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30 冒険者は、30点。
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「えっ?ん!?」
顔は見えないが、タットさんが戸惑っている様子は、手に取るように分かる。
俺はお構い無しに、肩口に顔を押し付けて、タットさんの背中に手を回した。
「えぇ~っと……俺も、ギュッとしていい?」
俺が返事をする前に、タットさんも、俺の背中に手を回し、ポンポンとあやす様に、撫でてくれた。
返事もせずに、じっとしていると、キュッと抱きしめてくれるタットさん。俺はグリグリと顔をさらに押し付けた。
「バイトで何かあった?」
グリグリっと顔を横に振る。
あぁ、こういう行為も本当はしない方が良いのだろうと、頭を過ぎったが、離れる事が出来ない。
「え……とね、なんとなーく、ゆん君の表情とか、態度で分かる事も増えてきたんだけどね、今は分からないなぁ……落ち込んでる事は、分かるんだけど……ごめんね……」
タットさんは、そう言いながら、今度は俺の頭を優しく撫でてくれた。「よしよし」と完全にあやしにかかってる。そんな態度が嬉しくて、俺もさらにタットさんにくっついてしまう。
あ……コレがダメなのか。
バッと勢い良くタットさんから離れる。
「あ……あの……すみませんでした……」
距離を取ってペコっと頭を下げると、タットさんは両手をワキワキさせていた。
眉毛がハの字に下がり、「役得だったのに……」なんて呟いている。
俺だって、満足するまで抱き締めて欲しかったけど、きっとそれではダメなのだ。
タットさんは、俺のバイト終わりに合わせてここに来た事を後ろめたく思っている。それに対して、今までだったら何も考えずに、会えて嬉しいと俺は伝えていただろう。頭の中で「30点」とユネさんの言葉が響いた。
「いや、カフェの裏口で何をしてるのよ?30点よ、30点」
頭の中で響いていた言葉は、後ろからダイレクトに聞こえてきた。
「あ、こんばんは」
ヒョコっとタットさんは体を斜めに倒して、俺の背後に居るであろうユネさんに挨拶をしていた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
結局、タットさんと俺は、ユネさんの厚意でイロトリの店内に戻された。「落ち着くまで、ここなに居なさい」と。
「明日のゆう君のバイトは開店からよね?鍵渡しておくから、鍵締めて帰るのよ。スペアがあるから明日の鍵開けは気にしないで。でも忘れずに持ってくるのよ?」
そうユネさんは言うと、キッチンでカチャカチャと手際良く、ココアが入ったカップを2つ用意してくれた。
「サービス」
「「ありがとうございます」」
タットさんとお礼が被った。
「ふふっ、お似合いね」
ユネさんは、俺の頭を優しく撫でてくれた。
「じゃ、戸締りしっかりね。古川さん、ゆう君ちょっと落ち込んでるから、慰めてあげてくださいね。手出しに関してはお互い必ず同意の元でお願いします。言っても私の可愛い可愛い長男(仮)ですから」
俺の頭に手を置いたまま、ユネさんはニッコリ笑ってタットさんを威圧する。タットさんは気付いているのかいないのか、いつもの柔らかい笑顔で「はい」と答えていた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
カチャン、と、ユネさんが裏口から出て行く音が聞こえた。
「信頼されているんだね。当たり前のように、ゆん君に鍵渡しちゃうんだ?」
関心するようにタットさんが呟いた。
「開店後30分くらいを、1人で回す事が年に何回かあって、そういう時は事前に鍵を預かるんです。だから、その延長みたいなものです」
ふぅん?とタットさんが相槌を打ち、沈黙が流れる。他愛の無い話なら、いくらでも出来るのに。今日、ユネさんに言われた事を話題にしようとすると、言葉が詰まってしまう。
「それでも、ユネさんが、ゆん君に寄せてる信頼って大きいと思うよ。良い職場だね。そんな職場でも、落ち込む事もあるの?」
頬杖をついて、タットさんが小首を傾げている。かわいい。成人男性の仕草では無い。
「仕事の事では無くて……」
「うん……」
「ユネさんに、タットさんとの関係をきちんと考えた方がいいって、言われて……」
「うん?」
「ハッキリさせないと、そのうちタットさんは違う誰かとくっついてしまうって言われて……」
「うん!?」
「想像したら、思いのほか落ち込んでしまって……」
「お……うん……」
「なんて自分勝手なんだろうって……」
「あ~……うん……」
「そしたら、今まで俺が取ってたタットさんへの態度も、なんて失礼だったんだろうって……好意を伝えてくれている人に対して、ハッキリ振るでも無く、応えるでも無く、それでいて一緒に遊んだり食事したりスキンシップしたり嫉妬したり……挙句の果てにタットさんに恋人が出来た事を想像すれば勝手に落ち込んで……虫が良すぎるなって……」
はぁ……と、ため息を吐いて、改めて「今までゴメンナサイ」と謝罪した。
タットさんの顔が見れなくて、下を向く。
今、この人はどんな表情をしているのだろう?呆れている?怒っている?それとも…………見限る………?
