最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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六七話

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「やっぱり知っている奴だったのか?」
「ああ、奴の名はギュンター・バンディル。王国騎士団に所属していた騎士だ」
「元? ってこは、今は騎士ではないと?」 
「ああ。奴は今から半年程前、突然、王城の宝物殿から秘宝具を盗み出し逃亡したのだ。
 その際、止めに入った騎士三二名、また逃走中に市民一四六名を惨殺し、騎士団から除名された。
 現在は凶悪な殺人鬼として、目下、指名手配し国内を探し回っていたところだ。
 国外に出たという話しは聞いていなかったから、未だ国内にいるだろうとは思っていたが……よもやこのような場所に潜んでいたとはな」

 俺の問いかけに、セリカは歯噛みしながらそう説明してくれた。

「おいおい、アンジェリカ。それじゃ俺がただの・・・盗人騎士みたいに聞こえるだろ? 説明が足りないなぁ。
 ギュンター様は、次期七星騎士、剣の星騎士の候補だったチョー強い騎士様、だろ?」
「七騎士?」

 聞き慣れない単語が出て来たので、それとなくセリカに解説を求める。

「騎士の中で、特に武勇に優れた七人の騎士に与えられる称号のことだ」
「つまり、こいつがその最強の一角の候補にいたってことか?」
「ああ、業腹ではあるがな。素行の悪さから候補止まり・・・・だったが、その実力は本物だ。私など、足元にも及ばない程にな……」
「なるほどね。セリカが会いたくないといっていた理由がそれか。理解したよ」

 しかし、セリカがビビるくらいの強さってどれだけだよ、と思い【身体解析フィジカルアナライズ】を使い、奴のステータスをチェックしてみると……

 【STR 674
 【敏捷性AGI】 1365
 【生命力VIT】 756
 【魔力MAG】 558
 【頑丈さTAU】 879
 【器用さDEX】 834

 うっわ……確かにセリカよりずっと高いな。総合的に見れば、ブルックより上なのではないだろうか?
 まぁ、ブルックの場合は欠損デバフの所為でステータスが減少してアレだからな。元の数値を考えたら、ブルックの方が上なのではなかろうか?
 これならセリカがビビるのも頷ける。とはいえ、それでも俺の敵ではなけどな。

「にしても、なんでそんな奴が騎士団に?
 騎士団というと、セリカみたく正義を愛し悪を討つ、みたいなイメージがあるが実際は違ったりするとか?」

 と、ふと感じた疑問をセリカに聞いてみた。
 まぁ、エルフ誘拐に加担していたクズーム騎士爵も、あれで一応は騎士なわけだしな。
 それに漫画や小説では、騎士様が権力を振りかざして民を虐げることは、よくあるといえばよくあるシチュエーションである。

「まさか。奴を基準に考えないでくれ。あれが異常なだけだ。
 我が国には、騎士家に生まれた男児は、生涯に一度は必ず騎士団へと入団させられる仕来りがあるのだ。
 バンディル家といば、ノールデン王国では名の知れた騎士の名門。当然、ギュンターもまたその仕来りに則り、騎士団へと入団しなければならなかった……否、させなければならなかった、と言った方が正確なのだうな」

 要は、徴兵義務みたいなもんかな?

「これで病弱であるとか、身体的に騎士に向かないという理由でもあれば、入団を免除出来たのだろうが……
 奴は剣の腕だけ・・・は確かだったがために、時の軍務卿も奴の入団を拒否出来なかったのだそうだ」
「なるほど。性格は考慮されない、と。てか、そこが一番大事なところだと思うんだが?」
「それに関しては私も同感だ。
 ただ、現バンディル家の御当主であらせられる奴の兄上、ウェイク様は騎士団の厳しい訓練の中に身を置けば、奴のその歪んだ性格も多少は改善されるのではないかと期待していたようだがな」

