前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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31話 そして誰も居なくなった……前編

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「あの~シルヴィアさん?
 少し離れて欲しいのですが……」
「いやですわ」

 反対側へ振り返り……

「なぁ、ミーシャさん?
 ちょっと離して……」
「や」
「……」

 最後の頼みで、背中に張り付いている……と言うか、半ば背負っている荷物・・に向かって……

「なぁ、タニアさんや?
 重いから……」
「たっはー!! あははははっ!!」
「……」

 ……何がそんなに楽しいんだよ? こっちは重いんだよっ!
 ダメだこいつ……はなから人の話を聞く気がないわ……
 ……今、俺がどんな状況に陥っているかと言うと、右腕にシルヴィ・アーマーを装備し、左腕にはミーシャ・アーマーを装備。
 そして、背中にはタニア・マントを装備するという正に“フル・美少女アーマー”を装備した最終決戦仕様のような姿になってしまっていた……

 なんでこうなった?

 思い返すに、全ての元凶はこの右腕のシルヴィだ。
 シルヴィが学校に通うようになって、もう5~6日が過ぎようとしていた。
 勿論、学校に通うようになったのはシルヴィだけでなく、村に移住してきた子どもたち全員なのだが、お陰で、現在の全生徒数は以前の2倍ほどに膨れ上がってしまっていた。
 学校も賑やかになったものである。
 で、俺は学校の授業も終わり、皆で帰る準備をしていたのだが、今日は銭湯にちょっとした用事があったため、俺だけ別行動をする事を皆に告げた。
 すると、シルヴィがそれに付いて来ると言い出して、俺の右腕にしがみ付いて来たのだ。
 そして何を思ったのか、それを見ていたミーシャが、反対の左腕にしがみ付いて来て、これまた一緒に行くと言い出したのだ。
 そして、それを見ていたタニアが……といった具合で現状に至る、と言うわけだ。
 ……あれ? 以前にもこんな事があったような……既視感デジャブか?
 と、されはさておき……
 子どもの体温は、非常に高い。
 そして、季節は夏っ!
 そんな中、こうもペッタリ×3で張り付かれてはもう暑いったらないのだ。
 だから、何度も彼女たちに離れるように言っているのだが、誰一人として俺の頼みを聞いてくれる者は居なかった(うち一人なんか、完全に人の話を聞く気がない様子だしな)……
 すぐそこの銭湯に用があるだけなのに、その道のりがやけに険しく思えた……
 ……ってか、俺ってばシルヴィから結構警戒されてなかったか?
 まぁ、友達になるって話はしたが、だからってこれは急接近し過ぎなような気もする……
 初めのうちは、誰が話しかけてももじもじとしているだけで、まるで借りてきたネコよろしく大人しくじっとしているだけだったのだが、ここ数日で彼女も慣れてきたのか行動が大きく変わってきたのだ。
 まず、ハキハキ話すようになった。
 最初は、どこかオドオドしていたのだが、今ではそんなものはすっかり鳴りを潜め、見る影すらない。
 自分から積極的に話しかけるようになって、友達も沢山作っているようだった。
 やはり、何か話題があると話も弾むようで、シルヴィの場合それはファッションだった。
 故に、特に女の子からの人気が絶大だった。
 まぁ、その容姿から、男どもの人気も相当なものだったがな……
 シルヴィが着ている服は、この村にはないフリフリ、ひらひらした可愛い系のものが多かった。
 女の子が可愛い物に弱いのは、正に全世界共通のようだ(異世界含む)。
 そして、驚く事にこの服はなんとシルヴィのお手製だと言うのだ。
 一から作った物ではなく、既製品に手を加えただけだの物だから誰でも作れる、とシルヴィは謙遜していたが、いやいや、なかなかどうしてその歳にしてはいい仕事をしていると舌を巻いたものだ。
 なんて、皆で褒めていたら……

“こ、こんな簡単な物でよろしければ、みっ、みっ、皆さんに、つっ、作り方を、教えて差し上げても、よっよろしくてよっ!”

