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52話 森へ行こう その5
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「あれはなんですの?」
ラビ用の罠(落とし穴)を作り終わってから、しばらくが経ち……
神父様から、食べられる野草やら茸やらの説明をみんなして聞いていた時、ふとシルヴィがそんな事を言ってある方向を指差した。
つられて顔を向けてみれば……
「あれは森狼ですね」
そこには、二頭の犬……というよりは狼みたいな動物がこちらのことを静かにじっと凝視していた。
距離にして10m以上は離れているだろうか。
しかし、いつの間にこんなに近くに来ていたのだろうか?
全然気がつかなかった……
一応、周囲を確認してみるがその二頭以外に森狼の姿は見当たらない。
……もしかすると、見えない所に潜んでいる、という可能性は否定出来ないが、現状、今すぐにでも襲い掛かってくるような様子、つまり牙を剥いたり、唸ったり、といった敵対的な行動を取っているようには見えなかった。
本当にただこちらのことを観察している、といった感じだった。
「多分あれは、自分たちの縄張りに外敵が侵入していないか見回りをしているのでしょう。
大丈夫ですよ。
先ほどもお話しましたが、無闇に彼らの縄張りに近づいたり、大声を出して挑発したり、こちらから攻撃を仕掛けでもしない限り彼らが人間を襲うことはありません。
この距離を維持していれば、問題はないでしょう。
“はぐれ”であればその限りではないのですが、そうでもないようですしね」
神父様の言う“はぐれ”とは、群れから追い出された個体を言う。
通常、森狼は20頭前後の社会的な群れ形成し縄張りを作りその内側で活動する、と先ほど神父様から説明を受けた。
その群れの中で、群れの秩序を乱す者や群れのリーダーを決める争いに敗れた者は、その群れから追い出されるという。
この孤立し単独で活動している森狼を通称“はぐれ”と呼ぶ。
“はぐれ”は気性の荒い者が多い。
そのうえ、狩を群れで行う森狼にとって単独である“はぐれ”の狩猟成功率は極めて低く、いつも飢餓状態に陥っており結果、空腹により凶暴化。
エサを求めて森の表層部果ては人が住む村まで出て来てしまい、誰彼構わず襲うような猛獣となってしまうのだと、神父様はそう語っていた。
そのため“はぐれ”を見かけた時は、被害が出る前に逸早く自警団へと連絡を入れ、速やかに討伐する必要があるのだと言う。
ただ殺すだけではあれなので、討伐された森狼は皮を剥がれ村の貴重な収入源となるのである。
勿論、お肉は自警団員さんや村人たちがおいしく頂いていたりする。
はじめは狼を食うってことに結構抵抗感があったのだが、食べてみたら思いのほか悪くなかった。
では、見かけた森狼が群れに属しているか、または“はぐれ”なのかを見極めるにはどうすればいいのか? だが、これはとても簡単で、二頭以上で行動している場合は群れに属している森狼で、単独だった場合はほぼ間違いなく“はぐれ”であるらしい。
森狼は狩りの時は勿論、見回りの時ですら二頭以上のチームで行動するという。
今回は最低でも二頭が目の前にいるので、群れに属している森狼なので危険は少ない。
とまぁ、そういうことなのだろう。
それに、“はぐれ”であればこんな悠長にお見合いをしている余裕はないという。
にしても……
多少距離があるので確信はないのだが、なぜか妙にこっちのことをじっと見ている様な気がするんだよなぁ、警戒してるとかそういう感じじゃなくて……
「あの、神父様……もぐもぐ」
「はい、何でしょうか?」
「あいつらって、普段何食べてるんでしょうね……ごくんっ」
「森狼の食性は雑食です。
肉でも植物でも何でも食べますよ」
「じゃ、果物もですかね?」
「森狼が果実を食べる、とはあまり聞きませんが……多分は。
