さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

文字の大きさ
50 / 75
第四章 最強幼女襲来、神々への敵意

神々の無双 sideルミカ

しおりを挟む
「さて、インフェスタの異分子は良い男だといいでありんすが……」



 炎乱の国――采国に降り立ったルミカは、人々にガン見されていることを気にすることもなくそう呟いた。采国には神子が常に存在していて、神子を通じて炎乱の住人たちは神であるルミカのことも何度か目にしたことがあるので、采国の人々は突如現れたルミカが女神であるということを認識しているのだ。



 そもそもサキュバスの特性を持ち、随分と刺激的な格好をしているルミカはそれだけで目立つので大して変わりはしないのだが。



 采国に限らず、炎乱という世界は神子が存在していなかった頃の面影など影も形もなかった。長らく続いた戦争のせいで疲弊した土地は生気を取り戻し、人々の暮らしも豊かになっている。初めて見た頃とは天と地ほどの差がある炎乱を再確認したルミカは思わず笑みを零した。



「女神様……神子様のおうちの近くに変な人がいるってみんなが騒いでるの。追っ払ってくれますか?」



 早速インフェスタの異分子を探そうとしたルミカを小さな手で引き留めたのは一人の少女だった。神子である弥永は現在天界にいるので、恐らく采国の人々はその〝変な人〟の対処に困り果てているのだろう。そして、その〝変な人〟こそがインフェスタの異分子なのだろうとルミカは予想をつけた。



「そうでありんすか。お嬢さん、教えてくれて感謝するでありんす」

「どういたしまして!」



 可愛らしい少女の頭を撫でつつ礼を言ったルミカに、少女は輝かしい程の笑みを浮かべた。一方、少女がルミカに接触している最中、冷や冷やとした気持ちでそれを見守っていた大人たちは、少女が女神の怒りを買わなかったことに心の底から安堵していた。



 ルミカは早速、少女からの情報を元に弥永の住む住居へ向かうことにした。











「素性の知れない奴をここに入れるわけにはいかねぇって何度言えば分かるんだ!そもそもお前ら、神子様に一体何の用があるって言うんだ!?」



 神子の護衛を務めている男の怒鳴り声を聞きつけたルミカは、一旦陰から様子を伺うことにした。



 神子の自宅前で護衛の男と対峙している二人は男女で、ルミカは若干不満気な表情でその二人を観察した。ルミカの不満の理由は、当然異分子の中に女がいたからだ。



 サキュバスの特性を持つルミカは当然他人を誘惑することを大の得意としている。普通のサキュバスなら男しか誘惑できないのだが、神であるルミカの場合、例え相手が女であっても容易に誘惑し堕落させることができるのだ。



 だが出来るのとやりたいかどうかというのは別問題だ。例えば人並みに泳ぐことができる人物がいたとしても、その人が水泳が好きかどうかというのはまた別の問題であるように。

 世の主婦が当たり前のように家事をこなしていても、それを喜んでやっているかどうか尋ねられれば、否と回答する者の方が多いように。



 女を誘惑することができるルミカも、そういうことに関する対象は男性だ。その為好き好んで女を誘惑したりはしないのだ。

 だからこそ、これからあの二人をどう対処しようものかと考えあぐねているのだ。



「護衛如きに我々の崇高な目的を話す訳がないだろう?さっさと神子を出せ」

「貴様、神子様をっ……」

「神子なら今ここにはいないでありんすよ」



 男の方が神子を呼び捨てにしたせいで怒りが更に沸き上がった護衛は、男の胸ぐらを掴もうとしたが、それはルミカが話しかけたことで制止された。



 突然会話に割って入ったルミカにインフェスタの二人は怪訝そうな視線を向けた。その視線にはルミカが何者か探るものと、ルミカの刺激的な格好を咎めるものが含まれていたが、下界の住人からそれを向けられることは慣れているので、ルミカは今更何か反応することは無かった。



「め、女神様!」

「え、女神?」



 護衛の男はそんなルミカが女神であることを知っていたので、そんな高位の存在が下界に突如現れたことに対する衝撃で思わず声を上げた。



 一方女の方は、痴女のような恰好をしているルミカがまさか女神だとは信じられなかったのか、護衛の言葉に疑わしそうな声で首を傾げた。



「いかにもわっちは女神でありんす。神子は今天界で命様と戯れているでありんすから、しばらく炎乱には戻らないでありんすよ。護衛殿は臨時休暇ができて良かったでありんすね」