 なんてカミカミで言っていたっけか……このツンデレさんめ~。
 まぁ、それはそれでいい事なのだと俺は思うのだが……あっ、ツンデレ云々でなく、対人関係、人間関係の話な。
 ただ……
 なんと言うか……俺への接触も、積極的というか、大胆というか……そんな感じに変わってきていたのだ。
 近づいてきたと思ったら、そっと手を繋いできたり、腕を組んできたり……
 過度なスキンシップが増えたように思うのだ。
 別にそれれが嫌だなんて言うつもりはない。むしろ、嬉しいくらいだ。
 だが……あれ? 俺ってば、いつの間にシルヴィのフラグ立てたんだ?
 まるで覚えがないんだが……
 覚えが無いだけに、多少不安が沸いてきた。
 この子は……シルヴィは前の町では友達が少なかったそうだ。
 いや……オブラートに包んだ言い回しはよそう……
 あの、テオドアおじさんの言い方からするに、少ない・・・のではなくいなかった・・・・・のだと思う。
 まず、友達のいるいないに少ないとか多いとか普通つけないだろ? そういう事だ。
 つまり何が言いたいのかと言うと、この子は“友達”がいなかったが故に、人との付き合いの距離感……そう言う物がうまく計れていないのではないだろうか? と、思うのだ。
 だから、男の俺でも“友達”だからと安易に触れ合ってきてしまう……
 同性同士なら、なんの問題もないだろう。
 女の子同士のじゃれあい。うむ、見ていて愛らしい限りだ。
 しかし、異性はまずい。非常にまずいっ!
 特に、女の子から男への接触はよろしくないっ!
 男なんてアホで単純な生き物だ。
 本人にその気がなくても、ちょっと手を握られたから、ちょっと肩が触れたから……
 たったそれだけで、“おっ? こいつ俺に気があるんじゃねぇーの? マジやっべぇー! 俺、モテ期到来っ!?”と簡単に勘違いしてしまうのだ。
 生前の俺はした。
 で、思い出したくも無い様な悲惨な目にあった。
 ……なにがあったは敢えて言うまい……
 で、だ。
 俺みたく、勝手に自爆して轟沈して意気消沈するような奴ならかわいいものだが、中にはヤバイ奴もいたりするわけだ。
 完全に自分の事を好きだと思い込んで、一方的に彼氏面したり、付きまとったり……所謂ストーカーってやつだな。
 こういうのは、本当に性質が悪い。
 ニュースなんかでも、ストーカー被害で刃傷沙汰にんじょうざたなんて話はざらだ。
 この世界に、そんな精神疾患を患っているような奴がいるかどうかは不明だが、いないとは断言できない。
 シルヴィは、可愛い。
 もし……もし、このままシルヴィが、誰彼構わず今のような過度なスキンシップを普通だと思ったまま成長したら、いつかそういう頭のおかしな奴に付きまとわれてしまう危険性がある。
 いや、むしろ、そう言った勘違い野郎を量産してしまう可能性の方がずっと高いのだ。
 いくらなんでも、それは危険すぎる……
 男女七歳にして席を同じうせず、とまで厳しい事を言うつもりもないし、大きくなればその辺りの加減・・なんてものも分ってくるのかもしれないが、小さいうちからそういった情操教育をしっかりと教えておいて間違いということはないだろう。 
 それが、アホな勘違い野郎代表としての責務のような気がする。

「シルヴィ、俺の話を聞いて欲しい」
「はい。なんですの?」

 俺は声のトーンを一段落とし真剣な表情で、シルヴィへと話かけた。
 シルヴィの方が、若干年上とあって身長が俺より少し高い。
 なので、彼女と話す時は視線が一段高くなり、俺は少しだけ見上げなければならなかった。

「いいかい?
 女の子が簡単に、男と手を繋いだり、腕を組んだりしたらいけないんだ」
「……なぜですの?」

 シルヴィは可愛らしく首をコテンと倒すとそう聞き返してきた。
 正直、面と向かって“なぜ?”と聞かれると返答に困るものがあるが、淑女たる者、男に安易に肌を触れさせないものだ、という様な事と、男は簡単でチョロイ生き物だから、あまり誤解を与えるような行動はしてはいけないのだと、話して聞かせた。
 
「……と、言うわけで、シルヴィだって好きでもない奴に付きまとわれるのなんて嫌だろ?
 だから、こうやって簡単にペタペタ張り付いたりしたらいけないんだよ」
「……なるほど……分りましたわ」

