さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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最終章 さよなら摂理、ようこそ命の世界

自由神たちの無双

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「ほぉ、これが下界か。生き物たちがまるでゴミのようだな」
「武尽……下界来るの、初めて?」

 英静を訪れた静由は武尽の問題発言を総スルーで尋ねた。武尽は本気で言っているのだが、静由に期待しても無駄なのでこの最強武神にツッコんでくれる人員がいない現状はなかなか異質だ。

 問題発言はさておき、武尽は実はこれが初めての下界訪問になる。神々が下界に降りる機会は何度かあったが、何だかんだで武尽は一度も下界の空気を吸ったことが無かったのだ。
 今回の任務で初めて下界に降りたのは武尽だけではないが、それでも少数派の方である。

 静由はインフェスタの件で英静を訪れたことがあるので、これに関しては武尽より先輩ということになるのだ。

「あぁ。こうして有象無象共が住まう下界に降りると、吾輩がいかに優れているか再確認できて気分が良いな」
「……悪趣味」

 まるで物語の悪役のようなセリフを吐く武尽に静由は思わず苦言を呈した。もちろん武尽の言っていることは事実だ。武尽は神々の中で最強とされている武神で、天界の者たちにとって下界の住人は有象無象である。それは確かに事実だがもっと他に言い方があるだろうと、静由はため息を零した。


 英静は人間がいない世界だが、人間以外の他種族が住んでいるのでラインとはまた種類が異なる。人間がいない以外は特質するところのない魔法の世界だが、他の世界と比べると生まれて間もないので、今後の発展に期待が出来る世界だ。

「あれが吾輩の相手か、面白い」
「……武尽一人でするなら、俺寝てても良い?」

 精悍な笑みを浮かべる武尽の目線の先にあったのは雄々しい火山で、現在大規模な噴火を起こしている。互いに熱血タイプな武尽と火山を見比べた静由は、その血気にあてられたのか心底面倒くさそうに呟いた。

 眠そうに欠伸をかました静由に武尽は呆れたような相好を見せたが、永年ペアとしてやってきたのでもう慣れたものである。

「構わんが、命に叱られるかもしれんぞ」
「む……それは、やだ」

 命が叱る可能性があるなど武尽は微塵も思っていないが、静由のやる気は引き出せたようだ。命は神々の親として、キチンとした躾をしたいという思いは持っているのだが、いつも微妙にズレているせいで説教が全く説教にならず、罰らしい罰を与えたことが無いのだ。

 そういう役目を普段デグネフが代わりに努めてくれているのも原因の一つだろう。武尽や静由は耳に胼胝ができるほどデグネフからのお小言を聞いているので、若干の苦手意識を芽生えさせているほどだ。

「吾輩があの噴火を相手にする。お前は飛び火しないよう上手く立ち回れ」
「分かった、でも、武尽……やり過ぎないでね」
「それは約束できん」

 ケロッと答えた武尽に静由は思わず顔を顰める。

 武尽は誰もが認める最強武神であり、敵は火山。これで穏便に事が済むわけがない。武尽もそこは自覚しているのか、静由に尻拭いを頼んだ。
 だが静由にも出来る範囲というものがあるので、武尽が好き勝手に戦闘して生じる被害を全て防ぐことが出来るかは五分五分なのだ。

「まぁ、善処する」
「……てきとう」

 全く善処する気など無いことだけは静由にも理解できた。だがそんな静由の怪訝そうな視線を完全無視した武尽は、早速噴火している火山の対処を開始した。

「ま、いってらっしゃい」

 火山に向かって跳躍した武尽には到底聞こえない声で静由は見送った。その相好は随分とリラックスしていて、武尽が自然如きに負けるなど万に一つもあり得ないと確信しているからこそできる表情だった。


 火口付近まで跳躍した武尽は魔法で空に留まる。すると待ってましたと言わんばかりに様々な大きさの噴石が、武尽目掛けて次々と飛んできた。

 武尽はそれらを片手の拳で全て砕き、害のない程度に沈静化した。そして武尽の腕が届かない範囲の噴石などは、もう片方の手で魔法を行使することで防いだ。

 竜巻の様な勢いの風を狭い範囲に起こして、それを噴石にぶつけて砕く。一つ足りとも逃さずに。片手では魔法を、片手では重い一撃を。そんな芸当を完璧にやってのけるのは流石に無理があったのか、時たま砕き切っていない噴石もあった。ただ単に武尽が大雑把なだけという線もあるだろうが。

「えいっ……ほいっ……」

 そういった噴石は武尽の尻拭い担当である静由の領分だ。武尽よりも下方にいる静由は、すり抜けてきた噴石を指で弾くという何とも古典的な方法で対処をしている。

 実際これで噴石を砕けてしまう程に静由は怪力なので丁度いい塩梅ではあるのだ。

 そんなこんなで数分噴石とやり合っていると、次は噴石の代わりに火砕流が武尽を襲ってきた。超高温、超高速の火砕流は、ただの生き物が巻き込まれてしまば一溜りもない。

 静由は武尽がどう対応するのか興味深く観察する。すると武尽はニヤリと破顔したかと思うと、思いっきり空気を吸い込み、それを火砕流目掛けてふぅーっと吐き出した。

「……すご」

 武尽の吐き出した息は見事に火砕流を食い止めていて、静由は呆けた面で思わずそう呟いた。一体どこの誰が火砕流相手に息で挑もうだなんて想像するだろう。少なくとも武尽は思いついてしまったらしい。

