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40話 貯水池を造ろう
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翌朝……
俺は、家の前で待ち合わせをしていたミーシャたちと合流して一緒に学校に向かった。
俺、ミーシャ、グライブ……この3人が一緒に帰る事はあっても、一緒に学校へ行く、と言うのは初めてかもしれない。
ミーシャもグライブも家を出る時間は一緒なのだが、ミーシャは俺の家に寄ってから学校へ向かう分、どうしても行きの時間がズレてしまうのだ。
俺から迎えに行くと言う手もあるが、俺は俺で朝は妹たちの面倒を見たりしないといけないので、そんな余裕がない。
何をしているかと言えば、起こしたり、着替えを手伝ったり、顔を洗ったり……まぁ、いろいろだ。
大体グライブがミーシャに付き合えばそれで解決するのだが、“えぇー、めんどくせぇーじゃん”の一言でこいつは一人、先に学校へと向かっていたのだった。
まぁ、別にそこまで3人一緒に行く事に拘ってはいないので、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが……
ではなぜに今日に限って、わざわざ待ち合わせをしてまで一緒に登校しているかと言うと、今日もまた例の水撒き作業の続きをしなくてはならないからだ。
初めから一緒にいるのに、別々に移動してあとでまた合流とかあまり意味もないからな……
だったら、一緒に行動してればいいんじゃないか、とそう言う事だ。
2人には、今日の事で話しておかなければいけない事もあったので丁度いい。
と言う訳で、今日の水撒き作業から俺は参加できない事を2人に告げた。
代わり……と言う訳ではないが、強力な助っ人はちゃんと用意してあるので大丈夫だろう。
「……と、言うわけで今日から俺は同行できなくなったから、変わりに神父様に付いて行ってもらう事になったから。
お前ら、ワガママ言って迷惑掛けないように」
「お前は、オレらのかーちゃんか……」
そう。
強力な助っ人とは、神父様の事だ。
昨日、作業報告が終わったあとに、神父様に俺の代わりにガキんちょどもの引率をしてもらえないかと、相談を持ちかけてみたところ、快く引き受けてくれたのだ。
神父様は、魔術陣の扱いについて俺の次ぎくらいに詳しい。
そりゃ、日夜俺と一緒になって、あーでもない、こーでもないと言いながら魔術陣の実験をしていれば詳しくなって当然と言うものだ。
自分で“書く”ことこそまだ出来ないが、書いてある内容を読み解くくらいには魔術陣について理解している。
……そのうち、簡単な魔術陣なら自分で書いてしまいそうな気がする。
と言う事で、早速今日からお願いする事にしたのだ。
神父様は、村長のとこの会議にも出席しているから、今更俺が何かを言う必要もないだろう。
あとは全てお任せにして、俺はその場をあとにした。
俺には俺で、今日からやらねばならない事があるので、そちらの作業に仕事をシフトしなければならないのだ。
と、言うわけで……
「ちぃーっす!」
「ん? ロディフィスじゃないか……
お前がこっちに顔を出すのは、もう少し先って話じゃなかったか?」
俺が、新しい作業現場に顔を出すと、クマのおっさんが作業の手を止めてこちらへと振り向いた。
その手に持っている鍬から察するに、水路堀りの作業を行っていたようだ。
「作業が予定よりずっと早く進んでるから、予定を前倒しにしたんだよ。
俺はみんなの邪魔にならない様に作業してるから、クマのおっさんたちは自分の仕事を進めててくれ」
俺がそう言うと、クマのおっさんも“あいよ”っと簡単な返事を返して作業を再開した。
