最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一〇七話

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 ピピピピピピピ……

 脳内アラームで目覚めた俺は、オプション画面を開いてアラームを停止する。
 一夜明け、翌日。

 ここは、ノマドさんが俺用にと貸し与えてくれた客室だ。
 俺はベッドからのそのそと這い出ると、寝間着からからいつもの服装へと着替えるため、目の前に装備画面をAR表示させる。
 これは新たに判明したことだが、さり気に『アンリミ』の装備変更機能が健在だった。
 『アンリミ』で装備を切り替える際、普通に脱いだり着たりなんてことはしない。
 装備画面から、指定した装備をポチっとすれば脱着完了だ。その機能が、今でも生きていたのである。
 俺は装備画面のファッションの項目からマイセット1を選択し、実行。
 すると、一瞬で寝間着から昨日とまったく同じ服へと早変わりする。
 これ、マジ便利だわ。

 ファッションとは、文字通り武器や防具ではなく服装を変更する項目で、ここを操作することことにより、自分の見た目……つまりは服装を自由に変更することが出来た。
 あと、一部髪型やメイク、ボディペイントなどの設定も可能だ。
 ただし、この機能は変更アイテムがインベントリ内、もしくは亜空間倉庫などに直接収納されていないと機能しないので注意が必要だ。
 
 例えば、セットに設定されていたとしても、アイテムがインベントリではなくチェストボックスのような外部保管ツールの中に仕舞われて、プレーヤーから離れているような状態では機能しない。
 また、喩え亜空間倉庫内にしまわれていたとしても、更にチェストボックスの中にしまわれているような二重格納状態でも機能しない。
 必ず収納スキル等の一段目に、指定アイテム自体が直に入っている必要があるのだ。
 更に、変更前のアイテムは、変更後にはインベントリに自動収納されるため、インベントリ内にアイテムを収納する空スペースが無い場合も、この機能は使えなかったりする。
 着替える前は、インベントリの空スロットには要注意、である。

 今までは別に、そこまで服装にこだっていなかったうえに、ゲームである以上別に服が汚れるなんてこともなかったので、マイセットは一つしか保存されていなかったが、今後、服の洗濯など衛生面の管理を考えると、いくつかマイセットを設定しておいた方がいいだろう。
 ちなみに、同じようにセット装備という項目もあり、こっちは事前に設定しておいた武器や防具などの装備を、ワンタッチでセットすることが可能になる便利機能だ。

 それにしても……

 昨日はあれからまた色々とあったな、と眠い目を擦りながら思い出す。
 あのあと、ソアラが洞窟内で交わした“いらくなったベッドをあげる”という約束を思い出し、ソアラとアイラちゃんの寝室にベッドを設置することになった……のだが……

 それを見て、アイラちゃんが「お姉ちゃんばっかりズルい!」と、まぁ、揉めに揉めたのである。
 アイラちゃんがそう言うのも、まぁ、分からなくはないのだ。
 泊めて貰っておいて言うのもあれだが、この家で使われているベッドは正直、寝る部分がかなり固く、決して寝心地が良い物ではなかった。
 むしろ辛い。
 なにせ、木材で出来た土台に、気持ちばかりの藁が敷かれ、その上に布を被せただけという簡素な物だったからな。
 それはもう、固いやらチクチクして痛いやらで大変だった。
 
 これなら、キャリッジホームの自室で寝た方がずっといいと思わなくもない。
 しかし、折角の御好意なので半ば覚悟のような気持で受け取ることにした。
 流石に、寝心地が悪いんで自前の馬車で寝ます、と言える勇気は俺には無い。

 ただ、これはこの家のベッドの質が低いのではなく、村全体で大体同じようなベッドを使っているとのことだった。
 みんなあんなんで寝てのか……すげーな。

 で結局、クラフトボックスの稼働チェックのついでに、手持ちの素材からなんとか材料を捻出し、同等のベッドをもう一つ作ることによって事なきを得たわけだ。
 これにはアイラちゃんも大満足であった。で、またしても熱烈な求婚をされたが、やんわりとお断りしました。
 玉の輿のチャンスがー! とか喚いていたが、何処でそんな言葉を覚えて来たのやら……

 さて、そろそろ確り目も覚めて来たことだし、リビングに向かいますかね。

「おはようさ~ん」
「あっ、あはようっ! スグミお兄さん!」

 リビングに着くと、アイラちゃんが一人お茶を啜っているところだった。
 俺はアイラちゃんと朝のあいさつを交わしつつ、対面に腰を下ろす。

「今、スグミお兄さんの分もお茶入れるね」
「ありがと。あれ? 他の人達は?」
「お姉ちゃん達なら、朝からあいさつ回りに行ったよ」

 ああ、そういえばそんなことを言っていたなと思い出す。

「でも、なにもこんなに早くから行かなくても」
「だって、もう少ししたらみんな忙しくなるから、その前に回りたかったんじゃないかな?」

 と、アイラちゃん。そりゃそうか、村の人達だってそれぞれに仕事があるだろうしな。
 ソアラから聞いた話しでは、この村での主な仕事は、田畑の管理に家畜の世話や狩りなのだそうだ。
 ヨーム達が行っているような畑の拡張は、田畑の管理に分類されるらしい。

