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共和国再興
クリーガーの策略
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大陸歴1658年4月17日・帝国首都アリーグラード~イスホードニーゴロドの中間地点
まずは、小さな宿場町イスホードニーゴロドまで二日、そこからベルグブリッグまでは、南ポズナーノーチニク山脈を越えなければならない。ここを抜ける道はさほど険しくはないが、四日かかる予定だ。全行程で六日間となる。
部隊は、首都に着いてから実質一日程度しか休息ができなかった。隊員の疲労は溜まっているだろう。できれば無理をしたくなかったが命令であれば仕方がない。
この旅では、私は歩哨を部隊の前方と後方に出している。
帝国領内で歩哨を出すことに、オットーが最初は疑問を呈したが、事情を話した。
私が共和国派と通じていることが皇帝に知られているかもしれず、遊撃部隊が共和国派に付くことを疑っているかもしれない。
イワノフは、ソローキンとキーシンの二名を排除するためだけに、予定外とは言え二万人の犠牲を出すような人物だ。もし彼が何か策略を巡らせているとしたら、油断できない。各旅団が元の駐留していた都市に向かったというのは、嘘なのかもしれないのだ。
もし、三つの旅団の約九千人の兵士に取り囲まれたとしたら、我々二百人はあっという間に粉砕されてしまうだろう。
用心に越したことはないと、私は考えていた。
隊員達には、行先はベルグブリッグと言ってはあるが、そこで共和国派を討つことは伏せてあった。そのことを知っているのは、オットーとプロブストだけだ。しかし、この命令を実行するのに、私はまだ躊躇していた。
オットーは、馬を近づけて話しかけて来た。
「師、どうするのですか? まさか、共和国派を討つ訳にはいかないでしょう」。
「そうだ。かといって、共和国派に付いて帝国軍と戦って勝てるとは思わない。聞いたところによると、共和国派は千人近くに膨れ上がっているそうだ。しかし、我々がそれに加わっても千二百人。共和国派は、これまでは小さな街だったから、その人数でも戦えた。しかし、大都市を掌握するには数が足りない。逆にもし、帝国軍の今日出発したという三つの旅団がベルグブリッグに向かっていたとしたら、その兵力の合計は九千人以上。もし、それと戦闘になったら、ひとたまりもない」。
私は小さくため息をついた。
「帝国軍が公国軍の対応で北部の国境線に集結して、国内が手薄になったのを狙ったのだろう。ベルグブリッグで指揮を執っているのが誰かわからないが、事を早まったようだ」。
「で、どうされますか?」
「現地に着くまでに考える」。
「師…、私は共和国派に付きます」。
オットーは、はっきりと言った。
「そうか」。
私はそれ以上は答えなかった。おそらく、共和国出身である他の大部分の隊員隊達もそう言うだろう。
私は難しい決断を迫られる。
しばらく考えた後、オットーに改めて話しかけた。
「オットー、モルデンでの共和国派は、確か五百人近くは居ると聞いたが」。
「はい」。
「モルデンで共和派が反乱を起こしたとしたら、どうだろうか」。
「おそらく、鎮圧されると思います。これまでの暴動もそうと聞きました」。
「では、そこに我々が参加したとしたら?」
「合わせて七百人になります。現状は五千人近い駐留軍がいます。イェプツシェンコの三千が帰還すれば八千です。勝ち目はとてもありません」。
「まともに戦えば、そうだ」。
「もし、私が五千の駐留軍の司令官となったらどうだろう」。
「どういうことですか?」
「今、モルデンにいて指揮を執っているのは、副旅団長のブルガコフだ。皇帝からの指令で私が旅団長に任命されたとすれば、どうだろう」。
「でも、そんな指令はありませんよね?」
「皇帝の命令書を偽造する。私は何度も命令書を受け取っているから、その仕様などはよく分かっているから、真似て作るのは難しくない。その上、私が“チューリン事件”の報酬として、皇帝から旅団長の地位を打診されていたと言うことは、軍の中でほとんどの者に知れ渡っていることだ。今回、モルデンの第四旅団長に任命されたということになっても、さほど驚く事ではないはずだ。問題は、本物の旅団長のイェプツシェンコがモルデンに向かっているということだ。彼より先にモルデンに到着しなければ、この計画は実行できない。彼らは午前中に出発したと聞いている。通常の進軍速度だと、首都からモルデンまで四日。我々は出発が半日遅れているが、昼夜、馬を急がせれば一日先にモルデンに到着することが可能だろう」。
「なるほど」。オットーの表情が明るくなった。「ついにやるんですね」。
私は続けた。
「私達二人でモルデンに急ごう。残りの隊員は後から到着しても大丈夫だが、できるだけ急ぐようにさせる。プロブストに指揮を任せよう」。
私とオットーは馬を走らせた。遅れてプロブスト達もモルデンに向かうように命令を出した。
しばらく部隊がベルグブリッグ方向に進んでいたため、街道の途中からモルデンに向かうには、荒れた草原を横断する必要があった。