 セリカの口ぶりから察するに、兄貴は普通な人みたいだな。

「グレた弟の更生を願う兄貴の期待空しく、か」
「そういうことだ」
「おいおい、好き勝手言ってくれんじゃねぇーか? こっちにだって言い分はあるんだぜ?」

 それまで大人しく俺達の会話に聞き耳を立てていたギュンターが、やれやれとでも言いたげに大仰に肩をすくめて見せた。
 
「こちとら毎日マジメに職務をこなしてただけだって言うのによぉ、やれ法令だ、やれ礼節だ、やれ騎士の誇りだと毎日毎日グチグチとうるせぇったらねぇ。
 そんなじゃ嫌になって、辞めたくもなるだろ?
 だから退職金代わりに、宝物庫からちょろっとお宝くすねて除隊した、ってわけさ」
「ふざけるなっ! なにが真面目にだっ!
 スリを見つけてはその場で斬殺。通りで喧嘩があれば両名殴殺。無銭飲食に対しては川に沈めて溺死っ!
 これのどこが真面目だと言うか!」

 想像以上にえげつないことをしていたギュンターが、事も無げに飄々とした態度でいることにセリカがブチギレていた。
 その形相たるや、正に般若のそれだ。 
 そりゃ真面目なセリカにしたら、ギュンターのしたことが到底許せるものではないのだろう。

「悪い奴はブっ殺す。それが騎士ってやつの務めだろ?」
「なんでも殺せばいいといものではないっ!
 罪には相応の罰があると言っているのだっ! 貴様のそれは過剰だと言っているっ!」 
「だかよぉ、そこがまどろっこしいつってんだよ。
 はい、殺して即解決。ほれ? 早い上に簡単だ」
「貴様ぁっ!」
「いっ、いつまでそんな下らないことを話しているのだギュンターよっ!」

 キレるセリカを他所に、すっかり忘れられた存在になっていたバハルが唐突に話しに割って入って来た。
 ああ、そういえばこいつを捕まえるのが本題だったっけ。

「さっ、さっさとその賊共を始末せぬかっ! そいつらの次は、屋敷には侵入した不届き者共だ!」
「へえへえ、わぁってますって。一応こっちも世話になっている身ですらねぇ。その分は働きますよぉ。
 ただ、あんたは一旦どっかに身を隠した方がいいな。
 いくら俺様がチョー強くても、あんたを守りながらってぇのは、ちと面倒だ。うっかりすると、あんたまで殺しちまうかもしんねぇしな」
「うっ……し、しかしギュンターよ……屋敷も既に囲まれ、地下水路もこ奴らに抑えられているというではないか……
 隠れると言っても、何処へ隠れればいいと言うのだっ!」
「屋敷の包囲に地下の制圧だぁ?
 ……はっはっはっ、そいつは良い冗談だっ!」

 バハルの話しを聞いて、何がそんなに面白かったのか、ギュンターが大声を出して笑い出した。

「笑いごとではないだろうギュンター! だから貴様に速く何とかしろと言っているのだっ!」
「まぁまぁ、落ち着けよバハルさんよ。そいつぁきっと張ったりブラフだ」
「張ったり、だと?」

 ギュンターのその一言に、セリカの頬が一瞬、緊張に震えたのが見えた。

「その女が出張って来てるってぇことは、ここに来ているのは“女神の天秤”の奴らだろ?」
「女神の天秤? なんだそれはっ! そんな騎士隊が存在するなど、聞いたことがないぞ!」
「そりゃそうだろうよ。
 “女神の天秤”ってぇのはな、従来の騎士では手が出せない、お貴族共が絡んだ人身売買や違法物の取引、密輸とか、そうした案件に極秘裏に対応するために作られた、女王肝煎りの特殊騎士隊のことだ。
 あんたが知らないのも当然な話しだな。ただ……」

 そこで、ギュンターは勿体ぶる様に言葉を切る。

「そう言えば聞こえは良いが、その実態は小娘・・が我儘で作った私兵の集まりの様なもんでなぁ。
 色々と多くの権限こそ与えられちゃあいるが、その特殊な性質上、所属している騎士の数自体はすげー少ないのさ。
 具体的な人数までは流石の俺様も知らないが、少なくとも、部隊をいくつも分けられる程はいないだろうよ。
 屋敷を包囲している奴らに、突入部隊……そう言えば、地下水路のことを知っていたんだったな。
 てことは、牢に監禁していたあのエルフ共は回収されちまったか。
 まぁ、お優しいこいつらのことだ。そこに護衛を何人か付けているとして……
 そうなれば、もう地下を制圧するだけの人数なんて残っちゃいないだろうよ。だから、逃げるなら地下に行きな。そこなら安全だ」
「ほ、本当なんだろうなギュンターっ!」
「俺様の勘は外れたことがねぇんだよ。なぁ、アンジェリカ?」
「くっ……」

