229 / 353
二二九話
しおりを挟む
時間も頃合い、ということで昨日のことに関する報告、また今後の方針についての一応の話し合いはここまでとなり、解散となった。
ただ、プレセアとラルグスさんにはまだ何か用事があるようで、足早に会議室を出て行ってしまったが。
なんでも、あの子ワーウルフ関連でまだいろいろ決めることがあるらしい。お偉いさんといのも大変なようだ。
で、残った俺達はというと……
「へぇ~、ここが社員食堂ならぬ、騎士食堂か……」
丁度昼時、ということもあり、セリカの案内で王宮内にある食堂へとやって来ていた。
そこを一言で言い表すなら、さながらデパートの一角にあるフードコートのような所だった。
王宮務めの騎士達は、大概がここで昼食を食べるらしい。
とはいえ、別に王宮務めの騎士のみに解放されているわけでもないので、こうして俺の様な外部からの一般人でも普通に食事をすることが出来た。
まぁ、そういうことは滅多にないことのようだが……
余談だが、騎士、というと、俺の中ではセリカ達を始めとした治安維持や、ラルグスさん達のような国軍に属している人達、要は“戦うことが出来る貴族”みたいなイメージがあったが、この国ではどうやらそうではなく、国に仕えて働いている人達はすべからく騎士に分類されるらしい。
つまり、騎士=国家公務員、という図式で概ね間違いないようだ。
セリカ達の様な武官も騎士だし、王城で働いている事務員の様な文官も騎士なのである。
そういう意味では、研究職であるセレスも立派な騎士に分類されることになる、ということだ。
ただ、そんな騎士達の間でも棲み分けのようなものはあるようで、セレス達文官は自分達のことをあまり騎士とは自称しないのだとか。
自分が騎士だと名乗り出るのは、専ら武官が多いのだそうだ。
で、その理由を聞いたら……
「腕っぷしを求められたら困るじゃない」
とは、セレスの談である。
要は、何か揉め事が起きた時に、その解決を騎士だからという理由で自分達に求められても困る、ということらしい。
騎士とはいっても文官は文官。
基本的に荒事とは無縁の人達であるため、何も自分から進んで面倒事に首を突っ込こむようなマネなんてしたくない、ということなのだろう。
「にしても、凄い込みようだな……」
で、だ。
そのフードコートだが、今、俺の目の前には、都心の通勤ラッシュも斯くや、というほど人でごった返していた。
まぁ、時間も時間、ということもあるが、それを差っ引いても凄い量の人である。
声を荒げながら注文しているその様を見ていると、なんとなく学生時代の購買部の光景を思い出す。
おばちゃんっ! ヤキソバパン二つっ! とかな……懐かしい話しだ。
「当然でしょ? この王宮で、一体どれだけの人が働いていると思っているのよ? その人達が同じ時間に一斉に食堂に来るのよ? そりゃ、こうもなるわよ」
そんな慄く俺に、一緒に着いて来たセレスが何を当たり前なことを? と、言わんばかりの顔で俺を見る。
「確かにそうかもだが……もしかして、セリスはいつもここで昼を食べてるのか?」
随分と訳知り顔で話すセリカにそう尋ねる。
「いつも、ということはないわね。仕事で王宮に立ち寄った時とかにたまに、くらいよ。いつもは研究棟の近くにある店で食べているわ」
とのことだった。
なんでも、王城のあちこちに職員騎士達向けの食堂が点在しているらしい。
ならばと、これだけ込んでいるのなら、王宮の三階にあるあの特設ラウンジにでも避難すればいいんじゃね? みたいなことを言ったら、あそこは昼は閉まっているとかで使えない、とセリカに言われた。
それに、あそこに足を踏み入れていいのはかなり限られた人間だけで、俺は来賓として通してもらえたが、いってしまえばただの研究職員であるセレスは入ることが出来ないらしいのだ。
「へぇー……でも、じゃあこれで、どうやって座るんだよ?」
