最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一七六話

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「なぁ? 何だか物々しい話しになっていたみたいだが、その子ワーウルフに何かあるのか?」

 というわけで、気になったのなら聞けばいい、ということでセリカに直に聞いてみることにした。

「ん? ああ、そうか。スグミは知らなくて当然だと思うが、銀狼族……だけに限った話ではないのだが、獣人族は基本的に血の繋がりを非常に重要視していてな。
 今回の様に、同胞が攫われたとあっては最悪、攫われた同胞を救うため一族郎党を引き連れて人の街を襲うようになるかもしれんのだ。
 実際、過去そうした理由から関係のない村が一つ、怒り狂った獣人族に皆殺しにさせられた、という悲惨な事件が起きたこともある」
「……もしかして、今って結構ヤバい状況になってるってことか?」
「もしかしなくても、相当ヤバい状況だ」

 マジか……ここで呑気に寝ている子ワーウルフが原因で、無関係な人が犠牲になるかもしれんのか。確かにこれはやべぇな。

「故に、迅速かつ慎重に事に当たらねばならんのだが……」
「この子ワーウルフを何処から連れて来たか分からない以上、こっちからは身動きが取れないってことか」
「そういうことだ」

 だから、この子を捕まえて来た賊共から詳しい話しを聞く為に、賊はただいま別室にて自由騎士組合の職員さん達と絶賛楽しい楽しいお話中というわけか。

「場合によってはスグミ。お前にも協力を要請したいと考えている。頼めるだろうか?」

 セリカとジュリエットの話しからだと、生半可な相手には頼めないのだろうな。
 内容が内容な上、相手も相手だ。
 穏便に話し合いで解決出来ればそれでいいのだが、もし一戦交えるにしてもこちらとしては殺し合いは絶対に避けたい。

 戦闘の理由が、人間が相手さんの子どもを誘拐したのが原因なのだから尚更だ。
 となれば、相手を傷つけずかつ自身の身を守れるだけの力量が求められるということになる。
 そりゃ、ハードルも高くなるってものだ。
 その上で、セリカが直接俺に協力を頼んで来たということは、それだけ俺を信頼してくれている、ということの表れでもあるのだろう。
 ならば、それに応えてやるのが仁義というものだ。それに……

「ああ、頼まれた。それに、難しい案件に協力すればそれだけ金級証の推薦もしてもらいやすくなるだろうしな」

 そう言ってジュリエットへと向かってチラリと視線を送る。

「そうね、一考には値するわね」
「そういえば、確かこういうのを“情けは人の為ならず”と言うのだったか?」

 何でセリカがそんな言葉を知っているんだよ……と思ったが、そういえば初めてセリカ達と出会った時に、確か俺がそんな話をしたなぁなんてことを思い出した。
 それにしても、よく覚えていたものだな。

「まぁ、そういうことだな」
「それで、セリカちゃん。そのおチビちゃんはこれからどうするつもりなのかしら?」

 一応の方針が決まったところで、今度はジュリエットが子ワーウルフの今後について聞いて来た。

「そうですね、下手な所には預けられませんので、事が収まるまで私の実家で預かってもらおうかと思っております。
 まだ話を通していないので、どうなるかはまだ分かりませんが」 
「そうなのね。もしダメだったら私の所に連れて来てちょ~だい。ウチで面倒を見てあげるわ。
 妻がそういう小さな子をお世話するのが好きなのよ。丁度、下の子も手が掛からなくなり始めた歳だし、暇を持て余していたところなのよね」
「ではその際には頼らせて頂きたいと思います」

 ん? このオネェ、今、何て言った?

「つま? ツマってサシミの下に敷いてある大根の千切りのことか? なんで今そんなむ話題が出たんだ?」
「何を言っているんだお前は?」

 そんなことを口走る俺に、セリカが可哀そうななものを見る様な、憐れみを帯びた瞳を俺へと向けた。

「お前の国で“つま”が何を意味する言葉かは知らんが、妻とは奥方、つまり、婚姻関係にある男女において、男性側から見た女性への呼称だ。また配偶者ともいう」
「んなこたぁ知っとるわ! 懇切丁寧なご説明ありがとうよっ! 
 俺はこんなんが既婚者なのかって驚いてんだよっ!」
「気持ちは分かるが指を指すな、指を。失礼だろう」