 ギュンターが得意そうに向ける笑みに、セリカが小さく呻き声を上げた。
 内情を知っている奴が敵側にいるってのは、本当に面倒な話しだ。完全に手の内を読まれている。

「ってこった。掃除が済んだら特別に迎えに行ってやっから、あんたはとっとと逃げな」
「う、うむ。任せたぞギュンターよ。無事に事が片付いたのなら、貴様には思うままの褒美を取らせてやろう」
「ヒュ~、そいつはやる気が出るねぇ~」
「行くぞ! ゼバスっ!」
「はっ、はい! バハル様っ!」

 そう言うと、バハルは小走りにギュンターが出て来た扉へと向かった。多分、非常時に備えて崩していない地下へと向かう階段が残されているのだろう。
 用意周到なことだ。

「待てっ! バハルっ!」
「おっと、これも仕事なんでな。素直にここを通すわけないだろ?」
「くっ……」

 しかし、セリカが逃げるバハル達の後を追おうにも、当然、それを阻むようにギュンターが立ち塞がった。
 こいつを倒さない限り、先には進めない。と、そんなところなんだろうが……しかし、それはあくまで二人で追うなら、というだけの話しだ。
 好都合にもこちらは二人。
 どちらがか囮となり、ギュンターの気を引いているうちにもう一人がバハルを追う。これが定石セオリーってところだな。
 俺なら苦も無くこいつを倒せるし、そこにわざわざセリカを付き合わせる必要はない。
 なら、ここは俺が引き受けて、セリカをバハルの追跡に向かわせるのが最適解だろう。と、俺は考えたのだが……

「スグミ。私が奴の気を引く。ここは私に任せてお前はバハルを追ってくれ」
 
 腰に下げていた細剣に手を掛けながら、セリカがそんなことを言って来た。
 どうやら、お互い同じようなことを考えていたらしい。
 しかし、だ。
 セリカのその横顔には鬼気迫るものがあり、額を一筋の汗が流れ落ちる。
 死すら覚悟したような、険しい表情。少なくとも、十代の娘さんがするような顔じゃない。
 俺はそんなセリカの手に自分の手を乗せ、剣を抜くのを押し留め一歩前へと出る。
 まったく。ビビってるくせに無理をしてからに……

「何のつもりだ?」
「それは俺の役目じゃないだろ? それをするのは、騎士であるお前の務めだセリカ。手段と目的を履き違えるなよ。
 お前は何のためにここに来た? バハルを捕らえ、攫われたエルフ達を助けて、今後、そうした被害者を出さないようにするためじゃなかったのか?
 なら、今お前がしなくちゃいけないことは、ここでそいつをボコることじゃない。
 逃げたバハルを捕らえることだ。違うか?」
「それは……そうかもしれないが……だが……」
「だったら、露払いは俺に任せてお前が奴を追え」
「しかし、相手はあのギュンターだ……貴殿は奴の強さを知らないからそんなことが……」
「奴のステータスなら大体把握してるつもりだ。俺なら大丈夫。あんな奴程度には負けやしないよ。お前を負かした男の力を、少しは信用しろ?」
「別に貴殿の力量を疑っているわけではないのだが……はぁ、分かった。ならば、ここは貴殿の言葉に甘えさせてもらうとしよう。
 ただし、無理はしてくれるなよ。足止めが出来ればそれで十分なのだからな。危ないと思ったらすぐに逃げろ」
「別に、ここで倒してしまっても構わんのだろう?」
「……言うじゃないか。そこまで来ると寧ろ頼り甲斐すらあるな」

 本来なら、盛大な負けフラグセリフなのだが、当然そんなことを知らないセリカには額面通りの言葉として受け止められてしまったようで、軽く笑われながらそう言われてしまった。

「俺様を倒すだぁ~? 貴様みたいなクソザコが? 俺様を? こいつは笑わせる! 最高だ!」

 で、額面通りに受けった奴がもう一人。

「いいぜ~? なら、まずはテメェから相手をしてやる。ついでに、身の程ってぇやつも教えてやろうじゃねぇか。
 だがなぁ、俺様先生の授業料は高けぇんだよっ! お代は調子に乗ったテメェの命で支払いなっ!」

