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第22話
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夜、夕食も終わった頃にバルバストルがアレオン家の屋敷にやって来た。
それをフンツェルマンが玄関ホールまで出迎える。この時間の玄関ホールはランプの明かりと月明かりで照らされていた。バルバストルは、フンツェルマンの姿を見ると簡単に挨拶し、早速話を切り出した。
「昨日のエレーヌ様の魂を元に戻せるかという話ですが」
「いかがでしたか?」
フンツェルマンは期待を込めて尋ねた。
「残念ながら、軍のほうではそう言った魔術の研究はしてないそうです」
「そうでしたか」
フンツェルマンは肩を落とした。バルバストルは続ける。
「軍では敵を攻撃したり、敵の攻撃を防いだりする魔術を主に研究されているので、魂の入れ替えの魔術というのは必要ではないのでしょう」
「確かにそうかもしませんね。そうなると、ザーバーランドの魔術塔の魔術師が望みですね」
「しかし、現状、あの国に入るのは難しいです。せめて、終戦の交渉が終わるまでは待つ必要があると思います」
「交渉は、どれぐらいかかりそうなのでしょうか?」
「聞いた限りですと、かなり長引きそうな状況です。いつ終わるかの見通しは立っていません」
その言葉を聞いて、フンツェルマンは無言で何かを考える様にしばらくの間、うつむいていた。
「あと、警備の件ですが」。バルバストルは話題を変える。「襲撃が例の転送魔術を使って行われるということになれば、庭の警備は不要と考えます。ですので、屋敷内のみの警備とします。ただし、屋敷内に“板”が無いか、毎日チェックします」
「わかりました」
「あとは、エレーヌ様も屋敷内であれば自由にしてもらっても良いかと思います」
会話が終わるとバルバストルは屋敷奥へ向かい、警備をしている保安局員二人に何か伝えた後、庭へ赴き、そこで警備していた局員に撤収を指示した。そして、バルバストル自身も今日のところは撤収をしたようだった。
玄関ホールでフンツェルマンとバルバストルが会話をしていたのを、ニコルが立ち聞きをしていたようだ。二人の会話が終わった後、ニコルはネグリジェ姿のままフンツェルマンにそばに歩み寄って話しかけた。
「フンツェルマン、魂を元に戻すとかいう魔術の話をしていましたね」
「はい、エレーヌ様をもとに戻す魔術が無いか、大司教様とバルバストル氏に調べてもらっていたのです。しかしながら、国内ではそのような魔術は無く、ザーバーランドであれば可能性があるのでは、ということでした」
「本当ですか?」
ニコルは思わず声を上げたが、フンツェルマンはニコルをなだめる様に静かに答える。
「しかしながら、ザーバーランドに入国するのは今は無理なのです。少なくとも先方との終戦の交渉が終わるまでは難しいと」
「そうなのですね」
ニコルは残念そうに答えた。そして、少し考えた後に再び尋ねた。
「そう言えば、ジャン=ポール様が交渉団におられると思います。あの方にお願いして何とかならないでしょうか?」
「さすがに無理なのではないでしょうか」
その言葉を聞いてニコルは再び残念そうにうつむくと、階段を二階に上がり自分の部屋に戻って行った。
フンツェルマンは一階の奥へ進み、エレーヌの部屋のある廊下で見張りをしているジョアンヌと保安局員の様子を確認した後、エレーヌの部屋に入るため扉をノックした。中から返事があったので、フンツェルマンは扉を開け、部屋の中に入る。
部屋の中は小さな窓からの月明かりが差し込んでいる。エレーヌはベッドに腰かけて、先日渡した本を読んでいた。
フンツェルマンが入室すると、エレーヌは本を読むのを止め、彼に顔を向けた。フンツェルマンは一歩歩み寄って用件を伝える。
「エレーヌ様。明日より部屋から出て、屋敷内であれば自由に移動してもらっても構わないことになりました。元々使っていた広い部屋に戻っていただいても構いません。部屋も綺麗に掃除してあります」
「そうか。閉じ込められて、少々退屈していたところだ。本当は、外にも行ってい見たいと思っているのだが」
「屋敷の外へは、まだ出ないでください」
「わかった」
フンツェルマンはベッド脇の机に歩み寄って、夕食の皿が数枚載っていたトレイを持ち上げる。エレーヌは出されたものは、ほとんど残さず食べている。食事にはだいぶ慣れたようだ。
フンツェルマンはエレーヌの手元の本を見て尋ねた
「本の内容はわかりますか?」
「知らない単語が多くて、わからないところがたくさんあるな」
「そうですか。どういったところがわからないですか?」
「魔術というのが、よくわからない。ワシの世界では全くないものだ」
「魔術と言えば…」
と、言いかけてフンツェルマンは言葉を止めた。魂をもとに戻す魔術の話をしようとしたのだが、今、エレーヌの中に老人らしき魂が、エレーヌにもとの本人に魂を戻すことの支障になるかもしれないと考えた。
エレーヌがもとに戻った時、この老人の魂は元の老人自身の身体に戻るのであろうか? それとも消え去るのか?
