色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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人民革命

すれ違い

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 大陸歴1660年6月30日・ブラミア帝国・首都アリーグラード

 披露宴の後、新郎新婦のユルゲン・クリーガーとヴァシリーサ・アクーニナは、一か月の休暇を得て、ハネムーンでテレ・ダ・ズール公国の港町ポー・スードに行ったという。ハネムーンの後、ヴァシリーサはユルゲンの使っている屋敷に移り住むことになった。

 ユルゲンは帝国に留まることになってから、城の近くにあり、以前とある貴族が住んでいて、現在は空き家になっていた屋敷を国から提供され、そこに住んでいた。
 住み込み召使いも一人いる。“帝国の英雄”としての特別待遇だ。

 そして、ユルゲンがハネムーンから帰って一週間後のある日、ユルゲンはオレガを剣の修練のため屋敷に招いた。

 一年前、オレガは遊撃部隊が解散したと同時に軍を除隊した。しかし、その後も無理を言ってユルゲンの弟子を続けさせてもらっていた。
 そして、月に一、二度、ユルゲンの屋敷の広い庭で剣の修練をするために通っていた。

 オレガとユルゲンの模擬剣がぶつかり合う音があたりに響く。
 オレガは相変わらず動きが速い。ユルゲンは最近の運動不足もあって、彼女の剣裁きになんとか対応できている状態だった。

 二人は修練を終え、庭にある椅子に座って息を整えていた。
 ユルゲンは汗を拭くためのタオルを、オレガに渡す。
「ありがとうございます」。
 ユルゲンはオレガに、もう軍人ではないのに、なぜ剣の修練を続けるのか聞いたことがある。彼女の母親は幼い時に亡くなり、父親も “イグナユグ戦争” で戦死したので身寄りがなく、知り合いもほとんどない。だから、ユルゲンと関係をつなげていたいそうだ。二人は親子というには年齢はちょっと近いので、歳の離れた兄妹のような関係だった。

 ユルゲンは披露宴の時、秘密警察 “エヌ・ベー” のスピリゴノフから聞いた話が気になっていた。オレガが反政府勢力の集会に顔を出しているという話だ。
 今日の機会に、そのことを聞いてみようと思っていた。
「オレガ」。ユルゲンは単刀直入に話を切り出した。「最近、反政府勢力の集まりに行っていると聞いたが」。
「えっ?」オレガは予想外の話題に困惑した。「それを、誰から?」
「私の耳には、いろんな情報が入ってくる」。ユルゲンは無理に笑顔を作って話を続ける。「軍や秘密警察は反政府勢力の動きに特に注意しているからね」。
 良く考えれば、それは、そうだろう。ユルゲンは軍の副司令官だ。軍や政府の機密事項などの情報も耳に入るに違いない。

 ユルゲンは話を続けた。
「だから、そういうところには出入りしない方がいい」。
 オレガは少し黙っていたが、意を決したように話し出した。
「私が師に弟子にしてくださいとお願いした時、生まれた地域を何とかしたいと言ったのは覚えていますか?」
「覚えているよ」。
「だから、そうしたいだけです」。
「剣の腕を磨いて、反旗を翻すためかい?」
 オレガは黙り込んだ。

 ユルゲンはオレガを弟子にすると決めた時は、彼女の言葉を深く読み込まなかった。結局、ただ、泣いてすがる彼女の涙に負けたという事だろう。

 ユルゲンは言葉を続ける。
「私は今ではもう帝国の人間として陛下に敬意を払っている。それは将来も変わらないだろう。このままだと、いつか、私はオレガと本物の剣で斬り合うことになるかもしれんよ」。
 実際に斬り合うことなどないだろうが、ユルゲンはオレガを反政府活動から離すために、わざとショッキングな印象になるように言った。
 オレガはその言葉には返事をせず、黙ったままだった。

 少々気まずい沈黙が続いてしばらくした後、ヴァーシャが屋敷から出てきて二人に声を掛けた。
「昼食が出来たわよ」。
 いいタイミングだ。
 ユルゲンは立ち上がって、オレガにも声を掛ける。
「行こう」。
 オレガが立ち上がるのを見て、ヴァーシャが言った。
「ねえ、私とオレガが手合わせすると、どっちが勝つかしら?」
「オレガは手強いよ」。
 ユルゲンが笑って言う。
「ねえ、オレガ、聞いてよ。ユーリはもう私と手合わせしてくれないのよ」。
「妻とは本気でやり合えないよ」。
 ユルゲンのその言葉を聞いてオレガが言う。
「師は優しいですね」。
「違うわよ、やり合って負けた時に言い訳にするつもりなのよ」。
 その言葉にユルゲンは苦笑し、オレガとヴァーシャは笑っていた。
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