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第1章 飛ばされたんだけどなにこれ
#4. マルトサンカク
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脳内で「お嬢様カッコ予想」とか付けていたのだけど、予想も何も、ロザリィは正真正銘のお嬢様だった。
天蓋を出てみればバカでかいベッドに負けない……というか、これ以上無いくらいに相応しい、やたらに広い部屋だった。高い天井、足に優しい毛足のカーペット、綺麗な装飾のクローゼットにテーブルセットも完備だ。ファンタジーアニメでしか見たことの無いような部屋を素直に褒めたらここは客間で、屋敷内に同じような部屋が3部屋有るそうだ。
最初に返答で得た通りここは『彼女の』私邸で、彼女の父親いわく子供が管理する邸だから小ぢんまりしていたほうが良いだろう、と……いや、そのレベルを小ぢんまりっていうな。
呼び鈴ひとつでテーブルに並べられたのはホテルのデザートビュッフェにでも来たのかと勘違いしそうなお茶セット。
……デザートトレイがタワーだ。
どれでもどうぞと勧められたので謎の球体をひとつ取ってもらった。
「……美味しい」
なにこれ美味い。
なにこの甘みと酸味の絶妙なバランス。時々カリリと奥歯に砕かれる香り高いアクセント。
このジャンルへの造詣は深くないけど女性主人公の異世界転生モノってメシマズ基本なのでは。それでちょっと料理好きな主人公がチヤホヤされるんだ。できるなら自分も狙いたいその地位をこの球体はあっさりぶち壊してくれた。大型建造物を取り壊すときに使う鉄球のように。
そう、異世界転生。
自分が寝る前に書こうとしていた物語の世界だ。
認識した瞬間から目を細めてみたりカッコ付けて手を振ってみたりしたが、残念ながらステータスウィンドウは出ないらしい。
チートとか無いんかい。
部屋と料理がこのレベルならこの世界で自分が取れるイニシアチブはおそらく皆無だ。
……美味しい。
止まらないフォークの先に次々と屠られてゆく謎の球体も、口直しに啜った紙の香りが混じらないお茶も。
完璧じゃねぇか。
目の前に座ったお嬢様はといえば、謎の三角を小鳥にやるほどに小さく千切ってクリームらしきものを塗りつけている。
そういうのは手で食べて良いのか。
観察していたら気付かれたらしい。ロザリィは名前通り薔薇の開くような微笑みでのたもうた。
「聖霊様は聖霊様のお作法で召し上がって良いのよ?」
ええと……その聖霊様とは私のことかね?
ちらりとテーブル脇に立つメイドさんらしき女性に視線を向ける。
絵に描いたような黒いエプロンドレスに栗色のまとめ髪。少し緊張の混じるぎこちない笑顔でこちらの視線に応えてくれた。
そうか、それがこの世界での『設定』なわけね。
ロザリィと同じ三角をもぐもぐしながら思考をまとめてゆく。
──白いクリームよりこの赤いジャムのほうが好みの味だな。イチゴジャムに見えて違う食感と味がするからちょっと脳がバグるけど。
それはさておき。
その1。これは多分長い夢か異世界転生ってやつだ。
その2。物語のようなチートは無いらしい。
その3。この世界では自分は聖霊という立ち位置らしい。
その4。目の前のお嬢様はパトロンとしては申し分ない……はず。
その5。帰る方法はお嬢様も知らない。
そう。帰る方法を尋ねたら『しらないわよそんなの』と一蹴された。
いやそんな無責任なとは思ったものの元の世界にたいした執着も無く、こういうものは元の時間に帰れるのがお約束だと思っているので焦らないことにした。元の世界に帰ったときに100年経っていたら?……うん、考えたら負けだ。
「それで?」
お腹も満たされ、メイドさんも片付けに下がったところでロザリィに向き直り、問いかける。
「私はこのあとどうすれば良いの?」
金の頭がこくんと傾いた。
「何かしなければいけないかしら?」
「面白そうだからで呼び出されてふらふらしてるわけにもいかないでしょうよ。さっきも言った通り私何もできないから、ハイさようならって追い出されても困るよ?」
この世界で知っていることといえば朝から動いたこの範囲だけ。部屋としては広いが世界としては狭すぎる。