そう言って、俺は改めて視線を店内へと向ける。
店内にある座席は既に満席。相席すら望めないような状況だ。どころか、人の数が座席数を圧倒的に超過しているからな……
席が空くのを待っていたら、果てしてどれだけ待つことになることやら……
「この状況で座れるわけがなかろう? 空くのを待っていては日が暮れるぞ? こういう時は、手頃な物を買って、適当な場所で食べるんだ」
なんてことを考えていたら、セリカからそうにべもなく告げられた。
まぁ、実際は昼時を過ぎれば一気に人が掃けるとは思うが……
「いや……買うって言ってもなぁ……これだぞ?」
で、再度人混みを指さす。
うん、とても、ヨシっ! と言って入って行ける雰囲気ではないよな。
「ふっ、まぁ、見ていろ。こういうのにはコツというものがある。
おばちゃんっ! クロッム焼きを三つっ! 持ち出しだっ! 急ぎで頼むっ!」
そう、セリカは言うと、謎の自信を漲らせ、人混みの中へと突貫して行ったのだった。
その光景に、何かデジャヴを感じる……
その後、数分もしないうちに無事帰還したセリカからクロッム焼きなる食べ物を渡され、城内にある公園らしき場所で、三人で食べることになった。
なんでも、福利厚生の一環として、城内にはこういう公園的な場所が複数設けられているのだとか。
ちなみに、これはセリカからの奢りである。
更に付け加えるなら、クロッム焼きは、おそらく小麦粉的な何かを水で溶いた生地に、各種野菜、プラス何かの肉を混ぜて丸く焼いたものに、甘辛いソースを掛けて半分に折りたたんだ食べ物だった。
はい、知ってます。お好み焼きですね。
ちょっと辛みが強い気はするが、味はまぁ、安定のお好み焼きでした……
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「ほぉ、で、ここが第二王都予定地……なのか?」
何と言うか……区画整理をしたはいいが、長年放置した所為で自然に還ってしまった、みたいな一帯を見渡し、そう呟いた。
軽く足元を確認すると、地面は整地されているようでなだらかとなってはいる。
が、周囲をみれば草や低木が生い茂っているような有様で、見た目はほぼ雑木林といった感じである。
草木の隙間から、何やら人工物的なサムシングが見えるが、それが廃墟感をいっそう強く醸し出していた。
それはもう、打ち捨てられた廃村も斯くや、という有様である。
「放置された年月を考えれば、まぁ、こんなものだろう」
そんな俺に、セリカがそう付け加える。
昼食後、俺に午後の予定はない、という話しをしていたら、ならばと、早速セリカの案内の下、俺達は第二王都予定地へとやって来ていた。
……何故かセレスまで一緒に来ていたがな。
最初こそセレスは食後、研究棟に帰ろうとしていたのだが、王都から第二王都予定地まで徒歩だとかなりの時間が掛かる、ということで移動にはキャリッジホームを使おう、という話しをしたら、急に付いてくるとか言い出したのだ。
ただ単に、キャリッジホームに乗りたかっただけの可能性……あると思います。
実際、移動中ずっと車内を物色していたからな。この子は……
しまいには、構造が気になる、とか言い出して壁とか剥がそうとするし……それは流石に止めたが。
研究熱心も、度が過ぎればただの迷惑である。
「んじゃ、まぁ、取り敢えず周囲を見て回りますか」
というわけで、早速、下見だ。
俺達は、草木生い茂る第二王都予定地を見て回ることにした。
かなり自然の浸食を受けているとはいえ、元は人の手の入っていた土地である。
多少の歩き難さはあるとはいえ、まったく歩けないという程でもなく、それでも草木で覆われ歩き難いような場所は、セリカお気に入りだと言うレイブレードで斬り払いながら進んで行った。
ってか、ソアラが拉致られたエルフ誘拐事件の時のあれこれで渡したあれ、普通に普段使いしてんのか……
