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第1章:別れと出会い
7.シノの才能
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あの忌々しい行為が俺の才能?
心のどこかで、足が速いとか、体力があるとか、そういった前向きなものかと思っていた。
「そんなもの……いらない」
「シノさん。考え方を変えてください」
死んでしまった時のことを思い顔を伏せた時、ユリシアに声をかけられて頭を上げた。
「あなたの盗みの才能は、決して悪いだけのものではありません。それぞれを分けて考えてください。あなたの周りを見る能力はとても重要なものですよ。判断力というのは未来を決める上でとても大切なものです。器用さは複雑なことも丁寧にできる余裕があるということです。それがあなたは環境のせいで、スリという形になってしまっただけなのです。あなたのその盗みの才能は誇っていい立派な能力です。それを次は自分にために使ってください。世の中には、盗んでいいものだってあるんですよ」
何を言っているのかは、難しくて全てを理解できなかったけど、励まそうとしてくれているのは分かって、俺は笑顔になる。
「ありがとう」
「ふふ……世界にはそのような能力があるというのは分かってくれたと思います。文明のレベル的にはシノさんの世界と同じくらいですね。他の違いはそうですね……亜人種の人がいます」
「亜人?」
「はい。猫のような耳や尻尾がついている人、鳥のような翼が生えている人、犬のような手足の人、そもそも犬を人の形にしたような毛並みの人……種族や血によって色々です」
「話は通じるのか?」
「言語に違いはあるところもありますが、その世界はシノさんが今話している言語とほぼ同じです」
「ほぼ?」
「中には扱わなければいけない他の言語もありますから。それも住んでいればわかると思います」
「よくはわからないけど、それも楽しみにしておくよ」
「ふふ、はい。さて、そろそろお時間が来そうですが、他に何か質問はありますか?」
転生後について何か聞きたいことと言われても思いつかなかった。あとは実際に行かないとわからないだろ。
あぁ、でもこれだけは聞いておきたい。
「なんで……俺にこんなによくしてくれるんだ……。だって、俺以外にも不幸な奴なんていっぱいいるだろう。なんなら俺なんかよりも辛い思いしてるやつもいるだろ。なのに、なんで俺なんだ?」
「それは、あなたがいい人だから、ですよ」
「いい……人? そんな、曖昧な理由なんて……」
「いえ、本当にあなたはいい人なのです。なぜなら、あなたは盗みを働く中で、一度も自分のために盗もうとしませんでした。必要以上に盗みませんでした。そして、盗む時はずっと罪悪感が消えませんでした。そういう罪悪感はだんだんと薄れていくものです。でもあなたは一度も、そう一度たりともその行為をよしとはしなかった」
「そうするしかなかっただけとはいえ、そんな……」
そんなくだらない理由でと続けようとしたところで、ユリシアは俺の両手をとり、前でつつ無用に握った。
「シノさん。その考えはくだらなくなんてありません。それは誰でも簡単にできることではないんです。そこにあるのはなんとか必死に生きようとしたこと、そしてあなたの大きな優しさがそうさせているのですから。あなたのその優しさは誰にも負けない才能です。どうか、あなたの考えを否定せず、変わらず優しいあなたでいてください」
「……ありがとう」
ユリシアの言葉を聞いて、俺は顔を伏せる。
ずっと自分の考えは、セレを盾にした偽善でしかないと思っていた。でも、この家族や他人を思う気持ちは間違っていないのだと言われて、少しだけ救われたような気がした。
「もう聞きたいことはない。大丈夫だ」
俺が顔を上げて言うと、ユリシアはにっこりと笑顔になり、手を離した。
「それでは、シノさんを新たな世界『リエスティア』へ転生させます。素敵な人生を送ってください」
「あぁ、色々ありがとう」
もう何回目かのユリシアのパチンという指を弾く音を聞き、時間の止まった空間は白い光に包まれ、俺は眩しくなり目を閉じた。
