のせいでポカンとした表情を見せていた。



 サランたちは魔王であったザグナンの魂が輪廻転生によって神になったことも、現在の名前が未乃であることも当然知らない。だが命がザグナシア王国に訪れた際の話をよく聞かされていた魔人たちは、魔王が神に匹敵する魂を持っていたことを知っていた。同時に、サランの上司だった者など一人しか思い当たらなかった。



 よって、サランたちは僅かに思考すると、クランの言う〝未乃〟がザグナンであることを理解したのだ。



「あっ、あの!クラン様!」

「なんですか?です」



 思わずといった感じでサランは気づけば立ち去ろうとするクランを呼び止めていた。クランに尋ね返されたサランは、何のためにクランを呼び止めたのか自分でも分かっていないことに気がついた。



 何かを聞きたいはずなのに、それが何なのか明確に見つけ出すことができない。なかなか言葉が出てこないサランをクランは心配するような瞳で見つめた。



「……魔王様……いえ、未乃様を、よろしくお願いします」



 ポツリポツリと出てきた言葉はたったそれだけだった。聞きたいことが山ほどあるはずなのに、それを声に出して言葉にできたのは疑問でも何でもなかったのだ。



 サランの一番の望みは、ザグナンの来世が幸せであることだけだったのだから。



「もちろんですっ!命様が、未乃を幸せにしてくれるです!」



 不安げな色を滲ませるサランに、クランは眩しすぎる程の笑顔でその色を一変させた。



「……じゃあ私はを持ち帰るのです。未乃の元部下さんたち、バイバイです!」

「「…………」」



 クランが〝これ〟と称したものを見下ろした魔人たちは、死んだ魚のような目でそれを映した。クランが持ち上げたのはマイルとフェジットの死体で、頭と胴体が分かれているマイルと、綺麗に真っ二つになっているフェジットを、二つの腕でクランは器用に抱えている。



 魔人たちはそんなクランの器用さに絶句したわけではなく、ただこんな凄惨な光景が広がる中であの会話がなされていたのだという事実に気絶したくなってきたのだった。





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