5 / 12
賢者は真白き居城にて遠く翠の夢を見る
#03 異国からの来訪者2
しおりを挟む通信に対する対価は基本的に成功報酬となっている。事前準備の必要経費は先に支払われ、条件を満たした書簡や荷物が相手に届けば届け物に応じた報酬が支払われる仕組みだ。
ただし、共通の報酬額を設定できる地域的な範囲には限界があり、報酬の価値にも地域差が有る。故に、幾つも離れたオアシスから何かが届く際には商売慣れした大規模なキャラバンが一括で持ってくることが多かった。
しかし今回は恐らく例外だ。
「お待たせして申し訳ありません」
厨房から貰ってきた軽食とともに室から持ち出した発酵酒を注ぎ、見事ここまで書簡を運んできてくれた旅人──ライトに勧める。
「遠いところを有難うございます。報酬はこちらに」
ライトは袋の中身を確認し、頷いて懐にしまい込んだ。共に差し出した書類にサインを施してこちらに視線を向ける。
「……で、君はどうするつもりなんだ?」
「……どう……とは」
質問の意図をはかりかねて尋ねかえせば、小さな溜息が返ってきた。
「このままではオアシスの防御システムが止まるんだろう?」
ぴくりと指先が震えた。この男は書簡の内容を知っている。
書簡の封が開けられた形跡は無かった。そもそも重要な手紙を入れる筒は各地の魔法士たちが協力して作った特別製、開封にはそれなりの手順と組織印が必要なのだ。自分は手順を知り、この身に聖なる印章を宿しているから苦労無く開けているように見えるだろう。しかし、ただの旅人においそれと開けられるような代物ではない……筈なのだが。
「……心配しなくていい」
返答に躊躇するも、答はすぐに示された。
「俺は学者だ。システムの件は俺が調べて進言したものが元になっている」
「……そう、だったんですか」
ライトが胸元から取り出した印章に安堵の息を吐く。赤岩原の地域に有る学院の長から出される割符だ。地域外任務を行う者に身分を保証するものとして出されている。使者や研究者がキャラバンと共に訪れることもあるので自分も何度か見たことがあった。
「失礼しました。ウィンディ=ロイズ学院長の発行された通行手形ですね」
頷き、水の入った自分の盃を握り締める。
「……先ほどのご質問ですが、ここで私個人の考えを申し上げることはできません……お手紙の内容が本当なら、私一人で何かを決めることなどできないでしょう。少なくとも神官たちや魔法院の皆様とは話し合いが必要です」
「……そうだな、困らせた」
すまない、と言葉が続く。
「俺としては大賢者の子孫がどんな采配を下すのか興味が湧いただけなんだ。深く考えなくていい」
そうですか、と言いかけて言葉が止まる。
今、何て?
思考が止まる。平焼きのパンを開いて具材を詰めた軽食に大きな口がかぶりつくのを眺め、視線に気づいた口の主が大皿を寄せてくれた音に我に返ってぱたぱたと手を振った。
「いくらなんでも畏れ多い冗談ですよ」
「冗談を言ったつもりは無いが」
ライトは少し困惑したようだった。
「大賢者の直系と聞いている」
「では、恐らく何か間違って伝わってしまったのでしょう……赤岩原は遠いですしキャラバンの皆様には色々な地域の方々がおいでですから通じの悪い言葉もございます」
「……そうか……そういうこともあるか……ふぅむ、それは残念だ」
少々申し訳ない気持ちにはなるが……やむを得まい。冗談であるにしろないにしろ、『大地の大釜』を封じた大賢者の直系を名乗る度胸は流石に無かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる