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45話 そんなある日の昼下がり その2
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我が、聖王教学校ラッセ村校では、今、学校給食が出されている。
以前、机や椅子を作った際に、一度だけ食事を提供したことがあったが、あれはあの一度きりでお終いだった。
なにせ材料の調達が儘ならなかったからな。
だが、今は違う。村には金があるのだっ!
食材は、村長から“寄付”と言う形でイスュから購入した物を教会に流し、それを生徒たちが持ち回りで料理している。
リアル給食当番である。
なぜ持ち回りなのかは、厨房にそんなに沢山人が入らないからだ。あと、必要以上に多くても邪魔なだけだ。
とは言え、子どもたちだけでは危ないのと、食べられる物が出来るか不安なため、実際に料理をしているのはシスターズの面々だ。
食べ物を粗末にしてはいけません。
つー訳で、小さい子どもたちは、あくまで“お手伝い”の範疇で彼女たちの手足となって細々と動き回り、年長組辺りからは、ナイフを使って食材を加工したりもしている。
ナイフの扱いについては、“まだ早いのではないか? 危ないのではないか?”なんて思ったりもしたが、教会には治癒系の魔術を使える娘がいるので、ぶっちゃけ切断でもしない限り大丈夫なんじゃないだろうか、なんて楽観的に考えている。
いや、もしかしたらすぐに対処すれば引っ付けるくらいは出来るのか? 試したことがないから分からんし、試したくもないがな。
一応シスター・エリーに相談を持ちかけた時も、
“よい考えだと思いますよ。
料理を覚える事も出来ますし、何より食事を用意する事の大変さや尊さを学ばせる事ができます。
怪我の心配ですが、特に問題はありません。
別に指を切ったくらいでは死にはしませんからね。
それに多少痛い思いをした方が、覚えも早いと言うものですよ”
と、なんとも豪快な言葉で許可を頂いていた。
この学校給食のシステムは、元々は村の生産性の向上を図ってのものだった。
村の主婦さんの多くは、内職やパートと言った形で働いてもらっている。
のだが、お子さんを抱えている人はお昼などの世話で、どうしても時間を長く取れなくなってしまうのだ。
だったら、学校で子どもたちが集まっている時に、まとめてエサを与えれば主婦さんたちの労力を多少なりとも軽減できるのではないか、そして、それは巡り巡って生産性の向上へと繋がるかも……と踏んだのだが、現状、効果の程はまだなんとも言えない状態だ。
だって始めたばっかりなんですもの……結果は追々だ。
そんな学校給食だが、村のお母様方からは、熱烈な支持を持って歓迎されているのは確かなようで、最近では就学前のちっちゃなお子さんを連れてご相伴に預かりに来る事もしばしばだ。
勿論、そういった場合は“寄付”って形で気持ちばかりの金銭は頂いている。
流石に、無料で配るのは他の人たちに示しがつかないからな。
とは言え、元を正せばそんな主婦さんたちの力も借りて手に入れた金でもある。
多少なりとも、村人へ還元するのが筋ってものだろう。
金は溜めてるだけじゃ、何の意味もないからな。
最低限の蓄えは必要だとしても、金は使ってなんぼである。
それで、村人たちに笑顔が増えるなら喜ばしい限りではないか。
そんなこんなで、今までは4時間目……と言っていいのか、魔術と剣術の練習が終わった時点で各自解散をしていたのだが、今は給食が出るので、それを食べ終わるまでは皆、教会に残っていた。
で、当番でない奴らは給食が出来るまでの間、教会の裏手で遊んでいたりして待っている、という訳だ。
それが、先ほど聞こえてきた声の持ち主たちなのである。
ちなみに……
今、子どもたちの間で流行っている遊びは鬼ごっこ……の、変異種とでも言うべきものだった。
これも、俺が言い出して広めたものなので呼び名はまんま“鬼ごっこ”なのだが、各種ルールの追加・変更を行っていった結果、元々の形状が分からないほど、変質してしまったのだ。
ルールは至って簡単で、まず、適当な大きさの円を書く。別に円でなくても、四角でも三角でもいいのだが、基本は円だ。この円が、行動可能範囲になる。
で、その円の中に3~4人が入る。
自分以外は全て敵。
敵の腕以外の部分に掌を触れる事でアウト、つまり倒した扱いになり、場外へと退場させる事が出来る。
そして、最後に残った一人が勝者、と言うものだ。
ただし、攻撃してきた相手の手を掴んで止めたり、払いのけるのは可。
これは、言わば腕を“武器”に見立てた、一対多数を想定した一種の戦闘訓練なのである。
この辺りのルールは、子どもたちが鬼ごっこをしているのを見て、出張訓練に来ていた自警団のにーちゃんたちが、訓練に取り入れられないかと、あれやこれやと手を加えた結果だ。
しかし、これ。子どもの遊びと侮るなかれ……意外に奥が深いのだ。
自分よりも、明らかに弱い奴を狙って攻めた瞬間、別の奴に隙を突かれてアウトにさせられる……なんて事が普通に起きるからな。
普通の鬼ごっこの様に、走り回って逃げるだけの体力勝負ではなく、周囲を観察し、勝つためのプロセスを考え、相手の隙を如何にうまく利用するか……そう言った、一種の思考ゲームに近いものがこの遊びにはあるのだ。
かく言う俺だって、バトルロイヤル方式での勝負では、結構な頻度で負けているからな。
余談だが、今一番ホットなルールは2ON2のタッグ戦である。
ちなみ、現在の最強ペアはグライブ・リュドペアだ。
その勝率は実に八割に迫る勢いだからな。しかも、年齢無差別級と言う事を考えれば、素直にすごいと思う。
更に余談だが、普通のルールの鬼ごっこも勿論行われている。
ただし、こちらは持久力をつける為の訓練として、だ。
剣術の練習は、何も剣を振っているばかりではないのだ。
基礎体力をつける為に、運動部よろしく走り込みだってする。
だが、ただ走っているだけではつまらなく、飽きられるのでこういった遊びを取り入れた、と自警団のにーちゃんたちが言っていた。
この訓練用鬼ごっこだが、“常時走り続けていなければならない”と言う鬼ルールがあるので正直かなりきついかったりする。
ミーシャとシルヴィに連れられて、俺たちは教会の外、いつも授業を受けているテントのところまでやってきていた。
学校に通う子どもたちが増えた事で、机や椅子も増やしたので今となっては結構な数になっている。
そして、そこには大勢の子ども達がお行儀良く静かに座って、食事が出て来るのを待っていた。
ふと、視線をずらすと……
「あっ! にーちゃだぁ!! にーちゃ、いたぁ!!」
「にーちゃ!! にーちゃ!!」
そこには、ウチの妹たちの姿があった。
レティもアーリーも、俺を見つけて恐ろしい勢いで手をブンブンしていた。
なんだか、そのまま空だって飛べそうな勢いだ。
俺はそんな二人に小さく手を振り返した。
レティとアーリーがいるのだから、二人の近くには勿論、我が母の姿もあった。
ママンはそんな興奮している二人を、やや困った様な顔で注意していた。
ここからでは、何と言っているかは分からないが、
“こらっ! 静かにしなさいっ! もぅ、恥ずかしいわね……”
なんて、ぼやいているのかもしれない。
三人がいる場所は、普段、俺達が授業を受けている場所から少し離れた場所だ。
そこには、数卓のテーブルが設置されており、その全てに子ども連れのお母さんたちが座っていた。
教会の給食に与りに来た面々である。
彼女らが使っているテーブルは、極々普通のテーブルだ。
普段、俺達が使っている黒板設置型学習机とは別物だ。
あのテーブルは、こうやって給食を頂に来た人たちに使ってもらうためにじーさんと棟梁に頼んで作ってもらった代物だった。
神父様は、給食を待っている子どもたちに一礼すると、子ども用とは別に作られた一際大きなテーブルの前に腰を下ろした。
そこは神父様やシスターズが座る、教員席の様な場所だ。
俺も、神父様に続いていつも座っている自分の席へと腰掛ける。
その両隣に、ミーシャとシルヴィが座る。
どうやら、彼女たちの仕事は俺と神父様をこの場に連れて来たことで終わったようだった。
ああ、そう言えばこの青空教室も、冬になる前になんとかしなくちゃならないのか……
ラッセ村は、豪雪地帯ではないが寒さはパないからな……川とか普通に凍るし。
冬でも、この青空教室を続けていたら死人が出そうだし、かと言って今更この人数の生徒を教会の中に押し込んで授業ともいかない。
新しく校舎を造るとなると、やっぱりレンガ造りのしっかりした物を造った方がいいんだろうけど、今の人数を収容する規模の建物となるとヘタすりゃ教会よりでかくなるし……さて、どうしたものか。
なんて事を、考えていると胃を刺激するようないい香りが、風に乗って運ばれてきた。
気の早い誰かの腹のムシが“ぐうぅぅ~”ってなる音が響いた。
程なくして、シスター・エリーが大きめの寸胴を手に、子どもたちの前へと姿を現した。
そんなシスターの後ろには、大量のお椀を持ったチビどもがカルガモの雛よろしくひょこひょことあとを追っていた。
子どもたちが持っているお椀はそのどれもが、サイズ、形、そして材質もまちまちな物ばかりだった。
それらのお椀は、元々教会にあった物ではなく、いらなくなった物を村人たちから頂いて、リサイクルしている物だった。
なので、中にはヒビが入ったり穴があいて使えなくなった物もあったのだが、そこは便利屋……ゲフフンッ……職人であるじーさんや棟梁にお願いして直してもらったのだ。
頂き物なので、木製、陶器製と混在していたのだが、そんな事は関係ないとばかりに、預けてしばらくすると綺麗に直って返って来た。
ホント、頼りになる人たちである。
今日の給食も、シチューに良く似た牛の乳を使ったスープと、特に味のないお好み焼きの生地のような小さなパンだった。
一人につき一杯と一個の簡素な昼食だが、これでもこの村の食事の水準としては上の方なのだ、以前ならな。
収入のある今となっては、まぁ、普通ってとこだろう。
シスターたちの前には、お椀を手にした子ども達がずらりと並び、スープを装ってもらった者は、大事そうに御わんを両手でしっかり持って速やかに自分の席へと戻っていった。
一度に全員が受け取りに行っては、ぶつかったりして危険な為、エリアごとの順番制だ。
スープを装っているのがシスター・エリーともう一人。残りの一人が、スープを受け取った子たちへパンを配り歩いている。
で、全員に行き渡ったところで、神父様が食事への感謝の祈りの言葉を口にして、それの後に続いて皆が感謝の言葉を口にする。
こうして、ようやく楽しい楽しい昼食が始まるのだ。
食事の前の静けさは何処へやら……
実際食事が始まってしまえば、実に賑やかなものだった。
あっちでこっちで談笑に華が咲いている。
こっちの世界のテーブルマナーとかは知らないが、やっぱり食事は賑やかな方がいいに決まってる。
やれ、旱魃だぁ! 日照りだぁ!! 作物がぁ!!