 この歳の子には、ちょっと難しい話かも……と、思ったがそこは賢いシルヴィだ。
 俺が言わんとしている事を汲み取ってくれたらしい。
 シルヴィはともて頭がいい……というか、理解力の高い子だった。
 学校に通い初めの頃こそ、算術ではミーシャたちのようなできる・・・子達からは一歩離されててはいたが、基礎がしっかり出来ていたので、ちょっとコツを教えればあっと言う間に追いついた。
 その吸収力たるや、サバクが水を吸うが如く、である。
 今では、村に移住してきた子どもたちの中ではダントツの成績であり、それは既存の生徒を含めても同じことだった。
 計算速度の面では、ミーシャに及ぶものではなかったが、解ける問題の難易度ではシルヴィの方が上を行っていた。

「……やっぱり、おかあ様の言っていた事は正しかったのですわね……」
「ん? シルヴィ今、何か言ったか?」
「いえ、何でもありませんわ」

 シルヴィが何やらぼそぼそと言っていたが、独り言だろうか?
 まぁ、本人が何でもないと言うのだから気にするほどではないか。

「それじゃ、分ってくれた所で離れてく……」
「いやですわ」

 即答だった……
 ……あっれぇ~? 分ってくれたのではなかったのか?
 しかも、俺まだ全部言い切ってないんですが……

「それに……その理屈ですと、ミーシャやタニアはどうなりますの?」
「む~っ……」
「にゃはははっ!」

 自分の名前が出たとたん、ミーシャは俺にしがみ付く手にぎゅっと力を込めた。
 そして、睨む……と言うほどではなかったが、じっとシルヴィの事を見ていた。
 タニアは……どうでもいいか。こいつ、何にも考えてなさそうだし……
 別に、ミーシャとシルヴィは仲が悪い訳ではない。
 実際、シルヴィが一番最初に仲良くなったのはミーシャだった。
 で、芋づる式にタニアとも仲良くなった。
 まぁ、俺経由で知り合ったのだから当然なのだが……
 普段は楽しくおしゃべりをしている二人なのだが、たまにどちらからともなく突然張り合い出すときがあった。
 例えばそれは、算術の授業中……
 シルヴィが難しい問題を解いた事を褒めると、ミーシャがすごいスピードで問題を解きだしたり……
 例えばそれは、休憩時間中……
 黒板にラクガキしていたミーシャの絵を“上手だな”と褒めたら、突然シルヴィが自前のハンカチに施した刺繍を自慢し出したり…… 
 そんな事が度々起こるのだ。困ったものである……

「ミーシャは、こんな事俺くらいにしかしないからなぁ……タニアは……よくわからん」

 実際、ミーシャはこんな事、兄貴のグライブにだってしない。
 良くて、ガゼインおじさんが関の山だ。
 ましてや、まったくの他人の男なんて、手を繋ぐどころか近づきもしないのだ。
 それはそれで、将来が若干心配ではあったが、シルヴィの様に変な蟲が近づいてくる率はずっと少ないと思っている。

「では、わたくしこんな事・・・・をするのはロディにだけ、と誓いますわ。
 それならいいのですわよね?」

 そう言って、シルヴィは俺の腕をぎゅっと強く抱きしめた。

「へ? あっ、いや……俺はそういう意味で言ったのでは……あれ?
 ミーシャがそれでいいんだから、シルヴィもいいのか? あっれ~?」

 確かに俺が言ったのは、誰彼構わず張り付くのは良くないよ、と言う事なので俺だけと限定していれば、こう言う事をしてもいい……と言う理屈にはなるが……
 俺が言いたいのは、そもそも張り付くなと言うことであって……

「……もしかしてロディは、わたくしの事が嫌いですの?」

 俺がどう言って説明したものかと悩んでいると、シルヴィは潤んだ様な瞳で俺を見つめ返し、切なげな声でそう問いかけてきた。
 あかん……その聞き方はあかんよぉ……
 好きか嫌いかで言えば、好き……と言うか、好感が持てる子ではあった。
 誰よりも頑張り屋さんで、何時だって人一倍努力をしている。
 困っている子、勉強の進みの遅い子には、進んで手を差し伸べたり出来る優しい子だ。
 ……まぁ、多少不器用なところはあるが、決して悪い子じゃない。
 そんな子を嫌いになるわけが無い。が……
 逆に、俺はシルヴィの事を手放しで“好き”と言えるほど、この子の事を知っている訳でもないのだ。
 ……ほんと、何処でこの子のフラグが立ったのだろうか?
 俺、この子に何かしたか?

