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共和国再興
困惑
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大陸歴1658年4月20日・モルデン近郊
ボリス・ルツコイが率いる第五旅団が首都を出発して四日目の夕刻。
旅団長であるルツコイは部隊の先頭で、馬でゆっくりと進めている。
軍の総司令官であったソローキンを排除する作戦に参加するため北方のテレ・ダ・ズール公国との国境まで進軍し、作戦終了後、首都を経由してズーデハーフェンシュタットに向かう帰路の途中だ。
今回のソローキンを排除する作戦でも出番はなかった。おかげで旅団の戦死者は無しだ。三年前の“イグナユグ戦争”でも、自分達の旅団が参加した戦闘は多くなかった。なので、ルツコイ自身は武功を上げることができなかったが、これはこれでよかったと思っている。
排除されたソローキンとキーシンの両旅団は公国軍との戦闘で犠牲者は多かった。彼らの旅団で生き残った者は再編成されるため、北方の都市プリブレジヌイで待機している。
今回の作戦で帝国軍だけでも一万人近い犠牲者が出た。犠牲者の多くが首都所属の旅団の者だったので、共和国領内の統治のための人員は今のところは減っていない。
しかし、旧共和国の領内では暴動が多発している。増え続ける暴動を抑えるための人員が既に不足気味だというのに。もし、新たに増員の依頼を掛けても許可されるかどうか微妙なところだ。
遠くにモルデンの街が見えてきた。
街の中から何筋もの煙が立っているが見えた。何かあったのだろうか。
さらに、モルデンの手前に展開している部隊がある。見たところ二、三百人の小さな部隊だ。ルツコイは目を凝らして見たが、どこの部隊かわからなかった。
ルツコイは手を上げ合図し、旅団に進軍を止めさせた。
暫くすると、手前に展開している部隊から一騎進み寄ってくる。
服装は制服でなく、私服のようだった。そして、さらにその人物が近づいて来てわかったのは、驚いたことに馬上にいるのはユルゲン・クリーガーだった。
ということは、展開している部隊は遊撃部隊か。
◇◇◇
私はルツコイのそばまで歩み寄ると敬礼した。ルツコイも敬礼する。
ルツコイは驚きを隠せないまま尋ねた。
「クリーガー。なぜここにいる? 陛下は君をベルグブリッグへ反乱分子の鎮圧に向かわせると言っていたぞ」。
「はい、最初の命令はそうでしたが、事情があってモルデンに来ました」。
「事情? どういう事情だ」。
「モルデンは私と共和国派によって掌握されました」。
「何だと」。
ルツコイはさらに驚いた。
「『君』と共和国派だと? どういうことだ、詳しく話してくれ」。
「私が第四旅団を掌握しました。そしてモルデンを解放したのです」。
「なんだと? 一体どういうことだ?」
「お話しした通りです」。
ルツコイは少し考え込んでから口を開いた。
「ということは…、君は反乱分子の仲間なのか?」
「その通りです」。
「なんてことだ…。君のことを信用していた。反逆罪は死刑だぞ」。
「それは、わかっています。私は機会を待っていたのです。帝国軍が北方に軍を移動させた結果、共和国領内が手薄になりました。それで共和国派が独立のために行動を開始しました。それに合わせて私も行動を起こしました」。
ルツコイは、しばらく黙り込んだままだった。
しばらくして、ルツコイはモルデンを指さした。
「街に煙が見えるが、あれは?」
「住民が帝国軍の詰所や施設を焼き討ちしているのです」。私は平然と答える。「もう我々にも住民を抑えることができません。しかし、数日も経てば街は落ち着くだろうと予想しています。帝国軍の兵士達は城にいて全員無事です。副司令官ブルガコフを初め、他の士官たちも拘束はしていますが、命までは取りません」。
ルツコイは私の話を落ち着いた様子で聞いていた。
私は話を続ける。ここからは、はったりだ。
「近日中に他の都市でも共和国派が掌握するでしょう」。
「それに私や帝国軍が手をこまねいていると思うのか? 私の旅団と、この後ろにはイェプツシェンコの旅団がいる。合わせて六千だ。君らの部隊は一瞬で粉砕されるだろう。その後、モルデンを鎮圧すればいい」。
「遊撃部隊以外に、モルデン内にも共和国派がいます。それに住民達も我々と共に徹底抗戦するでしょう。そして、じきにベルグブリッグにいる共和国派も合流します。その部隊には精鋭の“深蒼の騎士”が多数含まれます。それで戦えば、お互いに被害は大きくなります。そうなれば、仮にあなたたちがモルデンを占領出来ても、ズーデハーフェンシュタットやオストハーフェンシュタットなどの大都市で共和国派を鎮圧する兵力は残りません」。
ルツコイは少し考えてから言った。
「その通りかもしれんが、モルデンや他の都市をどうするかは最終的には陛下の判断だ」。
