食べたい2人の気散事

黒川

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29 評価、30点の、俺。

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「30点」

ピシャリ、とユネさんが言う。

「さんじゅってん……」

心当たりが無さすぎて逆に怖い。

「まぁ……今、話す事ではないし、ゆう君には大きなお世話かも知れないけど、30点」

「さんじゅってん……」

だから、何がいけなかったのだろう?
脇から冷や汗がツーっと垂れてる。
ユネさん、普段は穏やかだけど、怒るときは怖い。
俺が固まっていると、ユネさんは小さくため息を吐いて「掃除の邪魔だったわね」と、キッチンの片付けを始めた。

仕事の事で、何かまずい事があったのでは無いのか?俺はチラチラとユネさんを見ながら、掃除を続けた。
それに気付いたユネさんが、

「ゆう君見すぎ!」

と、吹き出してたので、余計に訳が分からなかった。

「今日、何か不手際ありましたか?俺、考えてみたのですが、全然分からないので教えてください。言ってくだされば気をつけます」

そう指導を求めると、ユネさんは、キッチンからフロアに戻って、俺の前に立った。

「いいえ。バイトは何も問題なかったわよ」

「じゃぁ、30点て……」

「古川さんの事よ。彼、だいぶ好きよね?ゆう君の事」

「えぇと……」

否定は出来ない。なんせ、好意がダダ漏れてるからな。

「もてあそび過ぎ。見方によっては古川さんの好意を蔑ろにしてる様にも見えるわ」

「そんなつもりは……」

「無いわよね。知ってる、ゆう君だもの。悪意が無いのは分かってる。分かっているけど、悪意が無ければ、全てが許されるワケでも無いのよ?」

「そんなに、俺の態度はダメでしたか?」

俺は、ただ楽しいと言う気持ちしか無かったので、ユネさんの言葉がショックだった。

「古川さんが、見てて可哀想。とは、思ったかな?お付き合いするでもなく、フラれるでもなく、ゆう君は古川さんに思わせぶりな態度。でもボク達お付き合いはしてませーん」

「それは……」

「もし、ゆう君にこれから運命的な出会いがあったら、きっとあなたは古川さんに言うんでしょう?『タットさん、俺、好きな子出来た!』って。古川さん、どんな気持ちでしょうね?考えたこと、ある?」

俺は何も言えなかった。

「逆も考えたことも無いでしょ?古川さんて社会人でしょ?職場で素敵な人が現れたら?馴染みのお店で運命的な出会いをしちゃったら?ゆう君言われちゃうね。『ゆう君、今までありがとう。これから、俺はこの人と人生を歩むよ』……なーんて、ここのカフェに来て、ゆう君じゃない可愛い子が、ニコニコしながら古川さんの隣に立ってるの。腕なんか絡めてるかも知れないわね。どう?きちんと笑ってお祝いできる?」

想像したら、ヒクッと俺の喉が鳴った。
タットさんが、俺以外の人を選ぶ……
可能性はゼロでは無い。
その時に、俺は笑って祝福出来るのだろうか?
学生時代の友だちだと紹介されたバーのオーナーにすらヤキモチやくのに?

「その時は……裏方業務に徹します……」

「ダメよ、きちんとフロアで働いて。愛想良くして、キッチンも居て。子どもが遊びたいと言ったら相手して。それが、ゆう君のお仕事でしょ?」

ふんっ!とユネさんは鼻息荒くまくし立てた。

「……なーんて、意地悪な言い方だったわね。ババアの余計なお世話だけど、このままダラダラと結論も出さずに居たら、そのうちどこの骨かも分からない様な、かわい子ちゃんに盗られてもおかしくないわよ。それだけは忠告しておくわ。古川さん、とても素敵な人だもの」

ポンポンと、労わるように肩を叩かれた。
俺は、呆然としながら終業時間までフロアを磨き続けた。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「お疲れ様でした」

勤務時間の申請を出して、ユネさんに挨拶をする。

「おつかれさま。気をつけて帰るのよ」

「はい……」

ユネさんは、何か言いたそうだったけど、俺はこれ以上、話が聞けるほどの気力は無かった。ユネさんも、それが分かってるのか、何か言いたそうではあったけど、何も言って来なかった。

カチャッと裏口のドアから出る。
いつもの様にスマホを取り出してCDフィットを起動させた。
駅までは徒歩だ。
今日、ユネさんに言われた事を反芻しながら帰ろうとしたら、

「おつかれ」

暗がりの中から、聞き慣れた声がした。

タットさんだった。

「えぇーっとね……なんて言うか……こう……ほら、俺、今日休みだったからね?……」

モジモジと気まずそうに、頭をかいていて「重いよね?重たいよね?分かってるんだけどさ……」なんて早口小声で言ってるけど、俺は聞き逃さない強い意志と聴力を持っている。
付き合ってもいないのに。返事もしていないのに。この人は、ここに立っている。

あぁ、俺は本当に、この人に酷いことをしているのだと、改めて思った。

「ごめんなさい……」

そう、俺は呟いてタットさんに抱きついた。
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