なんて騒いでいたが、水路が出来て麦が順調に育ち始めるとそんな声は鳴りを潜めて、姿を見なくなった。
皆、現金なものだ。
なんて、今は笑い話に出来るが、それもこれも村の近くに一定の水量を保持した水源があればこそだ。
村の近くを流れているこの川は、北の森より更に北、そこに聳え立つグルディア山脈からの雪解け水を水源としている……らしい。
神父様の蔵書の一冊に、“アストリアス王国風土記”と言う、国内の風土について記された本があり、その本にそういった事が書かれていた覚えがある。
しかも、グルディア山脈の裾野から続く北の森を通る事で湧き水なんかと合流した結果、ある程度のまとまった水流となって流れいているのではないか、とその本には書かれていた。
多分に憶測と仮定の盛り込まれた書籍だったが、強ち的外れなことは言っていないような気がした。
まぁ、この世界の科学レベルでは、山と川と海の関係を正確に理解している者の方が圧倒的に少ないだろうしな。
太陽で熱せられた海の水が蒸発して雲を作り、雨となって山で降り、染み込んだ水が湧き水となって染み出して川をつくって海へと至る。
そして、海は太陽で熱せられて……って言うあれだ。
川の水量は、確かに雨の影響を受けるが、それだけで水量が決まっている訳でもない。
山の雪解け水や湧き水なども影響している。
ここラッセ村に限って言えば、乾燥地帯よりの気候をしているため普段からあまり雨が降らない。
それでも川が枯れる事無く流れている事から考えれば、むしろそう言った雨以外の要因の方が強いと考えるのが自然だろう。
暖冬で雪が降らなかった翌年の夏に、ダムの貯水率が低下しがちになるのも雨が降らない以前に、雪解けの水量をあてにしているからだ。
山に雪が降らない時点で、翌年の川の水量はマイナススタートなのである。
勿論、この理屈は全ての川に適用される訳ではないけどな。
食事が終われば、後は解散して各々家へと帰路に就くだけだ。
しかし、給食当番をしていた面子には後片付けが待っていた。
しっかり片付けるまでが、給食当番の仕事なのである。
実を言えば、今日は俺も当番なのだが、人口調査の集計作業のために外してもらっていたのだ。
だから、片づけくらいは参加しようと、ミーシャとタニア、そしてシルヴィを連れ立って使い終わった食器を抱えて厨房へと向かったのだった。
以前、机や椅子を作った際に、一度だけ食事を提供したことがあったが、あれはあの一度きりでお終いだった。
なにせ材料の調達が儘ならなかったからな。
だが、今は違う。村には金があるのだっ!
食材は、村長から“寄付”と言う形でイスュから購入した物を教会に流し、それを生徒たちが持ち回りで料理している。
リアル給食当番である。
なぜ持ち回りなのかは、厨房にそんなに沢山人が入らないからだ。あと、必要以上に多くても邪魔なだけだ。
とは言え、子どもたちだけでは危ないのと、食べられる物が出来るか不安なため、実際に料理をしているのはシスターズの面々だ。
食べ物を粗末にしてはいけません。
つー訳で、小さい子どもたちは、あくまで“お手伝い”の範疇で彼女たちの手足となって細々と動き回り、年長組辺りからは、ナイフを使って食材を加工したりもしている。
ナイフの扱いについては、“まだ早いのではないか? 危ないのではないか?”なんて思ったりもしたが、教会には治癒系の魔術を使える娘がいるので、ぶっちゃけ切断でもしない限り大丈夫なんじゃないだろうか、なんて楽観的に考えている。
いや、もしかしたらすぐに対処すれば引っ付けるくらいは出来るのか? 試したことがないから分からんし、試したくもないがな。
一応シスター・エリーに相談を持ちかけた時も、
“よい考えだと思いますよ。
料理を覚える事も出来ますし、何より食事を用意する事の大変さや尊さを学ばせる事ができます。
怪我の心配ですが、特に問題はありません。
別に指を切ったくらいでは死にはしませんからね。
