前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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53話 森へ行こう その6

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「しかし、少し驚きましたね……」
「何がですか?」
森狼バァルフのことです。
 まさか人が与えたものを口にするとは思いもしませんでした。
 一昔前までは、見かけただけで襲ってくる、なんて事も珍しくはないほど私達人間とは敵対していのですけどねぇ……」

 神父様はしみじみとした様子でそんなことを語った。
 俺達は既に森を出て、集合場所へと向かって移動してる最中だった。
 森を出たこともあり、地面が平坦になって実に歩きやすい。
 さっきまでは張り巡らされた木の根の所為で、地面が凸凹していて歩きにくいのなんの……
 体が子どもの為、体力も子ども並みしかないこの体では、正直もうへとへとだった。
 早く集合場所へと行って、休憩したいものだ。

「彼らの中で何か人間に対する意識の変化でもあったのでしょうか?
 “排除するべき外敵”それが“極力、関わり合いたくない外敵”へと変化して現在は……
 彼らは我々のことをどう認識しているのでしょうね。少し興味が湧く話ではありますね。
 ですが……」

 神父様は一旦そこで言葉を区切ると、俺の事を見下ろした。
q
あの・・行動は、これからは控えた方がいいでしょうね」
「あの行動?」
森狼バァルフに食べ物を与えていたでしょう? あれです。
 私は“食べる訳がない”と高を括っていたのですが……結果があれでは、考えを改めざるをえないですね。
 森狼バァルフは非常に学習能力の高い生き物です。
 もし、あれで“人間は食べ物を持っている”と学習してしまえば食べ物欲しさに人を襲う、なんていう事が起きないとも言い切れませんからね……
 不用意に不安材料を作るべきではない、という事です」
「あ~、そうですね……」

 野生の動物にエサを与えてはいけません、ってのは動物が頻繁に現れる所には必ずと言っていいほど置いてある看板の常套句だ。
 ノラ猫にエサを与えるのを禁止している自治体だってあったくらいだからなぁ……
 その重要性は勿論俺だって理解している。
 理解はしているが……

「ですけど、あいつらともっと仲良くなって人間は敵じゃないって……むしろ味方だって事を理解してもらえれば、そもそも襲ってくる事がなくなるんじゃないか、とも思うんですよね……
 共存共栄って言うんですか?
 近づかず遠ざけるだけが解決方法って訳でもないと思うんですよ」 

 本来は畑を荒らす害獣として駆除するはずだった野生のサルに餌付けをして飼いならし、畑から離した場所に集め観察出来る施設を設けて観光業しとて成功した、なんて話は少なからず聞いた事がある。
 サルたちは殺されずに助かり、行政は観光資源を手に入れ収入面で助かる。
 まさにWIN&WINの関係だ。
 確か、サルだけじゃなく、ネコ島にウサギ島なんてのもあったような気がする……
 別にここで観光業を始めるつもりはないが、その流れで“狼村”なんてものがあっても面白いのではないかと思ったのだ。
 それにあいつら、そんなに敵意剥き出しって訳でもないようなので、なんとなくだが仲良くやっていけそうな気がするんだよなぁ……ぱっと見は犬だし。

「共存……共栄……
 危険であるからと遠ざけるのではなく、むしろ近づき内包する事で無力化を図る……
 ロディフィスらしい斬新な考え方ですね……実に面白い。
 私では到底その考えに至ることはないでしょうね。
 ですが……
 キミのその考えは、希望的観測に過ぎます。
 森狼バァルフが私達にとって危険な生き物である事は事実であり、今の我々の関係が一朝一夕で変わるものでもありませんからね」
「ですよねぇ~」

 無数の狼が村の中を闊歩し、好きなだけもふもふできる村……
 実現できれば、もふリスト(動物をもふもふする人)にとっては、まさに天国のような環境の村なのだろうが、現実とはくも非情なものである。
 まぁ、所詮は希望的観測に彩られた夢計画なので仕方ないな。
 当分は、神父様の忠告に従って餌付けは禁止としよう。
 誰かが森狼バァルフに襲われたとあっては、共存だの共栄だのと言ってる場合ではないからな。
 だがしかし、諦める訳ではない。
 折りを見て、何か懐柔策でも考える事にしよう。
 うまく手懐ければ、森に入るうえでの不安要素は激減するし、活動範囲だって広げることが出来るかもしれない。
 なにも、もふりたいが為だけに仲良くしようって訳ではないのだ。
 そもそも、俺はそこまで重度のもふリストじゃないしな。

