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一九九話
しおりを挟む道中、ヘンリー爺さんから今回の件に関して、セリカだけではなくセリカの親父さんも急遽同席することになったことを告げられた。
なんでも、セリカの親父さんは軍部に席を置いているお偉いさんなのだとか。
そういえば、前に父親も騎士をしている、なんて話をセリカから聞いたな。
というか、今回のことはそんなお偉いさんが出て来るほど大事なことなんだな、と他人事のように思う。
余談だが、道中ヘンリー爺さんからセリカとの関係についてやたら細かく聞かれたので、ビジネスライクな関係であると答えておいた。
何を勘違いしたのかは知らんが、セリカのことを聞く爺さんの目が座ってて怖いのなんの……
誤解がないよう、ついでに出会いから現在までのことも掻い摘んで説明ししておいた。
そんなことを話している内に、馬車はセリカの実家であるフューズ邸へと着いた。
着いた、とはいっても敷地への門を潜っただけで、玄関……というか建物はまだまだ遠い。
うん、デカいな……
それは屋敷というより、ちょっとした城だった。
貴族区の家はどれも基本大きいのだが、セリカの実家はそれらよりも更に一回りどころか二回り、三回りはデカいのだ。そしてその分敷地も広い。
家のデカさから地位の高さが伺えるというものだ。
そんな感想を抱いていると、ようやく馬車が玄関前へで停車した。
ではと、さっさと馬車から降りようとしたら、何故かヘンリー爺さんに止められた。
なんでも、内側からドアを開けるのはマナー違反なのだとか。御者が扉を開けるまで待つのが貴族としての作法らしい。
すんませんね、根っからの庶民なもんで。お貴族様の作法とか知らんとですよ。
というわけで、じっとしていると割と直ぐに扉が開いた。
んじゃ、今度こそと降りようとすると、またヘンリー爺さんに止められた。
なんでも、使用人より先に客人が馬車から降りるのはマナー違反なのだとか。客人より先に使用人が降りて客人を出迎える、というのが作法らしい。
すんませんね、根っからの庶民なもんで。お貴族様の作法とか知らんとですよ。
庶民気質な俺には、これだけでなんだか貴族って面倒だなぁ、と思ってしまう。
なんだか色々あったが、ようやく馬車から降りたところで、黒騎士を出し積み込んでいたワーウルフ二人を回収する。
積み込む時とは違い、屋敷の玄関は敷地のだいぶ奥まったところにあるため、ここなら人目に触れることもないだろうと、カメレオンクロークは取っ払ってからワーウルフ二人を担ぎ上げる。
と、丁度その時、玄関の扉が開き、中から見知った女性が姿を現した。
セリカだ。
「そちらの首尾はどうだ?」
あいさつもそこそこに、セリカがそう口にしつつ俺へと近づいて来た。
随分とタイミングのいい登場だが、セリカのことなので馬車が近づて来たことに感づいて、様子でも見に来たといったところだろう。
「馬車一つ乗るのにもなんか作法が色々とあって、庶民の俺にとってはメンドイなぁと思った程度で、あとは問題なし、ってところかね」
と、軽く愚痴を零す。
「気持ちは分からなくはないな。
で、悪いのだが、まずこちらのお二方を解放してもらえないか?」
と、セリカが黒騎士に担がれたワーウルフ二人へと視線をやり、そんなことを言う。
「いいのか? 一応敵意はないとは思うが、確証はないぞ?」
「構わん。私達は彼らを尋問するつもりも、拷問するつもりもないのだから。
私達はあくまで対等な一客人として、彼らを招きたいと考えている。それに、信用を得るには、まず我らが彼らを信用するのが道理というものだ。
拘束したままでは、その道理にも礼儀にも合わぬことになる」
流石に危険ではないか? と思いはしたが、まぁ、セリカがそう言うのなら、と俺は黒騎士で担いでいた二人を地面に立たせるように置くと、縛っていた捕縛縄を解放することにした。
ARウインドウを開き、使用中のアイテム一覧から捕縛縄を選択肢、解除を実行する。
すると、誰も彼らに触れていないにも関わらず、スルスルとワーウルフ達を縛っていたロープが解け、ロープがクルクルとまとまりながら俺の手元へと帰って来た。
この二人が突然暴れ出す、とは思っていないが、一応警戒だけはしておこう。
最悪、此奴らが暴れたとしても今は黒騎士、セリカ、そしてヘンリー爺さんが居るから、大事には至らないだろう。
