色彩の大陸1~禁断の魔術

谷島修一

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 私は、なんとなく見覚えのある場所に居た。

 空を見上げると、雲一つない真っ青な空。気温も暖かく感じる。気候から考えるとズーデハーフェンシュタットかその付近のようだ。
 しかし、すぐには、ここが何と言う場所か思い出せないでいた。
 私が辺りを見回すと、目に入ったのはレンガ造りの二階建ての建物と広場。広場では子供たちが沢山遊んでいた。子供たちは十二、三歳から三、四歳の小さな子供まで様々だ。子供たちは数名ごとに集まって、ボール遊びや、縄跳びをしたり、小さな子供たちは土の上に落書きをしたりして遊んでいた。
 そんな無邪気な子供たちを見守る大人たちが数名いる。大人たちも皆、見覚えがあった。そうだ彼らは先生たちだ。
 先生たちを見て、この場所がどこか思い出した。ここはズーデハーフェンシュタットにある孤児院だ。
 私の両親は私が七歳の頃、相次いで病気で亡くなった。身寄りのない私は、孤児院に預けられることになった。ここでの生活は六年を数える。
 そうか、私が十三歳の頃の光景だ。

 大人の中に先生ではない人物が居るのに気がついた。
 セバスティアン・ウォルター、私の師だった人だ。
 彼は、茶色い目、茶色い髪に少し白髪が混ざっている。そして、紺色の軍服を着ている。
 あれは“深蒼の騎士”の制服だ。
 彼の身長はさほど高くなく、体も少々痩せている。軍服で腰に剣を下げていなければ、軍人とは思えない雰囲気を持っていた。
 しかし、彼はこのズーデハーフェンシュタットでは剣の使い手として、少しは名の知れた人物だ。孤児院の子供たちの間でも、彼や“深蒼の騎士”にあこがれている者は多かった。
 彼は、理由はわからないが、この孤児院に良く来ていた。

 彼は、私にゆっくり歩み寄ってきた。ゆったりとした動きではあるが、なんとなく隙を感じさせない。
 彼は、私の傍らに来ると、笑顔で挨拶をした。
「こんにちは」。
 私は、彼を見上げて、少し間をおいて返事をした。
「こんにちは」。
「私は、セバスティアン・ウォルター。私の名前は聞いたことはあるかな」。
 私は無言で肯定の頷きをした。
 彼は続ける。
「君、名前は?」
 彼のゆっくりとした優しい口調は、まだ十三歳の私に安心感をもたらした。
「ユルゲン・クリーガーです」。
 私は、おずおずと答えた。
「君は、騎士に興味はあるかい?」
「騎士?」
「“深蒼の騎士”のことは聞いたことがあるかな?」
「あります」。
「“深蒼の騎士”にならないか?」彼は、はっきりと言った。「ここに何度か足を運んで、君を見ていた。ボール遊びを仲間としていただろう?それを見ていて、君の動きがとても良いので、剣の上達も早いと思ったんだ」。
 突然の降って湧いたような話だった。私は正直、孤児院での日々に退屈を感じていた。ここからの生活から逃げ出したいと思っていたので、この話に二つ返事で飛びついた。
「“深蒼の騎士”になりたいです」。
「剣の修練は厳しいが、君なら大丈夫そうだ。やってみるか?」。
 私は無言でうなずいた。
「では、孤児院の人には話をしておく、何日か後に迎えに来る。その後は城で生活することになるから、引っ越しの準備をしておくように」。
「はい」。
 後日知ったのだが、師は、普段からズーデハーフェンシュタットのいくつかの孤児院で弟子を探していたようだった。私にも兄弟子が居たし、何年か経って弟弟子もできた。彼らのほとんどが孤児院の出身だった。
「また来るよ」。
 師は、手を振ってその場を去って行った。

 そこで私は目が覚めた。普段あまり夢を見ないほうなのだが、今朝の夢は、かなりはっきりした夢だった。
 昨夜、寝る前に師セバスティアン・ウォルターの事を思い出したので、きっとあんな夢を見たのだろう。

 私は、彼の元で剣の修行に励み、十六歳になって共和国軍の兵士として従軍することになった。その六年後、二十二歳の時、認められ共和国の精鋭である“深蒼の騎士”になることができた。
 その時、師は、「おめでとう。もう君に教えることは、ほとんどない。一点だけ、気を付けるところは、わかっているだろう?」。と、私に言った。それは、私の剣の弱点についてだ。これは師以外には誰にも知られていないはずだが、剣の振りがわずかに遅いため、私の左下側の守りが弱いのだ。
 私が“深蒼の騎士”になった後、彼はしばらくしてから軍も退役し、静かに暮らしたいと言ってズーデハーフェンシュタットからも去って行った。その後の詳しい消息は分かっていない。

 私は師に誘われた時、本当は“深蒼の騎士”にはさほど興味がなかった。しかし、このまま孤児院で過ごし、ある程度の年齢に達し孤児院を出ることになったら、どうなるのか考えつかなかった。自分が何がしたいのか、何ができるのか。十三歳の私は、私なりに考えていたが、答えは出ない日々が続いていた。
 そこへ師からの誘いだ。先の見えない人生に何か変化があるだろうと期待をして、私は彼の弟子となった。

 そして、その後は、何年にも渡る師の厳しい修練に耐え、剣術の腕は共和国軍の中でも、かなりものとなった。そして、一人前の“深蒼の騎士”として長く任務を果たしてきた。そして、共和国は滅び、今では帝国軍の傭兵部隊で働いている。
 あのとき孤児院に居続けたらこのような人生にはならなかっただろう。しかし、師の弟子になった十三歳の時の判断が、良かったのか悪かったのか、今でも結論は出ない。

 私は起き上がり身支度を整えテントを出た。
 集合の時間となり、全員が集まってきた。
 野営地はこのままにして、私、オットー、ソフィア、そのほかの隊員達、合計十四人で洞窟へ再び向かう。
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