 そんな事を話しているうちに、集合場所が見えてきた。
 もう、結構な人数の子どもたちが戻って来ているようで、あっちこっちで一塊の車座になって談笑している姿が目に付いた。

「では、私は戻った事を報告してくるので、この辺りで待っていてください」

 神父様は今一度、俺たちの人数を確かめると“おとなしくしていてくださいね”と釘を刺してから何処かへと向かって歩いていってしまった。
 たぶん、自警団の本部とかそういう所があるのだろう。
 これだけの人数をいちいち点呼なんてとっていたら面倒なので、代表が一人報告に行くとか、そんな感じで現状の人数を確認しているのだろう。

「だぁー! 疲れたぁ!」

 神父様が席をはずすや否や、グライブがその場に大の字になって倒れ込んだ。
 幸いにも下にはいい感じで草が生えているので、休むにはちょうどいい。
 正直、俺も疲れていたのでグライブにならって休む事にした。
 言うまでもない事だが、俺は座っただけだ。
 グライブのように寝転がったりはしない。
 更に続けとばかりに、残りの者たちも思い思いの姿で体を休める。
 内訳としては、寝転がったのがグライブ、リュド、タニアの三人。座ったのが俺、ミーシャ、シルヴィの
三人だ。
 今までは緊張の為か口数が少なく黙っている事が多かった面々だったが、森を出た、という事でその緊張の糸も緩んだのか、他の集団の子どもたち同様に森に入った感想などをあーだこーだと楽しそうに話し始めた。
 やはり一番の話題は森狼バァルフに出会った事だろうか。

「あの森狼バァルフという生き物はとてもかわいかったですわねっ!
 撫でてみたかったですわぁ~」

 と、シルヴィが言えば、

「えっ! “かわいい”じゃなくて“カッコイイ”だろっ!?」

 と、グライブが透かさず返し“いいえっ! かわいい、ですわっ!”とシルヴィが更に返す。
 まぁ、チワワやトイプードルなんかは“かわいい”の一言で済むのだろうが、シベリアンハスキーなんかを見て、“かわいい”と言うか“かっこいい”と言うかは人によって意見が分かれるところか……
 ちなみに俺は“かっこいい派”だな。

「ミーシャはどう思いますの?」

 と、突然のシルヴィからの援護要請を受けたミーシャはといえば、

「えっ? あっ、とその……おっきくて怖かった……」

 と、新たな意見を提示していた。
 遠目に見ただけなので正確な大きさはなんともいえないが、確かに俺が知るシベリアンハスキーやゴールデンレトリバーなんかよりは少し大きかったように思う。
 グレートデンほどでかくはなかった様に思うが……その中間くらいか?

「あれだけでっかかったら、背中に乗れそうだよねっ!
 あたし、森狼バァルフに乗ってみたかったなぁ!」

 まぁ、あれだけ大きければ、子どもくらい背中に乗せれそうな気もする。
 だが、野生の狼を見て触る、撫でるをすっ飛ばしていきなり“乗る”ときたか……
 さすがはタニア、発想がやや斜め上を行っているな。
 一瞬でっかい森狼バァルフに跨って、棒切れ片手に“ウラァーラァー!”とか叫んでるタニアを想像して、そのあまりの似合いっぷりに吹いた。

「ん? ナニ?」

 タニアがいぶかしげ表情で俺のことを見ていたが俺は、

「なんでもない……」

 と、タニアから顔を逸らして誤魔化したのだった。
 今、タニアの顔を見たら、また吹き出しかねんからな……

-------------------------------------

「ヨシュア殿、戻られましたか」

 自警団が“本部”とした場所に顔を出すとフェオドルが開口一番声を掛けて来た。
 “本部”とはいっても、別に何かしら天幕などが設けられている訳でもなく、ただ自警団員が一箇所にかたまっている場所をそう呼んでいるに過ぎない。

「ええ、ロディフィス、グライブ、リュド、ミーシャ、タニア、そしてシルヴィア……
 以上6名戻りました」

 ヨシュアの報告を聞き、フェオドルの隣にいた団員がなにやら手に持った用紙に書き込んでいた。
 帰還者をチェックでもしているのだろう。

「ははっ! ロディフィスの世話ですか、ご苦労が絶えなかったでしょうな、お察しします」
「いえいえ、慣れれば・・・・どうと言うものでもありませんよ。
 むしろ率先して他の子の面倒を見てくれるので、正直助かっています。
 一番下のくせに、よくお兄さん風を吹かせていますからね」
「はははっ! あれは大人ですらアゴで使う時がありますからなっ!
 何時の事だったが、俺も足場・・にされた覚えがありますよ」
「……まったくあの子は……申し訳ない。今度注意しておきますよ」
「いやいやっ! 男の子はあれぐらいわんぱくな方がいいっ!
 まぁ、世話をするとなると御免こうむりたいところですがなっ!」

