食べたい2人の気散事

黒川

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64 冒険者は、しばし離れる。

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1度、一線を超えてしまえば大人はズルズルと爛れた淫猥な夜を過ごしまくるのかと思いきや、そうでも無かった。

おはよう、そこそこ健全な俺。

そんな気持ちでベッドで目を覚ます。横を見ればニコニコのタットさんが俺を眺めていた。

「おはようございます」

挨拶をすれば降りてくるキスに、俺も、もっとと唇を擦り付けるた。

「甘えん坊ゆん君かわいい」

頭を撫でられて起こされる。
タットさんと過ごす最後の夜は、セックスはせずに2人引っ付いて眠った。
せっかく最後まで出来るようになったのだから、てっきりするのだと思っていたが。

「ゆん君と繋がれた事、俺は凄く凄く嬉しかったし、幸せだったし、これからもしたいよ。でも受け入れる側って、体の負担が大きいでしょ?ゆん君の体が心配。……だから、今日は……ね?」

体中まさぐられて、やたらと乳首を弄られて、舐められ吸われて……なんだか、みぞおちの辺りが切なくなって……

「ふぁぁぁん……っ……」

「ここでも、気持ち良くなれるように練習しようか……?」

と、結局別の意味で淫猥な夜を過ごしてたな……

「最後までしなくても、愛し合う行為はたくさんあるから。いっぱいしよう……ね?」

と、イカされまくって放心状態の俺に、タットさんは良い笑顔を向けていた。
そこそこ健全と言ってみたが、そこそこ不健全の間違いだったかも知れない。


おはよう、そこそこ不健全な俺。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「じゃ、気をつけてね」

タットさんの仕事が始まる前、玄関先でのお見送り。

「はい。タットさんもお仕事頑張ってくださ……頑張って……ね……?」

口調が定まらなくて、首を傾げてしまう。
タットさんはその様を見て悶えてるし。

「ちょっと……喋りにくいです……」

「ゴメンゴメン。困らせたい訳じゃなかったんだけど、ゆん君が不便ならあまり気にしないで。でも、いつか、ですますが消える日が来るといいな」

「……うん」

「いい子っ!!」

ギュッと抱き締められて、触れるだけのキス。
少しばかり寂しさはあるけど、今生の別れでも無ければ何なら住まいは駅を挟んだ距離。別に遠いわけでもない。
会いたければ直ぐに会いに行ける距離だ。

そう、近いんだよ、タットさんと俺の家。
そんな当たり前の事に気づき、CDフィットを起動させたまま、足取り軽く家路に向かった。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


1週間ぶりの我が家、到着。
慣れた手つきで鍵を開け、家に入る。
9月は平日の月曜日、まぁこの時間だったら誰も居ないはず。

はず……なのだが、奥の部屋からキャッキャ騒ぐ子どもの声と、大人の女性の声。合間合間に大人の男性の声も聞こえてる。
玄関を改めてよく見ると、普段は無い靴が3足並んでいた。サイズは大、中、小。
聞こえてくる声も、だいぶ馴染みのある声だ。
俺は靴を脱いでリビングに向かい、扉を開ける。

「ただいま。兄ちゃん、姉ちゃん。2人とも仕事は?」

「兄ちゃんだよ!有休だよ!」

「お姉ちゃんよ!休んだわよ!イロトリも裕也も休みなんだもの!」

「ひーちゃんだよ!」

兄ちゃん、姉ちゃん、姉ちゃんの子ども、の順番で理由を言ってくれたが、要するに、仕事は休みと言う事だった。姉ちゃんの子どもに至っては名前を言っただけだが。仁王立ちで両手を広げてドヤってる所がなんとも可愛い。

荷物を適当に置いて、ひーちゃんの頭を撫でる。

「久しぶり。また大きくなったね。兄ちゃんも姉ちゃんもおかえり。2人で来てくれるの、嬉しい」

ひーちゃんは当然のように俺のひざの上に乗って来たので、そのまま抱きかかえた。

「「いやいやいやいやいや!!」」

兄ちゃん、姉ちゃんのセリフが重なる。さすが姉兄だなぁと関心してしまった。
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