で、セレスがそれにメッチャ食いついているんだが……
藪やらツタやらを切り払うセレスに不用意に近づき、危ないとセリカにマジで怒られながらも、それは何だと問うセレス。
セリカからどんな説明を受けたのかは知らんが、鼻息荒くこっちに来るのは止めろ……
そんなこんなで、セレスにあれやこれやと質問をされながら、周囲を見て回る。
そうして分かったことはといえば、僅かばかりではあるが、家などの建物を作っていた痕跡が見られる、ということだった。
ただ、完成している物件は一つとしてなく、その殆どが二、三割程度で工事が中断していた。
そんな中、八割くらい完成している一際立派で大きな建物が目に付いた。
「これはまた随分と立派な屋敷だな。でも、なんでまたこの屋敷だけかなり出来上がってるんだ? 他は中途半端だったのに……」
「ああ、この屋敷は当時、この地区の開発を任されていた貴族が、自分用の屋敷として立てていた代物でな。
他の工事より優先して進めていたらしい」
俺のそんな素朴な疑問に、セリカがそう答えてくれた。
「資金を横領した挙句、公共事業の私的利用とは……中々に肝が座ってる奴だったんだな」
「結果、断頭台に送られてお家が取り潰されたのだから、目も当てられないがな」
おぅ……物理的に首が飛んだか……まぁ、自業自得なので仕方ない、としか言えんわな。
てか、なんでそれだけのことをしてバレないと思ったんだろうか? 普通に考えたら即バレすると気づきそうなものだが……みたいなことを、なんとなくセリカに聞いたら曰く。
最初は、責任者の男一人が細々とこっそり悪事を働いていたらしい。で、これはこれで、案外巧く隠せていたようで、細く長く甘い汁をちゅるちゅるしていたのだとか。
が……
これに気づいた他の貴族共が、あいつばっかずるいじゃないかっ! ということで、じゃあ俺も俺もと次々と横領を働くように。
塵も積もればなんとやら。しかし、積もるものが目に付かない小さな塵ではなく、簡単に目に付くような粗大ごみが積もったとなれば、役人の目に付かないわけがない。
結果、気付かれた時にはとても隠しきれないような状態になっており、全員まとめて断頭台へゴー! というのが、事の顛末だった。
……バカ、なのかな? いや、バカだったんだろうな。でなければ、そんなことにはなっていないはずである。
誰か一人くらい、まともな奴はいなかったのか? いなかったんだろうなぁ……
「にしても、長い間放置されていた割には、建物自体は綺麗に残ってるんだな」
甲子園球場よろしく、よく分から植物のツタに絡まれているとはいえ、綺麗にその佇まいを残す屋敷を見上げ、俺はそんな感想を口にした。
確か十数年だか、数十年だが経っているんだろ、これ?
一見した限りでは、傷んでいる風もなく、出来ていないのは屋根とか、扉、窓といったくらいなものだ。
内部を見ていないので、そっちがどうなっているかは分からないが、概ね家として基本となる部分は十分に出来上がっているので、これなら、ちょっと手を加えるだけで直ぐにでも住めそうだ。
「ここは王都の一部となる都市、ということもあり、当時、開発にはかなり腕のいい工夫達を全国から集めていたらしいからな。
これはその名残、といったところだろ」
指揮していたのは三流のバカだったが、実際に作業していたのは超一流の職人だった、ということか。
長年放置されていてこの保存状態なのだからな。それだけで、作業をしていた大工の腕がいかに優れていたか知れるというものだ。
「なぁ、セリカ。この土地を借りるとなった時、この屋敷も好きにしていいのか?」
「構わんよ。そもそも今は管理者もなく、ずっと放置されていた物であり、場所だからな。今更手を入れたからと、何かを言う者もおるまいよ」
ダメ元でそう尋ねると、セリカから思いの外簡単に許可が下りた。
やったぜ!