それに多少痛い思いをした方が、覚えも早いと言うものですよ”
と、なんとも豪快な言葉で許可を頂いていた。
この学校給食のシステムは、元々は村の生産性の向上を図ってのものだった。
村の主婦さんの多くは、内職やパートと言った形で働いてもらっている。
のだが、お子さんを抱えている人はお昼などの世話で、どうしても時間を長く取れなくなってしまうのだ。
だったら、学校で子どもたちが集まっている時に、まとめてエサを与えれば主婦さんたちの労力を多少なりとも軽減できるのではないか、そして、それは巡り巡って生産性の向上へと繋がるかも……と踏んだのだが、現状、効果の程はまだなんとも言えない状態だ。
だって始めたばっかりなんですもの……結果は追々だ。
そんな学校給食だが、村のお母様方からは、熱烈な支持を持って歓迎されているのは確かなようで、最近では就学前のちっちゃなお子さんを連れてご相伴に預かりに来る事もしばしばだ。
勿論、そういった場合は“寄付”って形で気持ちばかりの金銭は頂いている。
流石に、無料で配るのは他の人たちに示しがつかないからな。
とは言え、元を正せばそんな主婦さんたちの力も借りて手に入れた金でもある。
多少なりとも、村人へ還元するのが筋ってものだろう。
金は溜めてるだけじゃ、何の意味もないからな。
最低限の蓄えは必要だとしても、金は使ってなんぼである。
それで、村人たちに笑顔が増えるなら喜ばしい限りではないか。
そんなこんなで、今までは4時間目……と言っていいのか、魔術と剣術の練習が終わった時点で各自解散をしていたのだが、今は給食が出るので、それを食べ終わるまでは皆、教会に残っていた。
で、当番でない奴らは給食が出来るまでの間、教会の裏手で遊んでいたりして待っている、という訳だ。
それが、先ほど聞こえてきた声の持ち主たちなのである。
ちなみに……
今、子どもたちの間で流行っている遊びは鬼ごっこ……の、変異種とでも言うべきものだった。
これも、俺が言い出して広めたものなので呼び名はまんま“鬼ごっこ”なのだが、各種ルールの追加・変更を行っていった結果、元々の形状が分からないほど、変質してしまったのだ。
ルールは至って簡単で、まず、適当な大きさの円を書く。別に円でなくても、四角でも三角でもいいのだが、基本は円だ。この円が、行動可能範囲になる。
で、その円の中に3~4人が入る。
自分以外は全て敵。
敵の腕以外の部分に掌を触れる事でアウト、つまり倒した扱いになり、場外へと退場させる事が出来る。
そして、最後に残った一人が勝者、と言うものだ。
ただし、攻撃してきた相手の手を掴んで止めたり、払いのけるのは可。
これは、言わば腕を“武器”に見立てた、一対多数を想定した一種の戦闘訓練なのである。
この辺りのルールは、子どもたちが鬼ごっこをしているのを見て、出張訓練に来ていた自警団のにーちゃんたちが、訓練に取り入れられないかと、あれやこれやと手を加えた結果だ。
しかし、これ。子どもの遊びと侮るなかれ……意外に奥が深いのだ。
自分よりも、明らかに弱い奴を狙って攻めた瞬間、別の奴に隙を突かれてアウトにさせられる……なんて事が普通に起きるからな。
普通の鬼ごっこの様に、走り回って逃げるだけの体力勝負ではなく、周囲を観察し、勝つためのプロセスを考え、相手の隙を如何にうまく利用するか……そう言った、一種の思考ゲームに近いものがこの遊びにはあるのだ。
かく言う俺だって、バトルロイヤル方式での勝負では、結構な頻度で負けているからな。
余談だが、今一番ホットなルールは2ON2のタッグ戦である。
ちなみ、現在の最強ペアはグライブ・リュドペアだ。
その勝率は実に八割に迫る勢いだからな。しかも、年齢無差別級と言う事を考えれば、素直にすごいと思う。
更に余談だが、普通のルールの鬼ごっこも勿論行われている。
ただし、こちらは持久力をつける為の訓練として、だ。
剣術の練習は、何も剣を振っているばかりではないのだ。
