色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

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共和国再興

ヴァイテステン

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 時間は少し遡る。

 大陸歴1658年4月1日・旧共和国ヴァイテステン

 ヴァイテステンは旧共和国で最も南に位置する小さな街だ。街の付近は農業には適さない荒れ地が広がる。さらに街の南は不毛で巨大な砂漠が広がっている。その砂漠を超えると大陸の南端となり、そこにはアレナ王国が存在する。砂漠のせいで、ブラウグルン共和国とアレナ王国の間には、国境線は明確に決められていない。砂漠を超える陸路を使う者はほとんどおらず、ズーデハーフェンシュタットとアレナ王国の各都市とは海路を通じて交易をおこなっている。

 ヴァイテステンには、旧共和国軍で帝国に服従しなかった者や、反乱の疑いで捕らえられた旧共和国関係者が政治犯として約三百五十名が幽閉されているヴァイテステン収容所が存在する。この収容所は共和国が王制になる前に作られた古い収容所で、共和制になっても監獄として使われていた。帝国の支配下となってからも同様に利用されている。
 ヴァイテステンは、その収容所の看守や関係者のための街と言ってもよい。

 ダニエル・ホルツは仲間十七人と荒れ地の窪みに伏せ、望遠鏡で収容所の様子をうかがっていた。あたりはわずかばかりの草が生えるような場所で、時折、風が吹くと砂ぼこりが舞い上がり、視界を遮る。話をするため口を開けると、その砂が口の中にも、容赦なく入ってきた。ホルツは、あわてて布で口元を覆うように纏った。

 ホルツは、旧共和国軍の生き残りだ。帝国と旧共和国の国境であったズードヴァイフェル川の街道付近の国境警備隊に所属していた。“ブラウロット戦争”で帝国が侵略してきた際、国境警備隊は、帝国軍の圧倒的軍事力の前に潰走した。ホルツは、戦闘でやけどを負い、額には火傷の後が残っている。
 ホルツと他の隊員の生き残りの一部は、戦闘から逃げ延び、洞窟などにアジトを構えて三年にわたり潜伏。潜伏中は、付近にある帝国による支配を快く思っていない村から食料などの支援を受けたり、旅の途中の帝国の関係者を襲って武器を入手するなどして、反乱の機会をうかがっていた。

 二週間近くかけてアジトから遠く離れたヴァイテステンまでやって来たのは収容所の解放のためだ。ホルツは、一年ほど前から、旧共和国の各地において、反乱のための組織の編成を支援したり、各都市の反帝国の組織の連携のために尽力してきた。共和国内では、帝国の支配から独立しようと考える者が元軍人だけでなく、市民のかなりの部分がそう考えている。そのため、小規模ではあるが組織の編成はさほど難しくなかった。しかし、各都市は、帝国の監視下にあるので、その点にかなり注意を払っている。

 ホルツ達は、ユルゲン・クリーガーから帝国軍が公国の侵攻に備え、軍の多くが帝国北部に移動し、旧共和国領内の兵力がだいぶ減っているという情報を得た。さらに自らの目で実際に移動している帝国軍も見た。
 これをチャンスと見て、ホルツ達は反乱を実行に移すことにした。
 まず、ヴァイテステン収容所を襲い、囚われている旧共和国軍の士官や政治犯などを解放する。解放した士官たちを組織した後、北に進み山間の街ベルグブリッグへ向かう。

 ズーデハーフェンシュタットには、“帝国の英雄”と呼ばれているユルゲン・クリーガーがいる。彼は、元々は共和国軍の“深蒼の騎士”であった、心強い味方だ。今は帝国の北部の国境付近に居るらしいが、彼が率いる遊撃部隊が加われば、流れが大きく変わるだろう。遊撃部隊のほとんどが共和国出身者なので、ほぼ全員がこちらに加わるはずだ。また“英雄”が反乱を起こしたということが分かれば、帝国への心理的ダメージも大きいはずだ。

 ホルツは改めて望遠鏡を覗いた。
 望遠鏡のレンズの先には荒れ地に溶け込むような砂色の高い壁で囲われた収容所が見える。その収容所の壁は、空から見ると、ほぼ正六角形の形をしており、それぞれの頂点には見張り台が設置されている。そこには、それぞれ常に三、四名の看守がおり、壁の外側と内側を監視している。おそらく弓兵や魔術師が配置されているのだろう。

 夜になれば、街にいる仲間が二十名ばかり加わる。その後、作戦開始だ。
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