最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一四一話

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「着きました。ここが昔使っていた倉庫です」

 そんな感じで、広場に赤鎧を出した後、ソアラの案内によって連れて来られた所は、崖状になった壁面にぽつんと扉が取り付けられているという、何とも不自然な場所だった。
 ここに来る道中にソアラから聞いた話しによれば、この扉の向こうには大きな自然の洞窟が広がっている、らしい。
 なんでも、昔はこの自然に出来た洞窟を倉庫代わりに使っていたのだそうだ。

 一年を通して、比較的温度が一定で保たれるという洞窟の特性を利用し、主に食料などを保管することを目的に利用されていたようだ。
 特に夏場に食料を保存しておくことが主な目的であったため、昔は冬に山へ登り雪を集めては洞窟に運搬する、ということも行っていたのだという。
 要は、巨大な簡易冷蔵庫として使っていた、ってことだな。
 しかし、今となっては人間との交流や貿易も行う様になり、そこそこ安定して食料が手に入る様になったことで、大量の食材を長期間保存しておく必要がなくなったこともあり、次第に使わなくなっていったのだと、ソアラが話してくれた。
 と、かく言うソアラだが、ソアラ自身この倉庫が食糧庫として使われているところは、一度も見たことがないのだという。
 食糧庫としてお役御免になったのは、ソアラが生まれるずっと昔の話しらしい。
 それ以降は、村で使わなくなったガラクタなどを適当に放り込んでおくような、ただの倉庫になってしまったようだ。

 しかし、俺が赤鎧を討ちと取ったことで、現在使用している食糧庫だけでは肉の保管がしきれなくなり、急遽、食糧庫として再利用することを迫られた、ということだった。
 とはいえ、この洞窟型食糧庫は使わなくなってそれなりに時間も経っているうえ、今は食糧庫ではなく村で使わなくなった不用品を詰め込んでいたこともあり、直ぐに使えるという状態でもなかった。
 そこで、中に詰められていた物を、昨日一日を掛けて片付けていたのだという。

 道理で、なんだかよく分からん物がそこら中に転がっているわけだ……

 で、その片付けも一応の目途が立ったため、俺が昨日回収した加工処理の済んだ肉を、こちらの洞窟型倉庫へと移送する為に、ここへと足を運んでいた、というわけだ。
 と、そんなことを考えながら、使用用途不明な物で溢れる周囲を、軽く見回した。
 片付けたっていうか、中身を単に外に出しただけだよな、これ。

「それでは開けますね」

 そう言って、ソアラ同様同行していたヴォーラさんが、懐から鍵を出し、扉に取り付けられていた物々しい錠前を解錠する。
 元はといえば、大切な食料を保管する村管理の倉庫だったため、こうした頑強な錠前と、責任者を付けて厳重に管理していた。
 今となっては、ガラクタ倉庫となってとまっている場所だが、その風習だけは今も続いており、現在の倉庫管理者がヴォーラさんだった。
 とまぁ、そんな理由もあり彼女も同行している、というわけだ。

 ちなみに、オーラさんに付き添っていなくていいのか? と言う様なことを聞いたら、

「少し放っておいた程度で、簡単に死ぬような繊細な人ではないので大丈夫ですよ」

 と、何とも辛辣な言葉が返って来た。
 顔に似合わず、随分と毒舌な人の様だ……

 そうこうしているうちに、ガチャリと重々しい音を立てて鍵が開いた。
 そして、ギギギィィィと耳障りな音を上げて、扉が開く。

「それでは、入りましょうか。中は暗いので気を付けてくださいね」

 そう言ってヴォーラさんは先行すると、突然、倉庫の内部からふわっとした柔らかな灯りが溢れ出した。
 多分、ヴォーラさんが灯りの魔術を使ったのだろう。
 で、ソアラ、アイラちゃん、俺と続いて倉庫の中に入って行く。

 中に入ると直ぐ、洞窟特有のあのヒヤっとした空気が肌を撫でる。
 で内部を見渡せば、確かにそこはそこそこに広く、人間用のトンネル、道路横断用の地下歩道くらいの広さはあった。

 天然物、と言ってはいたが、拡張工事でもしたのか所々に人の手が加わった形跡が見受けられるな。
 流石に、完全に自然のままでは使い難いかったのだろう。

「それじゃあ、ちゃっちゃと詰め込んでいきましょうか。というわけでスグミさん、お肉出してもらえますか?」
「ん~、その前にちょっといいか?」

 ソアラが、腕捲りをしてやる気を示す矢先、俺が少し待ったをかけた。

「ここ、少し整地していいか? 地面とかボコボコしてて歩き難いし、壁面も円状になってて、このままじゃ倉庫としても使い難いだろ?」
「確かにそれはそうですが、今からそんな大掛かりな作業となると……」

 俺の提案にそう答えたのはヴォーラさんだった。
 確かに、普通の方法で工事をしようと思ったら、まぁ、そう思うわな……
 で、その視線が自然とソアラへと向く。

「ん? いいんじゃない? スグミさんが“出来る”って言うなら出来るんだろうし。それに基本、この人に任せておけば良い感じにしてくれるから大丈夫だと思うよ?」

 と、ヴォーラさんの視線の意味を察してソアラが軽い感じで答えた。
 ヴォーラさんとソアラでは多少歳が離れている様だが、そこは従妹。ソアラの態度が、他の人に対するものより随分と軽い。

