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ソローキン反乱
隠された策謀
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大陸歴1658年4月14日・帝国首都アリーグラード
我々は数日後の夜、首都アリーグラードに到着した。
国境線で、我々遊撃部隊と一緒に待機していたボリス・ルツコイ、エリザベータ・スミルノワ、ミハイル・イェブツシェンコの各旅団も首都郊外に野営地を設置している。
アレクサンドル・ペシェハノフの旅団は、そのまま北部の都市ブリプレジヌイに留まっているが、旅団長と少数の上級士官のみが首都に来ている。
ソローキンの旅団に所属していた兵士達の生き残り約二千は一旦ブリプレジヌイに留められ、一時的にペシェハノフの指揮下に置かれている。今後、各旅団の再編成があるという話もあるようだが、詳細については耳に入っていない。
少々遅い時間であったが、私とルツコイ、スミルノワ、イェプツシェンコ、ペシェハノフの各旅団長と私の五名が皇帝に呼び出された。我々は謁見の間に集まっていた。続いて、内閣の各大臣も集まってきた。
最初、皇帝はまだ来ていなかったが、しばらく待たされた後、皇帝イリアと親衛隊隊長ヴァシリーサ・アクーニナが入室した。
そして、もう一人、意外な人物がその後について入ってきた。
髪と口髭は白いが、背が高くがっしりとした体格の初老の人物。
以前、私が会ったことのある、退役軍人で元第一旅団長のミハイル・イワノフだ。
イワノフがこの場に現れたことに皆が驚いたようだった。
皇帝は玉座に座り、左右にヴァーシャ、イワノフが立つ。
私と旅団長、大臣たちは、跪いた。
それを見て、皇帝が口を開いた。
「士官の皆さん、今回の作戦遂行、ご苦労でした。今回の作戦の目的についてはずっと秘密にしてきました」。
皇帝はゆっくりと各旅団長と私の顔を見まわし、話を続けた。
「その目的は、ソローキンとキーシンの排除にありました」。
謁見の間にどよめきが起こった。
「今回の作戦を立案したのは、このイワノフです。私が、この国の権力を実質的に握っていたソローキンとキーシンの排除をしたいとアクーニナに相談したところ、彼女がイワノフのことを思い出しました。イワノフは退役していましたが、少々無理を言って今回の作戦立案をお願いしました」。
皇帝はイワノフに目配せした。イワノフは皇帝の話を引き継いだ。
「皆さん、説明するまでもないでしょうが、私は二年前まで第一旅団長をやっていたミハイル・イワノフです。今回はテレ・ダ・ズール公国やヴィット王国とも連絡を取り合い作戦を立案しました」。
テレ・ダ・ズール公国だけでなく、ヴィット王国とも連携していたのか。私だけでなく、そこにいる誰もが驚いたようだった。
「この作戦の目的は、先ほど陛下のおっしゃった通り、ソローキンとキーシンの排除でした。当初、目的を秘密にしておりましたが、皆が疑問を持たず命令に従ってくれたので、無事に作戦が遂行されました。まずは、お礼を申し上げます」。
イワノフは頭を下げた後、言葉を続ける。
「今回の作戦では、まず、ソローキンとキーシンを首都から引き離す必要があると考えました。しかし、それには外国からの侵略などの事態がないと難しい。そこで、公国との連携を考え付き、外務大臣のブリェーバイの尽力で、公国にこの作戦に協力してもらうことを取り付けました。まず、公国に依頼し、公国軍に国境沿いまで進軍してもらいました。それに対応するようにソローキンとキーシンの旅団を国境沿いへ派遣しました。当初の作戦では、国境付近で公国軍とソローキンとキーシン以外の残りの旅団で挟撃する予定でした。ソローキンとキーシン達が先に越境する可能性は想定しておりましたが、公国の首都まで進軍し、彼らが思いのほか善戦したことは想定外でした。念のためヴィット王国からも魔術師を派遣する依頼をしておいたことが功を奏しました。彼らが公国首都の防衛で力を発揮してくれました」。
ヴィット王国の魔術師は強力だ。一人で数百から数千の兵に匹敵するだろう。しかし、平和を好むと聞く彼らが良くこの作戦に協力したものだと、私は思った。
「結果的に被害は大きくなってしまいましたが、当初の目的は達成できました。ソローキンとキーシンは軍だけでなく国の実権も実質的に掌握していました。これはチューリンと同様、排除しなければいけない帝国の癌でした。皆さんに作戦の詳細を伝えなかったのは、万一の情報漏えいを防ぐためです。とは言え、兵士の中には仲間同士で討ち合うということになれば動揺も広がる可能性もありました。最後に、隊員のほとんどが共和国出身であった遊撃部隊にソローキンを討ち取らせたのは、それが理由です。手負いの部隊とは言え、数の上では十倍近い差のあったにも関わらず、遊撃隊を率いて果敢に戦ってくれたクリーガー隊長の働きにも感謝します」。
