色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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英雄は二度死ぬ

ヴィット王国・国境の町ホッグプラッツ

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 ソントルヴィレを出発し、ヴィット王国の国境の町ホッグプラッツへと向かう。
 駅馬車は進む。ソントルヴィレから途中の宿場町を経由して三日。
 国境までの途中の宿屋街の規模はさほど大きくなかった。ヴィット王国は鎖国のような政策を取っているので、他国とは人的な交流は少ないためだ。

 ふと駅馬車の扉の窓から外を除くと、遠くには雪をかぶったリッグラード山脈の尾根が見える。リッグラード山脈の雪の一部は夏でも溶けることがないそうだ。
 国境は標高が高いと聞いていたが、その通りに気温が下がってきた。
 イリーナ達は、ソントルヴィレでコートを調達しておいて良かったと思った。

 小さな駅馬車は四人乗り、ちょうどイリーナ、クララ、ブリュンヒルデ、ナターシャで四人。
 三日も一緒にいると、話すこともなくなってきて、国境の街につく頃には皆、旅の疲れも相まって、口数が少なくなっていた。

 夕刻、国境の街の入り口に到着した。駅馬車は通関のための建物の前に止まる。それは二階建ての砦のような建物だった。
 アグネッタ・ヴィクストレームを手紙のやり取りをしたブリュンヒルデによると、ここでアグネッタと会うことになっている。
 四人は駅馬車を降り、建物の中に入る。
 建物の中にいる係員にアグネッタとの約束の話をすると、話が通っていた。その係員に少し待つように言われた。

 しばらく待つと、杖を突いた白髪の老婦人と若い背の高い男性が一緒にやって来た。
「こんにちは。私がアグネッタ・ヴィクストレームです」。
 四人は一斉に立ち上がった。
 四人を見みてアグネッタは驚いたように言った。
「お客さんが四人だとは思わなかったわ」。
「すみません。事情があって人数が増えました」。ブリュンヒルデは軽く会釈をした。「私が手紙で連絡をしました“プラウグルン・ツワィトゥング”紙の記者でブリュンヒルデ・ヴィルト。こちらが、ユルゲン・クリーガーのお孫さんのクララ・クリーガーです」。
 アグネッタはクララ見て目を見開いた。
「クリーガーさんのお孫さんに会えるなんて、とてもうれしいわ」。
 ブリュンヒルデは紹介を続ける
「こちらはクララさんのお友達で、イリーナ・ガラバルスコワさん。クララさんと一緒にお爺様の事を調べています。そして、こちらがナターシャ・ストルヴァさん。クララさんの家のお手伝いさんです」。
「よろしくね」。
 アグネッタは四人をそれぞれゆっくり見つめた後、隣に立っている男性を指して紹介をする。
「彼は医者のエーギル・ノルランデルです。私には持病があるので、最近はいつも一緒にいます」。
 紹介されたエーギルは、少しだけ微笑んで軽く会釈をした。
「じゃあ、移動して少し大きな部屋があるから、そちらでお話をしましょう」。

 アグネッタに先導され六人は建物の中を移動して、目的の部屋に到着した。
 やや大きめに部屋にテーブルをソファが置いてある。応接室のようだ。
「悪いけど、飲み物を持ってきて」。
 アグネッタはエーギルに言うと、エーギルは一旦部屋を出て言った。
 彼は暖かい紅茶をカップに入れて運んできてくれた。

「長旅ご苦労様だったわね。ここまで何日かかったの?」
 ブリュンヒルデが先に口を開く。
「私はズーデハーフェンシュタットから船でポー・スードを経由してここまで来ました。途中ソントルヴィレに三日居たので、二週間かかりました」
 イリーナが話を続けた。
「私たちはアリーグラードからです。途中、プリブレジヌイとソントルヴィレにそれぞれ三日居たので、ここまで十六日の旅でした」。
「それは、大変だったわね」。
「ここで、何日かは滞在できるように手配しておいたわ。建物の外に出ることはできないけど。建物の中もあまり見る物はないので、退屈かもしれないわね」。
「街の中には行けないんですね」。
 クララが尋ねた。
「ええ。ご存知の通り、私達の国は一般の外国人は入国禁止なのよ」。
「残念」。
 クララはため息をついた。

 ブリュンヒルデは本題に入る。いつものように、はっきりとした口調で話し始めた。
「手紙で書いた通り、お話しを伺いたくてここまで来ました。私はユルゲン・クリーガーの共和国内での悪い評判を覆したく思っています。そこで、彼が共和国再独立の立役者であった事実になる証言を捜しています」。

「残念だけど、共和国の再独立の経緯については、私はよくわかっていません。ただ、私は同じ時期に帝国軍がソントルヴィレに迫った時、公国と一緒に戦っていました」。
「そうなのですか?」
「 “ソローキン反乱” と言われている事件よ。あの事件は、ブラミア帝国の皇帝がソローキンを排除するための策略だったのよ。この策略のためヴィット王国、テレ・ダ・ズール公国が協力したのよ」。
「あれが策略だった件は、お爺様のお弟子さんだった人から聞いたことがあります」。
「あら。それはソフィアさんかしら?」
「そうです」
「懐かしいわね。彼女は元気にしているのかしら?」
「数か月前にお会いしましたけど、お元気そうでした」。
「そう。それは良かったわ」。
 アグネッタは少し黙り込んだ。ソフィアの事を思い出しているのだろう。

 そして、しばらくの沈黙の後、アグネッタは再び話を続けた。
「共和国の再独立は、 “ソローキン反乱” の直後に起こったけど、再独立にクリーガーさんがどのように関わったかは詳しくは知りません。ですから、共和国での彼の再評価についてはお役に立てられることはなさそうです」。
「クリーガーさんは、共和国では“裏切り者”と呼ばれています。それについては、どう思われますか?」
「彼は傭兵部隊の頃から “裏切り者” と呼ばれることがあったのは知っているわ。それは、共和国出身者なのに、共和国が滅んですぐに帝国の傭兵部隊に参加したからでしょう。その後もその評価は変わらなかった」。
 アグネッタは少し考えてから続けた。
「私がそれをどう思うかと言えば、残念なことだと思うけど、それ以上はなんとも思わないわ。何かできることもないし」。
「そうですか」。
 ブリュンヒルデは残念そうにつぶやいた。

「私たちも知りたいことがあります」
 イリーナは口を開いた。
「これはユルゲンさんの弟子だったオレガさんから聞いたことですが」。イリーナは前置きして話を始めた。「ユルゲンさんは、プリブレジヌイの戦いの時、オレガさんに斬られて死亡したということです。しかし、数か月後、生きて姿を現したと言っていました。私は、それがオレガさんの思い違いかとも考えているのですが、彼女は『間違いなく、お爺様は死んでいた』と言っていました。そこで、私たちが思い当たったのは、ヴィット王国の魔術で人を生き返らせる魔術があったはずだと。そこで、ヴィット王国の方に聞けば何かわかるのではないかと思っています。アグネッタさんはそのことについて何か知っていますか?」。

「その事ね。それじゃあ、あなたたちの知りたいことを、お話ししましょう」
 アグネッタは微笑んでから、ゆっくりと話を始めた。
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