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一六六話
しおりを挟む「ひっ!」
俺が亜空間倉庫から取り出した物を見て、セレスが小さく悲鳴を上げた。
まぁ、分からんでもないがな……
で、俺を盾にするようにささっと俺の背後へと隠れるセレス。
「なっ、何なのよっ! こ、この虫のバケモノはっ!」
そう言ってセレスが指さす先にあったのが、巨大なムカデの人形だった。
「さっき言っただろ? これが俺が持っている人形の一つ、百貫百足だ。
だから別に取って食ったりしないから、そんなに怖がらなくてもいいぞ?」
この百貫百足は全長自体は大体10メートル程度ある巨大な人形だが、高さや横幅はそれ程でもない。
高さは俺の太腿くらいなので、大体50センチメートル程度。幅は胴体が俺の肩幅より若干広いかな、といった感じなので、こちらも大体50センチメートルくらいだろうか。
ただ、胴体から長い無数の足が生えているので、足先から足先までを見ると1メートル前後くらいのサイズとなる。
見た目、そして名が示す通り、この百貫百足は百里百足の兄弟機のようなものだ。
百里百足を数百倍、いや数千倍は大きくしたようなサイズなので、セレスの言う“虫のバケモノ”というのは案外、的を得ているといえなくもない。
俺が所持している人形の中でも、こいつは大型に分類される方だしな。
おまけに、デカいうえに無駄にディテールに拘って作ってあるので、虫が苦手な人ならこれを見て「ひっ!」となる気持ちはよく分かる。
とはいえ、百里百足のように伸びたりはしない。
百里百足が偵察などに特化している小型の人形とするなら、この百貫百足は閉所での探索、及び戦闘に特化している人形なのだ。
何度も言うが、俺は閉所での戦闘を苦手としている。理由は簡単。戦闘能力の高い大型の戦闘人形が出せないからだ。
そこで役に立つのがこの百貫百足である。
俺のメインスキルである傀儡操作は、人形の強さが大きさにもろに依存している。
大きさとはつまり体積のことだ。
黒騎士やドーカイテーオーなどは、人や馬をそのまま全体的にサイズを大きくすることで体積を確保している。
が、この場合、縦、横に制限がかかってしまう閉所では、肝心要の大きさを思うように確保することが出来ないのだ。
ならば、縦や横でない部分に体積を確保すればいいじゃないか、というコンセプトの下作られたのが、この百貫百足だった。
要は、だ。
縦にも横にも大きく出来ないなら、長くすればいいじゃない、ということだな。
ちなみに、初期案ではヘビ型も考えてはいたが、蛇の移動方法を人形で再現することが出来なかったため、挫折している。
で結局、ムカデ型になってしまったていうね……
同タイプをいくつも作るのは個人的に芸がないと気に入らなかったのだが、こればかりは仕方ないと諦めた。
ちなみに、“貫”とは昔使われていた重さの単位で、一貫大体3.75キログラムくらいである。
なので百貫というと375キログラムということになるのだが、ぶっちゃけこいつは黒騎士やドーカイテーオーなんかより遥かに大きく重い。
正確な重量は測定したことがないので何ともいえないが、おそらく5トンは軽く超えていると思う。
百里百足同様、“百足”という漢字にかけているだけだ。
単純な力比べなら、黒騎士より上であるドーカイテーオーよりも更に上である。
で、俺の考えた計画というのが、黒騎士に変わる戦力として、こいつを使って進入不可領域を踏破しよう、という力による単純なゴリ押し戦法だった。
と、いうことをさっきセレスに掻い摘んで説明していた。
「な、なるほど……少し見させてもらってもいいかしら?」
「ご随意に」
「……近づいても勝手に動いたりしないでしょうね?」
「俺が動かさない限りはな」
「そう……」
セレスがそう一言告げると、隠れていた俺の背から出て恐る恐るといった様子で百貫百足へと近づいて行った。
俺にとっては身長の半分もない高さだが、背の低いセレスにとってはかなりな大きさだからな。
ビビる気持ちは分からんでもない。
やはり、学者というだけあって、こういう見慣れない物に興味をそそられたりするのだろうか?
