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彼女

彼女の友達

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アパートを出た後、優太の車に乗って駅へ向かう。
僕も車は持っているが、一緒に動くなら1台の方が楽ということで、僕の車は大学に置いてきた。
朝ごはんを食べなかったせいで、やはり空腹感が僕を襲い、情けない腹の虫が鳴いていた。

「やっぱりなんか朝飯食べればよかった…」

「なんだよ今更。ま、食べるって言ってても何もなかったけどな」

「なんで聞いたんだよ」

僕は苦笑いして言うと、優太もへへへと笑った。
そうこうしてるうちに車は駅に到着した。

「ちょっとコンビニ行ってくる…」

「あんまりガッツリは食べるなよ?」

「わかってるよ」

僕は1人で駅の中のコンビニへ入る。
優太もよく何も食べずにいられるよ…。

「まぁ…これでいいか」

僕はお菓子売り場の横にある『1個満足バー』を手に取った。
前にCMで流行ったけど、これを食べて今まで満足できたためしがない。
今はそんなに食べないし、これでいいだろうと会計を済ませ、外で食べた。
ちなみに味は、ホワイトチョコだ。
あ、意外と美味しい。
食べ終えて集合場所に戻ると、手を振ってる優太の他に女の子が2人いるように見えた。

「え…?」

「え?」

目の前にはまさに昨日の悩みの種になるほど愛おしかった人がいた。
昨日とは違い、トートバッグではなく白いハンドバッグを持っていて、それが白いワンピースによくあっていた。

お互いを見たところで声が重なる。

「え?なに?ヒナ、知り合い?」

「えっと…昨日話してた公園出会った人…」

え?僕の話をしていたの?
それはそれですごく気になるんだけど…。
そんなことを考えていたらつい黙っていてしまい、話すタイミングを逃してしまった。

「と、とりあえずいくか」

優太の助け舟にほんとに感謝した。
とりあえず、僕達は優太の車まで向かう。
ここで僕はあることに気がついた。
これはチャンスじゃないだろうか。優太は当然運転するとして、助手席は僕か彼女さんの2択になるわけで、高確率で道を説明する彼女さんが助手席だ。
これを機に、ぜひともお近づきになりたいところだけど。
席は予想通り、彼女さんが助手席だ。
駐車場から出発して、優太の彼女さんがスマホで目的地をマッピングして、ここから30分くらいと言っていた。

出発はしたものの、しばらく無言の後部座席。
ちらっと彼女を見ると、昨日見た通りすごく美人で、僕の緊張が一気に高くなる。
とにかく、何か話しかけないと…そういえば僕は彼女の名前すら知らない。
自己紹介をすれば返してくれるだろうか。急になんだと思われないだろうか。
自然な感じで話かけないといけない…第一印象が大事とどこかの本で読んだ気がする。

「あの…昨日はチョコレートありがとうございました。あ、僕は鹿野 考って言います」

我ながら普通の名乗り方だったのでないだろうか。
これを聞いて、やや下を向いていた彼女が顔を少しこちらに向けた。
その時に、いい匂いがふわっときた。ってこんな変態みたいなこと考えちゃいけない…。平常心平常心…。

「立花 陽菜乃です…。こちらこそ、バッグを見ててくれて、ありがとうございました」

澄んだ声で立花さんが名前を言ってくれて、なんだかうれしくなった。
そこでふと、昨日の優太との会話を思い出した。

「立花さんは本、好きなんですか?」

「え?あ、はい。ほぼ毎日読んでます」

立花さんはやや警戒したような目線を向けてきた。
それもそうか。立花さんからしてみたら急に趣味を当てられてるわけだから。
ストーカー扱いされたらおしまいだ。
そう考えがまとまるころには慌てて説明した。

