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謎めいた指令
“霧の魔女” エリザベータ・スミルノワ
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大陸歴1658年3月22日・帝国首都アリーグラード郊外
本日も模擬戦が開催される。
今回はボリス・ルツコイ率いる第五旅団とエリザベータ・スミルノワ率いる第一旅団の戦いだ。
スミルノワは、以前会ったことのある退役軍人のミハイル・イワノフの元部下で大変な戦略家と聞いている。ルツコイでも苦戦するのではないだろうか。
今回もルツコイは一昨日同じ小高い丘の上に部隊を整列させた。
一方のスミルノワはやはりイェプツシェンコが展開した平原に展開していた。旅団が六、七つに別れて雑然と整列している。見た限り陣形と呼べるようなものではなかった。何か考えがあるのだろうか。
私はルツコイのそばで他の士官たちと並んで馬上で待機していた。
模擬戦開始の狼煙が上がる。
それと同時にスミルノワの旅団のあたりから霧が立ち込めてきた。
「彼女が“霧の魔女”と呼ばれている理由があれだ」。
それを見たルツコイは、霧のほうを指さし言った。
「水躁魔術による霧だ。目くらましなのだが、あの霧の中で陣形を整えるのだ。戦闘が始まる直前まで陣形など出方がわからず、下手をすると不意を食らう」。
我々は、しばらく様子を眺めていた。霧が徐々に近づいて来る。その中の様子はうかがい知ることができない。
かなり霧が近づいてきたと感じた時、騎兵部隊が突然、霧の中から突進してきた。しかし、その総数は霧の中でうかがい知ることができない。
ルツコイは落ち着いて重装騎士団に攻撃命令を発した。馬を進め丘を下る。
今回も丘の中腹辺りで衝突した。しばらく小競り合いがつついたと思うと、スミルノワの騎兵が霧の中へ退却を始めた。そして、ルツコイは残りの騎兵と歩兵に突撃を命令した。我々もそれに合わせて突撃を開始した。
霧が徐々に晴れてきた。接近してきていたと思われたスミルノワの旅団はかなり遠くで陣形を整えていた。最初に突撃してきた騎兵は囮だ。
スミルノワの旅団の陣形は歩兵が中央に厚く、騎兵が両脇に控えた陣形だ。
ルツコイの重装騎士団は、丘を下る勢いを抑えることができず、そのまま突撃を続ける。
両翼に控えていた騎兵が動き出した。ルツコイたちを両側から挟み撃ちにするようだ。中央に布陣する歩兵は重装騎士団に向かう。三方から取り囲まれれば重装騎士団と言えども苦戦するだろう。
しかし、すぐにルツコイの旅団の騎兵が追いついた。私とオットー、プロブストの馬も追い付いき右側の騎兵部隊に襲い掛かる。
しばらく戦いが続いたあと、ルツコイの旅団の歩兵と遊撃部隊が追いついた。そうなると戦いは膠着状態となった。
私は旅団長のスミルノワの姿を探した。彼女もおそらく騎兵部隊の中に居るだろう。しかし、両側に別れている騎兵のこちら側か、それとも反対側か。スミルノワを討ち取ればてっとり早く勝敗が決まる。
ルツコイは、戦闘の中心で何とか戦い抜いているようだ。私は馬を混戦の中から、敵を倒しながら何とか移動し、スミルノワを探す。そして、ついに戦闘から少し離れたところで待機するスミルノワを発見した。二十名程度の護衛を従えている。討ち取られる可能性を低くするため直接戦闘には参加していない。
私はそれを見つけ、オットーとプロブストに大声で叫んだ。
「私に続け!こっちだ!」
スミルノワの方へ馬を進めた。それにオットーとプロブストに続く。
スミルノワと護衛達は、すぐに我々三人に気が付いた。護衛達が模造剣を抜いて待ち構える。
三対二十。
私は衛兵を一人二人と倒していく。さほど手強い相手でではないが、取り囲まれない様に、回り込みながら相手を倒す。
プロブストは数名倒したところで逆に打ち取られた。
オットーはスミルノワの護衛を自分の方へ引き付けて、スミルノワから離していく。
一方、私は護衛を次々に倒しスミルノワに迫る。そして、私はスミルノワに模造剣を突き付けた。
スミルノワはここで降伏した。
戦いの後、ルツコイの指令室のテントで話をした。
「スミルノワの護衛二十人をたった三人で倒したそうじゃないか」。
彼は私の成果に驚いたようだったが、称賛してくれた。
「運よく、遊撃部隊が突撃した騎兵部隊のそばにスミルノワ旅団長がおりましたので、上手くやれました。もし反対側の騎兵部隊の中にいたら全く無理でしたでしょう」。
「そうなったら戦闘は膠着状態で結果はどうなったかわからなかったな。それにしても、今日の働きはさすがだった」。
「ありがとうございます」。
「さすが“英雄”だな」。
