さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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最終章 さよなら摂理、ようこそ命の世界

世界の崩壊

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 「前世の記憶って、思い出せるのか?」

 命の突拍子もない話でもきちんと理解しようとした秋人は、まず初歩的な質問をした。

「うん。寧ろ創造主にはできないことの方が少ないからね」
「そうか……すげぇな」

 淡々と純然たる事実を述べた命に秋人は感嘆の声を漏らした。だが命にとって創造主の力は自慢できるようなものではない。創造主の力は命行使できるものではなく、誰でも創造主になれば使える力だ。なので命は創造主の力にそれ程の愛着を持っていないのだ。

「それでね、いきなり前世の記憶を取り戻すのは物凄く辛いことなんだ。だからこれは断ってくれても大丈夫だよ」
「……命は俺の記憶から、何を知りたいんだ?」

 命は秋人に最も重要な事項を伝えた。確かにリアの記憶を頼りにこのバクスを訪れた命だったが、祈世の件でとても慎重になっているので、秋人に拒否されれば無理に知ろうとは思っていないのだ。

 前世の記憶を取り戻すか否か。それを判断するために秋人は命の目的を探ろうとした。

 そんな秋人に命はこれまでの経緯を事細かく説明した。

 世界が終わったこと。前創造主が女神に裏切られ、世界滅亡まで追い込まれたこと。命が創造主になったこと。裏切った女神の魂がこの世界――バクスに転生していること。裏切った女神とリアには親交があったこと。

 その全てを語るのに昼休み時間全てを費やしてしまい、命はしばらく秋人の答えを聞くことが出来なくなった。一方の秋人は授業中に考える時間を与えられたので棚から牡丹餅である。




 そして授業が終わり、生徒たちが意気揚々と家への帰路に就こうとする頃。どこか決心したような相好で命の目をじっと見つめた秋人。その精悍な表情を目の当たりにした命は、どこか嬉しそうに破顔一笑する。

「どうする?」
「……命の好きにしたらいい。実は俺も、命に頼みたいことがあるんだ。だから……命のためになることをしたい」

 教室を出ていく生徒たちの話声が響く教室で、命は身体ごと首を傾かせて尋ねた。すると秋人はどこか深刻そうな相好で命の頼みを受け入れた。

 命は秋人の言う〝頼みたいこと〟が少々気になったが、その内容を彼の心の声で知ろうとはしなかった。秋人の前世の記憶を窺って、その後に彼の口から聞こうと思ったからだ。

「分かった。ありがとう……それじゃあ早速」

 命は秋人に礼を言うと、早速創造主の力でリアの記憶を引き出そうとした。秋人が女神だった頃の記憶を強く意識し、それを秋人の頭に送り込むイメージで命は力を使った。

「ぐぁっ……くぅ…………」
「お兄さん!」

 あまりの苦痛だったのか、秋人は膝をついて苦悶の表情を見せた。片眼を閉じて苦しみを必死に耐えようとしている秋人を心配するように、命は大声で彼を呼んだ。

 だが秋人は自身で深い深呼吸を何度か行い、数分後には平静を取り戻していた。

「大丈夫?」
「あ、あぁ……」
「思い出せたかな?」

 秋人の顔を覗き込んで尋ねた命に、秋人は少し狼狽えた様に答えた。まだ前世の記憶に戸惑っているのか、秋人は目の焦点がどこかあっていない。だが命の質問に首肯して答えることはできた。

「そっか……じゃあ」
「待ってくれ。先に、俺の頼みを聞いてくれるか?前世の記憶に関してはその後だ」
「うん。構わないよ」

 早速リアの記憶を知ろうとした命だったが、秋人には何か先に自身の望みを聞いてほしい理由があるようで、逸る命を制止した。命はどちらでも構わなかったので秋人の要求をあっさりと呑んだ。

 命とは対照的に秋人の相好はどこか思い詰めているようで、それが秋人の頼みごとが原因であることは一目瞭然であった。

「命に頼みたいことっていうのは、この世界を救ってほしいというものなんだ」
「……命は創造主だから、世界に危機が訪れればもちろん救うつもりだけど。どうしてそんなことを?」

 秋人からの頼みは命にとってかなり今更なことで首を傾げざるを得ないものだった。創造主とは世界と神を創造し、それらを守ることが存在意義であり、それが無ければ創造主ではないのと同義だ。
 だが秋人がそんな頼みをするのには何か特別な理由があるのも明らかだ。命はそれを明確化するために尋ねた。

「俺の特殊能力が予知だっていうのはもう知っているだろ?実は、数か月前にこの世界が崩壊する予知が見えたんだ」
「へぇ……ちょっと待ってね」

 天界の誰もが全く知らない情報を口にした秋人に、命は感嘆にも似た驚きの声を漏らした。命たちが知らないということは少なくとも世界崩壊の前兆が今のところ全く無いということだ。命が創造主の力で世界の未来を視ようとすれば、秋人のように異変に気づけただろうが命はそれをしていなかった。

