前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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94話 持つ者の責務

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 話し合いも終わり、次々と集まっていた人たちがこの場を後にして行った。
 程なくして、俺と村長の二人だけを残して、この場からは誰もいなくなっていた。

「何だ? おめぇは帰らなねぇのか?」

 一人残っていた俺に、村長はそう話し掛けて来た。
 よくもまぁ、いけしゃあしゃあと……

「わざと残ってたんだよ……
 村長……どうしても、あんたには聞いておきたいことがあるからな……」
「ほぉ……俺に聞きたいこと、ねぇ」

 そう言って、俺の目を真っすぐ覗き込んでくる村長の顔は、先ほどまであった真剣さは何処へやら、いつものあの飄々ひょうひょうとしたものに変わっていた。

「あんた……一体何がしたいんだよ?」

 俺は、普段となんら変わらない様子の村長に、そう問いかけた。
 声変わり前の高い声を、出来るだけ低くして……

「何ってのは、なんのことだ?」
「ふざけんなよ?
 リオット村の人たちのことに決まってんだろ?
 誰もが食いもんで困ってるのを承知の上で、期待感をあおるようなことをしておいて……
 あんたに何か考えがあるのかと思えば、実のところ何にもなしのノープラン。
 いざ助けを求めてきたら突っぱねる……しかも、終いにゃ俺に丸投げって……無責任にも程があるだろ? って話だよ!」

 俺は、村長のことは嫌いではなかった。
 リバーシで負けたくらいで、ムキになったりする子どもっぽいところがあったり、たまにバカな話で盛り上がったり……
 そんな何処か憎めない爺さんだと、今まではずっとそう思っていたのだ。そう今までは……
 冷静に話をしようと、そう心掛けていたのに、あまりに普段通りな村長に、ついつい口調が荒くなる。

「責任ねぇ……
 はて? 俺に一体どんな責任があるって言うんだ?」
「あの人たちをここへ呼んだ責任だよっ!」
「別に俺は“呼んだ”覚えはねぇぞ? 奴等が“勝手に”来ただけだろうが?」
「だからそれは、あんたが村の事を教えたからだろっ!」
「まぁ“互いに近況の報告をしよう”って持ち掛けたのは俺だからなぁ。
 そう言い出した俺に、お前は“うちの村は不作で、食糧難に苦しんでいる”とか嘘言って、奴等が寄ってこないように騙せってのか?
 そいつはいくらなんでも不誠実ってもんだろ……」
「俺は、不必要なことまで伝えることはないだろう、って言ってんだ!」
「……あのなぁ、ロディフィスよ……都合の悪いことは言わず、相手が誤解するように仕向けることと、騙すことの何が違う?」
「……っ!」

 俺は何かを言い返してやろうと口を開いて……言葉が詰まった。
 何が違う? 同じだろうが……
 意図的に情報を制限して、誤った判断へと誘導するのなんて、詐欺の常套じょうとう手段だ。
 “騙すつもりはなかった~。勝手に勘違いしただけだ”なんて、それこそ村長と言っていることが同じじゃないか。
 流石にそれを口にしたら最低過ぎるだろ……
 ダメだな……頭に血が上ってるな……少しは落ち着けよ俺。

「大体、お前の言う“責任”ってのは何だ? “助けを求めて来た奴を受け入れること”か?
 だとするなら、しっかりと“責任”は果たしただろ?
 過程はどうあれ、お前の提案でリオットの奴等を受け入れることが決まった。
 リオット村の奴等は、うちに助けを求めて無事受け入れられました。めでたしめでたし。
 ……ほれ? 結果だけ見りゃ、何処に問題があるよ?」
「そんなのは結果論だろ!」
「ああそうだな。だが、結果は結果だ」
「もし俺に何の案も出せなかったら、あんたはどうするつもり……っ!」
「んなもん、勿論見捨てるさ」

 村長は、俺の言葉を叩き切るようにして、自分の言葉を捻じ込んで来た。

「なぁ、ロディフィスよ……このに及んで“もし”なんて仮の話をして何になる?
 リオットの奴等がこの村に来た。で、お前の提案で受け入れることになった。
 それがすべてだ。
 確か、お前はこう言っていたな……“出来る事なら助けたい”ってよ。
 で、望み通りの結果になった訳だ。
 なのに、さっきからお前の話を聞いてりゃ、まるで“本当は助けたくなかった”って言ってるように聞こえるぜ?」
「っ!? そんなこと……っ!」
「“ない”ってか?」

 まるで心の内すら見透かすような、そんな目で村長は俺の事を見下ろしていた。
 本心を言ってしまえば、俺は村のみんなはもっと反対するものとばかり思っていたのだ。
 最初から反対派だった村長に関しては尚更だ。
 それが蓋を開けてみれば……
 正直に言おう。俺は皆が反対することを願っていたのだ。
 俺だって、リオット村の人たちを、助けられるものなら助けたいと思う。
 これは、いつわらざる本心だ。しかし、それは自分が安全圏にいればこその考えだ。
 自分の身を切ってまで、知らない誰かを助けられるほど、俺は聖人ではない……

