お菓子の船と迷子の鳩

緋宮閑流

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第1章

#04

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──プロミネンスウィンディア王城最奥──


「……やはり殺しておけばよかったわ……」
そは微風の声なれど。
「……過ぎた力を盗んだ代償……」
そは白魚の指なれど。
「……必ずその身に受けさせるぞえ……」
麗しき花のかんばせに浮かぶ怒りのその色は地の底に住まう悪鬼魍魎のおもてにも似て。
「……覚えておれよ小鳥たち……」
震えし闇に抱かれた古城に響くその声は深くふかく静寂の底に沈んだままに、昏き楽の音を奏で続ける。


──────────────────



わっ、と歓声が上がった。

王城前広場のテラスにプロミネンスウィンディア皇国の少女教皇ロミナが現れたのだ。
白磁の肌に翡翠の瞳、溢れ零れて肩を覆う豪奢な黄金の巻き毛も輝かしき美貌の聖女。深紅の神官衣に身を包んだその立ち姿は気高く愛らしい紅百合を思わせた。
華やかなファンファーレが晴れ渡った空へと響き渡る。

「御機嫌よう。プロミネンスウィンディア国民の皆さん」

歓声が漣へと落ち着いた広場を涼やかな声が吹き抜けた。
「皆さんもご存知の通り、先日我が国の海岸に流れ着いた一艘の船により、遥か東方の地、霧の壁を越えた先に我々の知らない大陸が存在することが判明しました。回復した遭難者の案内のもと、我が国の使者と調査隊がその大陸へと向かっております」
少女教皇は微かに目を細める。
「昨夜遅く、調査隊から使い魔通信が届いた旨の報告を受けました」
さわさわと少しだけ大きくなったざわめき。少女教皇は微笑んで続ける。

「調査隊は霧の壁を抜けたそうです」

一瞬、ほんの一瞬の静寂ののち、広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
拳を突き上げ叫ぶ者、抱き合って飛び跳ねる者、エプロンで目元を拭う者…
プロミネンスウィンディア皇国の国教である『悠星教』、霧の壁を越える努力はその教義のひとつなのだ。現在を生きる者達がいつからそこに在るのかを認識できないほど昔から東の海域に横たわる霧の壁。神秘の領域。
それが達成され、通信までが成し遂げられたとなれば信者として喜ばない者は居ない。

少女教皇ロミナもまた、しばし喧騒を放置した。微笑みながら群衆を見渡し、その喧騒が星の神と教皇を崇めよとのシュプレヒコールに収束してゆく様を満足げに受け止めた。
「……国民の皆さん、これまでよく頑張ってくれました。けれど、ここから切り拓いてゆかねばならない道も有ります」
静聴を促すラッパが止むのを待ち、少女教皇は静かに切り出す。
「これから先も安全に行き来することのできるルートを開拓し、霧の壁に長年隔てられてきたという同胞たちと手を結ばねばなりません。霧を越えるまでの時間の長さを考えれば生易しいことではないでしょう。けれど、まずは」
胸元で編まれていた白魚の指が解け、つついと海辺の建物を差す。

「星の神に祈りを捧げ、皆の無事を祈りましょう…全ては星神の導くままに」

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