 がっはっはっ! とフェオドルが豪快に笑うのを前に、ヨシュアもまた苦笑を浮かべた。
 なにせ彼の言い分も理解できなくはないのだ。
 ヨシュアには子どもはいなかったが、例え話としてもし、自分の子供がロディフィスのような性格だったらと考えると、少しばかりぞっとしない話だったりする。
 まぁ、ロディフィスには失礼な話かもしれないが、それが本心なので仕方がない。

「それで、森の様子はどうでしたかな? 何か気になる点や変わったところはありませんでしたか?」

 一頻ひとしきり笑ったあと、フェオドルはヨシュアへそう切り出した。

「そうですねぇ……
 気になる……と言うほどではありませんが、縄張りの見回りだと思われる森狼バァルフを二頭ほどみかけましたね」
「それは何処で?」

 急に声のトーンを下げて、真剣みの増した瞳で問うフェオドルに、ヨシュアはただならぬ何かを感じ取った。

「ここから少し東に行った所ですが……それが何か?」
「いえ……実は他にも似たような報告がいくつもあがって来ていましてね……
 今ので8件目……個体数なら20を超えました。
 同じ固体を目撃している可能性もありますが、それにしても多すぎる」
「我々人間が大人数で森に入った事を警戒している……と言うことですか?」
「いや、それはないかと……
 今までもこうして大人数で森に入った事がありますが、ここまでやつらを見掛けた事はありませんからな。
 まったく別の目的がある、と思った方がよいでしょうな。
 それが何かは皆目見当も付きませんが」
「となると、午後からの散策は……」
「当然、中止にするべきでしょう。
 やつらの目的も分からないまま、子どもたちを連れて森に入るのはあまりにも危険に過ぎると言うものです」

 ヨシュアの考えもフェオドルと同じだった為、その考えに同意を示す様に首を縦に振った。
 現状、まだ戻ってきていない者たちがいるため、全員が帰還次第午後の散策は中止とする旨を皆に伝える事に決まった。
 ふと、ヨシュアの脳裏にロディフィス辺りはこの事を残念がるだろうか?……などと、少し場違いな事を思った。

「ですがまぁ急遽予定を変更することになってしまいましたが、午前のうちにこうして村長からの依頼の品を集める事が出来たのは運が良かったと言う他ありませんな」

 フェオドルはそう言って近くに停めていたヤム車の荷台へと目を向けた。
 そこには籠いっぱいに丸い何かが詰まった籠が、無数に置かれているのがヨシュアの目に留まった。
 籠の中身は、カンブラという植物の塊茎かいけいで一言で言えば芋だ。
 生では無理だが、焼いたり茹でたりと火を通せば食用になる森の恵みの一つだった。
 きっと、自警団員の一部の人間が採取したものだろう。
 寒い土地、痩せた大地でも良く育つので、村で食料が不足しそうな時などに麦を収穫した後の畑に植えて栽培する事が稀にあった。
 ただし、味は決してよろしくはない。
 故に、“稀”なのである。
 しかし……

「なぜにバルはカンブラをこんなに沢山用意させるのですか?
 今年は別に食料に問題が出るような事はないと思うのですが……
 今は現金の収入もあるので、食料を購入すると言う手段も取れるでしょうに、なぜわざわざこの芋を?」
「さぁ? そこまでは聞いとりませんなぁ……
 ただ、“森へ教練に行くなら出来る限り沢山採ってこい”と言われましてね。
 俺ぁ、味があれなんでこいつはあんまり好きじゃないんですがねぇ……」

 ヨシュアは、目の前の無数の籠に目を向けて、顎に手を当ててふむと唸った。
 バルトロは昔から、ヨシュアの想像だにしないような突拍子もないことをするときがあった。
 それで命を救われた事もあれば、死に掛けた事もある……

(そういうところは、バルとロディフィスは似た者同士なのかもしれませんね……)

 などと、昔を思い出してしみじみ思う。
 が、今は村長という村の命運を背負う立場にある以上、村にとって不利益な事をするとは思えない。
 バルトロにはバルトロの考えあっての事だろう。
 それが何かは分からないが、その事に関しては後で問いただせばいいだけの話だ。
 と、ヨシュアは一先ずそう納得することにした。

 その後ヨシュアはフェオドルといくつかの情報の刷り合わせをすると、ロディフィスたちの所へと戻るのだった。
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