 ルミカは護衛に向かって妖艶な笑みを浮かべると冗談交じりにそう言った。サキュバスの特性を持つルミカにそんな笑顔を向けられた護衛はあからさまに顔を赤らめたが、インフェスタの二人の前で無様に油断するわけにもいかないので気を引き締め直した。



「どうするんですか?本当に女神なら逃げるしかないのでは?」

「わざわざ異世界に来て簡単に帰れるわけがないだろう?それに本当の神なら逃げることすら許してくれないだろうな」



 もし耳の良いリンファンがこの場にいれば全く意味の無いような小声で相談し始めた二人に、ルミカは面倒臭そうな視線を向けた。二人がどんな選択肢を取ろうと、ルミカのすることは何ら変わらないからだ。



「不毛なお話し合いは済んだでありんすか?」

「っ……」



 不気味な笑みで挑発したルミカに、二人は警戒心丸出しの面持ちで冷や汗を流した。そんな二人をおちょくる様に、ルミカは何やら顎を指でつまんで思案している。



「いいことを思いついたでありんす!」



 長らく思考したことで一つの回答に辿り着いたようで、ルミカは無邪気な笑顔を浮かべると口を開いた。



「女が嫌なら、男にすればいいでありんすね」



 ルミカの発言の意味を理解できた者はその場にはいなかった。女は男にすればいいという発言の意味も。女が嫌というルミカの感情の詳細も。下界の者には計り知ることなどできなかったのだ。



「どういう意味だ?」

「こういう意味でありんすよ」



 男が怪訝そうな声で尋ねると、ルミカは答えとしてそれを実践することにした。ルミカは女の方に歩み寄ると、女の額に指差す手の形で触れた。



 女がビクッと反応すると、女の身体に異変が起きた。



「な、なに?」



 女の身体は頭のつむじからつま先まで、刹那の間に変貌を遂げた。髪は短く、睫毛も短く、眉毛は太く、背は高く、喉仏ができ、胸の膨らみが無くなったことで服はぺたんと萎み、全体的な身体の柔らかさは筋肉の硬さに変わっていった。



 女はどこからどう見ても紛れもない、男の身体に変貌したのだ。



「何なのよこれっ!え、声が……」



 己の身体の異変に元女のその男は顔を真っ青にした。そして恐怖と驚きで思わず出た自分の声に、元女の男は気持ちの悪い違和感を感じた。



 声帯にまで性別による変化を感じた二人は、ルミカの発言の半分を理解してしまった。ルミカの言葉は本当にそのままの意味だったということ。そして二人は目の前の存在が女神なのだという確信を今になって持ったのだ。



「これで心置きなく、誘惑できるでありんすね」

「「えっ……?」」



 二人がその言葉を理解するための時間は失われていた。何故なら把握する前に、二人はまともな思考ができなくなってしまったからだ。



 ルミカは神としてのオーラを解放して二人を誘惑したのだ。途端に二人の目は虚ろなものになり、頬は見るからに上気した様に赤く色づいていた。



 これでもう、インフェスタの二人はルミカに絶対服従の恋の奴隷と化したのだ。



「いい気分でありんすねぇ……女の方は男にしたらわっち好みになったでありんすし。これで異分子たちの目的も筒抜けでありんす」



 普段天界に住まうルミカは長らく感じていなかった優越感を手に入れたことでご満悦の様子だった。天界に住まう男神共相手ではルミカの誘惑なんて全く効果を成さないので、ルミカはどんどん自信というものを失っていくばかりだったのだ。



 だがこうして常人相手になら簡単に自分の力が通用することを再確認できたことで、ルミカはサキュバスの特性を持つ女神としての自信を取り戻したのだ。



「あら、こちらに飛び火したでありんすか?」



 ルミカが視線を移すと、そこにはインフェスタの二人と同じようにルミカの虜と化した護衛の男がいた。



 ルミカは二人に限定して誘惑したわけではなく、ただ神としてのオーラを解放しただけなので、その力が近くにいた護衛の男にも反映されてしまったのだ。



「仕方ないでありんすねぇ……」



 ルミカは女を男にした時と同じように護衛の額に人差し指で触れた。すると護衛の瞳に生気が宿り、護衛は状況を把握できていないように辺りをキョロキョロと見渡した。



「あれ……?俺…………なにを」

「主さん。神子のことは心配せず、ゆっくり休んでおくんなし」



 今回の事態に巻き込んでしまった護衛に対する若干の罪悪感を抱えたルミカは、混乱したままの護衛に優しく笑いかけるとインフェスタの二人を回収して天界への帰路に就いた。



 一人取り残された護衛は訳が分からないなりに、自分にできる神子の帰りを待つという使命を全うしようと心に決めたのだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...