道なき道を進みヤチメゴロドの直前の街道に出て、未明にヤチメゴロドに到着した。
通常の進軍の速さを考えると、イェプツシェンコの旅団がヤチメゴロドに到着するのは明日の午後のはず。すでに我々は彼らを追い抜いているはずだ。
まずは、小さな宿場町イスホードニーゴロドまで二日、そこからベルグブリッグまでは、南ポズナーノーチニク山脈を越えなければならない。ここを抜ける道はさほど険しくはないが、四日かかる予定だ。全行程で六日間となる。
部隊は、首都に着いてから実質一日程度しか休息ができなかった。隊員の疲労は溜まっているだろう。できれば無理をしたくなかったが命令であれば仕方がない。
この旅では、私は歩哨を部隊の前方と後方に出している。
帝国領内で歩哨を出すことに、オットーが最初は疑問を呈したが、事情を話した。
私が共和国派と通じていることが皇帝に知られているかもしれず、遊撃部隊が共和国派に付くことを疑っているかもしれない。
イワノフは、ソローキンとキーシンの二名を排除するためだけに、予定外とは言え二万人の犠牲を出すような人物だ。もし彼が何か策略を巡らせているとしたら、油断できない。各旅団が元の駐留していた都市に向かったというのは、嘘なのかもしれないのだ。
もし、三つの旅団の約九千人の兵士に取り囲まれたとしたら、我々二百人はあっという間に粉砕されてしまうだろう。
用心に越したことはないと、私は考えていた。
隊員達には、行先はベルグブリッグと言ってはあるが、そこで共和国派を討つことは伏せてあった。そのことを知っているのは、オットーとプロブストだけだ。しかし、この命令を実行するのに、私はまだ躊躇していた。
オットーは、馬を近づけて話しかけて来た。
「師、どうするのですか? まさか、共和国派を討つ訳にはいかないでしょう」。
「そうだ。かといって、共和国派に付いて帝国軍と戦って勝てるとは思わない。聞いたところによると、共和国派は千人近くに膨れ上がっているそうだ。しかし、我々がそれに加わっても千二百人。共和国派は、これまでは小さな街だったから、その人数でも戦えた。しかし、大都市を掌握するには数が足りない。逆にもし、帝国軍の今日出発したという三つの旅団がベルグブリッグに向かっていたとしたら、その兵力の合計は九千人以上。もし、それと戦闘になったら、ひとたまりもない」。
私は小さくため息をついた。
「帝国軍が公国軍の対応で北部の国境線に集結して、国内が手薄になったのを狙ったのだろう。ベルグブリッグで指揮を執っているのが誰かわからないが、事を早まったようだ」。
「で、どうされますか?」
「現地に着くまでに考える」。
「師…、私は共和国派に付きます」。
オットーは、はっきりと言った。
「そうか」。
私はそれ以上は答えなかった。おそらく、共和国出身である他の大部分の隊員隊達もそう言うだろう。
私は難しい決断を迫られる。
しばらく考えた後、オットーに改めて話しかけた。
「オットー、モルデンでの共和国派は、確か五百人近くは居ると聞いたが」。
「はい」。
「モルデンで共和派が反乱を起こしたとしたら、どうだろうか」。
「おそらく、鎮圧されると思います。これまでの暴動もそうと聞きました」。
「では、そこに我々が参加したとしたら?」
「合わせて七百人になります。現状は五千人近い駐留軍がいます。イェプツシェンコの三千が帰還すれば八千です。勝ち目はとてもありません」。
「まともに戦えば、そうだ」。
「もし、私が五千の駐留軍の司令官となったらどうだろう」。
「どういうことですか?」
「今、モルデンにいて指揮を執っているのは、副旅団長のブルガコフだ。皇帝からの指令で私が旅団長に任命されたとすれば、どうだろう」。
「でも、そんな指令はありませんよね?」
「皇帝の命令書を偽造する。私は何度も命令書を受け取っているから、その仕様などはよく分かっているから、真似て作るのは難しくない。その上、私が“チューリン事件”の報酬として、皇帝から旅団長の地位を打診されていたと言うことは、軍の中でほとんどの者に知れ渡っていることだ。今回、モルデンの第四旅団長に任命されたということになっても、さほど驚く事ではないはずだ。問題は、本物の旅団長のイェプツシェンコがモルデンに向かっているということだ。彼より先にモルデンに到着しなければ、この計画は実行できない。彼らは午前中に出発したと聞いている。通常の進軍速度だと、首都からモルデンまで四日。我々は出発が半日遅れているが、昼夜、馬を急がせれば一日先にモルデンに到着することが可能だろう」。
「なるほど」。オットーの表情が明るくなった。「ついにやるんですね」。
私は続けた。
「私達二人でモルデンに急ごう。残りの隊員は後から到着しても大丈夫だが、できるだけ急ぐようにさせる。プロブストに指揮を任せよう」。
私とオットーは馬を走らせた。遅れてプロブスト達もモルデンに向かうように命令を出した。
しばらく部隊がベルグブリッグ方向に進んでいたため、街道の途中からモルデンに向かうには、荒れた草原を横断する必要があった。
道なき道を進みヤチメゴロドの直前の街道に出て、未明にヤチメゴロドに到着した。
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