エレーヌを殺したのは誰だ?

谷島修一

文字の大きさ
21 / 38

第21話

しおりを挟む
 しばらく、ラバールは頭を抱えて、考えをまとめていた。そこへ、再びフンツェルマンが応接室に顔を出した。
 ラバールはフンツェルマンに気付くと話しかける。
「ボディーガードのジョアンヌさんも呼んでいただけますか?」
「わかりました」
 フンツェルマンはジョアンヌを呼びに応接室から出た。ジョアンヌはすぐに応接室までやって来た。
「なんか用かい?」
 ジョアンヌはラバールを睨みつけると、ぶっきら棒に尋ねた。
「いえね。ジョアンヌさんがこちらで雇われるまで、どういった経歴をお持ちなのか知りたくて」
「軍に居たよ」
「確か、ずっと最前線にいたとか?」
「そうさ」
「それで、戦争が終わってから、この街に来て、すぐにこの屋敷で働くことになったんですか?」
「すぐじゃあないよ。この街に来てから二か月ぐらいは仕事探しをしていたよ」
「お住まいは?」
「最初は安ホテルにいたけど、しばらくすると金が無くなったので、仕事の紹介所の前で野宿していたね」
「なるほど。軍に入る前は、何を?」
「賞金稼ぎとか、いろいろだ」
「剣は、いつからやってたんですか?」
「十歳ぐらいの時からずっと叔父に教えられた。彼も剣の達人だったんだよ。それで、十六か十七ぐらいで叔父の腕前を抜いたよ。この剣の腕で、危険な仕事なんかもやった。戦争が始まった後、私たちみたいなものにも召集がかかったというわけ」
 戦争は始まってしばらくして、正規軍と義勇兵だけでは人員が足りなくなり、軍は広く召集を掛けていたのは、広く知られている。
「その叔父さんは、今どうされてますか?」
「何年か前に死んだよ。病死だね」
「それはお気の毒に。他にご家族は?」
「両親も子供の頃に死んでしまったよ。だから、叔父のところに預けられたんだ。両親の事は小さかったから、ほとんど覚えていない」
「なるほど、そうでしたか。ところで、ザーバーランドには、お知り合いはいますか?」
「いないね。知らない奴なら、たくさん斬ったけどね」
「最前線の様子は伝わって来てませんので教えてほしいのですが、ザーバーランドは魔術が発達しているので、かなり苦戦したのでは?」
「いや、私の知る限りは、魔術による攻撃は少なかったね。聞いた話だと、開戦当初は敵が火力の高い魔術を使って、こちらの被害が大きかったんだが、ある時期からそういった魔術の攻撃は減ったそうだよ」
「それは何故?」
「知らないなあ」
「そうですか。ジョアンヌさんは魔術は使えないのですね?」
「ああ、使えない」
「なるほど……、良くわかりました。ありがとうございました」
 ラバールは手を上げて、礼を言った。
 ジョアンヌは部屋を去り、すぐにフンツェルマンが現れた。
「あー。メイドとボディーガードにお話が聞けました。ありがとうございました」
「なにか参考になることはありましたか?」
「ええ、まあ」と、ラバールは言いながら立ち上がった。「では、私も一旦署のほうに戻りたいと思います」
「わかりました」
 フンツェルマンはラバールを玄関ホールまで見送る。
 ラバールは挨拶をしてアレオン家の屋敷を後にした。

 屋敷の前からラバールは馬車に乗り署へ向かい移動する。その途中、署の近くで新聞の売り子を見掛けた。
「ねえ、一部もらえる?」
 彼は馬車の窓を開けて売り子に声を掛け、金と引き換えに新聞を手にする。
 ラバールは馬車の中で新聞の目立つ見出しを眺めた。さほど大きくないが、エレーヌ・アレオンが襲撃されるも一命をとりとめた、という内容の記事を見つけた。この記事は、バルバストルの指示で情報をリークし新聞に書かせたものだ。
 本当はエレーヌは一度死亡し、犯人をおびき寄せるために蘇生魔術で復活したということ知っているのはごくわずかだ。記事が出る前にエレーヌが二度目の襲撃を受けたということは、やはりアレオン家の屋敷に居る者が怪しいということになるのだろうか?
 しかし、今のところ誰にもザーバーランドとの繋がりのあるとは、感じることができなかった。
 あとは、まだ調べられていないのはエレーヌの婚約者であるジャン=ポール・マルセルだけだが、彼は今、この街にはいない。
 犯人の遺体のそばにあった転移魔術に使う板以外に、手掛かりが全く見つからない。どうしたものかと、ラバールは再び頭を悩ませた。

 ラバールが署の自分の机に戻ると、机の上に数枚の紙が置かれていた。それを取り上げて中を見ると、ジョアンヌの軍での経歴が載っていた。
 それを、ざっと読むがやはり不審なところは無いようだ。敵の捕虜になったことがあるようであれば、何らかの繋がりが出来ているかもしれないと考えたが、そういうことも無さそうだ。
「ねえ」
 ラバールは資料を手に掲げて立ち上がり、近くに居た部下のティエールに声を掛けた。ティエールはラバールの部下の中で一番若い。
「このジョアンヌの資料、手に入れるの早かったね。朝に頼んだのに、まだ夕方になってないよ」
 ティエールは座って何やら作業をしていたが、振り返って答えた。
「それは、軍ではなく、職業紹介所からもらいました。そちらの方が早いと思いまして。案の定、彼女の登録情報があったので、すぐ出てきました」
「ああ、そうなんだね。君、仕事できるねえ」
「ありがとうございます」
 ティエールは褒められて照れているようだった。
「もう一つお願いしたいんだけど」。ラバールは手の資料を机に置いて言った。「ジャン=ポール・マルセルを調べたいんだけど、今彼は国境の街に居るんだよ。何かいい方法無いかな?」
「彼がそこに居るのは政府の仕事で、ですよね?」
「そう。外交交渉団の一人だそうだ」
「現地の警察にお願いする、とか?」
「やっぱり、それしかないよね」
「あとは、警部自身が行くとか」
「他にも事件が溜まっているから、できれば行かずに済ませたいんだがねえ」
 ラバールはため息をついて、椅子に座り込んだ。
 さて、どうしたものか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...