「茶化すのは、やめてください」。
ルツコイのお世辞に、それでも私は笑顔になってしまった。
そして、敬礼して彼のテントを去った。
本日も模擬戦が開催される。
今回はボリス・ルツコイ率いる第五旅団とエリザベータ・スミルノワ率いる第一旅団の戦いだ。
スミルノワは、以前会ったことのある退役軍人のミハイル・イワノフの元部下で大変な戦略家と聞いている。ルツコイでも苦戦するのではないだろうか。
今回もルツコイは一昨日同じ小高い丘の上に部隊を整列させた。
一方のスミルノワはやはりイェプツシェンコが展開した平原に展開していた。旅団が六、七つに別れて雑然と整列している。見た限り陣形と呼べるようなものではなかった。何か考えがあるのだろうか。
私はルツコイのそばで他の士官たちと並んで馬上で待機していた。
模擬戦開始の狼煙が上がる。
それと同時にスミルノワの旅団のあたりから霧が立ち込めてきた。
「彼女が“霧の魔女”と呼ばれている理由があれだ」。
それを見たルツコイは、霧のほうを指さし言った。
「水躁魔術による霧だ。目くらましなのだが、あの霧の中で陣形を整えるのだ。戦闘が始まる直前まで陣形など出方がわからず、下手をすると不意を食らう」。
我々は、しばらく様子を眺めていた。霧が徐々に近づいて来る。その中の様子はうかがい知ることができない。
かなり霧が近づいてきたと感じた時、騎兵部隊が突然、霧の中から突進してきた。しかし、その総数は霧の中でうかがい知ることができない。
ルツコイは落ち着いて重装騎士団に攻撃命令を発した。馬を進め丘を下る。
今回も丘の中腹辺りで衝突した。しばらく小競り合いがつついたと思うと、スミルノワの騎兵が霧の中へ退却を始めた。そして、ルツコイは残りの騎兵と歩兵に突撃を命令した。我々もそれに合わせて突撃を開始した。
霧が徐々に晴れてきた。接近してきていたと思われたスミルノワの旅団はかなり遠くで陣形を整えていた。最初に突撃してきた騎兵は囮だ。
スミルノワの旅団の陣形は歩兵が中央に厚く、騎兵が両脇に控えた陣形だ。
ルツコイの重装騎士団は、丘を下る勢いを抑えることができず、そのまま突撃を続ける。
両翼に控えていた騎兵が動き出した。ルツコイたちを両側から挟み撃ちにするようだ。中央に布陣する歩兵は重装騎士団に向かう。三方から取り囲まれれば重装騎士団と言えども苦戦するだろう。
しかし、すぐにルツコイの旅団の騎兵が追いついた。私とオットー、プロブストの馬も追い付いき右側の騎兵部隊に襲い掛かる。
しばらく戦いが続いたあと、ルツコイの旅団の歩兵と遊撃部隊が追いついた。そうなると戦いは膠着状態となった。
私は旅団長のスミルノワの姿を探した。彼女もおそらく騎兵部隊の中に居るだろう。しかし、両側に別れている騎兵のこちら側か、それとも反対側か。スミルノワを討ち取ればてっとり早く勝敗が決まる。
ルツコイは、戦闘の中心で何とか戦い抜いているようだ。私は馬を混戦の中から、敵を倒しながら何とか移動し、スミルノワを探す。そして、ついに戦闘から少し離れたところで待機するスミルノワを発見した。二十名程度の護衛を従えている。討ち取られる可能性を低くするため直接戦闘には参加していない。
私はそれを見つけ、オットーとプロブストに大声で叫んだ。
「私に続け!こっちだ!」
スミルノワの方へ馬を進めた。それにオットーとプロブストに続く。
スミルノワと護衛達は、すぐに我々三人に気が付いた。護衛達が模造剣を抜いて待ち構える。
三対二十。
私は衛兵を一人二人と倒していく。さほど手強い相手でではないが、取り囲まれない様に、回り込みながら相手を倒す。
プロブストは数名倒したところで逆に打ち取られた。
オットーはスミルノワの護衛を自分の方へ引き付けて、スミルノワから離していく。
一方、私は護衛を次々に倒しスミルノワに迫る。そして、私はスミルノワに模造剣を突き付けた。
スミルノワはここで降伏した。
戦いの後、ルツコイの指令室のテントで話をした。
「スミルノワの護衛二十人をたった三人で倒したそうじゃないか」。
彼は私の成果に驚いたようだったが、称賛してくれた。
「運よく、遊撃部隊が突撃した騎兵部隊のそばにスミルノワ旅団長がおりましたので、上手くやれました。もし反対側の騎兵部隊の中にいたら全く無理でしたでしょう」。
「そうなったら戦闘は膠着状態で結果はどうなったかわからなかったな。それにしても、今日の働きはさすがだった」。
「ありがとうございます」。
「さすが“英雄”だな」。
「茶化すのは、やめてください」。
ルツコイのお世辞に、それでも私は笑顔になってしまった。
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