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一六五話
しおりを挟む「条件……ねぇ……」
セレスの言葉に、俺は警戒心も露わにそう聞き返す。
雰囲気から、何か無理難題を言われそうな気が……
「そんなに警戒しなくてもいいわ。別に、無理難題を言うつもりはないもの」
と、俺の心……というか表情を読んで、先にそう答えるセレス。
「んじゃ、一応聞こうか」
「条件は大まかには一つよ。細かく分類すると少し増えるのだけど、一言で言えば貴方が遺跡に潜る際に、必ず神秘学研究会の研究員を一名、ないし二名同行させて欲しい、というものよ」
「研究員の同行、ねぇ……」
研究員、というからにはおそらくデスクワーカータイプの人達だろうな。
ぶっちゃけ、戦えるようなタイプではないこと想像に難くない。
そんな奴らを二人も連れて危険だと言われる遺跡に潜れと?
「ちなみに、そいつらに戦闘技能は?」
あるとは思えないが、一縷の望みを託してセレスにそう聞いてみるが……
「逆に聞くけど、あると思っているのかしら?」
「ですよねぇ……」
しれっと、そんな答えとも言えない答えが返って来た。
「当たり前だけれど、同行させるだけでなく、貴方には彼らの身の安全も確保してもらいたいの。
今の話しだけど、研究員だけあって彼らはガチの文官畑の人達だから、戦力なんてこれっぽっちも期待しないで頂戴。
碌に刃物すら持ったことのない人ばかりだから、間違っても、自分の身くらい守れるだろう、とか思わないで欲しいの」
「そんなお荷物を背負って、危険だという遺跡に潜れと?」
「そういうことになるわね。それと、遺跡への長期調査には様々な物資が必要になるわ。食料に水は勿論、明り取り用の松明とかね。
貴方には、同行する研究員の分の費用も負担して欲しいの」
「……つまり、お荷物を二人も抱えて、かつ身の安全を確保しつつ食事なんかの面倒も見ろ、と?」
「そういうことね。
ブルックランズ様からの紹介状によれば、貴方、金銭には相当な余裕があるらしいじゃない?
ブルックランズ様も“協力の対価として、スグミから好きなだけ請求すればいい”と、そう手紙に書かれていたし」
セレカはそう言うと、何処から出したのかブルックからの紹介状を手に、ピラピラと左右に振って見せた。
あのおっさん、なんつーことまで書いてるんだよ……
プライバシーは保護してくれんじゃなかったのか? とは思ったが、まぁ金銭に困っていないのは事実だし、カネで協力が得られるなら、それはそれで安い話しではあるのか、と思い直すことにした。
「てか、それって一つどころじゃなくないか?」
「あら? 言ったじゃない。大まかには一つだけど細かくすると増えるって」
まぁ、確かに言ってたけど……
「それで、この条件を貴方は飲めるのかしら?」
「ちょっと考えさせてくれ……」
と、ここで条件の内容について文句を言っても仕方ないので、建設的に条件が達成可能かどうかを考えることにした。
結局、こっちが全面的に協力を求める側である以上、相手の言い分を飲むしかないのだ。
ゲーム的にミッションの内容をシミュレーションするなら、戦闘能力ゼロなNPCを二体連れて、NPCの安全を保障しつつ行ったこともないダンジョンを攻略しろ、といった感じかな。
ダンジョンの難易度は、『アンリミ』でもハイレベルな場所を想定。
出て来るモンスターは、NPCを一撃で殺せるくらいの攻撃力があると仮定しておこう。
となると、ネックになるのは遺跡の構造とか、通路の広さといったところか。
「そういえば、遺跡の構造を記した地図があると言っていたよな?
見せてもらうことは出来たりするのか?」
「ええ、問題ないわ。ちょっと待っていて」
俺が少しでも参考に出来ればと遺跡の地図を要求すると、セレスは簡単にそれを了承し地図を取りに席を立った。
少しして、セレスが丸めた羊皮紙の様な物を持って戻って来ると、それを目の前のテーブルの上に広げて見せた。
「これが、王都から一番近い遺跡の地図よ」
「おうっ、これは……なんというか……」
そこに描かれているものを一言で言い表すなら、歪なあみだクジ、もしくは無計画に拡張した住宅地の生活道路、といった印象を俺は受けた。
入り組んでいるとか、そういう次元の話しではないぞ、これ。
しかも、ぱっと見だが行き止まりになっているポイントも結構あるみたいだしな。
それに、通路の幅も地図通りであるとすれば、広い場所もあれば極端に狭い場所もあるみたいだ。
「この通路の広さってどれくらいなんだ?」
「私が実際に入って目にしたわけではないけど、話に聞く限りでは広い所なら成人男性が四、五人横に並んで歩ける程広い場所もあれば、一人がやっと、という場所もあるみたいね」
なるほど。
広い所では黒騎士が使えそうだが、狭い所ではエテナイトですら出すのが厳しそうだな。
これだから閉所は嫌いなんだよ。
と、内心愚痴りつつも、俺が今使える戦力、場合によっては新しく何かを作ることも念頭に置き、また地形などを勘案してセレスの条件が飲めるかどうかを考える。
ポクっポクっポクっポクっポクっポクっ……チーン!
