さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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最終章 さよなら摂理、ようこそ命の世界

予知能力

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「というわけで命ちょっくらバクスに行ってくるね!」





 「どういうわけだ」という神々のツッコみはその相好にのみ滲み溢れている。天界では相変わらずその心の内を命にぶつける者はいなかったが神々は近頃態度で示すようになり、命はそれがむしろ嬉しいのかニヤニヤと笑みを浮かべている。



「あの人間が言っていた女神の魂がバクスに息づいているということでしょうか?」

「正解!」



 フックから裏切った女神と親しかったリアの話を聞いた命。それを神々も知っているのでデグネフはすぐに推測を立てることが出来た。



「というわけで、命がいない間みんな天界をよろしくね。デグネフは神のみんなをよろしくね!」

「「かしこまりました」」



 命が満面の笑みで神々を見回して言うと、神々は声を揃えて了解した。それを見届けた命は早速世界の一つであるバクスに向かうことにした。











 バクスは六つ存在する世界の中で、命が人間だった頃住んでいた地球に最も酷似している世界だ。バクスに住まい、尚且つ言葉を話す生き物は人間しか存在していない。

 他の動物や虫は野生のもの、人間に飼われているものなど様々である。



 経済、産業、建築、科学技術、国の数、自然、etc……。どれを取っても地球とバクスはよく似ている。



 そしてこのバクスと地球の唯一とも呼べる大きな違い……それが特殊能力だ。



 このバクスに住まう人々は必ず何らかの特殊能力を持っていて、この世界における優劣は特殊能力で決まると言っても過言ではないのだ。





「ふむふむ。リアちゃんはここにいるわけですね。ふむふむ……さてどうしたものかな?」



 バクスに到着した命はとある場所の前で立ち往生している。そのとある場所はバクスにあるありふれた高校の一つで、命は校門前で懊悩しているのだ。



 当然この高校にリアの魂の転生体がいるわけだが、どうやってリアと接触するものかと命は思考しているのだ。



 理由は、これまで下界を訪れた時には無かった障害が命の前に立ちはだかっているからだ。



 例えば勇者アランに会いに行った際は街中だったので何の問題もなかった。ザグナンの時はアランについていっただけなのでこちらも大丈夫だった。神子である楓佳に会った時は護衛がいたものの、彼女は部屋に一人だったので直接そこに行けば問題なかった。



 だが今回の場所は問題がありまくりだったのだ。まず高校に関係者以外が入れば当然不審者扱いである。それを無視して突入しても生徒か教師である転生体の周りには多くの他人がいる。



 普段の命なら気にしないかもしれないが、バクスは中途半端に地球に似ているので、人間だった頃に培われた価値観が命を今縛っているのだ。



「よし!こうなったら命、高校生になるしかないよね!」



 「どうなったらだ」と命にツッコんでくれる者も、態度で示してくれる者もそこにはいなかった。なので命は思いのままに張り切ってしまい、創造主の力を存分に使うことにしたのだ。















「というわけで転入生の命だよ!よろしくね!」

「「…………」」



 思い立ったが吉日が信条の命。早速創造主の力を使って転入手続きをし、バクスの人間としての偽の身分を造り出したのだ。



 そして現在命は問題の高校の一年生の教室で自己紹介をしている。教室も命にとって見慣れたものとほぼ同じで、二〇人ほどの生徒の視線が命に向いている。



「はい。転入生の佐藤命だ。みんな仲良くするように」



 命に続いて改めて紹介をした担任教師。どこにでもいそうな中年の男性教師である。



 因みに命の造り出したこの世界での名前は〝佐藤命〟である。命が偽名に対して何のやる気も見せなかったことがバレバレの適当加減である。



 命は空いた席に向かいつつ、この教室にいるはずのリアの転生体を探した。探すと言っても創造主の力を使えば一瞬で分かるのでこの表現は正しくないのだが。



「はぁ……男に産まれてしまったか……」

「佐藤、どうかしたのか?」

「いえ、何でもないですよ。先生」



 リアの転生体を見つけた命は心底落胆した様にため息をついた。頭を抱えている命を不審に思った担任だったが、すぐに命が何事もなかったかのように表情を変えたので気にすることなく朝礼を始めた。



 命が会いに来たリアの転生体は命の隣に席にいる男子生徒だったのだ。



 平均身長よりも少し高めの背丈。珍しい白髪はうなじ辺りで切り揃えている。瞳は色素の薄い青、肌も女子生徒より色素が薄い。

 かと言って女性的な訳ではなく、キチンと男らしい美しさを持った男子生徒だ。



 命が無遠慮にリアの転生体を見つめていると、あちらも命を一瞥し二人の目がバッチリと合った。



 だがどちらも狼狽えることなく、男子生徒の方が黒板の方を向き直したことでこの異様な雰囲気は消え去った。

 同時に授業開始のチャイムが鳴り、命は人間時代以来の学校を満喫することにした。







 満喫すると言っても命に真面目に授業を受ける気は微塵もなく。ただひたすらにリアの転生体の美しい容姿を眺め続けるという、傍から見ればストーカーに間違われてもおかしくないことを命は続行している。