イワノフは、再び頭を下げた。
次に皇帝が口を開いた。
「今回の戦いでキーシンが公国の捕虜になっています。また帝国軍兵士の捕虜も数千いますが、すぐに解放され帰国する予定です。キーシンは命令違反の廉で軍法会議で裁きます。また、公国に多大な被害を与えてしまいましたが、この補償については当然帝国が負担することになります。おそらく数年にわたって賠償をしていくことになるでしょう。最初からそういう約束でこの作戦に参加してもらいました。また、帝国とテレ・ダ・ズール公国とヴィット王国は、それぞれ不可侵条約を結ぶことになります。これで大陸の四分の一を超える地域で戦争の脅威がなくなることになります」。
皇帝は一息ついてから、再び話を始めた。
「これは帝国の二百四十五年の歴史、ひいては大陸の歴史にとっても画期的なことだ」。
確かに、画期的なことかもしれないが、今回の作戦で、ソローキンとキーシンの旅団二万四千の兵士の内、半数以上の死者が出ている。
公国でも一万近い犠牲者が出たと聞く。公国はそういった被害が出るのを覚悟したうえで、この作戦に参加したのだろうか。犠牲者の拡大は想定外とはいえ、やむを得ないと考えているのか。
私は色々なことに違和感を覚えていた。
そして、平和的なヴィット王国の魔術師も参加してきたとは意外だった。不可侵条約があってこその参加だったのだろうか
皇帝の話が終わり、皇帝とイワノフが退出する。それを見送った後、謁見の間にいた全員が退出を始めた。
後に不可侵条約の詳細を文章で見ることができた。私はその内容を吟味してみた。
その中で、各国の軍事力を削減することが条件となっていた。帝国軍は今回の作戦で犠牲者多数が出たが、全軍でまだ五万近い兵力がある。それを五年以内に三万五千にまで削減することが条件だという。
今、帝国は旧共和国の統治に人員を割かれている。そのために帝国の北で国境を接する公国と不可侵条約を締結すれば、人員を統治に向けられるということか。いやそれでも、人員は足らないのではないか。現状、ズーデハーフェンシュタットなどの旧共和国の三つの大都市にはそれぞれ八千人程度の駐留軍が割り当てられている。合計で二万四千だ。この条約を履行するとなると帝国軍の三分の二以上が旧共和国地域に駐留することになる。
我々は数日後の夜、首都アリーグラードに到着した。
国境線で、我々遊撃部隊と一緒に待機していたボリス・ルツコイ、エリザベータ・スミルノワ、ミハイル・イェブツシェンコの各旅団も首都郊外に野営地を設置している。
アレクサンドル・ペシェハノフの旅団は、そのまま北部の都市ブリプレジヌイに留まっているが、旅団長と少数の上級士官のみが首都に来ている。
ソローキンの旅団に所属していた兵士達の生き残り約二千は一旦ブリプレジヌイに留められ、一時的にペシェハノフの指揮下に置かれている。今後、各旅団の再編成があるという話もあるようだが、詳細については耳に入っていない。
少々遅い時間であったが、私とルツコイ、スミルノワ、イェプツシェンコ、ペシェハノフの各旅団長と私の五名が皇帝に呼び出された。我々は謁見の間に集まっていた。続いて、内閣の各大臣も集まってきた。
最初、皇帝はまだ来ていなかったが、しばらく待たされた後、皇帝イリアと親衛隊隊長ヴァシリーサ・アクーニナが入室した。
そして、もう一人、意外な人物がその後について入ってきた。
髪と口髭は白いが、背が高くがっしりとした体格の初老の人物。
以前、私が会ったことのある、退役軍人で元第一旅団長のミハイル・イワノフだ。
イワノフがこの場に現れたことに皆が驚いたようだった。
皇帝は玉座に座り、左右にヴァーシャ、イワノフが立つ。
私と旅団長、大臣たちは、跪いた。
それを見て、皇帝が口を開いた。
「士官の皆さん、今回の作戦遂行、ご苦労でした。今回の作戦の目的についてはずっと秘密にしてきました」。
皇帝はゆっくりと各旅団長と私の顔を見まわし、話を続けた。
「その目的は、ソローキンとキーシンの排除にありました」。
謁見の間にどよめきが起こった。
「今回の作戦を立案したのは、このイワノフです。私が、この国の権力を実質的に握っていたソローキンとキーシンの排除をしたいとアクーニナに相談したところ、彼女がイワノフのことを思い出しました。イワノフは退役していましたが、少々無理を言って今回の作戦立案をお願いしました」。
皇帝はイワノフに目配せした。イワノフは皇帝の話を引き継いだ。