 しかも武尽はただ力強い息を吹き付けているわけではなく、火砕流の動きが丁度停止する程度の勢いに調整しているのだ。勢いが強すぎて火砕流の動きが反対方向になれば、被害の向きが逆になるだけなので何の意味もない。なので武尽は火砕流が静止するギリギリのラインで力を制御しているのだ。

「俺にも出来るかな?ふぅーーっ…………だめだ。肺活量、足りない」

 こんな珍妙な攻撃方法に何故か感化された静由は無謀にも再現を試みた。だが静由は怪力ではあるが肺活量は全く無かったらしい。そもそも武尽が対応しているので静由の行動は無意味なのだ。

「武尽ー。噴火事態を止めないと……」
「それぐらい分かっている」

 静由が言いかけたのは「噴火事態を止めないと意味が無い」ということだ。恐らくだがこの噴火は自然に収まることが無い。今はまだ大きな噴火が一度起きただけだが、噴火による影響が収まればまたしても別の噴火が起こるだろう。

 これがただの自然災害ならもっと簡単なのだが、今回の場合は全く異なる。

 それは武尽も理解しているらしいが、どうやって噴火を止めるものかと懊悩しているのだ。無理矢理に止める方法などいくらでもあるが、それを実行するとどうやっても大きな被害が出るか、この火山が消失するのでそれは避けるべきだということは流石の武尽でも理解できている。

 静由と対話するため、火砕流の対処を原始的な方法から魔法に変えた武尽は、ふと何かひらめいたように破顔した。

「おぉ、そうだ。噴火のエネルギーを全て吾輩の力に変換するか」
「そんなこと、できるの?」
「多分な」

 突拍子もない提案だったので静由は疑問を零した。確かにその方法なら穏便に噴火を抑え込めるかもしれないが、全く違う種類のエネルギーを神力に変換などできるのだろうかという不安要素があったからだ。

「そもそも吾輩たちと世界を作ったのは誰だ?」
「命……あっ、そっか」
「そういうことだ」

 今更過ぎる質問に静由は一瞬首を傾げたが、すぐに武尽の意図に気づき納得した。

 神々も、世界も、そこに住まう者たちも。元を正せば全て命が創造したものだ。つまり世界に存在する火山の噴火によるエネルギーも、武尽の神力も全くの別物というわけではなく、元の元を辿れば同じ場所に辿り着くのだ。

 なので武尽は噴火のエネルギーを自身の力に変換することも可能だと考えたのだ。

「がんば……」
「…………いつものことだが、相変わらずお前は他力本願だな」
「すごい。武尽、いつそんな言葉覚えたの?」
「お前が一瞬あのアホ創造主に見えてしまったぞ」

 武尽に向かって片手拳の親指を立ててエールを送った静由。完全な丸投げなので武尽は苦笑いを零すほかない。

 そんな武尽が零した単語に本気で驚いたのか、静由はキラキラとした瞳で武尽を称賛した。だがそれは同時に、静由が今まで武尽に語彙力が備わっていないと思っていたという事と同義なので武尽は顔を歪めた。
 それはまるで褒めているようで偶に全く褒めていない命のようで、少々苛ついてしまったのだ。

 命ならこれに頭を撫でるというオプションをつけてくるのだが、流石に静由はそんなことをしなかったので、武尽は安堵したように息を吐く。

「ふん、まぁいい。早速行ってくる」
「うん。気をつけて」

 武尽は静由の言葉を受け取ると、何を思ったのか突然火山の火口に飛び込んだ。もちろん静由の視界から武尽は消え、思わず静由は目をぱちくりとさせた。

「え……そういう感じなの?」

 目的は理解していたが、その方法をキチンと把握していなかった静由は思わず呆けてしまう。しかし誰が火口に飛び込むなんて想像するだろうと、すぐに自身が間違っていないことを確認する。

 少しでも火山に触れさえすれば、噴火のエネルギーを神力に変換することは可能なはずだ。つまりわざわざ火口にダイブしなくても良いということである。派手好きな武尽のすることなので仕方ないのだが、突然の自殺行為に見える行動は心臓に悪いというものだ。

 そんな静由の心情など知る由も無い武尽は、沸き立つマグマをものともせず一瞬にして噴火のエネルギーを吸い込んだ。噴火そのもののエネルギーを奪ったことで、もう一度別の噴火が起こることは無かった。

 原料が噴火という何とも珍妙な神力を手に入れた武尽は、下界に降りた際より生き生きとしていて神々しいほどだった。

「武尽……火傷してない?」
「吾輩の身体がマグマや溶岩如きで傷つくわけがないだろう」

 一仕事終えた武尽に静由は心配そうな表情で尋ねた。だが武尽は傷つくどころか寧ろ回復しているのでその心配は杞憂に終わる。

「うん……命が造ってくれた身体だもんね」
「……そうだな」

 静由の発言は当たり前のことだったが、武尽は若干認めたくなかったらしい。なので武尽は一呼吸置いた後、どこか苦い相好で首肯したのだった。


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