基礎体力をつける為に、運動部よろしく走り込みだってする。
だが、ただ走っているだけではつまらなく、飽きられるのでこういった遊びを取り入れた、と自警団のにーちゃんたちが言っていた。
この訓練用鬼ごっこだが、“常時走り続けていなければならない”と言う鬼ルールがあるので正直かなりきついかったりする。
ミーシャとシルヴィに連れられて、俺たちは教会の外、いつも授業を受けているテントのところまでやってきていた。
学校に通う子どもたちが増えた事で、机や椅子も増やしたので今となっては結構な数になっている。
そして、そこには大勢の子ども達がお行儀良く静かに座って、食事が出て来るのを待っていた。
ふと、視線をずらすと……
「あっ! にーちゃだぁ!! にーちゃ、いたぁ!!」
「にーちゃ!! にーちゃ!!」
そこには、ウチの妹たちの姿があった。
レティもアーリーも、俺を見つけて恐ろしい勢いで手をブンブンしていた。
なんだか、そのまま空だって飛べそうな勢いだ。
俺はそんな二人に小さく手を振り返した。
レティとアーリーがいるのだから、二人の近くには勿論、我が母の姿もあった。
ママンはそんな興奮している二人を、やや困った様な顔で注意していた。
ここからでは、何と言っているかは分からないが、
“こらっ! 静かにしなさいっ! もぅ、恥ずかしいわね……”
なんて、ぼやいているのかもしれない。
三人がいる場所は、普段、俺達が授業を受けている場所から少し離れた場所だ。
そこには、数卓のテーブルが設置されており、その全てに子ども連れのお母さんたちが座っていた。
教会の給食に与りに来た面々である。
彼女らが使っているテーブルは、極々普通のテーブルだ。
普段、俺達が使っている黒板設置型学習机とは別物だ。
あのテーブルは、こうやって給食を頂に来た人たちに使ってもらうためにじーさんと棟梁に頼んで作ってもらった代物だった。
神父様は、給食を待っている子どもたちに一礼すると、子ども用とは別に作られた一際大きなテーブルの前に腰を下ろした。
そこは神父様やシスターズが座る、教員席の様な場所だ。
俺も、神父様に続いていつも座っている自分の席へと腰掛ける。
その両隣に、ミーシャとシルヴィが座る。
どうやら、彼女たちの仕事は俺と神父様をこの場に連れて来たことで終わったようだった。
ああ、そう言えばこの青空教室も、冬になる前になんとかしなくちゃならないのか……
ラッセ村は、豪雪地帯ではないが寒さはパないからな……川とか普通に凍るし。
冬でも、この青空教室を続けていたら死人が出そうだし、かと言って今更この人数の生徒を教会の中に押し込んで授業ともいかない。
新しく校舎を造るとなると、やっぱりレンガ造りのしっかりした物を造った方がいいんだろうけど、今の人数を収容する規模の建物となるとヘタすりゃ教会よりでかくなるし……さて、どうしたものか。
なんて事を、考えていると胃を刺激するようないい香りが、風に乗って運ばれてきた。
気の早い誰かの腹のムシが“ぐうぅぅ~”ってなる音が響いた。
程なくして、シスター・エリーが大きめの寸胴を手に、子どもたちの前へと姿を現した。
そんなシスターの後ろには、大量のお椀を持ったチビどもがカルガモの雛よろしくひょこひょことあとを追っていた。
子どもたちが持っているお椀はそのどれもが、サイズ、形、そして材質もまちまちな物ばかりだった。
それらのお椀は、元々教会にあった物ではなく、いらなくなった物を村人たちから頂いて、リサイクルしている物だった。
なので、中にはヒビが入ったり穴があいて使えなくなった物もあったのだが、そこは便利屋……ゲフフンッ……職人であるじーさんや棟梁にお願いして直してもらったのだ。
頂き物なので、木製、陶器製と混在していたのだが、そんな事は関係ないとばかりに、預けてしばらくすると綺麗に直って返って来た。
ホント、頼りになる人たちである。
