最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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七七話

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 こうして、バハル暗殺の首謀者である、クズーム騎士爵の秘書だった女を取り逃がしたセリカは、取り敢えず証拠となるバハルの生首だけを手にして帰還した。ということらしい。

「しかし、転移符……ですか。もし本物であるとすれば等級は間違いなく賢者ワイズマン級の品。
 これはいよいよ持って、我々の手には余り出した事件になって来ましたな……」

 セリカの話しを一通り聞き終わると、グリッドが険しい表情を浮かべてそう呟いた。

「どういうことだ?」

 グリッドが、あまりに深刻な表情を浮かべていたのが気になり聞いてみる。と、その説明をグリッドではなくセリカがしてくれた。

「スグミは譜術符スクロールというものは知っているか?」
「ん? ああ、まぁな。誰でも簡単に魔術が使えるアイテム、ってことでいいのか?」

 俺が知る、ゲーム知識における一般的なスクロールについてそう答えると、セリカはコクンと小さく頷いて見せた。

「概ねその認識で正しい。それでその譜術符スクロールなのだが、大きく四つの種類に等級分けされている。
 一番下が見習いアプレンティス級。二番目が修士マギスター級。三番目が魔導師ウイザード級。そして四つ目の最上位が賢者ワイズマン級だ」
「で、それがどうかしたのか?」
「ああ、大問題だ。
 見習いアプレンティス級なら市場にいくらでも出回っている。修士マギスター級でも品質・価格の大小はあれど、まぁ入手出来ないことはない。
 しかし、魔導師ウイザード級ともなれば市場で見かけることはまずないだろう。
 入手するには、それ相応のルートが必要になるからだ。
 それが賢者ワイズマン級ともなれば、言わずもがな」
「それだけ入手困難な物を、相手さんは持っていた、と?」

 俺の言葉に、セリカはまた静かに黙って頷いた。

「そもそも、賢者ワイズマン級はそれ一枚が強力な破壊力を有している危険な代物だ。
 それこそ、戦略魔術兵器と呼ばれるくらいにな。
 故に、賢者ワイズマン級の譜術符スクロールは国が厳重に保管・管理・監視を行っている程で、世に出回ることなど決してない。というか、あってはならないことなんだ」

 ああ、確かにそりゃ大問題だわな。
 簡単にいってしまえば、国の管理が必要なレベルの兵器を個人が所有していたって話しだ。
 セリカの話しでは、女秘書が使ったというスクロールは、ただ転移するだけの効果しかないものだったようだが、考え方によっては、何時、何処からでも要人を暗殺可能で、かつ、証拠も残さずその場から消え去ることが出来る代物ということでもある。
 確かに、国が責任を持って管理・保管する必要があるわな。

 しかし、この話しはそこで終わらない。何故なら……

「最悪、国の中枢に位置する人間に、敵さんと内通している者がいるかもしれないってことか……」

 要は横流しだ。
 国家管理されているようなレベルの代物が外部流出しているとなると、盗まれた可能性より内部から故意に流出させた者が居ることを疑った方が自然だからな。

「あと、考えられる原因としては……例えば、製作者がこっそり売買してるとかは?」

 現物があるということは、それを作った者がいるということだ。
 その可能性についてセリカに聞くと、セリカは首を横に振って見せた。

「ないな。製作可能な人物もまた、国によって保護・監視の対象になっている。
 国からの制作依頼があれば別だが、個人が簡単に制作出来る環境にはないのだ。
 そもそも、賢者ワイズマン級の譜術符スクロールともなれば、その製作には特殊でかつ貴重な素材を数多く使うことになる。
 材料を揃えるだけで相当な苦労をするため、およそ個人製作出来るような物でもない」

 まぁ、そりゃそうか。と、セリカの言葉に納得する。
 喩え十分な知識はあったとしても、肝心の素材が無くては話しにならないからな。
 例えるなら、核兵器を個人製作出来るような奴がいたとしよう。
 しかし、材料なんてコンビニでお手軽に揃うはずもなし。
 希少な素材をこっそり集めているような奴がいれば、すぐにそれと分かるというわけだ。

「まぁ、類似の可能性を挙げるとするなら、賢者ワイズマン級の譜術符スクロールを制作可能な者が在野に埋もれていたか、だが……」

 所謂、野良の天才というやつだな。
 確かに、核兵器を個人開発出来るような人物が、誰の監視も管理も受けていないというのはあまりに危うい状態ではある。
 いくら材料を揃えるのが大変だとは言っても、逆を言えば材料が揃いさえすれば製作は可能だということでもあるからな。
 その人物がその気になれば、好きな時に、好きな所を、自由に破壊出来ると言うことだ。まさに、テロし放題だ。
 勿論、本人にその気は無くても、セリカ達が相手にしているのは性根のねじ曲がった犯罪組織。
 その才能を利用して、無理やり犯罪に加担させている、という可能性も十分にある話しだ。
 故に、そうした才を持つ者を邪な考えの者達から守るため、また暴挙を起こさせないためにも、国による保護と監視が必要だってことなんだろうな。

 とはいえ……

「しかし、今何を話したところで憶測の域を出ない。その可能性もあると、頭の片隅にでも置いておくくらいでいいだろう。今考えても仕方のないことだからな。
 それよりも、まずは王都の魔導省に連絡を取り、保管している譜術符スクロールの数に狂いがないかチェックを行う方が先だ」