「いえ、何でもありません」。フンツェルマンは誤魔化すように話題を変える。「ところで、あなたのもと居た世界では、どのような生活を送っていたのですか?」
「自分の剣技を伝えるために、ずっと旅をしていた。その後は、もう歳なので、静かに暮らしていたのだが」
先日、ジョアンヌがエレーヌの事を“手練れ”と言っていたが、本当に剣の使い手ということなのだろうか。
「あのジョアンヌという女子《おなご》だが、良い腕をしている」
「そうでしょう、戦場で一人で二十人を斬ったことがあるそうです」
「それは、中々だな」
「では、もう遅いので、そろそろ失礼します」
フンツェルマンは頭を下げて、部屋を後にした。
それをフンツェルマンが玄関ホールまで出迎える。この時間の玄関ホールはランプの明かりと月明かりで照らされていた。バルバストルは、フンツェルマンの姿を見ると簡単に挨拶し、早速話を切り出した。
「昨日のエレーヌ様の魂を元に戻せるかという話ですが」
「いかがでしたか?」
フンツェルマンは期待を込めて尋ねた。
「残念ながら、軍のほうではそう言った魔術の研究はしてないそうです」
「そうでしたか」
フンツェルマンは肩を落とした。バルバストルは続ける。
「軍では敵を攻撃したり、敵の攻撃を防いだりする魔術を主に研究されているので、魂の入れ替えの魔術というのは必要ではないのでしょう」
「確かにそうかもしませんね。そうなると、ザーバーランドの魔術塔の魔術師が望みですね」
「しかし、現状、あの国に入るのは難しいです。せめて、終戦の交渉が終わるまでは待つ必要があると思います」
「交渉は、どれぐらいかかりそうなのでしょうか?」
「聞いた限りですと、かなり長引きそうな状況です。いつ終わるかの見通しは立っていません」
その言葉を聞いて、フンツェルマンは無言で何かを考える様にしばらくの間、うつむいていた。
「あと、警備の件ですが」。バルバストルは話題を変える。「襲撃が例の転送魔術を使って行われるということになれば、庭の警備は不要と考えます。ですので、屋敷内のみの警備とします。ただし、屋敷内に“板”が無いか、毎日チェックします」
「わかりました」
「あとは、エレーヌ様も屋敷内であれば自由にしてもらっても良いかと思います」
会話が終わるとバルバストルは屋敷奥へ向かい、警備をしている保安局員二人に何か伝えた後、庭へ赴き、そこで警備していた局員に撤収を指示した。そして、バルバストル自身も今日のところは撤収をしたようだった。
玄関ホールでフンツェルマンとバルバストルが会話をしていたのを、ニコルが立ち聞きをしていたようだ。二人の会話が終わった後、ニコルはネグリジェ姿のままフンツェルマンにそばに歩み寄って話しかけた。
「フンツェルマン、魂を元に戻すとかいう魔術の話をしていましたね」
「はい、エレーヌ様をもとに戻す魔術が無いか、大司教様とバルバストル氏に調べてもらっていたのです。しかしながら、国内ではそのような魔術は無く、ザーバーランドであれば可能性があるのでは、ということでした」
「本当ですか?」
ニコルは思わず声を上げたが、フンツェルマンはニコルをなだめる様に静かに答える。
「しかしながら、ザーバーランドに入国するのは今は無理なのです。少なくとも先方との終戦の交渉が終わるまでは難しいと」
「そうなのですね」
ニコルは残念そうに答えた。そして、少し考えた後に再び尋ねた。
「そう言えば、ジャン=ポール様が交渉団におられると思います。あの方にお願いして何とかならないでしょうか?」
「さすがに無理なのではないでしょうか」
その言葉を聞いてニコルは再び残念そうにうつむくと、階段を二階に上がり自分の部屋に戻って行った。
フンツェルマンは一階の奥へ進み、エレーヌの部屋のある廊下で見張りをしているジョアンヌと保安局員の様子を確認した後、エレーヌの部屋に入るため扉をノックした。中から返事があったので、フンツェルマンは扉を開け、部屋の中に入る。
部屋の中は小さな窓からの月明かりが差し込んでいる。エレーヌはベッドに腰かけて、先日渡した本を読んでいた。
フンツェルマンが入室すると、エレーヌは本を読むのを止め、彼に顔を向けた。フンツェルマンは一歩歩み寄って用件を伝える。
「エレーヌ様。明日より部屋から出て、屋敷内であれば自由に移動してもらっても構わないことになりました。元々使っていた広い部屋に戻っていただいても構いません。部屋も綺麗に掃除してあります」
「そうか。閉じ込められて、少々退屈していたところだ。本当は、外にも行ってい見たいと思っているのだが」
「屋敷の外へは、まだ出ないでください」
「わかった」
フンツェルマンはベッド脇の机に歩み寄って、夕食の皿が数枚載っていたトレイを持ち上げる。エレーヌは出されたものは、ほとんど残さず食べている。食事にはだいぶ慣れたようだ。
フンツェルマンはエレーヌの手元の本を見て尋ねた
「本の内容はわかりますか?」
「知らない単語が多くて、わからないところがたくさんあるな」
「そうですか。どういったところがわからないですか?」
「魔術というのが、よくわからない。ワシの世界では全くないものだ」
「魔術と言えば…」
と、言いかけてフンツェルマンは言葉を止めた。魂をもとに戻す魔術の話をしようとしたのだが、今、エレーヌの中に老人らしき魂が、エレーヌにもとの本人に魂を戻すことの支障になるかもしれないと考えた。
エレーヌがもとに戻った時、この老人の魂は元の老人自身の身体に戻るのであろうか? それとも消え去るのか?
「いえ、何でもありません」。フンツェルマンは誤魔化すように話題を変える。「ところで、あなたのもと居た世界では、どのような生活を送っていたのですか?」
「自分の剣技を伝えるために、ずっと旅をしていた。その後は、もう歳なので、静かに暮らしていたのだが」
先日、ジョアンヌがエレーヌの事を“手練れ”と言っていたが、本当に剣の使い手ということなのだろうか。
「あのジョアンヌという女子《おなご》だが、良い腕をしている」
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