そして、光がだんだんおさまってくるのを感じて目を開けると、俺は木々生い茂る森の中に立っていた。
心のどこかで、足が速いとか、体力があるとか、そういった前向きなものかと思っていた。
「そんなもの……いらない」
「シノさん。考え方を変えてください」
死んでしまった時のことを思い顔を伏せた時、ユリシアに声をかけられて頭を上げた。
「あなたの盗みの才能は、決して悪いだけのものではありません。それぞれを分けて考えてください。あなたの周りを見る能力はとても重要なものですよ。判断力というのは未来を決める上でとても大切なものです。器用さは複雑なことも丁寧にできる余裕があるということです。それがあなたは環境のせいで、スリという形になってしまっただけなのです。あなたのその盗みの才能は誇っていい立派な能力です。それを次は自分にために使ってください。世の中には、盗んでいいものだってあるんですよ」
何を言っているのかは、難しくて全てを理解できなかったけど、励まそうとしてくれているのは分かって、俺は笑顔になる。
「ありがとう」
「ふふ……世界にはそのような能力があるというのは分かってくれたと思います。文明のレベル的にはシノさんの世界と同じくらいですね。他の違いはそうですね……亜人種の人がいます」
「亜人?」
「はい。猫のような耳や尻尾がついている人、鳥のような翼が生えている人、犬のような手足の人、そもそも犬を人の形にしたような毛並みの人……種族や血によって色々です」
「話は通じるのか?」
「言語に違いはあるところもありますが、その世界はシノさんが今話している言語とほぼ同じです」
「ほぼ?」
「中には扱わなければいけない他の言語もありますから。それも住んでいればわかると思います」
「よくはわからないけど、それも楽しみにしておくよ」
「ふふ、はい。さて、そろそろお時間が来そうですが、他に何か質問はありますか?」
転生後について何か聞きたいことと言われても思いつかなかった。あとは実際に行かないとわからないだろ。
あぁ、でもこれだけは聞いておきたい。
「なんで……俺にこんなによくしてくれるんだ……。だって、俺以外にも不幸な奴なんていっぱいいるだろう。なんなら俺なんかよりも辛い思いしてるやつもいるだろ。なのに、なんで俺なんだ?」
「それは、あなたがいい人だから、ですよ」
「いい……人? そんな、曖昧な理由なんて……」
「いえ、本当にあなたはいい人なのです。なぜなら、あなたは盗みを働く中で、一度も自分のために盗もうとしませんでした。必要以上に盗みませんでした。そして、盗む時はずっと罪悪感が消えませんでした。そういう罪悪感はだんだんと薄れていくものです。でもあなたは一度も、そう一度たりともその行為をよしとはしなかった」
「そうするしかなかっただけとはいえ、そんな……」
そんなくだらない理由でと続けようとしたところで、ユリシアは俺の両手をとり、前でつつ無用に握った。
「シノさん。その考えはくだらなくなんてありません。それは誰でも簡単にできることではないんです。そこにあるのはなんとか必死に生きようとしたこと、そしてあなたの大きな優しさがそうさせているのですから。あなたのその優しさは誰にも負けない才能です。どうか、あなたの考えを否定せず、変わらず優しいあなたでいてください」
「……ありがとう」
ユリシアの言葉を聞いて、俺は顔を伏せる。
ずっと自分の考えは、セレを盾にした偽善でしかないと思っていた。でも、この家族や他人を思う気持ちは間違っていないのだと言われて、少しだけ救われたような気がした。
「もう聞きたいことはない。大丈夫だ」
俺が顔を上げて言うと、ユリシアはにっこりと笑顔になり、手を離した。
「それでは、シノさんを新たな世界『リエスティア』へ転生させます。素敵な人生を送ってください」
「あぁ、色々ありがとう」
もう何回目かのユリシアのパチンという指を弾く音を聞き、時間の止まった空間は白い光に包まれ、俺は眩しくなり目を閉じた。
そして、光がだんだんおさまってくるのを感じて目を開けると、俺は木々生い茂る森の中に立っていた。
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