クマのおっさんが鍬を一振りする度に、ガッキィィン ガッキィィンと、およそ穴を掘っているとは思えない音が響いていた。
埋まっている石をかち割って掘り進めているのだ……
話には聞いていたが……ここまでとは……
辺りを見回してみれば、所々に掘り出された石が積まれているのだが、そのどれもが大きく割れたり、欠けていたり、真新しい断面を晒していた。
きっと、クマのおっさんの餌食になった石たちだろう……
ってか、この音なにかに似ていると思ったらアレだ。
重機の杭打ち機……パイルドライバーが発する音に似てるんだな……打撃系の……
俺がガキの頃は……まぁ、今も十分ガキなのだが前世での話しな……工事現場と言えばあのカッコンカッコンと、うるさい音が響いていたものだが、時代と共に次第に聞かなくなてっいったな……
騒音問題なんかで、圧入系や掘削系に取って代わっていったのだ。
そんな事を考えていたら、あの煩わしかった音でさえ懐かしく思えてきた。
……家族は今、どうしているだろうか……
ふっと、思い出した前世の両親や兄妹の顔が脳裏を過ぎったが、すぐさま振り払って頭の中から追い出した。
家族の身を案じたところで、向こうの状況を知る事も、ましてやこちらの状況を教える事も出来はしない。
今の俺に出来ることなど何もないのだ……
だったら、皆平穏に暮らしていると、そう思う事にしようと、随分と前に決めたではないか。
その方が精神的に楽でいいしな……
いや、そもそも同じ時間が流れているとは限らないわけだから、向こうじゃ100年くらい経ってて、みんな死んじまってるかもしれないのか……
俺が転生に遭ってるんだ。
もしかしたら、知り合いの一人くらいこっちの世界に、俺みたく転生してたりしてな……んな、訳ないか。
さて、感傷に浸ってないで仕事をしよう。仕事を。
今日から俺には、やらなければいけない事がいっぱいあるのだっ!
てな訳で……
今、俺は直径にして約1m、深さにして50cmくらいの円柱形の穴の前に立っていた。
これは、簡単な貯水池だ。
こんな感じのものが、村の中にあと数箇所作られている。
で、これらの貯水池を標高の高いところから順に繋いでいけば、簡単な灌漑設備の完成、と言う訳だ。
繋ぐ、とは言っても、本格的な用水路を造っていたのでは時間が掛かり過ぎるので、そこは太目の竹を繋ぎ合わせて作った配管で代用する事にした。
クマのおっさんたちが今掘っているのは、その配管を埋設するための溝だ。
素材が竹であると言う事をふまえたうえで、外側は地中、内側は常時水がある状態であると考えると、耐用期間に難があるが、今期のワンシーズンだけの短期使用なので、大丈夫だと思う。
もし必要なら、あとで改めて本格的なものを造ればいいだけだ。
では、俺が今からこの貯水池で何をするかと言えば、勿論魔術陣を書くのだ。
この貯水池の底に。
本当なら、水を入れた際に穴が崩れない様にするために、石やレンガで内側を補強したり、水が土と混ざって泥水にならない様にするために、底に砂利などを敷き詰めなければいけないのだが、そんな時間はない。
農業用水と言う事なら、多少濁っていても問題はないのだが、配水に竹管を使っている以上、目詰まりの原因になりそうな事は出来る限り取り除きたい。
折角作っても、使えなければ意味がないからな。
なので多少、強引な方法を取る事にした。
それは、固着の性質を持つ魔術陣を書くことで、貯水池周辺の土を固めてしまおうと言うものだった。
そうすれば、穴が崩れる事も、土が水に混ざる心配もない。
この魔術陣にマナをどうやって供給するか、だが特に問題はないだろう。
確かにこの方法は一過性の手段だが、持続は可能だと思っている。
単純に銭湯の様に、外部からマナを含む物を投入してやればいいのだ。
固着の魔術陣はその性質上、効果を発揮するために必要なマナの量が、他の魔術陣よりずっと少なくてすむ。