「これはまた……なんとも面妖な……」
そんな風景に、ヘンリー爺さんの眉間に皺が寄る。
「スグミはこういう魔道具をいくつも持っているからな。こんなことでいちいち驚いていてはきりがないぞ?」
「はぁ……左様でございますか……」
そんなヘンリー爺さんに、何故かドヤ顔でそう説明するセリカだった。
何故キミがドヤっているのかね? まぁ、いいか。
で、半日ぶりに解放された二人だが、同じ姿勢で拘束されていたのが辛かったのか、体が自由になったことで早速各々体を動かし固まった四肢を解していた。
「さて、我々も手荒なまねをするつもりはないので、そちらも大人しくしてくれていると助かる」
「心得ている」
「ふんっ……今更何かするつもりはもうねぇよ……」
確りと受け答えしているフューリとは別に、グランの方はというと精も魂も尽き果てた様に力無く答えていた。
そんなグランをやや訝しむように見るセリカだが、それだけで特に言及するでもなく話を続ける。
「それは有難い。私はアンジェリカ・フューズ。お二方が探しているという銀狼族の子どもを保護した者だ」
フューリにグラン、二人がそれぞれセリカに言葉を返したところで、セリカが二人の前に立ち、そう名乗る。
「我は獣人の民にして牙の血脈を受けしビの一族に連なる者。名をフューリという」
「……ちっ、同じくグランだ」
セリカが名乗ったことで、フューリはそれに応じるように自らもそう名乗った。
……のだが、隣ではグランがダンマリを決めていたので、フューリが肘で小突いて無理やり名乗らせていた。
「んじゃ、俺の役目もここまでっててことで、用事が済んだあっしはこれにてドロンとさせて頂きやしょうかね……」
ワーウルフ達を縛っていた捕縛縄を解除することが出来るのは俺しかいないということで、ここまで行動を共にしてきたが、彼らを解放した今となっては俺の役目ももう終わりだった。
運搬も無事終わり、話も一段落ついたところで俺はセリカにお暇を宣言する。
ここから先はお貴族様達の、というかこの国の話しだからな。俺には関係ない。
と、思っていたのだが……
「“どろん”が何を意味する言葉かはまったく分からんが、帰ろうとしてるのなら許されるわけがないだろう?」
そんな帰る気満々だった俺に、セリカの氷の様な冷たい視線が突き刺さった。
「え~? 何でだよ? 俺関係ないやろ?」
「貴様はあの子を保護した身であるうえ、襲撃を受けた完全な当事者だろうが。どの面下げて関係ないとかぬかしているんだ……」
「こんなプリチーな面ですよ?」
と、両頬に人差し指を立てて満面の笑みを浮かべて見せたのだか、途端、セリカの蟀谷がピクビクと引くついているのが見て取れた。
「……取り敢えず、今すぐその殴りたくなる腹立たしい顔を止めろ」
というので、すぐに止めた。基本戦術は“命を大事に”である。
「まぁ、冗談はともかく。俺、このあと普通に仕事が入っているだが?
ほら、セリカも知っているだろ? 城郭の補修工事のアレな」
「ヘンリー。第三工兵大隊の騎士ダイア殿に、スグミはフューズ家の急用により依頼を受けられなくなった、と遣いを出しておいてくれ」
「畏まりましたお嬢様」
「なんたる力業によるスピード解決っ!」
こうして、俺の仕事の予定が一瞬でキャンセルされてしまった。
正直、貴族の話し合い……それも結構重要そうな場に立ち会うなんて、気が引けるから嫌なんだが……
しかし、ここで何を言っても解放してもえらそうにないので、仕方なくセリカに従うことにした。
「お騒がせしてすまない。では、フューリ殿とグラン殿。これより案内するので着いて来てほしい。
スグミ。お前もちゃんとついて来いよ? ヘンリー、スグミがおかしな真似をしようとしたら力尽くで構わんから取り押さえるように、いいな?」
「畏まりましたお嬢様」
そう言うとセリカは躊躇うことなく二人に背を向けると、屋敷へと向かって歩いて行ったのだった。
この時、隣でヘンリー爺さんがそっと教えてくれたのだが、敵対していた相手に背を向けるのもまた、貴族としての作法の一つらしい。
色々あるんだな。貴族の作法って。
てか、あれ? なんか俺の扱いワーウルフ達より酷くね?
気のせいかな? 気のせいだということにしておこう。うん……
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