 また、大工などの専門職は居らず、建物を建てる時は村人が全員で協力して作るとのことだった。
 とはいえ、上手い下手はあるので、家を建てる時などはそうした上手い人に声が掛けられやすい傾向にあるようだ。

 特殊な仕事といえば、ノマドさんのような薬師がそれに当たる。
 ちなみに、この村にはノマドさん以外にも数人薬師がいる。一応ではあるが、ソアラもその一人だ。
 まぁ、村に一人しか薬師が居なかったら、その人の身に何かあったら薬師が途絶える上に、村が全滅する恐れだってあることを考えれば、当然といえば当然か。

 特殊な仕事としては、もう一つ。それが織物だ。
 なんでも、この村ではエルフ織という、色鮮やかな織物が特産品らしく、マンドラゴラと並ぶ貴重な外貨入手の手段になっているのだとか。
 ただ、エルフ織は誰でも織れるものではあるが、売り物になるような品質の高い織物となると、かなり精緻な技術が必要なようで、それだけの技術を持ち合わせている人はそう多くはないらしい。

 その少ないエルフ織の職人の一人がカテラさんなのだと、アイラちゃんが得意げに話してくれた。

「私もお母さんから習ってて、今は練習中なんだ」
「へぇ~、エルフ織ねぇ……どんな物かちょっと見てみたいもんだな」
「いいよ! こっちで作ってるから着いて来て!」

 ということで、ソアラ達が帰ってくるまでアイラちゃんにエルフ織を見せてもらうことになった。
 母屋から出て、少し離れた場所にそれはあった。外観としては、少し大きめの小屋といった感じか。
 
「この中で織ってるんだよ」

 アイラちゃんはそう言うと、特に鍵なども掛かっている様子もない引き戸をガラガラと開け、俺を中へと案内してくれた。

「お邪魔します」

 その小屋の中には、大型の機織り機が数台並べられており、機織り機からは編み掛けと思しき布地が垂れ下がっていた。
 織りかけのため全体像は分からないが、複雑で幾何学的な模様に鮮やかな色使い。こういう物の良し悪しなど俺にはさっぱり分からないが、それでもそこに工芸品としての確かな芸術性を俺は感じた。
 まぁ、俺の目は節穴なので、まるっと見当違いの可能性も高いがな。
 他にも、完成品であろ布が綺麗に丸められた状態で棚の上などに置かれている。
 そんな感じで、内部の様子をまじまじと観察していると、アイラちゃんが一つの機織り機の前にちょこんと座った。

「これが私が使ってるやつなんだ」

体の小さなアイラちゃんが座ると、ただでさえ大きな機織り機が更に一回りは大きく見える。

「見ててね」

 そう言うと、アイラちゃんは機織り機を器用に操り、カタコンタカコンと布を織っていく。
 トーシロな俺では、一体何をしてるのか全然理解出来てはいないが、アイラちゃんが手を動かすたびに、様々な色の糸が縦横無尽に飛び回り少しずつ模様が出来上がっていく。
 出来上がっている部分はまだ少ないが、それでも出来が良い物だということが分かる出来栄えだ。
 少なくとも、十代前半の少女が作った物とは思えない出来の良さだった。

「へぇ~、大したもんだな。これって絵柄とかは決まってものなのかい?」
「ううん。自分で考えて織るんだよ」
「自分で? 設計図とかは?」

 ぱっとアイラちゃんの周囲を見回してみるが、それらして物は見当たらなかった。
 パターンが固定なら、覚えてしまえばもう図面はいらないだろうが、自分で考えてとなるとそうはいかない。
 では彼女は一体、何を目安にこの布を織っているというのだろうか?

「昔は下絵とか使ってたけど、今は使ってないかな。
 見本を見てるうちは三流だって、お母さんが言ってた」

 まさかの設計図は頭の中、ってか。

「それは凄いな」
「それに、一番大事なのはインスピレーションなんだって。
 その時感じた思いを込めて織ることが、良い作品作りには必要なんだって、お母さんが言ってた」

 それはもう職人というよりか、芸術家のような答えだった。
 工芸品というか、最早芸術作品の域である。

「そういえば、アイラちゃんが機織りをしてるなら、ソアラもやってたりするのかな?」

 特に他意があったわけではないのだが、なんとなく思ったことをアイラちゃんに問いかけると、今まで動いていた手がピタリと止まってしまった。

「ああ、お姉ちゃんは……これは現物を見てもらった方が早いかなぁ?」

 アイラちゃんは俺の問いに何を思ったのか、おもむろに機織り機から降りるとトテトテと小屋の奥へ行き、何やら箱の様な物をごそごそと漁り出した。
 そして、何かを手にした戻って来た。

「これは、お姉ちゃんが今の私と同じくらいの時に織ったエルフ織だよ」

 差し出された布切れを受け取り広げてみると……

「おう……これは……」

 出来栄えに関して敢えて言及は控えるが、もし俺がこの作品にタイトルを付けるとするなら、ずばり“世界の歪み”だな。
 それはもう、ダリやムンクもビックリな歪みっぷりだった。

「お母さんはそれを見て、お姉ちゃんを薬師の道へ歩ませることを決意したんだって」

 だろうな。きっと俺も同じことを思うよ。うん。
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