立地的には、人目につかず、かつ、開発地区の外縁部は森に囲まれている、と概ねここは俺的に条件を満たしたいい場所といえた。
難があるとすれば、土地が派手に植物に浸食されていることくらいなものだしな。
ただ、惜しむらくは王都からそれなりに距離があることが、問題といえば問題だった。
王都からここ、第二王都予定地まで馬車で約一、二時間。
キャリッジホームなら数十分、俺一人がドーカイテーオーで走れば十数分という距離だが、それでも多少移動に時間が掛かることに違いはない。
いくら立地がいいとはいえ、マキナバハムートの修理の為に、毎日この距離を往復すのは面倒だなぁ、と思っていたのだが、これらの建物を自由にしていいのであるなら、この屋敷に手を加え、住めるような状態にした上で、隣に修理用の工房を置けば、移動の手間なく修理に専念することが出来る。
屋敷の改修や、土地の整地など、マキナバハムートの修理以外にやることが増えてしまうが、トータル的には、作業環境を整えた方が効率自体は上がると思う。
住居が作業場の近くにあれば、作業時間自体も長く取れるだろうしな。
それに、屋敷の改修なんて、俺に掛かれば楽勝だ。
一時期、建物のクラフトにハマっていたことがあり、妙に手の込んだ屋敷とか作りまくってこともあるくらいだ。
とはいえ、ここで暮らすとなると自炊も考えないといけないのか……
まぁ、そこは住み込みの家政婦を雇うなりなんなりすればいいか。
自由騎士組合に相談すれば、それなりの人を紹介してくれるだろうし。
といわけで、だ。取り敢えずこの土地を暫し借り受けることに決めた。
それで、ラルグスさんへの連絡だが……少し悪いと思ったが、これはセリカにお願いすることにした。
昨日、ラルグスさん達に貸していた共振リングと鏡は既に回収しているので、俺からラルグスさんに個人的に連絡を取る手段がない、というのもあるが、わざわざこのことの為だけにまた城に集まるというも手間だからな。
そのことをセリカに話すと、「心得た」と快く了承してくれた。
ちなみに、今のところ共振リングを渡しているのはセリカと宿屋の女将さんであるイースさんのこの二名だけである。
こうして、下見を終えた俺達は、王都への帰路へと着いたのだった。
ただ、プレセアとラルグスさんにはまだ何か用事があるようで、足早に会議室を出て行ってしまったが。
なんでも、あの子ワーウルフ関連でまだいろいろ決めることがあるらしい。お偉いさんといのも大変なようだ。
で、残った俺達はというと……
「へぇ~、ここが社員食堂ならぬ、騎士食堂か……」
丁度昼時、ということもあり、セリカの案内で王宮内にある食堂へとやって来ていた。
そこを一言で言い表すなら、さながらデパートの一角にあるフードコートのような所だった。
王宮務めの騎士達は、大概がここで昼食を食べるらしい。
とはいえ、別に王宮務めの騎士のみに解放されているわけでもないので、こうして俺の様な外部からの一般人でも普通に食事をすることが出来た。
まぁ、そういうことは滅多にないことのようだが……
余談だが、騎士、というと、俺の中ではセリカ達を始めとした治安維持や、ラルグスさん達のような国軍に属している人達、要は“戦うことが出来る貴族”みたいなイメージがあったが、この国ではどうやらそうではなく、国に仕えて働いている人達はすべからく騎士に分類されるらしい。
つまり、騎士=国家公務員、という図式で概ね間違いないようだ。
セリカ達の様な武官も騎士だし、王城で働いている事務員の様な文官も騎士なのである。
そういう意味では、研究職であるセレスも立派な騎士に分類されることになる、ということだ。
ただ、そんな騎士達の間でも棲み分けのようなものはあるようで、セレス達文官は自分達のことをあまり騎士とは自称しないのだとか。
自分が騎士だと名乗り出るのは、専ら武官が多いのだそうだ。
で、その理由を聞いたら……