今日の給食も、シチューに良く似た牛の乳を使ったスープと、特に味のないお好み焼きの生地のような小さなパンだった。
一人につき一杯と一個の簡素な昼食だが、これでもこの村の食事の水準としては上の方なのだ、以前ならな。
収入のある今となっては、まぁ、普通ってとこだろう。
シスターたちの前には、お椀を手にした子ども達がずらりと並び、スープを装ってもらった者は、大事そうに御わんを両手でしっかり持って速やかに自分の席へと戻っていった。
一度に全員が受け取りに行っては、ぶつかったりして危険な為、エリアごとの順番制だ。
スープを装っているのがシスター・エリーともう一人。残りの一人が、スープを受け取った子たちへパンを配り歩いている。
で、全員に行き渡ったところで、神父様が食事への感謝の祈りの言葉を口にして、それの後に続いて皆が感謝の言葉を口にする。
こうして、ようやく楽しい楽しい昼食が始まるのだ。
食事の前の静けさは何処へやら……
実際食事が始まってしまえば、実に賑やかなものだった。
あっちでこっちで談笑に華が咲いている。
こっちの世界のテーブルマナーとかは知らないが、やっぱり食事は賑やかな方がいいに決まってる。
やれ、旱魃だぁ! 日照りだぁ!! 作物がぁ!!
なんて騒いでいたが、水路が出来て麦が順調に育ち始めるとそんな声は鳴りを潜めて、姿を見なくなった。
皆、現金なものだ。
なんて、今は笑い話に出来るが、それもこれも村の近くに一定の水量を保持した水源があればこそだ。
村の近くを流れているこの川は、北の森より更に北、そこに聳え立つグルディア山脈からの雪解け水を水源としている……らしい。
神父様の蔵書の一冊に、“アストリアス王国風土記”と言う、国内の風土について記された本があり、その本にそういった事が書かれていた覚えがある。
しかも、グルディア山脈の裾野から続く北の森を通る事で湧き水なんかと合流した結果、ある程度のまとまった水流となって流れいているのではないか、とその本には書かれていた。
多分に憶測と仮定の盛り込まれた書籍だったが、強ち的外れなことは言っていないような気がした。
まぁ、この世界の科学レベルでは、山と川と海の関係を正確に理解している者の方が圧倒的に少ないだろうしな。
太陽で熱せられた海の水が蒸発して雲を作り、雨となって山で降り、染み込んだ水が湧き水となって染み出して川をつくって海へと至る。
そして、海は太陽で熱せられて……って言うあれだ。
川の水量は、確かに雨の影響を受けるが、それだけで水量が決まっている訳でもない。
山の雪解け水や湧き水なども影響している。
ここラッセ村に限って言えば、乾燥地帯よりの気候をしているため普段からあまり雨が降らない。
それでも川が枯れる事無く流れている事から考えれば、むしろそう言った雨以外の要因の方が強いと考えるのが自然だろう。
暖冬で雪が降らなかった翌年の夏に、ダムの貯水率が低下しがちになるのも雨が降らない以前に、雪解けの水量をあてにしているからだ。
山に雪が降らない時点で、翌年の川の水量はマイナススタートなのである。
勿論、この理屈は全ての川に適用される訳ではないけどな。
食事が終われば、後は解散して各々家へと帰路に就くだけだ。
しかし、給食当番をしていた面子には後片付けが待っていた。
しっかり片付けるまでが、給食当番の仕事なのである。
実を言えば、今日は俺も当番なのだが、人口調査の集計作業のために外してもらっていたのだ。
だから、片づけくらいは参加しようと、ミーシャとタニア、そしてシルヴィを連れ立って使い終わった食器を抱えて厨房へと向かったのだった。
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けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
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