でもなぜ急にそんなことを?」
神父様は、俺のふとした疑問に答えてくれた後、不思議そうな顔で俺のことを見下ろした。
「いえ……なんだかあいつらが、もの欲しそうな顔でこっちを見てる気がして……
もしかしたら、コレが欲しいのかなって思ったんですよ」
と、俺は食べかけのそれを軽く掲げてみせた。
これはキビィという北の森などで採れる、村では割とポピュラーな果実だ。
大きさがキウイくらいで外観、果肉ともに橙色。割るとキウイの様に中に無数の種が詰まっているが小さいのでそのまま食べる事が出来る。
皮がすごく渋いので、そのまま丸齧りは出来ない。
なので、皮を剥いてから食べるのが一般的な食べ方なのだが、まぁ、もしかしたらそこがイイ、なんて言う奇特なやつがいないとは言い切れないが、少なくとも俺は皮は剥いて食べる派の人間だな。
いくら皮が薄いとはいえ、キウイの皮をそのまま食べるようなまねはしないのと同じだな。
芯はあるが柔らかいので、皮さえ剥いてしまえばすべて食べることが出来る。
ただし、糖度が割りと高いので、食べるときは手がベタベタになる覚悟だけはしなくてはいけないが。
このキビィだが、少し前にたまたま群生地を見つけて、俺とタニアで木に登りいくつか収穫したものだ。
今はそれをおやつにみんなでムシャムシャしながら、神父様の講義に耳を傾けていたところにあの二頭の森狼が姿を現した、という訳だ。
俺は試しに、手にしていた食べかけのキビィを森狼たちの方へ向けると、それを大きく……とはいえ子ども体なのでそこまでは大きくないが、左右に振ってみせた。
……遠くてよく分からないが、なんだか目で追っている……様な気がする……
もしかしたら、こいつらこのキビィの匂いにつられて姿を現した、とかじゃいなだろうな?
森狼は犬同様、匂いにはとても敏感であるらしいからな。
こうなれば、ものは試しだ。
俺は食べかけのキビィを完食すると、神父様が持ち歩いている籠からキビィをいくつか取り出した。
そしてその一つを……
「そぉいっ!!」
森狼に向かって放り投げた。
キビィは大きな放物線を描いて森狼に向かって飛んでいった……のだが……
「あっ、やべぇ……」
イメージとしては、あいつらの鼻先に落とすつもりで投げたのだが、俺の投げたキビィはイメージとかけ離れた軌道を描いて、ぽとりと落ちてしまった。
ようは、全然届いていなかったのだ。
そういえば、俺ってば運痴だったわ……
学生時代とか、運動部に所属したことなんてほとんどなかったし……
キビィが落ちたのは森狼からだいたい2~3m程手前だった。
今あいつらが立っているラインがどうやら縄張りの境界線のようなので、これは取りに来ないだろうなぁ……と思っていたら、
「おっ?」
二頭の内の一頭が境界線を越え、すばやく落ちたキビィを銜えて元の位置まで戻っていった。
そして、そのまま食べる……かと思いきや、銜えていたキビィを一度地面に置くとフンフンと匂いを嗅ぎ出したのだった。
食べられるものかどうか確認しているのだろう。
で、確認も済んだところで、さぁ食べようと口を開けてパクリ……としたのは、なんとその場に残ったまま何もしていない方の森狼だった。
あ~、取りに来たやつが口を開けたまま固まってるよ……
“ちょっ、なにしてくれてんの!? それ俺が取ってきたやつなんだけど……”
みたいな顔をしてる……ような気がする。
ってか、ひどいなあいつ。
自分は何もしてないくせに、文字通りおいしいところだけ持っていきやがった……
同じような事を思ったのか、一部始終を一緒に見ていた連中からも“ずるい”とか“ひどい”とか、非難の声が上がっていた。
「たぶんですが……今キビィを食べた方が、持っていった者より位が高いのでしょうね」
そんな周囲の非難の言葉に神父様が、そう説明してくれた。
「森狼はリーダーを頂点とした完全な縦社会ですからね。
下の者は上の者に従う……それが彼らの社会のルールなのです。部外者である私達がとやかく言うことではないのですよ。
