前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

文字の大きさ
73 / 85

86話 外見と本質と

しおりを挟む
 “どうする?”と聞かれても、そもそも村長はこの状況下で、俺にどうせいというのだろうか?
 ってか、なんでそんな大事なことをただのガキの俺に聞く?
 ……まぁ、子どもらしい言動をした覚えは何もないけどさぁ。
 俺は、周囲を欺くためとはいえ、某“体は子ども頭脳は大人な名探偵”のように“あれれー? おかしいぞぉー?”なんてネコは被れそうもない。
 一瞬、周囲の大人に子どもっぽく接している自分の姿を想像して……吐き気がした。おっぷっ。
 無理っすわ、やっぱ……

 ん? 若いねぇちゃんに抱きつきたいがために、散々子どもっぽく媚びを振りまいているじゃないかって?
 それはそれ! これはこれ!
 俺ルールでは、まったくの別ものだから、それでいいのだっ!
 ……でも、あれやると周囲の目がものっそいイタイんだよなぁ、特に最近はシルヴィがまるで汚物を見るような目で俺の事を見て来るのだ。
 それはそれで、背筋がゾクゾクする感じがして……って、そんな話はどうでもいいか。

「どうするって言われてもな……俺は正直もっと単純な話だと思ってたよ。
 ヴァルターこいつが野盗かなんかの下っ端でさ、アジト吐かせて先生やクマのおっさん辺りをけしかけて強襲。んで、一網打尽。
 ついでに、ため込んでた金銀財宝かっばっらって、賊は冒険者組合ギルトに突き出せばそれで万事解決ってな。
 それに確か、賊を捕まえると冒険者組合ギルトから賞金が出るんだよな?
 あれっ? もしかして野盗狩りって一粒で二度おいし、い……?」
「また、悪い顔してるよロディ……
 っていうか、ボクやクマーソンさんを犬みたいに言わないでよ……もう。
 一体ボクたちのことなんだと思ってるんだい?」

 そりゃ勿論、村の最大戦力トップ3の内のナンバー2とナンバー3だと思っています。
 当然ナンバー1は、バルディオ副団長だがな。
 クマのおっさんと先生はどちらが強いのか分からないので、一応年功序列ってことでクマのおっさんがナンバー2で先生がナンバー3と、俺の脳内設定ではそうなっている。
 もしこれがタクティカル・シミュレーション・ゲームだったなら、三人ともエース級ユニットだろうな。
 しかも、重量級タンク二枚に軽量級高機動アタッカーが一枚と、実に使い勝手もいいしな。
 まぁ、いったところで伝わらないだろうから、いわないけどね。

 STR・DEFカンストの脳筋ゴリラと、AGI・DEX極振りの高回避・高命中剣士。
 ってか、このステだと先生二刀流にしてシーフとかアサシンに転職した方がいいんじゃなかろうか?
 手数とクリティカルでゴリ押し……みたいな。
 遠距離担当ってことで、魔法使い枠で神父様を入れたいが……あの人の実力って俺知らないんだよなぁ。
 “昔はすごかった”なんて話は聞くけど、実際どれほどのものなのか。
 以前、鎧熊アーベアと戦った時も神父様は一緒になって戦っていたが、俺は俺で人の事を気にしている場合ではなかったので、しっかりとは見ていないのだ。
 って、そんな話をしているんじゃなかったな……
 
「ってか、ロディフィス。
 勘違いしてるようだから教えといてやるが、賊は金銀財宝なんて持ってねぇぞ?
 あいつらは、金がないから賊をしてんだよ。そんな奴らが、お宝なんて持ってる訳ねぇーだろ?
 大体、賞金だって、正式な依頼として引き受けるか、懸賞金の掛かってる様なビッグネーム以外、突き出したところで一リルダにもなりゃしねぇーぞ?
 まぁ、治安は良くなるだろうけどな」

