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第3章
#03
しおりを挟むここに来て初めて聞いた少年の声は……悲鳴だった。
暫くは興味深げに作業を覗き込んでいたのだ。カマドの枠ができあがるまでは一緒に石を積み上げたりしていた筈だ。
少年の様子が変わり始めたのは火種ができ、炎が枯れ枝に燃え移り始めた頃だった。
やたら煙ばかり多く頼り無い燃え始めの炎に枝を足そうと手を伸ばしたとき、少年は蒼白な顔で自らの肩を抱いて後ずさっていた。
「どうした?」
少年はただ首を振る。
「……火が……怖いのか……?」
掛けた声に、炎に釘付けになっていた瞳が動いた。
ばちり、と視線が合う。
絞り出すような声とともに小さな身体が体当たりしてきた。火のそばだというのにバランスを崩して尻餅をつきそうになる。
「っ、馬鹿!危な……」
怒鳴り付けようとして、気付いた。その手の感触に。
がたがたと震えながら自分の腕を引く、その小さな手に。
「……お前」
少年の頬をぼろぼろと流れ落ちる涙の滝。薄く開いた唇から漏れる呼吸音はひどく息の上がったそれで。
なのに震えるその手は自分を炎から引き離そうと懸命に……否、必死に腕を引っ張っているのだ。
「……おちつけ、おちつけちんまいの、大丈夫だ」
ただ馴染みが無いから怖いというだけではない何かを感じた。
「……ゃ……っ……」
乱れた呼吸に混じる嗚咽。
「……っゃ……あ……っ……!」
大きな翠の目から溢れる涙の流れが胸元で波打つ髪に染み込み切れずに滑り落ちてゆく。
「おちつけ……大丈夫だ」
ようやく火の回り始めたカマドを蹴り壊して火を消した。細い素肌の肩を抱きしめる。
「……すまない……」
体格に於いては遥かに勝る自分の身体が軋むほどに強い力でしがみつかれ、悪いことをしていないのは解っていてもひどく後悔した。
「火は消した……大丈夫、大丈夫だ……」
艶やかな赤毛を撫でてやる。
「急に火なんか使って悪かったよ……もう無いから、頼むから落ち着いてく……」
不意に、腕の中の重みが増した。
締め付けが急に無くなり、食い込んでいた指の感触が背を滑り落ちる。力が抜けたせいか腕から抜け落ちそうになった小さな肢体を慌てて支えた。
「……おい……」
落とさないよう地面に膝を落とし抱え直した少年の身体、意識を手放したその幼い貌を見た瞬間、どくりと心の臓が跳ねた。
「……おい……おい、ちんまいの……!」
違う。
違う。
この子は。
この少年は。
「……しっかりしてくれ……」
煙のにおい。
「……頼む……頼むから……」
炎の気配。
「……目を……開けてくれ……」
伸ばした手と、触れることの無かった指。
自分は、自分は確かに
「……目を開けろ……………『ホーリィ』……っ!!」
──確 か に こ の 少 年 を 知 っ て い る──
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