色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
58 / 66
英雄は二度死ぬ

軍法会議の真実

しおりを挟む
 イリーナとクララはそのメモを驚きをもって読んだ。
 軍法会議自体がユルゲンを帝国に留まるようにさせるためのニセの裁判だったというのだ。
 ムラブイェフの屋敷で、いくら探しても軍法会議の資料が無かったはずだ。そうなると、それは当然といえば当然だ。

「ブユネケンさん! 謎が解けました!」
 クララは思わず声を上げた。
 イリーナがその言葉を継ぐ。
「ユルゲンさんを裁いたはずの軍法会議は、本当は無かったんです」。
 二人は嬉しそうに飛び跳ねている。
 それを見て不思議そうにブユネケンは尋ねた。
「無かった? ということは恩赦とはどういう事だろう? 裁判が無ければ罪もなく、恩赦もないことになるが」。
「お爺様を帝国に留めるためのウソだったんです」。
 イリーナが言い、クララがそれに付け加えた。
「偽の裁判で有罪になったということにして、お爺様に恩を売るために恩赦をすると言い、罪を赦したと」。
「それで、帝国に留まるようにさせたのか。なるほどね、考えたね」。
 ブユネケンは納得したようだ。

「それを考え付いたのは、パーベル・ムラブイェフだったそうです」。
 イリーナが答える。
「ムラブイェフのところには、そのことについては、何も資料を残していなかったのかい?」。
「はい。私たちが先日、ムラブイェフさんの屋敷で遺品の軍法会議の資料を調べさせてもらったんですが、無かったんです。それもそのはずで、お爺様を裁いた軍法会議自体が偽のものだったからです、だから正式な軍法会議の資料として残っていなかったんでしょう」。
「そういうことか。でも、ここで見つかってよかったね」。
「はい、来た甲斐がありました」。
 イリーナは元気よく答えた。
 その言葉を聞いて、ブユネケンは微笑んだ。

「そういえば、このメモは本を出版するためのものなんですよね。本は出版されたんですか?」
「いや、実は出版間際で政府からストップがかかってね。やはり、元皇帝の半生を出すとなると、現体制に悪影響があると思ったんだろう」。
「そうなんですね」。
「もう、何年も前の事だけどね」。

 イリーナとクララは、ブユネケンとしばらく話をしてから礼を言って、ブユネケンの屋敷を後にした。
 イリーナとクララは新たに知った事実に興奮冷めやらない状態だ。

 宿屋の部屋に戻ると、召使いのナターシャが待っていた。部屋の中に洗濯してきたのであろう服を干してあった。
「街の洗濯場で服を洗ってきました。部屋が狭くなって申し訳ありません」。
「いいよー」。
クララが明るく返事をする。
「貸衣装も返却しておきました」
「ありがとう」。
「ところで、皇帝の遺品の首尾はどうでしたか?」
「いいものが見つかったわ。お爺様がなぜ帝国にとどまったかの秘密がわかった」。
「それは、どういうものですか?」
 イリーナが説明を始める。
「お爺様が反逆罪で捕まったあと、軍法会議が開かれたんだけど、この軍法会議自体が偽物だったんです。その偽の軍法会議で死刑を宣告され、帝国に留まることを条件に恩赦されたのよ」。
「そうだったのですね。おめでとうございます」。
 ナターシャは感心したように祝福の言葉を伝えた。

「これで、ほとんどの謎がわかったことになるわ」。
「私たち、すごいね」。
 クララは満足そうに微笑んだ。
 イリーナは付け加えた。
「後は、革命の時にプリブレジヌイの戦いでオレガさんに斬られたのに生きていたことぐらいね」。
「それは、これからヴィット王国へ向かうから、そこでわかるといいよね」。

 イリーナとクララはこれまでに分かったことを新ためて書き出して整理した。

【分かったこと】
●“チューリン事件”
・ブラミア帝国の皇帝スタニスラフ四世が殺され魔術師アーランドソンに体を乗っ取られていたこと。
・その魔術師アーランドソンを倒したのはユルゲン・クリーガーであったこと。
・“チューリン事件”のチューリンや怪物はアーランドソンに魔術で操られた傀儡だったこと。

●“ソローキン反乱”
・“ソローキン反乱”は皇帝がソローキンを排除するための謀略であったこと
・ソローキンを倒したのはユルゲンだった。

●“共和国再独立”
・ユルゲンが率いる遊撃部隊が共和国の反乱に加担してモルデンを掌握したこと。
・そもそもユルゲンは、かなり前から共和国の独立派と内通していたこと。

●人民革命
・ユルゲン・クリーガーの屋敷にいた召使いナターシャ・ストルヴァは、革命軍の仲間だった。
・モルデン掌握が秘密にされている理由=共和国ではコフの功績にするため。
・モルデン掌握が秘密にされている理由=帝国ではユルゲンが帝国を裏切って共和国についていたのでそれを隠すため。
・ユルゲンは一人で降伏し、軍法会議で反逆罪で死刑宣告を受けるが恩赦されたこと。
・ユルゲンが裁かれたこの軍法会議がそもそも偽だったので公的な記録は残っていない。
・死刑宣告と恩赦について秘密にされている理由は、ユルゲンを帝国に留まらせるための策略だったので、そもそも公にされていない。

【謎】
・ユルゲンがオレガに斬られて死亡したはずなのに、数か月後生きて現れたこと。
・ユルゲンが革命軍の追っ手から逃げ延びたこと。

 翌日、イリーナ、クララ、ナターシャの三人は、プリブレジヌイを後にして、テレ・ダ・ズール公国の首都ソントルヴィレへ向けて出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...