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1章
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しおりを挟むノア先生は膝の上に俺を乗せたまま、サイドテーブルに置いた器から、小さなスプーンに少量のリンゴを乗せると、俺の口元に運んだ。
「さ、口を開けてください」
ノア先生の低くて柔らかい声が想像よりも近い距離で聞こえて、少しビクついてしまったものの、言われた通りに口を開けて口に入ってきたリンゴを咀嚼する。
リンゴの冷たさが熱の篭った口内にはちょうどよくて、すぐにさっぱりとした甘みが口の中に広がった。
「美味しいですか?」
「ん…おぃ、し…です」
「それは良かった。ではもう少し頑張りましょうか」
そう言いながら、ノア先生は二度三度と繰り返しスプーンを運ぶ。
口に含んで飲み込むまで、焦れったいだろうに急かすこともなくじっと待っていてくれる。
迷惑をかけている申し訳なさと共に、少し、本当に少しだけ、この時間が終わらなければいいのにと、思ってしまった。
そんな事を思っていても、時間は平等に流れるもので。
器のリンゴが半分程になった頃には、もう空腹感もなくなり食べる事にも疲れてしまっていた。
「…もうお腹いっぱいですか?」
「は…はぃ。すみ、ま、せん……」
「いいえ、よく頑張りましたね。この調子でいっぱい食べていっぱい寝れば、きっとすぐに良くなりますよ」
ノア先生はスプーンを器の中に入れると、空になった手で優しく頭を撫でてくれた。
やっぱり、ノア先生の手は温かい。
頭を撫でられる事なんて初めての事のはずなのに、どこか懐かしさを感じた。
それから俺はベッドに戻され横になったものの、先程までずっと寝ていたからか眠りにつけず、どうしたものかと考えているとノア先生が座っていた場所にサロモンが座り、その周りにリュカとアレクサンドルが来て、色んな話をしてくれた。
サロモン達自身の話や、たまに管理を手伝っているという王宮の庭園の話、それから王都で行われる秋のお祭りの話。
どの話をしている時も三人とも楽しそうで、俺の目にはキラキラと輝いているように見えた。
「ねっ、だからジルベール様も今年のお祭りはみんなで一緒に行きましょう?」
「んじゃあ、それまでに俺はもっと鍛えねぇとだな」
「な、なら俺はノア先生から医療を学ぼう。きっとこの先ジルベール様にお仕えする上で必要になる。……ノア先生、教えていただけますか?」
「おや、それは頼もしいですね。私で良ければいくらでも手助け致しますよ」
ワイワイと、でも俺を気遣ってか少し抑えられた声量で楽しげに話す彼らを見ていると、今までにないほどの高熱を出しているというのに、不思議と辛いとは感じなかった。
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