銭湯は、その稼動に膨大なマナを必要とするため、マナの含有量の多い骨を使っているが、この貯水池にそんな多量のマナはいらない。
よくて、日にドングリの様な木の実を数個投入すれば十分だろう。
全ての貯水池を賄うにしても、数十個ほどで事足りるのだ。
と、言う訳で作業開始である。
俺は出来たばかりの穴に飛び込むと、底面一杯のサイズで魔術陣を書き始めた。
もう、この手の簡単な回路ならアンチョコなど見なくても即興で余裕だった。
はふぅー、疲れた……
その日は、既に出来上がっていたいくつかの貯水池に魔術陣を書いて終了になってしまった。
内容は簡単なんだが、規模がでかいのでどうしても時間が掛かってしまうのだ。
取り敢えず出来上がった全ての魔術陣に、しっかりとマナを供給して稼動状態にしておく。
これで、もうこの穴が崩れるという様な心配はない。
……代わりに、人力では絶対に掘削出来なくなった訳だが……
今回は結構な数にマナを供給した訳だが、前のように倒れるという事はなかった。
以前作った様な超ビックサイズではないうえ、今回はちゃんと吸収するマナ量に上限を設けておいたのだ。
第一、俺自身のマナの総量だって以前よりずっと増えているはずだしな。
マナは体力と同様、訓練さえすれば底上げが可能なのだ。
ほぼ毎日、実験などでマナ的負荷を体に掛けている俺のマナの量は、魔術を扱わない常人よりはずっと多いいだろうと、神父様も言っていた。
レベル的には“駆け出し魔術師”くらいらしい。
ミーシャに至っては、“ベテラン魔術師”クラスくらいのマナを持っている様で、神父様も“もう数年したら私も追い抜かれるかもしれませんね”と言っていた。
……てか、“ベテラン魔術師”クラスのミーシャに追い抜かれるって、神父様自身のレベルはどれくらいなんだよ?
と思ったのだが、神父様はなぜか自分が魔術師だった頃の事を話したがらないので、ここは聞かぬが華、である。
人間、聞かれたくない過去の一つや二つはあるものだ。
にしても、流石にこう言った魔術陣を使った大規模工事の時に、魔術陣を扱える人間が1人しかいないってのはツライものがあるな……
手本を用意して、神父様に複写してもらうという人海戦術的手段……と、言っても2人だが……も思いついたのだが、今、神父様にはガキんちょたちの引率をお願いしているので無理か……
他の人に代わってもらう、と言うのも手ではあるが魔術陣を使って作業に当たっている手前、多少なりとも知識を持った人が近くにいた方がいいだろうし……やっぱり、しばらくは一人で作業をする事になりそうだ。
あっ、学校の授業の一環として“魔術陣概論”なんてものを取り入りたら、1人2人くらい適性のある奴が出てくるかもしれないな……
で、そいつにスパルタ的英才教育を施したら、多少は使い物になるかもしれない。俺の助手的な意味で……
今度、神父様に相談してみよっと。
その日の作業後報告会にて……
「ロディフィス。ディランドさん……お前の祖父から“例のものが出来上がった”と連絡を受けた。
穴掘りの方は粗方完了しているから、明日からそちらの作業に取り掛かる」
「あざーっす。
では、計画通りによろしくお願いします棟梁」
“例のもの”とは、じーさんの所に製作をお願いしていた竹を使った配管の事だ。
じーさんには、ソロバンなどの製作の指揮と平行して土建組みで使う資材の加工なんかもお願いしていた。
今は、じーさんとこの製造組みの手も移住組みを取り込んだ事で格段に増加。
そのため、幾分か他に手を回す余裕が出来たのだ。
で、その竹配管を使って貯水池を繋ぐ作業に明日から取り掛かる、そう言う話だ。
クマのおっさんは明日も配管埋設用の溝堀り。
棟梁は竹配管の組み付けと設置。
神父様は引き続き子どもたちの面倒を見てもらって、ミーシャとグライブは水やり。