 俺の話を聞いたイスュが、“んなこと当然だろ?”と言いたげな顔で言って来た。

「えっ!? マジかっ!?」

 こう、よくあるファンタジーなお話では、山賊とか野盗って洞窟かなんかに住み着いていて、近隣の村だの町だの行商だのを襲っては金品を巻き上げて、住んでる洞窟にため込んでいる……なんてイメージがあるが……
 何? 所詮ファンタジーはファンタジーでしかないってことか? ショックだ……
 まぁ、確かに考えてもみれば、襲ってる場所が貧しい村とか個人商人とかじゃ、実入りが小さすぎるから、どんなに回数襲ったとしても金銀財宝……ってのにはならないか。
 にしても、賊を捕まえて突き出しても、賞金が出ないとか……治安維持に貢献したから金一封、みたんなのはないらしい。
 ファンタジーも、意外と世知辛いもんだね……
 って、だから、そういう話をしてんじゃないって!

「いやいや! そんな話がしたい訳じゃないんだよ俺はっ!」
「自分から言い出したくせに……」

 先生、五月蠅いっ!

「ごほんっ……俺が言いたいのは、“話の規模が大きすぎる”ってことが言いたいのっ!
 こんな村の存亡に関わる重要な事、本来なら村長が中心になって村人全員で考えることだろ?
 それをなんで俺みたいなガキに、いの一番で聞くんだよ? 普通に考えたらおかしいだろ?」
「勿論、お前の言う通り、皆にも話すし意見も聞くさ……
 だがな、今はまだその時じゃねぇ。
 余計な事を話して、不安を煽っても仕方ないだろ?
 それは、お前からの話を聞いた後で十分だ」
「だからなんで……」
「何今更、“普通の子ども”ぶってやがるんだロディフィス。
 大体な、ガキは自分の事を“ガキ”だなんて言わねぇんだよ。
 ……ロディフィス。お前は、自分が子どもである事、そして周囲の事をよく理解してやがる。
 こっちが寒気を感じる程に……な。
 共同の洗濯場を造る、なんて言い出した時からそうだ。
 作業に必要な人数はどれくらいか? その人員はどこから集めるか?
 必要になる資材は何か? それを用意するにはどうすればいいのか?
 それらの事をお前は一人で考えた。誰に相談する訳でもなくな。
 他の事にしたってそうだ。
 石のランプに、白黒石、浴場造ったり、教会での食事の提供、水路、それに鎧熊アーベアの一件……
 どれ一つとっても、“ただのガキ”に出来る事じゃねぇ」

 村長はそこで一度言葉を区切ると、睨む、という程キツくはないが、真っすぐな視線を俺へと向けた。
 まぁ、村長が言わんとしていることは、分からなくもない。
 教会で椅子と机を作ったことや、銭湯にバーや食堂を入れたこなんかも含めれば、実際はもっと増えるからな。
 こうして今までの事を並べられると、本当に俺もいろいろとして来たものだと思う。
 これでは普通……なんてとても言えんわな。
 とはいえ、実際に手を動かして来たのは俺じゃなくて村の人たちな訳だけどな。
 俺がしている事といえば、提案をして、方法を示しただけだ。あと“魔術陣”というちょっとしたズルを使っているくらいなものだ。

「特に異常なのが、お前のそのカネの使い方だ。
 鎧熊アーベアの件を除けば、“知識”の一言で片づけられることかもしれねぇが、その金銭感覚だけは知識でどうこう出来るもんじゃねぇだろ。
 今まで、この村にゃカネなんてろくすっぽありゃしなかった。使う機会だってほとんどなかった。
 なのにお前は、まるで“使い慣れたものを扱うように”カネを使う。
 それがどんな高額でも“必要”だと判断すれば躊躇がない。
 普通なら、んなこと怖くてよう出来ん……少なくとも俺には無理だ。
 出すべきところには出して、蓄える分はしっかりと蓄える。
 いざって時に、村の助けになるようにってな……」

 村長が言っているのは、日頃からのイスュからの買い物とか、銭湯を作る時のこと、それに今さっきのヴァルターを買収した時のことを言ってるのだと思う。
 特にストップも入らなかったから、かなり好き勝手にやってたからな。
 取り分け、銭湯を立てる時はかなり散財したからなぁ。
 銭湯の建設費用で、村をどれくらいの期間養えたかを考えると……ちょっと無理したかなぁ、と思わなくもない。
 だが、村の人たちだって喜んでいるようだし、何より村に活気が出て来たのでよしとしようではないか。
 ってか、言うにことかいて“異常”って……ひどくね?