ロザリィはやたら愛らしい仕草で小首を傾げ、そうねぇと前置きしてから宣った。
「とりあえず、わたくしの傍に居れば良いと思うわ」
天蓋を出てみればバカでかいベッドに負けない……というか、これ以上無いくらいに相応しい、やたらに広い部屋だった。高い天井、足に優しい毛足のカーペット、綺麗な装飾のクローゼットにテーブルセットも完備だ。ファンタジーアニメでしか見たことの無いような部屋を素直に褒めたらここは客間で、屋敷内に同じような部屋が3部屋有るそうだ。
最初に返答で得た通りここは『彼女の』私邸で、彼女の父親いわく子供が管理する邸だから小ぢんまりしていたほうが良いだろう、と……いや、そのレベルを小ぢんまりっていうな。
呼び鈴ひとつでテーブルに並べられたのはホテルのデザートビュッフェにでも来たのかと勘違いしそうなお茶セット。
……デザートトレイがタワーだ。
どれでもどうぞと勧められたので謎の球体をひとつ取ってもらった。
「……美味しい」
なにこれ美味い。
なにこの甘みと酸味の絶妙なバランス。時々カリリと奥歯に砕かれる香り高いアクセント。
このジャンルへの造詣は深くないけど女性主人公の異世界転生モノってメシマズ基本なのでは。それでちょっと料理好きな主人公がチヤホヤされるんだ。できるなら自分も狙いたいその地位をこの球体はあっさりぶち壊してくれた。大型建造物を取り壊すときに使う鉄球のように。
そう、異世界転生。
自分が寝る前に書こうとしていた物語の世界だ。
認識した瞬間から目を細めてみたりカッコ付けて手を振ってみたりしたが、残念ながらステータスウィンドウは出ないらしい。
チートとか無いんかい。
部屋と料理がこのレベルならこの世界で自分が取れるイニシアチブはおそらく皆無だ。
……美味しい。
止まらないフォークの先に次々と屠られてゆく謎の球体も、口直しに啜った紙の香りが混じらないお茶も。
完璧じゃねぇか。
目の前に座ったお嬢様はといえば、謎の三角を小鳥にやるほどに小さく千切ってクリームらしきものを塗りつけている。
そういうのは手で食べて良いのか。
観察していたら気付かれたらしい。ロザリィは名前通り薔薇の開くような微笑みでのたもうた。
「聖霊様は聖霊様のお作法で召し上がって良いのよ?」
ええと……その聖霊様とは私のことかね?
ちらりとテーブル脇に立つメイドさんらしき女性に視線を向ける。
絵に描いたような黒いエプロンドレスに栗色のまとめ髪。少し緊張の混じるぎこちない笑顔でこちらの視線に応えてくれた。
そうか、それがこの世界での『設定』なわけね。
ロザリィと同じ三角をもぐもぐしながら思考をまとめてゆく。
──白いクリームよりこの赤いジャムのほうが好みの味だな。イチゴジャムに見えて違う食感と味がするからちょっと脳がバグるけど。
それはさておき。
その1。これは多分長い夢か異世界転生ってやつだ。
その2。物語のようなチートは無いらしい。
その3。この世界では自分は聖霊という立ち位置らしい。
その4。目の前のお嬢様はパトロンとしては申し分ない……はず。
その5。帰る方法はお嬢様も知らない。
そう。帰る方法を尋ねたら『しらないわよそんなの』と一蹴された。
いやそんな無責任なとは思ったものの元の世界にたいした執着も無く、こういうものは元の時間に帰れるのがお約束だと思っているので焦らないことにした。元の世界に帰ったときに100年経っていたら?……うん、考えたら負けだ。
「それで?」
お腹も満たされ、メイドさんも片付けに下がったところでロザリィに向き直り、問いかける。
「私はこのあとどうすれば良いの?」
金の頭がこくんと傾いた。
「何かしなければいけないかしら?」
「面白そうだからで呼び出されてふらふらしてるわけにもいかないでしょうよ。さっきも言った通り私何もできないから、ハイさようならって追い出されても困るよ?」
この世界で知っていることといえば朝から動いたこの範囲だけ。部屋としては広いが世界としては狭すぎる。
ロザリィはやたら愛らしい仕草で小首を傾げ、そうねぇと前置きしてから宣った。
「とりあえず、わたくしの傍に居れば良いと思うわ」
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