しばらくの沈黙のあと、私は自分が背負っている二本の剣とナイフ三本を地面に捨てて言った。
「私は投降します」。
ボリス・ルツコイが率いる第五旅団が首都を出発して四日目の夕刻。
旅団長であるルツコイは部隊の先頭で、馬でゆっくりと進めている。
軍の総司令官であったソローキンを排除する作戦に参加するため北方のテレ・ダ・ズール公国との国境まで進軍し、作戦終了後、首都を経由してズーデハーフェンシュタットに向かう帰路の途中だ。
今回のソローキンを排除する作戦でも出番はなかった。おかげで旅団の戦死者は無しだ。三年前の“イグナユグ戦争”でも、自分達の旅団が参加した戦闘は多くなかった。なので、ルツコイ自身は武功を上げることができなかったが、これはこれでよかったと思っている。
排除されたソローキンとキーシンの両旅団は公国軍との戦闘で犠牲者は多かった。彼らの旅団で生き残った者は再編成されるため、北方の都市プリブレジヌイで待機している。
今回の作戦で帝国軍だけでも一万人近い犠牲者が出た。犠牲者の多くが首都所属の旅団の者だったので、共和国領内の統治のための人員は今のところは減っていない。
しかし、旧共和国の領内では暴動が多発している。増え続ける暴動を抑えるための人員が既に不足気味だというのに。もし、新たに増員の依頼を掛けても許可されるかどうか微妙なところだ。
遠くにモルデンの街が見えてきた。
街の中から何筋もの煙が立っているが見えた。何かあったのだろうか。
さらに、モルデンの手前に展開している部隊がある。見たところ二、三百人の小さな部隊だ。ルツコイは目を凝らして見たが、どこの部隊かわからなかった。
ルツコイは手を上げ合図し、旅団に進軍を止めさせた。
暫くすると、手前に展開している部隊から一騎進み寄ってくる。
服装は制服でなく、私服のようだった。そして、さらにその人物が近づいて来てわかったのは、驚いたことに馬上にいるのはユルゲン・クリーガーだった。
ということは、展開している部隊は遊撃部隊か。
◇◇◇
私はルツコイのそばまで歩み寄ると敬礼した。ルツコイも敬礼する。
ルツコイは驚きを隠せないまま尋ねた。
「クリーガー。なぜここにいる? 陛下は君をベルグブリッグへ反乱分子の鎮圧に向かわせると言っていたぞ」。
「はい、最初の命令はそうでしたが、事情があってモルデンに来ました」。
「事情? どういう事情だ」。
「モルデンは私と共和国派によって掌握されました」。
「何だと」。
ルツコイはさらに驚いた。
「『君』と共和国派だと? どういうことだ、詳しく話してくれ」。
「私が第四旅団を掌握しました。そしてモルデンを解放したのです」。
「なんだと? 一体どういうことだ?」
「お話しした通りです」。
ルツコイは少し考え込んでから口を開いた。
「ということは…、君は反乱分子の仲間なのか?」
「その通りです」。
「なんてことだ…。君のことを信用していた。反逆罪は死刑だぞ」。
「それは、わかっています。私は機会を待っていたのです。帝国軍が北方に軍を移動させた結果、共和国領内が手薄になりました。それで共和国派が独立のために行動を開始しました。それに合わせて私も行動を起こしました」。
ルツコイは、しばらく黙り込んだままだった。
しばらくして、ルツコイはモルデンを指さした。
「街に煙が見えるが、あれは?」
「住民が帝国軍の詰所や施設を焼き討ちしているのです」。私は平然と答える。「もう我々にも住民を抑えることができません。しかし、数日も経てば街は落ち着くだろうと予想しています。帝国軍の兵士達は城にいて全員無事です。副司令官ブルガコフを初め、他の士官たちも拘束はしていますが、命までは取りません」。
ルツコイは私の話を落ち着いた様子で聞いていた。
私は話を続ける。ここからは、はったりだ。
「近日中に他の都市でも共和国派が掌握するでしょう」。
「それに私や帝国軍が手をこまねいていると思うのか? 私の旅団と、この後ろにはイェプツシェンコの旅団がいる。合わせて六千だ。君らの部隊は一瞬で粉砕されるだろう。その後、モルデンを鎮圧すればいい」。
「遊撃部隊以外に、モルデン内にも共和国派がいます。それに住民達も我々と共に徹底抗戦するでしょう。そして、じきにベルグブリッグにいる共和国派も合流します。その部隊には精鋭の“深蒼の騎士”が多数含まれます。それで戦えば、お互いに被害は大きくなります。そうなれば、仮にあなたたちがモルデンを占領出来ても、ズーデハーフェンシュタットやオストハーフェンシュタットなどの大都市で共和国派を鎮圧する兵力は残りません」。
ルツコイは少し考えてから言った。
「その通りかもしれんが、モルデンや他の都市をどうするかは最終的には陛下の判断だ」。
しばらくの沈黙のあと、私は自分が背負っている二本の剣とナイフ三本を地面に捨てて言った。
「私は投降します」。
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