「へっ?、あっいや……そんな、別に嫌いって事はないよ、うん」
「……それじゃ……好き……ですの……?」

 うほっ!?
 なに? なにっこの子!?
 超グイグイ来るんですけどぉ!!
 生前、女性に……相手は幼女だが……に迫られた事など一度もない俺は、この手の防御力は0を通り越してマイナスだった。
 言い寄る女、近づく女はすべて美人局つつもたせか、意味不明な幸運のツボを売る販売員としか思っていなかった俺は、その手の接触を悉く退けていたのだ。
 攻める側の妄想トレーニングは、日夜欠かさず行ってきて、(脳内で)落とした女の数など星の数ほどいた……のだが、防御の事などただの一度も考えた事もなかった訳で……
 身長差の関係で、上目使い……とは行かなかったが、若干顎を引いて、伏し目がちな憂いを帯びた瞳が俺へと向けられていた。
 これは、アレだ。
 チワワだ。チワワの目だ。
 放って置いたら死んでしまう。
 俺が守らねば、誰がこの子を守るのかっ!
 そんな庇護欲を最大限刺激する、そう言った目をシルヴィはしていた。
 ってか、そんな技どこで覚えてきたっ!
 MP(メンタルポイント)一桁、精神強度は絹ごし豆腐……
 もはや、俺の精神の防壁は幼女相手に瓦解寸前まで追い詰められていたのだった……

「おっ、おれ……俺は、おっ、オレは……し、しる、シルヴィのこ、事……
 すっ、すす、す……」

 魅了テンプテーションに掛かったゲームキャラよろしく、自分で自分がコントロール出来ず、精神が不安定になり、俺の思考回路は霧がかかったかのように完全にバグっていた……と、そのとき……

「んんんんんんっ! むがぁーーーー!!
 ほらっ!! ロディくんっ!!
 今からお風呂のところに行くんでしょっ!!
 こんなところで、遊んでないで早くいこっ!!
 ほらっ! ほらぁっ!!」

 突然左腕が振り回されたかと思ったら、つんざくような大声が俺の耳朶じだを打った。
 普段、まず聞くことのないミーシャの大声に、俺の彷徨っていた魂が見事、精神世界アストラル・ワールドから現実世界リアル・ワールドへと生還を果たしたのだった。
 危うくピンクの霧に飲まれる所だったぜ……ありがとうミーシャ。

「おっ、おう、そうだったな……」
「いくよっ!!」

 そう言って、正気に戻った俺の腕を抱いたままミーシャは、ずかずかと銭湯へと向かって歩いて行った。
 俺は、そんなミーシャに引きずられるようにして付いて行くだけだった。

「……チッ、もう少しでしたのに……」

 っ!?
 えっ……?
 今、舌打ちしましたかシルヴィアさんっ!?
 って、この子ってそんな子だったっけ!?
 その音はあまりに小さかったので、確証は持てなかったがシルヴィが何かをボソボソっと言ったのだけはなんとなく分かった。
 で、そのシルヴィは相変わらず右腕に張り付いたままだったが、明後日の方を向いていた所為で、その表情までは確かめる事が出来なかった。  
 しかし、今のは……なんだか非常にヤバかったような気がする……
 何を言った所で、所詮は子どもの言った事で方が付きそうな気はするが……
 なんだか一波乱あったような気もするのだ……
 だって、背負っているタニアの腕が、何故かさっきからじわじわと俺の首を絞めているのだから……

「タニアタニアっ! 腕っ! 腕っ! 首締まってるからっ! 苦しい! 苦しいってっ!」
「にゃはははは……」

 振り返り、タニアの顔を見ることは出来なかったが、その笑い声からはなんとなくだが、顔は笑っていないような気がした。
 両手を完全にホールドされている手前、タップすることも剥がす事も出来ず、ただただじわりじわりと、目的地に着くまで俺はタニアに首を締め上げられ続けるのだった……


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