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賢者は真白き居城にて遠く翠の夢を見る
#08 白き森の大賢者5
しおりを挟む心を落ち着かせるために訪れた聖堂は、時間も遅い所為か閑散としていた。
神像を見上げ、聖印を握り締める。
一番古い記憶は既に神官長と共にあった。神殿に住んで、絵本を読んでもらい、簡素な自室で眠り、朝を迎える。日々の営みを繰り返し、繰り返し、その中で神官になるのだと神学を学び続けた。誕生日に貰う画集の思い出も、5冊目あたりから始まっている。
当然ながらそこに自身の出自を示す記憶は無い。あまりにも幼かったせいで忘れてしまったのだろうと思っていたのだが。
「結局、君の出自ははぐらかされてしまったな」
いつの間に聖堂に入ってきたのか、声の出どころを探して振り向けば、そこにはライトの姿があった。
「……ライトさん」
足音が近づき、隣に並んだ紫の目が神像を見上げる。
「手入れが良い。宝玉の固定も本体の修復跡も丁寧だ。信仰が厚いのだな」
「他の地域は違うのですか?」
「そうだな、様々だ。毎日砂を払う神殿もあれば掲げる宝玉が盗まれてそのまま放置されているような荒れた神殿もある」
自分も神像へと視線を戻す。
オアシスの皆で守ってきた、見慣れた神像。神官達が毎日埃や砂を払う。信者が罅割れを発見し、修復を申し出ることもある。このオアシスでは、それが習慣化しているのだ。神像に親しみ、神像を愛することが。
──しかしそれが当たり前でない地域もある。
「……私は、白砂原どころかこのオアシスすら出たことがありません」
聖印の表面に嵌め込まれた小さな緑柱石を指でなぞる。体温を移して温かく、つるりとした感触。
「そろそろ外の世界を見てこいという神の思し召しかもしれない」
「大神官」
あの話を聞いたそのときに、もう自分のとるべき行動は決まっていたのだ、多分。漠然と抱いていた外への興味が急に形になったために尻込みしていた。霧の向こうにあったものが、突然姿を現したときのように。だから混乱した。
おそらくはただ、それだけで。
「僕でも……旅ができるでしょうか」
撫でていた聖印を握り締める。
「僕は外のことを何も知らない」
問えば、ライトは小さく笑った。
「サポートは任せろ。少なくとも君よりは旅慣れている。それに」
紫の瞳がこちらへ向き直る。
「白き森の跡地はそこまで遠くない。順調でありさえすれば、次の儀式までには帰ってこられるさ」
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