と、まぁ、皆の明日の予定はそんな感じだな。
で、俺は今日と同じく残りの貯水池に魔術陣を書く……と。
これから、またしばらくは忙しくなりそうだ……
俺は、家の前で待ち合わせをしていたミーシャたちと合流して一緒に学校に向かった。
俺、ミーシャ、グライブ……この3人が一緒に帰る事はあっても、一緒に学校へ行く、と言うのは初めてかもしれない。
ミーシャもグライブも家を出る時間は一緒なのだが、ミーシャは俺の家に寄ってから学校へ向かう分、どうしても行きの時間がズレてしまうのだ。
俺から迎えに行くと言う手もあるが、俺は俺で朝は妹たちの面倒を見たりしないといけないので、そんな余裕がない。
何をしているかと言えば、起こしたり、着替えを手伝ったり、顔を洗ったり……まぁ、いろいろだ。
大体グライブがミーシャに付き合えばそれで解決するのだが、“えぇー、めんどくせぇーじゃん”の一言でこいつは一人、先に学校へと向かっていたのだった。
まぁ、別にそこまで3人一緒に行く事に拘ってはいないので、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが……
ではなぜに今日に限って、わざわざ待ち合わせをしてまで一緒に登校しているかと言うと、今日もまた例の水撒き作業の続きをしなくてはならないからだ。
初めから一緒にいるのに、別々に移動してあとでまた合流とかあまり意味もないからな……
だったら、一緒に行動してればいいんじゃないか、とそう言う事だ。
2人には、今日の事で話しておかなければいけない事もあったので丁度いい。
と言う訳で、今日の水撒き作業から俺は参加できない事を2人に告げた。
代わり……と言う訳ではないが、強力な助っ人はちゃんと用意してあるので大丈夫だろう。
「……と、言うわけで今日から俺は同行できなくなったから、変わりに神父様に付いて行ってもらう事になったから。
お前ら、ワガママ言って迷惑掛けないように」
「お前は、オレらのかーちゃんか……」
そう。
強力な助っ人とは、神父様の事だ。
昨日、作業報告が終わったあとに、神父様に俺の代わりにガキんちょどもの引率をしてもらえないかと、相談を持ちかけてみたところ、快く引き受けてくれたのだ。
神父様は、魔術陣の扱いについて俺の次ぎくらいに詳しい。
そりゃ、日夜俺と一緒になって、あーでもない、こーでもないと言いながら魔術陣の実験をしていれば詳しくなって当然と言うものだ。
自分で“書く”ことこそまだ出来ないが、書いてある内容を読み解くくらいには魔術陣について理解している。
……そのうち、簡単な魔術陣なら自分で書いてしまいそうな気がする。
と言う事で、早速今日からお願いする事にしたのだ。
神父様は、村長のとこの会議にも出席しているから、今更俺が何かを言う必要もないだろう。
あとは全てお任せにして、俺はその場をあとにした。
俺には俺で、今日からやらねばならない事があるので、そちらの作業に仕事をシフトしなければならないのだ。
と、言うわけで……
「ちぃーっす!」
「ん? ロディフィスじゃないか……
お前がこっちに顔を出すのは、もう少し先って話じゃなかったか?」
俺が、新しい作業現場に顔を出すと、クマのおっさんが作業の手を止めてこちらへと振り向いた。
その手に持っている鍬から察するに、水路堀りの作業を行っていたようだ。
「作業が予定よりずっと早く進んでるから、予定を前倒しにしたんだよ。
俺はみんなの邪魔にならない様に作業してるから、クマのおっさんたちは自分の仕事を進めててくれ」
俺がそう言うと、クマのおっさんも“あいよ”っと簡単な返事を返して作業を再開した。
クマのおっさんが鍬を一振りする度に、ガッキィィン ガッキィィンと、およそ穴を掘っているとは思えない音が響いていた。
埋まっている石をかち割って掘り進めているのだ……