目の前のココアのカップを手に取って、1口飲む。口の中に少量の甘みと強めの苦味が広がって、勝手に今の状況と重ねてしまった。
タットさんとの過ごす時間は、俺にとってとても楽しくて甘美だった。でも、それは都合の悪い事から目を逸らして得られた甘味で、その裏には常に苦いモノが潜んでいた。
顔は見えないが、タットさんが戸惑っている様子は、手に取るように分かる。
俺はお構い無しに、肩口に顔を押し付けて、タットさんの背中に手を回した。
「えぇ~っと……俺も、ギュッとしていい?」
俺が返事をする前に、タットさんも、俺の背中に手を回し、ポンポンとあやす様に、撫でてくれた。
返事もせずに、じっとしていると、キュッと抱きしめてくれるタットさん。俺はグリグリと顔をさらに押し付けた。
「バイトで何かあった?」
グリグリっと顔を横に振る。
あぁ、こういう行為も本当はしない方が良いのだろうと、頭を過ぎったが、離れる事が出来ない。
「え……とね、なんとなーく、ゆん君の表情とか、態度で分かる事も増えてきたんだけどね、今は分からないなぁ……落ち込んでる事は、分かるんだけど……ごめんね……」
タットさんは、そう言いながら、今度は俺の頭を優しく撫でてくれた。「よしよし」と完全にあやしにかかってる。そんな態度が嬉しくて、俺もさらにタットさんにくっついてしまう。
あ……コレがダメなのか。
バッと勢い良くタットさんから離れる。
「あ……あの……すみませんでした……」
距離を取ってペコっと頭を下げると、タットさんは両手をワキワキさせていた。
眉毛がハの字に下がり、「役得だったのに……」なんて呟いている。
俺だって、満足するまで抱き締めて欲しかったけど、きっとそれではダメなのだ。
タットさんは、俺のバイト終わりに合わせてここに来た事を後ろめたく思っている。それに対して、今までだったら何も考えずに、会えて嬉しいと俺は伝えていただろう。頭の中で「30点」とユネさんの言葉が響いた。
「いや、カフェの裏口で何をしてるのよ?30点よ、30点」
頭の中で響いていた言葉は、後ろからダイレクトに聞こえてきた。
「あ、こんばんは」
ヒョコっとタットさんは体を斜めに倒して、俺の背後に居るであろうユネさんに挨拶をしていた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
結局、タットさんと俺は、ユネさんの厚意でイロトリの店内に戻された。「落ち着くまで、ここなに居なさい」と。
「明日のゆう君のバイトは開店からよね?鍵渡しておくから、鍵締めて帰るのよ。スペアがあるから明日の鍵開けは気にしないで。でも忘れずに持ってくるのよ?」
そうユネさんは言うと、キッチンでカチャカチャと手際良く、ココアが入ったカップを2つ用意してくれた。
「サービス」
「「ありがとうございます」」
タットさんとお礼が被った。
「ふふっ、お似合いね」
ユネさんは、俺の頭を優しく撫でてくれた。
「じゃ、戸締りしっかりね。古川さん、ゆう君ちょっと落ち込んでるから、慰めてあげてくださいね。手出しに関してはお互い必ず同意の元でお願いします。言っても私の可愛い可愛い長男(仮)ですから」
俺の頭に手を置いたまま、ユネさんはニッコリ笑ってタットさんを威圧する。タットさんは気付いているのかいないのか、いつもの柔らかい笑顔で「はい」と答えていた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
カチャン、と、ユネさんが裏口から出て行く音が聞こえた。
「信頼されているんだね。当たり前のように、ゆん君に鍵渡しちゃうんだ?」
関心するようにタットさんが呟いた。
「開店後30分くらいを、1人で回す事が年に何回かあって、そういう時は事前に鍵を預かるんです。だから、その延長みたいなものです」
ふぅん?とタットさんが相槌を打ち、沈黙が流れる。他愛の無い話なら、いくらでも出来るのに。今日、ユネさんに言われた事を話題にしようとすると、言葉が詰まってしまう。
「それでも、ユネさんが、ゆん君に寄せてる信頼って大きいと思うよ。良い職場だね。そんな職場でも、落ち込む事もあるの?」
頬杖をついて、タットさんが小首を傾げている。かわいい。成人男性の仕草では無い。
「仕事の事では無くて……」
「うん……」
「ユネさんに、タットさんとの関係をきちんと考えた方がいいって、言われて……」
「うん?」
「ハッキリさせないと、そのうちタットさんは違う誰かとくっついてしまうって言われて……」
「うん!?」
「想像したら、思いのほか落ち込んでしまって……」
「お……うん……」
「なんて自分勝手なんだろうって……」
「あ~……うん……」
「そしたら、今まで俺が取ってたタットさんへの態度も、なんて失礼だったんだろうって……好意を伝えてくれている人に対して、ハッキリ振るでも無く、応えるでも無く、それでいて一緒に遊んだり食事したりスキンシップしたり嫉妬したり……挙句の果てにタットさんに恋人が出来た事を想像すれば勝手に落ち込んで……虫が良すぎるなって……」
はぁ……と、ため息を吐いて、改めて「今までゴメンナサイ」と謝罪した。
タットさんの顔が見れなくて、下を向く。
今、この人はどんな表情をしているのだろう?呆れている?怒っている?それとも…………見限る………?
目の前のココアのカップを手に取って、1口飲む。口の中に少量の甘みと強めの苦味が広がって、勝手に今の状況と重ねてしまった。
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