「というわけで、スグミさん。どうぞ、やっちゃってください!」
「あのねソアラ? ここの責任者は私なのよ? 許可するかどうかは私が決めることよ」
「別にそんなの今はどうでもいいじゃん。昔ならいざ知らず、今なんてガラクタしか入ってない倉庫なんだし。
 それに責任者って言っても、鍵を預かっておくだけでしょ?
 ガラクタ倉庫の鉤持ってるだけの人が、そんなに偉いんか?」
「……ソアラ……大人・・には立場と責任ってものがあってるの。
 何にも考えてない頭空っぽなあんた・・・には分からないだろうけど」

 なっ、なんだ? 急に空気が不穏ものになり出したんだが……
 そんな二人の変化にオロオロとしていると、すっとアイラちゃんが俺の隣へとやって来た。

「お姉ちゃんとヴォーラちゃんって、昔からちょ~っとだけ仲が宜しくなかったりするんだよね。
 二人共、本心から嫌ってるってわけじゃないと思うけど、顏を合わせるあんな感じになっちゃうんだ」

 で、そっとそんなことを教えてくれる。
 二人のことをおもんぱかってか、決して“悪い”と言わないところに、アイラちゃんの大人としての配慮が感じられた。

 二人の関係が宜しくない件について、アイラちゃんの話しでは、ソアラのストレスが原因ではないかということだった。
 村では基本的に何でも出来る優秀な人材であるソアラだが、ヴォーラさんはそれに輪をかけて優秀だった。
 その所為で、ソアラは小さい頃からそんなヴォーラさんと常に比較され続けていたらしい。
 身内であるノマドさんやカテラさん、オーラさんはそうでもなかったようだが、なまじ血縁関係があるだけに、周囲からは姉妹同然として比べられたのだとか。

 勿論、全員が全員、というわけではないようだが、それがソアラのプレッシャーになったのは間違いないだろう。
 ソアラはソアラで、色々な気苦労化を抱えていたみたいだな……

「この猫っ被りっ!」
「なによっ! この腹黒女っ!」

 と、そんな話をアイラちゃんから聞いているうちに、二人の口喧嘩が更にエキサイトしているっていうね。
 ちなみに、猫被りと叫んだのがヴォーラさんで、腹黒女と叫んだのがソアラだ。
 ソアラの猫被りは、まぁ理解出来るとして……ヴォーラさんって腹黒なのか?
 確かに、オーラさんに対する毒舌など、片鱗はある様な気はするが……

 と、それはさておき。
 流石にこのまま放置しておくわけにもいかないので、ソアラには大したものが無いからといって、誰でも好きにしていたら秩序が乱れると責任者の重要性を説き、ヴォーラさんに改めて改造の許可を取るという流れでこの一件は落ち着いた。

 ただ、ソアラからはヴォーラさんの肩を持つのか、とか、結局は美人が得をするのか、とか、なんか散々言われたが、いうてソアラも結構な美人だからな? と言ったら急に静かになったので、まぁ、よしとしよう。

 で、俺は俺で許可が出たことで、【形状変化シャープ・チェンジ】を使い、床、壁、天井をぱぱっとならしてどんどん整地して行く。
 こう……なんか微妙にボコボコしている所を見ると、俺は無性に整えたくなる衝動に駆られるんだよなぁ。
 それに、元々無秩序だった場所が、徐々に整理されて綺麗になって行く様を見るのは、なんとも気分が良いものだ。良くない?
 うひゃひゃ、整地楽すぃ~。さぁ、どんどん整地しちゃおうね!

 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢

SIDE ソアラ&ヴォーラ

「ねぇ、ソアラ? 触っただけで、岩肌が一瞬で滑らかになって行ってるように見えるんだけど? あの人間、一体何してるの?」
「さぁ? そんこと私に聞かれても分かるわけないじゃん」
「あんたが連れて来た人間でしょ?」
「そんなこと言ったって、知らないものは知らないし」
「……あんたねぇ。あんな摂理に反するよなことが目の前で起きてるのに、不思議に思わないわけ?」
「そりゃ不思議だとは思うけど、スグミさんに関しては、ああいう生き物だ、って思った方が楽よ?
 変に理解しようとなんてしても、頭がおかしくなるだけだし。
 ヴォーラは、いちいち細かいこと気にし過ぎなのよ。だから婚期を逃して行き遅れてるんでしょ?」
「結婚の話しは関係んいでしょ! それに私は、出来ない、んじゃなくて、しない、のよ!
 それに、それを言うならあんただって片足突っ込んでるようなもんじゃない!」
「わ、私はまだこれからだからっ! ヴォーラと違って、まだまだ余裕ありますしぃ?」
「だから私は……!」
「それなら私だって!」

 と、スグミが整地作業に心を奪われてるその傍らでは、そんな不毛な言い争いがくれ広げられているのだった。

「はぁ~、どっちもどっちじゃん」

 
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