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英雄は二度死ぬ
「仕組まれた裁判」メモ
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『大陸歴1658年5月頃・帝国首都アリーグラード・作戦室
私は、ユルゲンに恩赦を伝えた後、謁見の間から出ると作戦室に向かった。
作戦室は、軍の上級士官たちが軍事作戦を立てるときに利用する部屋だ。広さはさほど大きくない。中央にやや大きめの机が置いてあり、周りには十席ほどの椅子が置いてある。壁には大きな大陸の地図が張ってある。私がここに行くことはほとんどなかった。
親衛隊の隊員が扉を開く。皇帝は親衛隊員を外に待たせ、部屋の中に入った。
そこに待ち構えていたのは、戦略部顧問イワノフ、弁護士ムラブイェフだ。
皇帝が入室するのを見て、二人は一旦立ち上がり、ひざまずいた。
「楽にして結構です」。
私が言うと、二人は立ち上がった。そして、皇帝が席に付いたのを確認して、二人も席に着いた。
イワノフが口を開いた。
「上手くいきましたか?」
「ええ。クリーガーは帝国にとどまることを了承しました。今後、クリーガーは帝国の人間として尽力してもらうことになります。剣の腕前も良く、機転が利き、人望も厚い。貴重な人物です」。
それを聞いてムラブイェフは嬉しそうに手を一度叩いた。
「本当に良かったですね。軍法会議の大芝居を打った甲斐がありました」。
「しかし、本当に今後、彼が裏切る可能性はないとお考えですか?」
イワノフが質問をした。
私はその疑問に答える。
「彼の望みは共和国の解放でした。そして、近々、共和国暫定政府と交渉が終われば、その目標を達成することになります。そうなると反抗の理由は無くなります。そして、ルツコイの話によるとクリーガーは、 “恩義”や“情”を大切にする人物のようです。今回、恩赦という形で恩を売っておきましたから大丈夫だというのが、ルツコイと私の見立てです。それに、クリーガーはアクーニナと恋仲のようなので、場合によってはアクーニナは監視役としての役目も果たせるでしょう。そして、もし最悪の場合には彼を排除する方法いくらでもあります」。
「彼の肩書や今後の役割はどうされますか?」
「一旦はルツコイの下に副旅団長として付けようと思っています。ルツコイならクリーガーのことをよくわかっているようなので、うまく扱うことができるでしょう。それに彼の下に付けるのは、これも監視するという意味合いもあります。さらに兼任での私の側近としても。その肩書は適当なものを考えます」。
「わかりました。陛下の仰せのままに」。
元々、私は共和国からの撤退を検討しており、クリーガーの行動はそれをただ早めたに過ぎなかった。
彼を上手く帝国首都に留めるために架空の軍事法廷を設けた、ということだ。
私は話題を変えた。
「ところで共和国の方はどうですか?」
イワノフが答える。
「共和国暫定政府内で少々もめごとがあるようです。モルデンを仕切っているコフと最初の反乱のきっかけを作りベルグブリックにいる部隊が対立しているようです。また、ズーデハーフェンシュタットで市長を務めさせていたフォーゲルも彼らと主導権争いをしているという報告が入っています」。イワノフはあきれたというような素振りを見せ、話を続ける。「しかし、交渉は今まで通りモルデンのエリアス・コフを窓口にしています。あちらのいざこざは、こちらには関係のないことです。そのような状態だと共和国の軍がかつてほど再建されるのも、しばらく時間がかかるでしょう。帝国の脅威となるようなことは当面は無いと思います」。
私は別の気になっていた質問をした。
「共和国とも和平協定を結ばないのですか?」
帝国とテレ・ダ・ズール公国およびヴィット王国の両国とは和平協定を結ぶ方向で話が進んでいた。
イワノフがそれについて答える。
「それは共和国側が落ち着いてからですね。彼らが我が軍には早めに撤退してほしいことだけは総意のようですから、我々としては先に撤退を粛々と進めるだけです」。
「わかりました。軍の撤退のことは、後はイワノフ顧問と外務大臣に任せます。そのほかの交渉は外務大臣を中心に進めさせます」。
「御意」。
「では」。そこまでじっと黙っていたムラブイェフは一つ咳払いをしてから立ち上がった。「私はこれで失礼します。最後にクリーガーさんに会ってきます」。