話には聞いていたが……ここまでとは……
辺りを見回してみれば、所々に掘り出された石が積まれているのだが、そのどれもが大きく割れたり、欠けていたり、真新しい断面を晒していた。
きっと、クマのおっさんの餌食になった石たちだろう……
ってか、この音なにかに似ていると思ったらアレだ。
重機の杭打ち機……パイルドライバーが発する音に似てるんだな……打撃系の……
俺がガキの頃は……まぁ、今も十分ガキなのだが前世での話しな……工事現場と言えばあのカッコンカッコンと、うるさい音が響いていたものだが、時代と共に次第に聞かなくなてっいったな……
騒音問題なんかで、圧入系や掘削系に取って代わっていったのだ。
そんな事を考えていたら、あの煩わしかった音でさえ懐かしく思えてきた。
……家族は今、どうしているだろうか……
ふっと、思い出した前世の両親や兄妹の顔が脳裏を過ぎったが、すぐさま振り払って頭の中から追い出した。
家族の身を案じたところで、向こうの状況を知る事も、ましてやこちらの状況を教える事も出来はしない。
今の俺に出来ることなど何もないのだ……
だったら、皆平穏に暮らしていると、そう思う事にしようと、随分と前に決めたではないか。
その方が精神的に楽でいいしな……
いや、そもそも同じ時間が流れているとは限らないわけだから、向こうじゃ100年くらい経ってて、みんな死んじまってるかもしれないのか……
俺が転生に遭ってるんだ。
もしかしたら、知り合いの一人くらいこっちの世界に、俺みたく転生してたりしてな……んな、訳ないか。
さて、感傷に浸ってないで仕事をしよう。仕事を。
今日から俺には、やらなければいけない事がいっぱいあるのだっ!
てな訳で……
今、俺は直径にして約1m、深さにして50cmくらいの円柱形の穴の前に立っていた。
これは、簡単な貯水池だ。
こんな感じのものが、村の中にあと数箇所作られている。
で、これらの貯水池を標高の高いところから順に繋いでいけば、簡単な灌漑設備の完成、と言う訳だ。
繋ぐ、とは言っても、本格的な用水路を造っていたのでは時間が掛かり過ぎるので、そこは太目の竹を繋ぎ合わせて作った配管で代用する事にした。
クマのおっさんたちが今掘っているのは、その配管を埋設するための溝だ。
素材が竹であると言う事をふまえたうえで、外側は地中、内側は常時水がある状態であると考えると、耐用期間に難があるが、今期のワンシーズンだけの短期使用なので、大丈夫だと思う。
もし必要なら、あとで改めて本格的なものを造ればいいだけだ。
では、俺が今からこの貯水池で何をするかと言えば、勿論魔術陣を書くのだ。
この貯水池の底に。
本当なら、水を入れた際に穴が崩れない様にするために、石やレンガで内側を補強したり、水が土と混ざって泥水にならない様にするために、底に砂利などを敷き詰めなければいけないのだが、そんな時間はない。
農業用水と言う事なら、多少濁っていても問題はないのだが、配水に竹管を使っている以上、目詰まりの原因になりそうな事は出来る限り取り除きたい。
折角作っても、使えなければ意味がないからな。
なので多少、強引な方法を取る事にした。
それは、固着の性質を持つ魔術陣を書くことで、貯水池周辺の土を固めてしまおうと言うものだった。
そうすれば、穴が崩れる事も、土が水に混ざる心配もない。
この魔術陣にマナをどうやって供給するか、だが特に問題はないだろう。
確かにこの方法は一過性の手段だが、持続は可能だと思っている。
単純に銭湯の様に、外部からマナを含む物を投入してやればいいのだ。
固着の魔術陣はその性質上、効果を発揮するために必要なマナの量が、他の魔術陣よりずっと少なくてすむ。
銭湯は、その稼動に膨大なマナを必要とするため、マナの含有量の多い骨を使っているが、この貯水池にそんな多量のマナはいらない。