「あ、わざわざ公園にまで本を読むってことはすごく本好きなのかなって思っただけです」

それを聞いて納得したのか、表情が和らいだように見えた。
そこでなにか思いついたような顔になった。
意外と表情豊かな人なのかなと思った。

「鹿野さん、敬語じゃなくても大丈夫ですよ?私の方が年下でしょうし…」

急にため口許可が出てびっくりした。
せっかく立花さんが言ってくれたんだから、素直に応じることにした。

「え?じゃあ…でもそれなら立花さんも敬語じゃなくてもいいよ?」

「いえ…私は…」

僕の言葉に困ったような表情になる立花さん。
何かいけないことを言ってしまったのだろうか。
僕の頭の中では、先ほどの自分の言葉を繰り返して、いけないところを探しまくっていた。

「ヒナは昔から私以外には敬語使ってるから気にしなくてもいいと思うよー。あ、私、優太の彼女の松風 文香です!」

急に話しかけられてちょっとびっくりしたけど、松風さんが説明してくれて安心した。

「よろしく、松風さん。そうなんだ」

「それでそれで?狩野さんは昨日、何を失敗したの?」

え?失敗…?まさか、優太が何か話したのか?
それしか思い浮かばないのでキッと優太を睨むが、運転中に見えるわけもなく、無駄に終わった。

「ちょ、ちょっとフミ…」

さすがに立花さんが気を使ったのか、松風さんを止めるような口調で話す。

「え?あ、あぁ…もう大丈夫。うん。さっき解決したんだ」

「へ?そうなの?」

松風さんがちょっと残念そうな声を出していた。

「お前の昨日の様子を2人に見せてやりたいよ」

優太はそう言って笑った。
やっぱり何か話したな…。

「へぇ…聞きたい聞きたい!」

「勘弁してくれ…」

松風さんが興味津々に聞くのだから僕は優太が変なことを言うんじゃないかと内心心配した。

「あ!ダメ!」

急に松風さんが立花さんのカバンを取り上げた。

「フミ…?」

立花さんはジトーと松風さんを睨んでいた。
うん、かわいい。

「ヒナ、今本だそうとしたでしょ?」

そう言われて図星をつかれたのか、立花さんはうっ…と言って少し下を向いた。

「いつも本を持ち歩いてんるんだね」

立花さんはこちらをチラッとみて、少し顔をそらした。
……ちょっとショックだ。

「はい…暇があれば本が読みたいので…」

「そんなに?」


「あーたぶんそれはほんと。フミ、暇さえあったら本読んでるし。休日も私が誘わないと本ばっかり読んでるし。」

「そ、そんなこと…」

当たっているのかはっきりと返せない立花さん。
まぁ、僕も似たようなものだけど。

「じゃあ、読書以外はなにしてるの?」

今のうちに立花さんのことをいろいろリサーチするために質問をしてみた。
立花さんはしばらく考えてから口を開いた。

「お買い物…とか…」

やっぱり立花さんも女子だ。読書ばかりの僕と違って服とかショッピングに行くんだなぁと感心してしまった。

「へぇ…それは初耳かも…何買いにいくの?なんてお店?」

「え!?えっとぉ…」

松風さんの質問に焦ったような反応をしている。
そんなにお店にこだわりがないとか…かな?

「……パー……に…くとか…」

少し下を向いて小さな声で話すのでよく聞こえなかった。

「え?もっかい言って」

「ス、スーパーにお肉とか買いに!」

大きな声で立花さんが言うので、頭の中で内容がついていかない。
えっと…服とかじゃなくて?それは普段の買い物では…?
そういうツッコミが出てきたがグッと飲み込んだ。

「い、い、いいんじゃないかな…読書とお買い物が趣味で…ぶふっ」

「むー!」

すでに笑いの我慢ができなくなった松風さんを見て、立花さんは頬を膨らませている。
うん、可愛いからなんでもいいや。

「お、あの店か?」

「え?あ!あれあれ!」

話をしていると、松風さんが言っていた店に着き、僕達は車を降りた。


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