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賢者は真白き居城にて遠く翠の夢を見る
#07 白き森の大賢者4
しおりを挟む「報告を受けた大賢者様の弟君は、かつて兄君の冒険仲間だった者と合流して大賢者様の御邸を目指したようです。森は彼らを受け入れ、彼らはほどなく御邸に辿り着くことができたということなのですが」
大神官は空になった三つの碗を見渡し、立ち上がった。
「御邸には誰も居なかったそうでしてな……オートマタは全て停止し、大賢者様の御姿は無かった……」
灰鉢で保温された灰の上でミルクが沸騰を始める。茶葉とスパイスが煮出され立ち始めた香りが、次第にミルクの香りと混ざりまろやかになってゆく。けれど。
「荒れた様子は無く、ただそこから人が消えただけ……そんな様子だったと聞いております」
本来なら温かいはずの香りに包まれながら、話の不気味さに体温が下がるのを感じた。
神官長はそこで言葉を切り、慣れた手つきで鍋からポットへと乳茶を移す。
コポコポと小気味良い音と共に上がった湯気が、ふわりと空気に溶けてゆく。
──その場をいっとき支配した奇妙な沈黙から解放されたのは、茶葉の沈澱を終えたポットの中身が各碗に注がれたその後だった。
「……さて、捜索を終えた彼らが出ると同時に白き森はその姿を隠してしまったわけなのですが……その際に持ち帰られたものが二つ、ございます」
卓上に置かれ、提示された一つは布張りの箱で、中身は明らかだった。四冊を残した教会画集。細い背表紙に押された刻印を見るに、クリスの誕生日ごとに贈られてきたものの残りだろう。その都度神官長が取り寄せていたのではなく、ここから一冊ずつ渡されていたのだ。
もう一つは、木の匣。何かが貼られていた跡がある。両掌を使って包み持てるほどの大きさで、施された彫刻は一見シンプルながら、よくよく見ればその線は極小の魔法文字がびっしりと詰まった魔法陣だった。
中には蓋の無い瓶がひとつ。
封蝋の跡が有るので栓がなされていたのだろう。瓶底に匣とはまた違う魔法陣が施されていたが、中身は空っぽだった。
「クリス」
神官長が静かな声で告げる。
「今、私の口からお話はできませんが……森の御邸から持ち出されたこれらの品は、確かにあなたの出自に関わりますもの。それだけはこの老いぼれが保証致しましょう。先程はライト殿に苦言を呈しましたが、そこにあなたがいらしたのならそれは神のお導きなのでしょう……どうなさるかはあなた自身がお決めなさい」
画集の箱がそっとこちらへ押し出される。
「あなたがどのような道をお選びでも、我々はあなたに従いましょう……なぁに、先日儀式をして頂いたばかりですし、白砂原の神官も魔法師も精鋭揃いです。チュリア様もおられる……心置きなく、御心のままに」
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