よくて、日にドングリの様な木の実を数個投入すれば十分だろう。
全ての貯水池を賄うにしても、数十個ほどで事足りるのだ。
と、言う訳で作業開始である。
俺は出来たばかりの穴に飛び込むと、底面一杯のサイズで魔術陣を書き始めた。
もう、この手の簡単な回路ならアンチョコなど見なくても即興で余裕だった。
はふぅー、疲れた……
その日は、既に出来上がっていたいくつかの貯水池に魔術陣を書いて終了になってしまった。
内容は簡単なんだが、規模がでかいのでどうしても時間が掛かってしまうのだ。
取り敢えず出来上がった全ての魔術陣に、しっかりとマナを供給して稼動状態にしておく。
これで、もうこの穴が崩れるという様な心配はない。
……代わりに、人力では絶対に掘削出来なくなった訳だが……
今回は結構な数にマナを供給した訳だが、前のように倒れるという事はなかった。
以前作った様な超ビックサイズではないうえ、今回はちゃんと吸収するマナ量に上限を設けておいたのだ。
第一、俺自身のマナの総量だって以前よりずっと増えているはずだしな。
マナは体力と同様、訓練さえすれば底上げが可能なのだ。
ほぼ毎日、実験などでマナ的負荷を体に掛けている俺のマナの量は、魔術を扱わない常人よりはずっと多いいだろうと、神父様も言っていた。
レベル的には“駆け出し魔術師”くらいらしい。
ミーシャに至っては、“ベテラン魔術師”クラスくらいのマナを持っている様で、神父様も“もう数年したら私も追い抜かれるかもしれませんね”と言っていた。
……てか、“ベテラン魔術師”クラスのミーシャに追い抜かれるって、神父様自身のレベルはどれくらいなんだよ?
と思ったのだが、神父様はなぜか自分が魔術師だった頃の事を話したがらないので、ここは聞かぬが華、である。
人間、聞かれたくない過去の一つや二つはあるものだ。
にしても、流石にこう言った魔術陣を使った大規模工事の時に、魔術陣を扱える人間が1人しかいないってのはツライものがあるな……
手本を用意して、神父様に複写してもらうという人海戦術的手段……と、言っても2人だが……も思いついたのだが、今、神父様にはガキんちょたちの引率をお願いしているので無理か……
他の人に代わってもらう、と言うのも手ではあるが魔術陣を使って作業に当たっている手前、多少なりとも知識を持った人が近くにいた方がいいだろうし……やっぱり、しばらくは一人で作業をする事になりそうだ。
あっ、学校の授業の一環として“魔術陣概論”なんてものを取り入りたら、1人2人くらい適性のある奴が出てくるかもしれないな……
で、そいつにスパルタ的英才教育を施したら、多少は使い物になるかもしれない。俺の助手的な意味で……
今度、神父様に相談してみよっと。
その日の作業後報告会にて……
「ロディフィス。ディランドさん……お前の祖父から“例のものが出来上がった”と連絡を受けた。
穴掘りの方は粗方完了しているから、明日からそちらの作業に取り掛かる」
「あざーっす。
では、計画通りによろしくお願いします棟梁」
“例のもの”とは、じーさんの所に製作をお願いしていた竹を使った配管の事だ。
じーさんには、ソロバンなどの製作の指揮と平行して土建組みで使う資材の加工なんかもお願いしていた。
今は、じーさんとこの製造組みの手も移住組みを取り込んだ事で格段に増加。
そのため、幾分か他に手を回す余裕が出来たのだ。
で、その竹配管を使って貯水池を繋ぐ作業に明日から取り掛かる、そう言う話だ。
クマのおっさんは明日も配管埋設用の溝堀り。
棟梁は竹配管の組み付けと設置。
神父様は引き続き子どもたちの面倒を見てもらって、ミーシャとグライブは水やり。
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