俺なんかは、怖いなら無理して近づかなければいいのに、と思うのだが、好奇心の方が勝るらしい。
当人には悪いが、そんなへっぴり腰でビクビクしながら百貫百足に近づくセレスの後ろ姿は、見ている方としては中々に面白く、その様子に俺の中の些細なイタズラ心が、ついつい頭を擡げてしまったのだった……
「へぇ……こういう作りになっているのね……」
で、セレスが矯めつ眇めつ百貫百足の様子を観察しているその時に……
ガコンっ! と突然、百貫百足の大きな顎を一瞬だけ動かしてやった。
そんなことが起これば当然……
「きゃっ!!」
突然動いた百貫百足に驚き、小さな悲鳴を上げて地面に尻もちを突き倒れるセレス。
「ぷっ……」
そんな姿に、ついつい吹き出してしまったのが宜しくなかった。
尻もちを突いた姿勢のまま、それこそ殺意すら籠っていそうな鋭い視線が、セレスから飛んで来て俺へとぶっ刺さる。
「……次やったら……分かってるでしょうね?」
「おーけー、俺が悪かった。だからそう睨まないでくれ」
それ以降は特に驚かすようなこともせず、セレスの気が済むまで百貫百足を好きにさせることにした。
それから暫し。
「ブルックランズ様のお墨付きを頂いているから、戦闘技能に関しては相当なものだと思ってはいたけれど……
見た目がひょっろっとしているから、本当に頼りになるのか疑問だったのだけれど、確かにこんなオバケ虫に守られながらなら、遺跡だって安全に進めるでしょうね」
満足したのか、そう言いながらセレスが戻って来た。
セレスはただ単に、この百貫百足で護衛しながら遺跡を調査すると思っている様だが、俺はここからもう一工夫をと考えていた。
が、それを今ここで話す必要はないだろう。
今必要なのは、俺が安全に遺跡に潜ることが出来るという証明だ。
「それは、納得してもらえたと思ってもいいのかな?」
「ええ。安全という面では、貴方のことをある程度信用出来そうね。
特に何も言って来ないけど、調査費用が全額そちら持ちというのは飲んでくれるのかしら?」
「そっちの方は問題ない。セレスもさっき言ってただろ? 俺は結構な金持ちでね。カネに不自由はしてないんだよ」
「……一度でいいから、そんなセリフを吐いてみたいものね」
ある意味同感だ。
俺も日本でこんなセリフを吐いてみてぇよ……
「それじゃ、一度部屋に戻って細かい条件の擦り合わせをしましょうか。
いつの間にか、随分と人が増えて来てしまっているようだし、悪いのだけど早々にそのオバケ虫を片付けてくれるかしら?」
「……そうだな」
実はさっきから、ガヤガヤと遠巻きに人が集まり出していた。
理由は簡単。百貫百足が、人の注目を集めているからだ。
ここは神秘学研究会の研究棟の庭とはいえ、別に壁やら塀があるわけでもないので周囲からは百貫百足の姿が丸見えになってしまっていた。
で、通りかかった人が何だあれは? と足を止めていくうちに、あっという間に人だかりが出来てしまったというわけだ。
俺はそんな彼らを尻目に、パパっと百貫百足を片付けると、セレスに着いて学部長室へと一度戻る。
そこで、セレスが俺を金級証に推薦する細かな条件を改めて決めて行くことに。
とはいえ、これはほぼセレスの要求を丸飲みする形になってしまったが、これはまぁ仕方ないな。
で、その条件というのが次の通りだ。
一つ、古代遺跡の調査時には必ず研究員一名を同行させること。俺単身での調査は認めないものとする。
同行者が一人と明言されるに至ったのは、俺の意見を受け入れてのことだ。
護衛を別途雇えば人数も増やせるが、そこまでは面倒は見れない。
ただ、護衛を神秘学研究会で雇うというなら、人数が増える分にはこちらは構わないということになった。
一つ、調査費用は全額俺持ち。
これは追加で増えた人数の分も含めて、すべて俺負担であるということ。
一つ、発見した遺物の所有権はすべて神秘学研究会が有するものとする。探索中、入手した魔石等も同様のものとする。
つまり、遺跡で手に入れた物品に関して、俺には所有権どころか報酬も無し、ということだな。
ただし、発見したブツに対して、持ち出し、破壊などをしない限りにおいて、調査するのは俺の自由にしてくれるらしい。
一つ、探索中に知り得た遺跡内の情報、地形及び歴史的資料などについて、一切の口外を禁止する。
これはそのまんまだな。
勝手に地図を作って売ったりするな。何か発見したとしても内容を外部に漏らすな。と、まぁそんな感じだ。
そして最後に……
一つ、俺に与えられる金級証は遺跡探索の時のみ有効な限定的なものである。
というものだった。
最後のは、所謂オートマ限定免許みたいなもんだな。
喩え俺が金級証を手に入れたとしても、その金級証を使って遺跡調査以外の仕事を受けてはいけない、ということだ。
金級自由騎士ともなると、実力が求められるのは当然として、それと同等もしくはそれ以上に信用が重要視されている。
ともなると、今回のようなややイリーガルな手段で推薦を受けた俺が、一般的な依頼を受けるべきではない、というのがセレスの主張だった。
あくまで、遺跡の探索に限り金級として扱う、ということだな。
俺としては遺跡の調査以外に興味はないので、どうでもいいといえば、どうでもいい話しではある。
ちなみに、こうした条件付きの推薦というのは別に珍しいことではないらしい。
組合の専属になる代わりに推薦をもらう、なんてのはよくある……わけではないが、まぁまぁある話しなのだそうだ。
内容を考えれば、完全に良いように使われているが、俺としては遺跡の調査そのものが目的なのでそれ以外のことはまぁ、よしとすることにした。
魔石とか遺物とか地図情報とかなんかは、結構いいカネになるみたいだが、俺にとってはそう魅力のある話しでもないしな。
そんな感じで両者合意をし、俺は限定的な内容ではあるが、こうしてセレスからの金級証への推薦を無事受けることが出来たのだった。
よっし! これで推薦一つ目ゲットだぜっ!
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