「結論から言えば、なんとか可能だな。ただし、こちらかも一つ条件を出させてもらうことになるが」
「あら? 何かしら」
「同行者は一名までだ。
移動に関してはぶっちゃけ、一〇人だろうと二〇人だろうと連れて行けるが、身の安全も、となると俺が見ていられる人数は一人までが限界だからな。
それ以上連れて行っても、安全を保障出来ない」
俺がそう答えると、セレスが難しい顔をして腕を組み、顎手に手を当てて何かを考える素振りを見せた。
「貴方が、自信有りげにそう答える根拠を聞いてもいいかしら?
こちらも大切な研究員を預ける以上、口先だけの言葉を信用することは出来ないわ」
暫し何かを考えた後、セレスがそう聞いて来たので、俺が思い付いた遺跡の攻略方法をセレスに話したのだが……
「流石に、俄かには信じられないわね……まず、実物を見せてもらってもいいかしら?」
と、いうわけで俺の攻略方法を証明する為、一度二人して施設の外へとでることになった。
道中。
無言で移動するのもなんだか寂しいので、何であんな条件を出したのかセレスに聞いたら、意外と世知辛い話しが返って来た。
曰く。一言でまとめるなら、
「古代遺跡を調査してくれる人がいないのよ」
とのことだった。
先にもセレスが言ったことだが、古代遺跡の調査、それも進入不可領域については金級証以上の資格を必要としており、それだけで探索可能な人員がかなり絞られてしまっていた。
そのくせ、国からの報酬は決して高いといえるものではなく、むしろ金級証に対して支払う額としてはかなり安いものであるらしい。
そもそもが、遺跡の調査の報酬は出来高払いらしく、新たな領域の地図を作った、とか、古代文明時代の遺物などを見つけた、などの一定の成果がないと支払われないのだという。
ぶっちゃけ、危険な上に実入りも悪い、更に拘束期間も長いとあって、余程のもの好きでもない限り遺跡調査なんて誰も受ける人がいなのだと、セレスが溜息交じりに語ってくれた。
こんな仕事を受けるくらいなら、名義を貸したり豪商や要人の護衛なんかの仕事を受けていた方がずっと儲かるらしい。
ちなみに、現在存在している遺跡の地図だが、これらは過去に神秘学研究会に在籍していた人物が、わざわざ遺跡研究の為に金級証を取得してまで作ったものなのだとか。
今ある遺跡に関する調査記録は、概ねその人物が一人で集めた物のなのだとセレスは言う。
スゲーなその人……
とはいえ、それも数十年以上昔の話しで、当人は既に亡くなってる上、それ以降の新たな発見も殆どないらしい。
で、その金級証の研究者というのが、前任の神秘学研究会の学部長であり、セレスの祖父なのだとか。
「お国がもっと調査費を出してくれればいいんだけど……
自分達で調査しようにも、先代の学部長と違ってまともに剣すら触れない私達じゃ即遺跡のシミになるのがオチでしょうし、かといって金級証の自由騎士を雇うなんて、年々予算を削減されている私達では土台無理な話。
何をするにもカネカネカネ、ホントやになっちゃうわね……」
と、外見が完全な子どもなセレスがカネについてしみじみ語るその姿が、実に印象的だった。
そんな中、自分の為に遺跡に潜るという俺の存在は、セレス達にとっては前任の学部長を彷彿とさせるものがあり、正に渡りに船だったというわけだ。
しかも、ブルックの手紙には相応に腕も立つうえにカネもあると書かれていた様で、これはまたとない調査のチャンスと、あのような条件を出して来たとのことだった。
なるほどね。納得したよ。
っと、なんて話をしているうちに施設の外へ。
「それじゃ、早速見せてもらえるかしら?」
そう言うセレスに一つ頷くと、俺は亜空間倉庫から色々アイテムを取り出し、俺が考えた遺跡攻略法を解説することにした。
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