 衝撃的事実に、ジュリエットを指さし憤る俺に、セリカがやんわりと注意を促す。

「スグミちゃんも大概だけど、セリカちゃんも大概よね……
 なに? 私に妻が居たらおかしいかしら?」
「色々とおかしいだろ……」
「ちなみに、子どもも男の子が二人、女の子が一人いるわよ」
「しかも子沢山かよ……」

 これが妻ではなく夫だというのなら、ギリ理解出来ないこともないが、このナリで、妻、つまり女性の配偶者がいる意味が分からん……
 しかも、確り子どもまで儲けているっていうね。
 
「これは伯父上から聞いた話だが、結婚自体はジュリエルド・・・・・・殿の頃にしたらしい。お子さんが生まれたのもその頃だ。
 だが、まぁ……その後少しあって、今の様にジュリエット殿になられたのだと聞いている」

 ジュリエルド殿の頃、というのが俺がブルックから聞いているジュリエットがブルックの同僚として国家騎士を務めていた頃のことだろう。
 つまり、ちゃんと男だった頃、ということか。
 で、少しあって……の部分をセリカが何か言い難そうに口ごもりながら、そう説明してくれた。

「少しって……何が少し起きると、こんな劇的ビフォーアフターが起こるってんだよ?」
「だから指を指すな。その、なんだ……個人的なことであるため、私の口から話すことではないだろう……」

 セリカ自身、事情は知っている様だが、話す気はないらしいく、ついと俺から視線を外す。
 なので、それとなくチラリとジュリエットへ視線を向けると、ジュリエットが、はぁ~、と一息吐いてから仕方ないとばかりに口を開いた。

「昔の話しよ。
 昔、仕事でヘマして魔獣に“男の部分”をチョキンされちゃったのよ。
 一時は生死の境を彷徨いはしたけど、なんとか一命だけは取り留めてね。
 その時にブルックちゃんも大怪我を負って、二人揃って仲良く騎士団を退団。
 で、伝手で自由騎士組合の組合長に就任。
 ただそれ以来、私の性格が少しずつ変わって行って、今に繋がっているってわけ。
 これでいいかしら?」

 その話を聞いて、下っ腹の奥の方がギュッとなる。
 なるほど……本人の意思とは関係なく、ムスコさんがお亡くなりになっていたのか……
 確か、男性器が無くなると、ホルモンバランスが崩れて女性化する、なんて話を聞いたことがある気がする。

「それは……ご愁傷様です……心よりご冥福をお祈り申し上げます」
「これはご丁寧にありがと……」
「しかし、ブルックが大怪我を負ったってことは、その魔獣ってワイバーンか?」
「あら? 知っていたの?」
「自慢話を聞いたからな」
「あら、それはご愁傷様ね。話、長かったでしょ?」
「それはもう……」

 思い出すだけでもウンザリするくらい、な。
 それにしても、ブルック程の強者が足を失い、ジュリエットはタマタマを失う程の激戦だったとは……
 そりゃ感謝されて金級証に推薦さけるわけだ。

 そんな感じて、思わぬ衝撃の事実を知ったところで、ここでやることももうないと、俺達は自由騎士組合を後にすることにした。
 日帰りで帰って来れたとはいえ、日も傾いているし新しく仕事を受ける気にもなれなかったからな。
 依頼を受けるにしてもまた明日からだ。

 で、俺は俺で宿に帰ろうとしたのだが、セリカが一度王城へ向かうというので一転、着いて行くことにした。
 なんでも、この子ワーウルフについてもう少し詳しく調べるというのだ。
 曰く、

「一口に銀狼族といっても、その種族……というか部族は多岐に渡る。
 そして、部族ごとに身体に特徴があり、それを詳しく調べればこの子の所属している部族、延いては生活域を知る手掛かりになるかもしれないからな」

 とのことだった。
 ワーウルフ達は部族ごとに集落を形成し暮らしているらしく、部族が分かれば大まかにではあるが、暮らしいてる場所の目途が立つといことのようだ。

 ただ、セリカの知識では、この子が銀狼族であろうことは分かっても、細かい部族までは分からないらしい。
 ならば専門家に聞くべし、ということでこれからその専門家に聞きに行くというわけだ。
 で、その専門家というのが、学術庁の一学部、神秘学研究会のことだった。
 つまりは、セレスの所だな。

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