 だからこそ、創造主でも未だ気づいていなかった世界の危機を察知した秋人に命は感心したのだ。

 とは言っても情報の裏付けが必要なので、命は秋人に声をかけると創造主の力でバクスの未来を視た。もちろん、創造主の力がこのバクスに及んでいないと仮定した上でだ。そうしなければ今秋人に世界を救うことを頼まれた時点で未来は既に変わっていて、秋人が見た予知とは違うものが視えてしまうからだ。

「これは……やばいね」
「だろ?」

 もし命が何もしなかった場合に訪れる未来を視た命は、簡潔に状況が最悪であることを語った。

 命が見たのは、このバクスに住まう生物全てが全滅し、自然や建造物などがほぼ滅び、世界そのものが半壊している未来だった。
 正確に言えばこれは世界の終わりではない。なので秋人の言った崩壊という表現は的を得ている。

 世界の終わりは命が創造主になる前に経験したもののことを言う。一瞬のうちに、何の前触れもなく、創造主の力によって全ての世界が、全ての生き物が消え去る。それが世界の終わりなのだから。

「なるほど。これを止めて欲しいんだね」
「あぁ……」
「分かった。こういうのは意外と簡単なんだ。難しいことじゃない」
「そうだろうな」

 実際に目にしたことで秋人の危惧していることを把握した命はサラッと言ってのけた。命にとってやりたいことが明確になっている事柄は創造主の力でどうにでもできるので非常に簡単なのだ。逆に一般的な難易度が低いものでも、それが明確化されていない想像しにくいものだと命にとって難題になってしまう。

 既に前世の記憶を取り戻した秋人は創造主の力に対して苦笑いを浮かべた。

「…………近々起こるバクスの崩壊現象を食い止めて……これでもう大丈夫だよ」
「……相変わらず、そんなことでいいのか?って言いたくなる力だな」
「本当に。あっさりしすぎてつまんないよね」

 言葉を発しただけであの酸鼻な未来を防ぐことが出来たという事実に、秋人は拍子抜けしたような相好を見せた。知っていてもそうなってしまうのだ。だがそれが創造主の力というものである。

 物語でよくある劇的な戦いも、その間訪れる成長なども一切ないチート能力は命にとって心底つまらないものでもあった。

「ま、世界が救われるならそれに越したことは無いんだけどね。それにしてもどうしてバクスは崩壊寸前だったんだろう?原因が分からないからもやもやするなぁ」

 命は自身が事前に食い止めた崩壊の原因が分からず首を傾げた。

 創造主の力で知ることが出来ないのか?という疑問を命は抱いたが、恐らく無理だろうという結論に至った。

 過去と違い、未来というのは常に変化するものだ。ほんの少しの違いでも、未来に起こることは全く別方向に向かうことがある。
 それは命がこのバクスを訪れたという事実も当然その対象になっている。

 秋人の予知は命がバクスを訪れない前提のものだ。だが命がこのバクスを訪れたことでその未来は変わった。事実このバクスの崩壊は防がれたのだから。

 常に変化する未来の出来事を。その上命が防いだことで起こることが絶対にない未来の原因を探るというのはあまりにも曖昧で、不確かなものなのだ。そんなあってないようなものを探すのは創造主でも難しいのである。

「誰かがこの世界を狙っている……ということなのか?」
「うーん、どうだろ?そんな簡単な話じゃないと思うよ。もっと何か脅威的で、大きな力だと思うな」

 秋人の考えも完全には否定できないが、命はほぼその可能性は無いと考えていた。確信は無い。ただ命にはあれが世界の住人のような存在の仕業だとは到底思えなかったのだ。

 もっと大きくて、抽象的で、まるで自然のような。そんな存在による現象に命は見えたのだ。

「それより、君の知る裏切った女神の話が聞きたいんだけど」
「あぁ……そうだったな」

 話をリアの記憶に戻した命に、秋人は虚を突かれたような反応を示した。今まで世界の崩壊についてあれこれと思い悩んでいたというのに、あの一瞬でそれが解決してしまったという事実に追い着けていないのだろう。

「すまないが命が一番知りたがっている、あの女神が前創造主を裏切った理由は明確には分からない」
「そっかぁ……」

 今までの中で最も期待できるリアの記憶でも、前創造主を裏切った女神の動機を知ることはできなかった。流石の命も落胆の声を漏らし、肩を落とした。

「だが、俺が知るあの女神に関する全てを命に教えよう。何か手がかりがつかめるかもしれない」

 そう言った秋人は命の知らない天界での話を語り始めた。


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