「俺がリオットの奴等を追い返そうとしたとき、お前は何も言わずにだんまりを決め込んでいるだけだったよな?
 はなから連中のことを見捨てるつもりだったんだ。
 シルヴィアの奴が何も言いわなけりゃ、これ幸いに追い返していたことだろうよ。
 もし、初めからお前に奴等を助ける意思があったなら、もっと早い段階で話を振っていたはずだ。
 なのにお前は何もしなかった。何も言わなかった。
 ただ傍観しているだけだった……
 それでよく“そんなことはない”なんて言えたもんだな」
「…………」
「結局、お前が“考えがある”なんて言い出したのだって、話の鉢が回って来た最後の最後、それこそどん詰まり行き着いたときだ。
 それも、咄嗟とっさに思いついたとは思えない様なことをサラっと言いやがった。
 どうせ頭の回るお前のことだ。こうなる事すら考えの中にはあったんだろうよ」

 確かに、村長の言うように他の村から避難民が来るかも……ということを考えたことはあった。
 そのときに出した答えが、魔道具の販売による資金の確保、という方法だった訳だ。
 これなら貴族相手に戦うより、ずっと被害が少なくて済む。
 だが……

「ああ……村長から、周辺の村が不作だって話を聞いたときから、こうなる可能性はあるだろうな、とは思ってたさ。
 だけど、あの方法だと、村のみんなに負担を掛けることになる……
 だから……出来ることなら、選びたくない方法だったんだよ……」
「じゃあ、なんでお前はそれを最後になって口にした?」
「それは……」

 口を開いたはいいが、結局、続けられる言葉が見つからず、喉を詰まらせる……
 なんだか、今日はこんなのばっかりだな。
 そんな俺を、村長は一瞥いちべつすると、れ見よがしに大きなため息を一つ吐いてみせた。

「……お前は自分が言っていることに、筋が通ってないことが分かんねぇのか?
 初めは見捨てるつもりだった。なのに、突然助けるとか言い出してよ。
 最後まで言わなかったのは、村の連中の負担に掛けたくなかったから、だぁ?
 そんなに村の連中が大事だってんなら、最後まで黙っておくべきだったんじゃないのか?
 リオットの奴等を、追い返すべきだったんじゃねぇのかよ?
 現にお前が考えを口にしたことで、リオットの奴等を村で受け入れることになって、村の連中への負担は増えた。
 本末転倒もいいとこだ」
「それは……俺が決めたことじゃないだろ……
 村長……あんたが決めたことだ」
「そうさせたのはお前だろ? ロディフィス。
 お前が何も言わなけりゃ、こんな話し合いをする必要も、奴等を受け入れることにもならなかった。
 違うか?」
「…………」

 返す言葉が思い付かなかった……
 ただ黙るだけの俺を見下ろし、村長は言葉を続ける。

「お前に自覚があるのかどうかは知らんが、ロディフィスお前はただ逃げようとしているだけだ。
 重てぇ荷物をかなぐり捨てて、さっさと逃げ出したいだけなんだよ。
 お前が村の連中を守りたいってのは本心だろう。そこは疑わねぇ。
 だが、そのためにリオットの奴等を切り捨てる決断から、お前は逃げた。
 そりゃそうだ。誰だって相手に“死ね”なんて言いたくわないわな……
 だからお前は、その判断を村の連中に押し付けたんだ。
 自分が嫌な思いをしたくないがためにな……
 だが、結果はお前の思ったものとは違った。
 だから、お前はさっきからそんなにイラついてるんだろ?
 で、挙句の果てに村への負担を増やしただけってな……
 さっき、責任がどうの……なんて話が出たが、この結果を招いたのはお前の責任だ。
 村を優先させたいなら、明日、自分の口でリオットの奴等に直接“出ていけ”と言うんだな。
 それが嫌なら……この事態の責任を取れよロディフィス」

 いちいち、村長の言葉が俺の胸をえぐる。
 村長の言っていることは、間違いはなかった。
 なにより、そんなこと誰に言われるまでもなく、俺自身が一番よく分かっていることだった。
 だけど……

「なんで俺が……そんな重大なことを決めなくちゃいけないんだよ……
 俺は子どもで……」
「都合のいいときだけ子どもぶるのは止めろと言っただろ?
 出来る奴が出来ることをする……今まで、そうやってこの村はやってきた。それはこれからだって変わらねぇ。
 そこには、大人も子どももねぇんだよ。
 お前はお前の“出来ること”をしなくちゃならねぇ。
 それが今を生きてる者の務めってもんだ……」

 村長はそこまで話すと、おもむろに出口へと向かって歩き出した。

「今日はもう遅いからお前も帰れ。
 明日、リオットの奴等と話をする。その場にはお前も来い。
 そこでこれからどうするのかは、お前が話せ。
 それがお前の責務だ。
 ……逃げるな。覚悟を決めろよロディフィス」

 俺は立ち去る村長に声を掛けることも出来ず、ただ静かにその背中を見送ることしか出来なかった……
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