色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
46 / 75
共和国再興

クリーガーの策略

しおりを挟む
 大陸歴1658年4月17日・帝国首都アリーグラード~イスホードニーゴロドの中間地点

 まずは、小さな宿場町イスホードニーゴロドまで二日、そこからベルグブリッグまでは、南ポズナーノーチニク山脈を越えなければならない。ここを抜ける道はさほど険しくはないが、四日かかる予定だ。全行程で六日間となる。
 部隊は、首都に着いてから実質一日程度しか休息ができなかった。隊員の疲労は溜まっているだろう。できれば無理をしたくなかったが命令であれば仕方がない。

 この旅では、私は歩哨を部隊の前方と後方に出している。
 帝国領内で歩哨を出すことに、オットーが最初は疑問を呈したが、事情を話した。
 私が共和国派と通じていることが皇帝に知られているかもしれず、遊撃部隊が共和国派に付くことを疑っているかもしれない。
 イワノフは、ソローキンとキーシンの二名を排除するためだけに、予定外とは言え二万人の犠牲を出すような人物だ。もし彼が何か策略を巡らせているとしたら、油断できない。各旅団が元の駐留していた都市に向かったというのは、嘘なのかもしれないのだ。
 もし、三つの旅団の約九千人の兵士に取り囲まれたとしたら、我々二百人はあっという間に粉砕されてしまうだろう。
 用心に越したことはないと、私は考えていた。

 隊員達には、行先はベルグブリッグと言ってはあるが、そこで共和国派を討つことは伏せてあった。そのことを知っているのは、オットーとプロブストだけだ。しかし、この命令を実行するのに、私はまだ躊躇していた。

 オットーは、馬を近づけて話しかけて来た。
「師、どうするのですか? まさか、共和国派を討つ訳にはいかないでしょう」。
「そうだ。かといって、共和国派に付いて帝国軍と戦って勝てるとは思わない。聞いたところによると、共和国派は千人近くに膨れ上がっているそうだ。しかし、我々がそれに加わっても千二百人。共和国派は、これまでは小さな街だったから、その人数でも戦えた。しかし、大都市を掌握するには数が足りない。逆にもし、帝国軍の今日出発したという三つの旅団がベルグブリッグに向かっていたとしたら、その兵力の合計は九千人以上。もし、それと戦闘になったら、ひとたまりもない」。
 私は小さくため息をついた。
「帝国軍が公国軍の対応で北部の国境線に集結して、国内が手薄になったのを狙ったのだろう。ベルグブリッグで指揮を執っているのが誰かわからないが、事を早まったようだ」。
「で、どうされますか?」
「現地に着くまでに考える」。
「師…、私は共和国派に付きます」。
 オットーは、はっきりと言った。
「そうか」。
 私はそれ以上は答えなかった。おそらく、共和国出身である他の大部分の隊員隊達もそう言うだろう。
 私は難しい決断を迫られる。

 しばらく考えた後、オットーに改めて話しかけた。
「オットー、モルデンでの共和国派は、確か五百人近くは居ると聞いたが」。
「はい」。
「モルデンで共和派が反乱を起こしたとしたら、どうだろうか」。
「おそらく、鎮圧されると思います。これまでの暴動もそうと聞きました」。
「では、そこに我々が参加したとしたら?」
「合わせて七百人になります。現状は五千人近い駐留軍がいます。イェプツシェンコの三千が帰還すれば八千です。勝ち目はとてもありません」。
「まともに戦えば、そうだ」。
「もし、私が五千の駐留軍の司令官となったらどうだろう」。
「どういうことですか?」
「今、モルデンにいて指揮を執っているのは、副旅団長のブルガコフだ。皇帝からの指令で私が旅団長に任命されたとすれば、どうだろう」。
「でも、そんな指令はありませんよね?」
「皇帝の命令書を偽造する。私は何度も命令書を受け取っているから、その仕様などはよく分かっているから、真似て作るのは難しくない。その上、私が“チューリン事件”の報酬として、皇帝から旅団長の地位を打診されていたと言うことは、軍の中でほとんどの者に知れ渡っていることだ。今回、モルデンの第四旅団長に任命されたということになっても、さほど驚く事ではないはずだ。問題は、本物の旅団長のイェプツシェンコがモルデンに向かっているということだ。彼より先にモルデンに到着しなければ、この計画は実行できない。彼らは午前中に出発したと聞いている。通常の進軍速度だと、首都からモルデンまで四日。我々は出発が半日遅れているが、昼夜、馬を急がせれば一日先にモルデンに到着することが可能だろう」。
「なるほど」。オットーの表情が明るくなった。「ついにやるんですね」。
 私は続けた。
「私達二人でモルデンに急ごう。残りの隊員は後から到着しても大丈夫だが、できるだけ急ぐようにさせる。プロブストに指揮を任せよう」。

 私とオットーは馬を走らせた。遅れてプロブスト達もモルデンに向かうように命令を出した。
 しばらく部隊がベルグブリッグ方向に進んでいたため、街道の途中からモルデンに向かうには、荒れた草原を横断する必要があった。
 道なき道を進みヤチメゴロドの直前の街道に出て、未明にヤチメゴロドに到着した。
 通常の進軍の速さを考えると、イェプツシェンコの旅団がヤチメゴロドに到着するのは明日の午後のはず。すでに我々は彼らを追い抜いているはずだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...