 そう言うと、ギュンターが背中に背負っていた長剣を流れる様に抜き放つ。
 ここは天井の高い部屋ではあったが、それでも成人男性の身の丈程もある長剣だ。
 そんな物を室内で振りかぶれば、当然、その切っ先は天井へと届き、自由に振ることなど出来ないはずなのだが……
 長剣は天井に突き刺さりながらも、その動きを止めることなく、むしろ、石で出来た天井がまるで紙か布でも切り裂く様に意にすら介さず、その凶刃が俺へと向かって襲い掛かる。

「死ねっ! 口だけ野郎のクソザコがっ!」
「スグミっ!」

 まるで絶叫するようにセリカが俺の名を呼び、咄嗟に俺を庇おうと前に出ようとするが、それを俺がぐっと押し留めた。
 まぁまぁ、そう慌てなさんな。
 ギュンターが長剣を振り下ろした、そのほぼ同じタイミングで、ドカンっと派手な音を立てて、壁を突き破って黒い何かが猛烈な勢いでギュンターへと飛来する。

「なんだっ!? っ!? クソがっ!」

 まずは音に驚き、次いで、慌ててギュンターは飛来物を手にした長剣で弾く。と、ゴィン、という重い金属同士が激しくぶつかり合う重低音が室内に木霊した。
 弾かれた飛来物は、飛んで来た時の勢いそのままに、軌道をずらされ天井へと深々と突き刺さる。
 天井に突き刺さったそれは、一本の真っ黒な大剣だった。

「チっ、まだ誰か隠れてやがったのか……」
「セリカっ!」
「うむっ!」

 ギュンターの意識が俺達から外れ、大剣が飛んで来た方へと視線が向いたその瞬間。
 俺はセリカへと合図を送ると、分かっているとばかりに短い返事と共に、セリカが勢いよく駆け出していた。

「チっ! しまった!」

 セリカはその一瞬でギュンターの脇をするりと躱すと、バハル達が逃げて行った部屋へと辿り着く。
 空かさずギュンターがセリカを追おうと、壁に背を向けた瞬間。
 ドカンっ、と二度目の崩壊音が響き、再度、黒い凶弾がギュンターを襲った。

「クソがっ! 何度もうぜぇんだよっ!」

 しかし、それもまたギュンターが素早く反応したことで弾かれてしまい、今度は床へと突き刺さる。
 惜しかったな。うまくすれば、背中に一撃を叩き込んで終了だったんだが……そう簡単には終わらせてはくれないらしい。

「素直に追わせるわけがないだろ? 言っただろ? お前の相手はこの俺だ」

 苛立たし気に崩れた壁を睨むギュンターに、俺は奴の言葉を引用して叩き返す。

「ザコが舐めた口を利きやがる……いいぜ? ならお望み通りまずはテメェから殺してやるよっ! 泣いて喜びなっ!」

 そう言うと、ギュンターはその長剣の切っ先を俺へと向ける。
 これで奴のヘイトは俺に固定された……はずだ。

「スグミ」

 俺とギュンターが睨み合う中、ギュンターの背後に回ったセリカが、何を思ったのか一旦足を止めて俺へと振り返った。

「そいつが宝物殿から盗んだ秘宝具は剣の形状をしているという話しだ。おそらく、その手にしているのが盗んだ秘宝具だろう。
 ただ、その秘宝具に関して詳細な情報が残っていないため、どんな能力があるのかは不明だ。
 なにせ、かなり昔に宝物殿に封印・・された、という文献しか残っていないかったからな」

 献上された品でもなければ、王家に代々伝わる宝物でもなく、封印ね……
 つまりは、何かしらの曰く付きの品、ということか。呪いのアイテムとか、そんな感じなのかね。
 何にしても、得体の知れないアイテムだ。その能力には注意を払っておいた方がいいだろうな。
 
「それと、参考になるかどうかは分からんが、ギュンターは執拗なまでに相手を嬲る悪癖がある。頭の片隅にでも置いておいてくれ。
 ……スグミ、気を付けろ」
「いや、能力持ちの装備だってことが分かっただけで十分だ。
 助言、有難く頂戴しておくさ。それより、お前はさっさとあのブタカエル男爵を追いかけろ。見失うぞ?」
「ふっ、ブタカエル男爵か……そんな可愛げがあるものではなかろうに……死ぬなよ」
「セリカも逃がすなよ」

 セリカはギュンター越しに小さく頷くと、そのまま部屋の奥へと消えて行った。
 
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