さて、そろそろ一度集合する時間ですね……ではみなさん、戻りましょうか」
神父様のその言葉に、皆が一斉に返事をした。
森の散策は、昼で区切り付けて森の外で集合する決まりになっていた。
そこで一度点呼を取り、全員いるか安否の確認を行うのだ。
そして、そこで昼の休憩を挟む。
午後の部からまた散策をするか、打ち切って引き上げるかは自警団の人たちが状況を見て決めることになっているので、現状ではまだ未定である。
森の外へと向かって歩き出す神父様、そしてそれについて行く子どもたち……
そんな中、俺はふと自分の手元へと視線を落とした。
そこには、先ほど籠から取り出したキビィがまだ二つ残っていた。
なんとなく森狼たちの方へと視線を向けると、あいつら未だにこっちのことを見ている。
俺たちがここを離れるまで、ずっと見ているつもりだろうか……仕事熱心なことだ。
俺は手にしていた残り二つのキビィのうち一つを、森狼に向かっておもいっきり投げ飛ばした。
今回はうまく投げれたようで、森狼たちがいる所から少し奥まった場所へと落ちた。
これに上司森狼(さっき、キビィを奪ったやつ)が反応して取りに行ったところを見計らって、残ったもう一つのキビィを下っ端森狼(取られた方)に向かって放り投げた。
鬼の居ぬ間になんとやら……ではないが、こうやって上司を遠ざけてしまえば、あの下っ端森狼にもキビィを食べられるチャンスくらいはあるだろう。
現に、下っ端森狼はすぐさま近づいて来て、フンフンと匂いを嗅いでからパリクと一口に食べていた。
なんというか……
上にいいように使われているこいつの姿に、俺は前世の自分の姿を重ねて見ていた……ような気がする。
俺も前世では、上司に散々こき使われたからなぁ……
下っ端には、下っ端の苦労というのがあるのだ。
たまにくらいは、いい目にあってもいいではないか。
食べ終わったのか、鼻先をペロリと舐めこちらに視線を向ける下っ端森狼と目が合った。
俺はそんな森狼に向かってビシッと親指を立ててみせた。
まぁ、特に意味なんてないし、伝わるとも思ってはいないが……なんとなくだ、なんとなく。
「ロディフィス、何をしているのですか? 早く来ないと置いていきますよ?」
「あっ、すみませんっ! すぐ行きます!」
神父様の呼びかけに振り返れば、いつの間にやら、皆とは随分と離されてしまっていた。
俺は慌てて返事をすると、足場の悪い森の中を早足で追いかけたのだった。
ラビ用の罠(落とし穴)を作り終わってから、しばらくが経ち……
神父様から、食べられる野草やら茸やらの説明をみんなして聞いていた時、ふとシルヴィがそんな事を言ってある方向を指差した。
つられて顔を向けてみれば……
「あれは森狼ですね」
そこには、二頭の犬……というよりは狼みたいな動物がこちらのことを静かにじっと凝視していた。
距離にして10m以上は離れているだろうか。
しかし、いつの間にこんなに近くに来ていたのだろうか?
全然気がつかなかった……
一応、周囲を確認してみるがその二頭以外に森狼の姿は見当たらない。
……もしかすると、見えない所に潜んでいる、という可能性は否定出来ないが、現状、今すぐにでも襲い掛かってくるような様子、つまり牙を剥いたり、唸ったり、といった敵対的な行動を取っているようには見えなかった。
本当にただこちらのことを観察している、といった感じだった。
「多分あれは、自分たちの縄張りに外敵が侵入していないか見回りをしているのでしょう。
大丈夫ですよ。
先ほどもお話しましたが、無闇に彼らの縄張りに近づいたり、大声を出して挑発したり、こちらから攻撃を仕掛けでもしない限り彼らが人間を襲うことはありません。
この距離を維持していれば、問題はないでしょう。
“はぐれ”であればその限りではないのですが、そうでもないようですしね」
神父様の言う“はぐれ”とは、群れから追い出された個体を言う。