 俺もセリカの考えに同感だと頷いて見せた。
 空が落ちて来るかもと不安に怯えるより先に、今出来ることを進める方が堅実的だからな。
 それにしても、高々・・転移系のスクロールで賢者級ねぇ……
 アンリミでは割と一般的なアイテムだったんだが、まぁ、ゲームのアイテムと現実の道具を比較するのも間違いなような気もする。
 とはいえ、少しばかり拍子抜けしてしまう。

「で、スグミの方では何があったのか聞かせて貰えないだろうか?」

 と、セリカが今度は俺の方について聞いて来たので、セリカと別れてからのことについて簡単にまとめて話すことになった。
 まぁ、主にギュンターとの一戦に関してだが。

「つまり、この状態でギュンターはまだ生きているというか?」
「ああ。今はただ封印されているだけだからな」
「あのギュンターを生け捕るとは、スグミ殿は想像以上に腕が立つようですな」

 で、俺から話を聞いてセリカとグリッドの二人がしきりに感心していた。

「専用の解除アイテムで封印を解くことが出来るけど……解除するか?」
「いや、このままにしておいてくれ。今解放されたところで我々にギュンターに構っている余裕はないからな」

 ということで、ギュンターの放置プレイが決定した。
 ついでに、この状態では外部からの破壊はほぼ不可能だということも伝えておく。

「それは好都合だな。ギュンターもまた重要な参考人だ。バハル同様暗殺されても困る。この状態なら、その心配も要らないというわけか」
「そうだ。解除アイテムは先にセリカに渡しておいた方がいいか?」
「……いや、今はまだスグミが持っていてくれ」
「なんでまた? こういうのは責任者が持っていた方が何かと都合がいいだろう?」
「そうかもしれないが、単純に私が管理するより、今はまだお前が持っていた方が安全だろうと思っただけだ」
「安全って……俺は部外者だぞ? それでいいのか?」
「何を今更。これだけの大役をこなして部外者もクソもないだろう?」

 セリカの言葉に、グリッドも大きく首を縦に振って頷いていた。
 それでいいのかなぁ、と思いつつも、そんなこんなで結晶牢プリズム・プリズンの解除アイテム、解晶鍵ブレイクキーは俺が預かることになった。

 と、なると、だ。
 これで粗方の戦闘行為はもう終了したと見ていいだろうな。
 ということで、俺は黒騎士のオンになったままになっていた【潜在開放】をオフにする。
 もしかすると、逃げた女秘書が仲間を連れ戻って来る可能性が無きにしも非ずだが、それを警戒してスキルをオンのままにしておくのもMPの無駄になる。
 いざとなれば、俺の精神がめっちゃすり減るが、あの恥ずかしい発動句をまた口にすればいいだけだ。
 ……精神はめっちゃすり減るがな。

 ちなみに、【蟷螂之斧とうろうのおの】の方は、ギュンターが戦闘不能になった時点でオートでオフになっている。
 あれは、指定対象との戦闘限定のスキルなのだ。

「あっ、そういえばあいつが持ってた剣も一応預かっているんだが、そっちはどうするよ? 今、返そうか?」

 と、俺はインベントリに収納していたソウルイーター(仮)改め、三七式術装長剣(最終型)を取り出し、セリカに渡そうとしたのだが、セリカは剣を一瞥すると首を横に振って見せた。

「いや、それもまとめて一先ずスグミが預かっておいてくれ。正直、今渡されても管理に困るのが実情だ。
 お座なりに管理し、誰かに奪われたでは目も当てられん」
「アイアイマム。んじゃ、俺は倉庫代わりにでもなってますかね」

 そう答えて、俺は三七式術装長剣(最終型)をインベントリに戻す。

「自らが強力な戦士でもあり、強奪不可能な倉庫とは随分と心強いな。 
 遠征の時など、兵糧を蓄えて共に行軍してくれたらどれだけ心強いか。
 どうだ? 騎士に志願するつもりはないか? お前ほどの実力なら、高く評価するぞ?」
「おっ? スカウトか? 悪くないが遠慮しておくよ。
 俺はよそ者だからな。この国の為に命を掛けて戦え、とか言われてもピンと来ない」
「そうか。それは残念だ」

 と、セリカの本気とは思えない軽口を交えつつ、お互いの話しが一段落した時……ドドドドっと、廊下の方から誰かが勢いよく駆けて来る足音が聞こえて来た。
 何事かと思い、俺、セリカ、グリッド、イオスの四人の視線が開け放たれたドアへと注がれた。

「隊長っ! セリカ隊長は何処かっ!」

 そこに一人の男が、息も絶え絶えといった様子でドアから姿を現した。ローブこそ羽織ってはいるが、普通の服を着た一般市民風の男だ。
 顔の所々が煤けているのが気になったが、その顔自体には見覚えがあった。
 彼もまた、歴としたセリカの部下である騎士の一人で、騎士団の一員である。
 ガチムチが蔓延るセリカの部下の中で、数少ない見た目が普通な人だったから、良く覚えていた。
 確か彼は、騎士団の詰め所の方を監視していた部隊に配属されていた人だ。
 この慌てよう、向こうで何かあったのだろうか?

「私はここだっ! 何があった!?」

 セリカも緊急事態を察したのだろう、声を荒げて男に報告を促した。

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