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ソローキン反乱

退却

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 大陸歴1658年3月24日 テレ・ダ・ズール公国領土内

 帝国軍が公国領土内を侵攻して、一夜が明けた。
 早朝、朝靄があたりを覆っている。

 現在、ソローキンとキーシンの旅団が陣を展開しているのは、ベセルー川を少し進んだ丘の上だ。

 対する公国軍の陣地は、帝国軍の目と鼻の先に展開している。敵の本隊は、ここにほぼ集結していると聞いた。
 公国軍の陣のさらに後方、五日も進めばテレ・ダ・ズール公国の首都ソントルヴィレがある。途中には小さな村や街が多くあるが、城塞都市のようなところはないと聞いている。ソローキンは目の前の陣を突破して、首都まで侵攻してもよいだろうと考えていた。
 
 ソローキンは帝国軍に攻撃の準備を指示し、部隊を整列させた。
 そして、整然と並んだ部隊をゆっくり前に進めた。
 ベセルー川からの朝靄に隠されて、敵の陣地は全く見えない。しかし、相手からも、こちらの接近が見えていなはずだ。これで、弓矢の攻撃の開始が遅れるだろう。
 ソローキンは、全軍の正面で声を上げた。
「これから、敵の本陣を攻撃する。作戦内容は昨夜伝えた通りだ」。
 ソローキンは剣を抜いた。
「突撃!」
 その掛け声に続いて、士官たちが号令を繰り返し、兵士達が鬨の声を上げ、突撃を開始した。
 朝靄の中、帝国軍の重装騎士団と騎兵は一気に平原を駆け抜け、公国軍の陣地の柵に到達した。
 柵に縄を掛け後ろに引き倒す。
 ここまで公国軍の抵抗が全くない。ソローキンは何かおかしいと感じた。
 柵を引き倒し、帝国軍が陣地の中に殺到する。
 中の様子を見てそこにいる誰もが驚いた。
 テントなどはそのままにされてはいるが、陣地が蛻の殻となっており、誰もいない。

 ソローキンは馬を降り、近くのテントの中を調べた。中は綺麗に何もなくなっている。あわてて去った様子はない。そうすると、昨夜の早めに去ったようだ。これでは、公国軍はかなり先まで行ってしまっただろう。
 ソローキンは悪態をつき、テントを出た。
「追撃するぞ!」

 帝国軍は進軍する。ソローキンは馬にまたがり、重装騎士団と騎兵を率いて馬を走らせた。
 一時間もすると朝靄が晴れてきた。空は久しぶりに青く輝いていた。
 しかし、草原の向こう地平線まで公国軍は見えない。もうこれ以上、軍を進めるのは無駄だろう。重装騎士団と騎兵に追撃を止めさせた。そして、歩兵が追いつくのを待って、隊列を整えることにした。

 現状では、公国軍がどこまで後退したのかわからない。しかし、ソローキンは首都まででも軍を進めると決めていた。
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