通常、森狼は20頭前後の社会的な群れ形成し縄張りを作りその内側で活動する、と先ほど神父様から説明を受けた。
その群れの中で、群れの秩序を乱す者や群れのリーダーを決める争いに敗れた者は、その群れから追い出されるという。
この孤立し単独で活動している森狼を通称“はぐれ”と呼ぶ。
“はぐれ”は気性の荒い者が多い。
そのうえ、狩を群れで行う森狼にとって単独である“はぐれ”の狩猟成功率は極めて低く、いつも飢餓状態に陥っており結果、空腹により凶暴化。
エサを求めて森の表層部果ては人が住む村まで出て来てしまい、誰彼構わず襲うような猛獣となってしまうのだと、神父様はそう語っていた。
そのため“はぐれ”を見かけた時は、被害が出る前に逸早く自警団へと連絡を入れ、速やかに討伐する必要があるのだと言う。
ただ殺すだけではあれなので、討伐された森狼は皮を剥がれ村の貴重な収入源となるのである。
勿論、お肉は自警団員さんや村人たちがおいしく頂いていたりする。
はじめは狼を食うってことに結構抵抗感があったのだが、食べてみたら思いのほか悪くなかった。
では、見かけた森狼が群れに属しているか、または“はぐれ”なのかを見極めるにはどうすればいいのか? だが、これはとても簡単で、二頭以上で行動している場合は群れに属している森狼で、単独だった場合はほぼ間違いなく“はぐれ”であるらしい。
森狼は狩りの時は勿論、見回りの時ですら二頭以上のチームで行動するという。
今回は最低でも二頭が目の前にいるので、群れに属している森狼なので危険は少ない。
とまぁ、そういうことなのだろう。
それに、“はぐれ”であればこんな悠長にお見合いをしている余裕はないという。
にしても……
多少距離があるので確信はないのだが、なぜか妙にこっちのことをじっと見ている様な気がするんだよなぁ、警戒してるとかそういう感じじゃなくて……
「あの、神父様……もぐもぐ」
「はい、何でしょうか?」
「あいつらって、普段何食べてるんでしょうね……ごくんっ」
「森狼の食性は雑食です。
肉でも植物でも何でも食べますよ」
「じゃ、果物もですかね?」
「森狼が果実を食べる、とはあまり聞きませんが……多分は。
でもなぜ急にそんなことを?」
神父様は、俺のふとした疑問に答えてくれた後、不思議そうな顔で俺のことを見下ろした。
「いえ……なんだかあいつらが、もの欲しそうな顔でこっちを見てる気がして……
もしかしたら、コレが欲しいのかなって思ったんですよ」
と、俺は食べかけのそれを軽く掲げてみせた。
これはキビィという北の森などで採れる、村では割とポピュラーな果実だ。
大きさがキウイくらいで外観、果肉ともに橙色。割るとキウイの様に中に無数の種が詰まっているが小さいのでそのまま食べる事が出来る。
皮がすごく渋いので、そのまま丸齧りは出来ない。
なので、皮を剥いてから食べるのが一般的な食べ方なのだが、まぁ、もしかしたらそこがイイ、なんて言う奇特なやつがいないとは言い切れないが、少なくとも俺は皮は剥いて食べる派の人間だな。
いくら皮が薄いとはいえ、キウイの皮をそのまま食べるようなまねはしないのと同じだな。
芯はあるが柔らかいので、皮さえ剥いてしまえばすべて食べることが出来る。
ただし、糖度が割りと高いので、食べるときは手がベタベタになる覚悟だけはしなくてはいけないが。
このキビィだが、少し前にたまたま群生地を見つけて、俺とタニアで木に登りいくつか収穫したものだ。
今はそれをおやつにみんなでムシャムシャしながら、神父様の講義に耳を傾けていたところにあの二頭の森狼が姿を現した、という訳だ。
俺は試しに、手にしていた食べかけのキビィを森狼たちの方へ向けると、それを大きく……とはいえ子ども体なのでそこまでは大きくないが、左右に振ってみせた。
……遠くてよく分からないが、なんだか目で追っている……様な気がする……
もしかしたら、こいつらこのキビィの匂いにつられて姿を現した、とかじゃいなだろうな?