「わかりました。私達はもう少し話をしていきます」
私とイワノフはその後、今後の軍の撤退について話し合った。』
私は、ユルゲンに恩赦を伝えた後、謁見の間から出ると作戦室に向かった。
作戦室は、軍の上級士官たちが軍事作戦を立てるときに利用する部屋だ。広さはさほど大きくない。中央にやや大きめの机が置いてあり、周りには十席ほどの椅子が置いてある。壁には大きな大陸の地図が張ってある。私がここに行くことはほとんどなかった。
親衛隊の隊員が扉を開く。皇帝は親衛隊員を外に待たせ、部屋の中に入った。
そこに待ち構えていたのは、戦略部顧問イワノフ、弁護士ムラブイェフだ。
皇帝が入室するのを見て、二人は一旦立ち上がり、ひざまずいた。
「楽にして結構です」。
私が言うと、二人は立ち上がった。そして、皇帝が席に付いたのを確認して、二人も席に着いた。
イワノフが口を開いた。
「上手くいきましたか?」
「ええ。クリーガーは帝国にとどまることを了承しました。今後、クリーガーは帝国の人間として尽力してもらうことになります。剣の腕前も良く、機転が利き、人望も厚い。貴重な人物です」。
それを聞いてムラブイェフは嬉しそうに手を一度叩いた。
「本当に良かったですね。軍法会議の大芝居を打った甲斐がありました」。
「しかし、本当に今後、彼が裏切る可能性はないとお考えですか?」
イワノフが質問をした。
私はその疑問に答える。
「彼の望みは共和国の解放でした。そして、近々、共和国暫定政府と交渉が終われば、その目標を達成することになります。そうなると反抗の理由は無くなります。そして、ルツコイの話によるとクリーガーは、 “恩義”や“情”を大切にする人物のようです。今回、恩赦という形で恩を売っておきましたから大丈夫だというのが、ルツコイと私の見立てです。それに、クリーガーはアクーニナと恋仲のようなので、場合によってはアクーニナは監視役としての役目も果たせるでしょう。そして、もし最悪の場合には彼を排除する方法いくらでもあります」。
「彼の肩書や今後の役割はどうされますか?」
「一旦はルツコイの下に副旅団長として付けようと思っています。ルツコイならクリーガーのことをよくわかっているようなので、うまく扱うことができるでしょう。それに彼の下に付けるのは、これも監視するという意味合いもあります。さらに兼任での私の側近としても。その肩書は適当なものを考えます」。
「わかりました。陛下の仰せのままに」。
元々、私は共和国からの撤退を検討しており、クリーガーの行動はそれをただ早めたに過ぎなかった。
彼を上手く帝国首都に留めるために架空の軍事法廷を設けた、ということだ。
私は話題を変えた。
「ところで共和国の方はどうですか?」
イワノフが答える。
「共和国暫定政府内で少々もめごとがあるようです。モルデンを仕切っているコフと最初の反乱のきっかけを作りベルグブリックにいる部隊が対立しているようです。また、ズーデハーフェンシュタットで市長を務めさせていたフォーゲルも彼らと主導権争いをしているという報告が入っています」。イワノフはあきれたというような素振りを見せ、話を続ける。「しかし、交渉は今まで通りモルデンのエリアス・コフを窓口にしています。あちらのいざこざは、こちらには関係のないことです。そのような状態だと共和国の軍がかつてほど再建されるのも、しばらく時間がかかるでしょう。帝国の脅威となるようなことは当面は無いと思います」。
私は別の気になっていた質問をした。
「共和国とも和平協定を結ばないのですか?」
帝国とテレ・ダ・ズール公国およびヴィット王国の両国とは和平協定を結ぶ方向で話が進んでいた。
イワノフがそれについて答える。
「それは共和国側が落ち着いてからですね。彼らが我が軍には早めに撤退してほしいことだけは総意のようですから、我々としては先に撤退を粛々と進めるだけです」。
「わかりました。軍の撤退のことは、後はイワノフ顧問と外務大臣に任せます。そのほかの交渉は外務大臣を中心に進めさせます」。
「御意」。
「では」。そこまでじっと黙っていたムラブイェフは一つ咳払いをしてから立ち上がった。「私はこれで失礼します。最後にクリーガーさんに会ってきます」。
「わかりました。私達はもう少し話をしていきます」
私とイワノフはその後、今後の軍の撤退について話し合った。』
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