 流石に授業中ずっとそんなことをしていれば男子生徒の方も気づいてしまう。案の定リアの転生体は命の方を振り向くと、何かを書き込んだノート用紙を命の机にそっと置いた。



 四つ折りにされた紙を開くと命は思わず目を見開く。





 〝ねぇ、君創造主?〟





 簡潔に、そんな問いが紙には記されていたのだ。



「うん!そうだよ!」

「え……」

「おい佐藤、授業中だぞー」

「あ、先生ごめんなさい」



 わざわざ男子生徒が紙に記して伝えたことを完全無視して口で答えた命。突如教室中に響いた命の声に、授業を担当している教師が苦言を呈した。



 一方、リアの転生体は命のマイペースさに口を半開きにして驚いている。



『ごめんね、驚いた?』

『そちらが何の動揺も見せなかったことに驚いた』

『いや?少し驚いたよ。でも君の特殊能力が分かったから不思議は消えたよ』



 姿勢を低くし小声で話しかけた命に男子生徒は素直に答えた。命は実際驚いたのだ。こうも簡単に自身の正体を見破られるとは露程にも思っていなかったのだから。



 あまりに衝撃的すぎて、命は創造主の力で彼の特殊能力を探ってしまった。



『知っているのか?』

『うん。予知、だよね?』

『そうだ。今日、創造主という神よりも尊い存在が現れるという予知が見えたんだ』



 既に己の特殊能力を把握していた命にリアの転生体は驚きの声を上げた。



 リアの転生体の持つ特殊能力は予知。なので創造主である命がこの学校を訪れるのも知っていたのだ。自分の思い通りに予知できるわけではないが、自身に訪れる大きな出来事なら自然に予知できるのだ。



『後でお話したいことがあるんだ。君の名前を教えてくれる?』

真宮秋人まみやあきとだ』

『命は命だよ。佐藤っていうのは偽名』

『だろうな』



 命のことを創造主だと知っていれば〝佐藤命〟が偽名であることはすぐに分かるだろう。秋人たちが住まうバクスのこの国で、最も多く存在する苗字も佐藤なのだから。













 そして互いが互いを認識してから時間はすぎ、高校は昼休みの時刻になった。命はその珍しい容姿が気に入られたのか、多くのクラスメイトに昼食を誘われた。だが命がお近づきになりたいのは秋人なので丁重にお断りを入れた。



 とは言っても命がただの人間だった頃は気味悪がられたこの容姿を、バクスの人間は気にしなかったことに命は僅かな喜びを感じた。地球に似ていると言っても全てが同じわけではないのだ。



「なぁ、命って男か?」

「そだよ。女に見える?」

「制服が女物だったらそうだな」



 机をくっつけ、顔を見合わせながら弁当に手をつけている秋人と命。命の顔を凝視した秋人は念の為といった感じで今更なことを尋ねた。

 だが命はこの学校の男子用制服を着ているので紛うことなく男だ。



「ふーん、女装してみるのも良いかな?あ、そういえばソヨちゃんと女体化の約束してるんだった」

「何の話だ?」

「神様との話」

「……そうか」



 突如秋人にとっては理解不能なことを呟き始めた命に、秋人は思わず首を傾げた。秋人の疑問にあっさりと答えた命だったが、秋人は〝神〟という単語を聞いたことで命が雲の上の存在であることを再確認させられた。



「それで、命は何しに来たんだ?」

「君に会いに来たんだよ」

「俺に?どうして?」



 命が来ることを予知していた秋人でもその理由までは流石に分からなかったので、素直に命に尋ねた。神よりも尊い存在が普通の高校に現れたのだからその疑問は当然だ。そんな秋人の疑問は命の返答のせいで更に膨らんだ。



「君の前世の記憶の中に、どうしても知りたい情報があるんだ」

「前世?」

「うん。君、前世で女神だったんだよ」

「…………は?」



 秋人の素朴な疑問に対する命の回答に、秋人はポカンと口を開けた状態で呟いた。突然そんなことを言われれば驚くのも当然だが、命にとっては見慣れた反応なので何の感情も動かされない。



「えっと……つまり俺は前世で命に会ってるのか?」

「あぁ、違う違う。命は確かに創造主だけど、命の前に創造主をしていた存在がいるんだ。君は前世でその創造主に仕えてたんだよ」

「はぁ……なるほど。それにしても俺、女だったのか」



 前世で女神だったことを知らされた秋人は妥当な勘違いをし、命はそれを即座に否定した。命の説明で納得できた秋人だったが、前世で女神だったという事実がかなりの衝撃だったのか、未だに空を見つめながらポカンとしている。

 今世で産まれた時から男として生きている秋人からすれば、前世で女だったと言われても実感が湧かないのだろう。それが神ならば尚更だ。



「うん。それで本題なんだけど、君が女神だった時の記憶を引っ張り出してもいいかい?」

「……は?」



 いつもながらの単刀直入ぶりに、秋人は本日二度目のその一文字を口にした。





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