「皆さん、説明するまでもないでしょうが、私は二年前まで第一旅団長をやっていたミハイル・イワノフです。今回はテレ・ダ・ズール公国やヴィット王国とも連絡を取り合い作戦を立案しました」。
テレ・ダ・ズール公国だけでなく、ヴィット王国とも連携していたのか。私だけでなく、そこにいる誰もが驚いたようだった。
「この作戦の目的は、先ほど陛下のおっしゃった通り、ソローキンとキーシンの排除でした。当初、目的を秘密にしておりましたが、皆が疑問を持たず命令に従ってくれたので、無事に作戦が遂行されました。まずは、お礼を申し上げます」。
イワノフは頭を下げた後、言葉を続ける。
「今回の作戦では、まず、ソローキンとキーシンを首都から引き離す必要があると考えました。しかし、それには外国からの侵略などの事態がないと難しい。そこで、公国との連携を考え付き、外務大臣のブリェーバイの尽力で、公国にこの作戦に協力してもらうことを取り付けました。まず、公国に依頼し、公国軍に国境沿いまで進軍してもらいました。それに対応するようにソローキンとキーシンの旅団を国境沿いへ派遣しました。当初の作戦では、国境付近で公国軍とソローキンとキーシン以外の残りの旅団で挟撃する予定でした。ソローキンとキーシン達が先に越境する可能性は想定しておりましたが、公国の首都まで進軍し、彼らが思いのほか善戦したことは想定外でした。念のためヴィット王国からも魔術師を派遣する依頼をしておいたことが功を奏しました。彼らが公国首都の防衛で力を発揮してくれました」。
ヴィット王国の魔術師は強力だ。一人で数百から数千の兵に匹敵するだろう。しかし、平和を好むと聞く彼らが良くこの作戦に協力したものだと、私は思った。
「結果的に被害は大きくなってしまいましたが、当初の目的は達成できました。ソローキンとキーシンは軍だけでなく国の実権も実質的に掌握していました。これはチューリンと同様、排除しなければいけない帝国の癌でした。皆さんに作戦の詳細を伝えなかったのは、万一の情報漏えいを防ぐためです。とは言え、兵士の中には仲間同士で討ち合うということになれば動揺も広がる可能性もありました。最後に、隊員のほとんどが共和国出身であった遊撃部隊にソローキンを討ち取らせたのは、それが理由です。手負いの部隊とは言え、数の上では十倍近い差のあったにも関わらず、遊撃隊を率いて果敢に戦ってくれたクリーガー隊長の働きにも感謝します」。
イワノフは、再び頭を下げた。
次に皇帝が口を開いた。
「今回の戦いでキーシンが公国の捕虜になっています。また帝国軍兵士の捕虜も数千いますが、すぐに解放され帰国する予定です。キーシンは命令違反の廉で軍法会議で裁きます。また、公国に多大な被害を与えてしまいましたが、この補償については当然帝国が負担することになります。おそらく数年にわたって賠償をしていくことになるでしょう。最初からそういう約束でこの作戦に参加してもらいました。また、帝国とテレ・ダ・ズール公国とヴィット王国は、それぞれ不可侵条約を結ぶことになります。これで大陸の四分の一を超える地域で戦争の脅威がなくなることになります」。
皇帝は一息ついてから、再び話を始めた。
「これは帝国の二百四十五年の歴史、ひいては大陸の歴史にとっても画期的なことだ」。
確かに、画期的なことかもしれないが、今回の作戦で、ソローキンとキーシンの旅団二万四千の兵士の内、半数以上の死者が出ている。
公国でも一万近い犠牲者が出たと聞く。公国はそういった被害が出るのを覚悟したうえで、この作戦に参加したのだろうか。犠牲者の拡大は想定外とはいえ、やむを得ないと考えているのか。
私は色々なことに違和感を覚えていた。
そして、平和的なヴィット王国の魔術師も参加してきたとは意外だった。不可侵条約があってこその参加だったのだろうか
皇帝の話が終わり、皇帝とイワノフが退出する。それを見送った後、謁見の間にいた全員が退出を始めた。
後に不可侵条約の詳細を文章で見ることができた。私はその内容を吟味してみた。
その中で、各国の軍事力を削減することが条件となっていた。帝国軍は今回の作戦で犠牲者多数が出たが、全軍でまだ五万近い兵力がある。それを五年以内に三万五千にまで削減することが条件だという。
今、帝国は旧共和国の統治に人員を割かれている。そのために帝国の北で国境を接する公国と不可侵条約を締結すれば、人員を統治に向けられるということか。いやそれでも、人員は足らないのではないか。現状、ズーデハーフェンシュタットなどの旧共和国の三つの大都市にはそれぞれ八千人程度の駐留軍が割り当てられている。合計で二万四千だ。この条約を履行するとなると帝国軍の三分の二以上が旧共和国地域に駐留することになる。
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