「これだけの事をしておいて、今更“ただのガキ”として扱えってのは無理な話だ。
 たとえ、外見が子どもだとしても、俺はお前を子ども扱いしたりなんてしねぇ。
 中身はまるで別もんが詰まってやがるからな。
 村の連中だってそうだ。あまり口にはしないが、皆内心こう思ってんじゃないのか“ロディフィスはバケモノだ”ってな……」
「っ!! バルっ! いくら貴方でもそんな言い方は……っ!」
「黙ってろよヨシュア……俺ぁ今、こいつと話してんだ。
 大体テメェだって、似たようなことは考えたんじゃないのか?」
「っ……」

 その一言に、あの物静かな神父様が声を荒げて怒ってくれていたが、村長の一瞥に押し黙ってしまった。
 俺の事を気にかけてくれているのは大変ありがたいことだが、村長の言ってることもあながち的外れでもないので、なんと言ったらいいものか……
 にしても……“異常”をあっという間に通り越して、遂に“バケモノ”にまでクラスチェンジしてしまった。
 スピード出世だな、おい。

「で、当の本人はまるで気にしちゃいねぇ……てな。
 いつもみたいにボケっとした面してやがる。
 こいつ自身、よく分かってんだよ、自分が“普通じゃない”ってことにな……だろ?
 ロディフィス」
「そりゃ、まぁ……ねぇ」

 村長の言葉に、俺は曖昧気味に頷いた。
 そりゃ“普通”じゃないだろ。なにせ前世の知識を引き継いで異世界に転生してる訳だからね。普通な訳がない。
 バケモノと言われれば、確かにバケモノなのだ。
 仮に前世で“私は転生者です。前世の記憶があります”なんて言うやつが目の前に現れたら、間違いなく不思議ちゃんか、中二病を疑っただろう。
 自分がこんな体験をしている今となっては、割と信じてしまいそうだけど……
 とはいっても、自分から“転生者”だと名乗り出るつもりは毛頭ないがな。
 “転生者”だとバレるくらいなら、頭イッてるヤバい奴、だと思われる方がずっとましだ。
 もし俺が“転生者”だと知られれば、それこそ本当にバケモノ扱いされかねん。
 それに、きっと両親が悲しむ。俺はあの二人が辛そうにしている姿など見たくないのだ……
 ただ、それを理解していても面と向かって、はいそうです私は普通ではありません、と答えるのもなんだか抵抗感があった。
 なんだか、性癖を暴露するみたいで嫌というか、恥ずかしいというか……
 だからこその、曖昧な返事だ。
 曖昧な対応は日本人の専売特許だからなっ!

「ってか、こんな美少年捕まえてボケ面ってひどくね? 村長」
「はっ! “バケモノ”呼ばわりされて、萎縮するどころかこれだぞ、ヨシュア?
 大物なのか、ただのバカなのか……いや、だからこそか。
 だからこそ、初めに聞きてぇんだよ。
 “普通じゃない”お前の考えってやつを、な」

 あれま……俺ってばなんだか村長から、随分と買いかぶられているようで……
 そこまで聞きたいってんなら、てことで俺は取り敢えず思いつくままに案を口に上げることにした。
 実用性のあるなしなど二の次だな。
 会議の質など、いくつ原案が出せるかで決まるものなのだ。
 初めから完璧な案など存在しない。
 いくつもの案の中から、何が良くて、何がダメなのかを検討し、使えそうなそうなパーツを見つけて、それを寄せ集めて一つにするのが会議の本質だ。
 中には、不要な要素を明確化するために、ボツ案こそ重要、という人だっているからな。
 大体、初めから完成形を提示できるなら、そいつ一人いれば事足りる訳だ、そもそも頭数を揃えて話し合う必要などないのだから……
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...