森狼は犬同様、匂いにはとても敏感であるらしいからな。
こうなれば、ものは試しだ。
俺は食べかけのキビィを完食すると、神父様が持ち歩いている籠からキビィをいくつか取り出した。
そしてその一つを……
「そぉいっ!!」
森狼に向かって放り投げた。
キビィは大きな放物線を描いて森狼に向かって飛んでいった……のだが……
「あっ、やべぇ……」
イメージとしては、あいつらの鼻先に落とすつもりで投げたのだが、俺の投げたキビィはイメージとかけ離れた軌道を描いて、ぽとりと落ちてしまった。
ようは、全然届いていなかったのだ。
そういえば、俺ってば運痴だったわ……
学生時代とか、運動部に所属したことなんてほとんどなかったし……
キビィが落ちたのは森狼からだいたい2~3m程手前だった。
今あいつらが立っているラインがどうやら縄張りの境界線のようなので、これは取りに来ないだろうなぁ……と思っていたら、
「おっ?」
二頭の内の一頭が境界線を越え、すばやく落ちたキビィを銜えて元の位置まで戻っていった。
そして、そのまま食べる……かと思いきや、銜えていたキビィを一度地面に置くとフンフンと匂いを嗅ぎ出したのだった。
食べられるものかどうか確認しているのだろう。
で、確認も済んだところで、さぁ食べようと口を開けてパクリ……としたのは、なんとその場に残ったまま何もしていない方の森狼だった。
あ~、取りに来たやつが口を開けたまま固まってるよ……
“ちょっ、なにしてくれてんの!? それ俺が取ってきたやつなんだけど……”
みたいな顔をしてる……ような気がする。
ってか、ひどいなあいつ。
自分は何もしてないくせに、文字通りおいしいところだけ持っていきやがった……
同じような事を思ったのか、一部始終を一緒に見ていた連中からも“ずるい”とか“ひどい”とか、非難の声が上がっていた。
「たぶんですが……今キビィを食べた方が、持っていった者より位が高いのでしょうね」
そんな周囲の非難の言葉に神父様が、そう説明してくれた。
「森狼はリーダーを頂点とした完全な縦社会ですからね。
下の者は上の者に従う……それが彼らの社会のルールなのです。部外者である私達がとやかく言うことではないのですよ。
さて、そろそろ一度集合する時間ですね……ではみなさん、戻りましょうか」
神父様のその言葉に、皆が一斉に返事をした。
森の散策は、昼で区切り付けて森の外で集合する決まりになっていた。
そこで一度点呼を取り、全員いるか安否の確認を行うのだ。
そして、そこで昼の休憩を挟む。
午後の部からまた散策をするか、打ち切って引き上げるかは自警団の人たちが状況を見て決めることになっているので、現状ではまだ未定である。
森の外へと向かって歩き出す神父様、そしてそれについて行く子どもたち……
そんな中、俺はふと自分の手元へと視線を落とした。
そこには、先ほど籠から取り出したキビィがまだ二つ残っていた。
なんとなく森狼たちの方へと視線を向けると、あいつら未だにこっちのことを見ている。
俺たちがここを離れるまで、ずっと見ているつもりだろうか……仕事熱心なことだ。
俺は手にしていた残り二つのキビィのうち一つを、森狼に向かっておもいっきり投げ飛ばした。
今回はうまく投げれたようで、森狼たちがいる所から少し奥まった場所へと落ちた。
これに上司森狼(さっき、キビィを奪ったやつ)が反応して取りに行ったところを見計らって、残ったもう一つのキビィを下っ端森狼(取られた方)に向かって放り投げた。
鬼の居ぬ間になんとやら……ではないが、こうやって上司を遠ざけてしまえば、あの下っ端森狼にもキビィを食べられるチャンスくらいはあるだろう。
現に、下っ端森狼はすぐさま近づいて来て、フンフンと匂いを嗅いでからパリクと一口に食べていた。
なんというか……
上にいいように使われているこいつの姿に、俺は前世の自分の姿を重ねて見ていた……ような気がする。
俺も前世では、上司に散々こき使われたからなぁ……
下っ端には、下っ端の苦労というのがあるのだ。
たまにくらいは、いい目にあってもいいではないか。
食べ終わったのか、鼻先をペロリと舐めこちらに視線を向ける下っ端森狼と目が合った。
俺はそんな森狼に向かってビシッと親指を立ててみせた。
まぁ、特に意味なんてないし、伝わるとも思ってはいないが……なんとなくだ、なんとなく。
「ロディフィス、何をしているのですか? 早く来ないと置いていきますよ?」
「あっ、すみませんっ! すぐ行きます!」
神父様の呼びかけに振り返れば、いつの間にやら、皆とは随分と離されてしまっていた。
俺は慌てて返事をすると、足場の悪い森の中を早足で追いかけたのだった。
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