「腕っぷしを求められたら困るじゃない」
とは、セレスの談である。
要は、何か揉め事が起きた時に、その解決を騎士だからという理由で自分達に求められても困る、ということらしい。
騎士とはいっても文官は文官。
基本的に荒事とは無縁の人達であるため、何も自分から進んで面倒事に首を突っ込こむようなマネなんてしたくない、ということなのだろう。
「にしても、凄い込みようだな……」
で、だ。
そのフードコートだが、今、俺の目の前には、都心の通勤ラッシュも斯くや、というほど人でごった返していた。
まぁ、時間も時間、ということもあるが、それを差っ引いても凄い量の人である。
声を荒げながら注文しているその様を見ていると、なんとなく学生時代の購買部の光景を思い出す。
おばちゃんっ! ヤキソバパン二つっ! とかな……懐かしい話しだ。
「当然でしょ? この王宮で、一体どれだけの人が働いていると思っているのよ? その人達が同じ時間に一斉に食堂に来るのよ? そりゃ、こうもなるわよ」
そんな慄く俺に、一緒に着いて来たセレスが何を当たり前なことを? と、言わんばかりの顔で俺を見る。
「確かにそうかもだが……もしかして、セリスはいつもここで昼を食べてるのか?」
随分と訳知り顔で話すセリカにそう尋ねる。
「いつも、ということはないわね。仕事で王宮に立ち寄った時とかにたまに、くらいよ。いつもは研究棟の近くにある店で食べているわ」
とのことだった。
なんでも、王城のあちこちに職員騎士達向けの食堂が点在しているらしい。
ならばと、これだけ込んでいるのなら、王宮の三階にあるあの特設ラウンジにでも避難すればいいんじゃね? みたいなことを言ったら、あそこは昼は閉まっているとかで使えない、とセリカに言われた。
それに、あそこに足を踏み入れていいのはかなり限られた人間だけで、俺は来賓として通してもらえたが、いってしまえばただの研究職員であるセレスは入ることが出来ないらしいのだ。
「へぇー……でも、じゃあこれで、どうやって座るんだよ?」
そう言って、俺は改めて視線を店内へと向ける。
店内にある座席は既に満席。相席すら望めないような状況だ。どころか、人の数が座席数を圧倒的に超過しているからな……
席が空くのを待っていたら、果てしてどれだけ待つことになることやら……
「この状況で座れるわけがなかろう? 空くのを待っていては日が暮れるぞ? こういう時は、手頃な物を買って、適当な場所で食べるんだ」
なんてことを考えていたら、セリカからそうにべもなく告げられた。
まぁ、実際は昼時を過ぎれば一気に人が掃けるとは思うが……
「いや……買うって言ってもなぁ……これだぞ?」
で、再度人混みを指さす。
うん、とても、ヨシっ! と言って入って行ける雰囲気ではないよな。
「ふっ、まぁ、見ていろ。こういうのにはコツというものがある。
おばちゃんっ! クロッム焼きを三つっ! 持ち出しだっ! 急ぎで頼むっ!」
そう、セリカは言うと、謎の自信を漲らせ、人混みの中へと突貫して行ったのだった。
その光景に、何かデジャヴを感じる……
その後、数分もしないうちに無事帰還したセリカからクロッム焼きなる食べ物を渡され、城内にある公園らしき場所で、三人で食べることになった。
なんでも、福利厚生の一環として、城内にはこういう公園的な場所が複数設けられているのだとか。
ちなみに、これはセリカからの奢りである。
更に付け加えるなら、クロッム焼きは、おそらく小麦粉的な何かを水で溶いた生地に、各種野菜、プラス何かの肉を混ぜて丸く焼いたものに、甘辛いソースを掛けて半分に折りたたんだ食べ物だった。
はい、知ってます。お好み焼きですね。
ちょっと辛みが強い気はするが、味はまぁ、安定のお好み焼きでした……
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「ほぉ、で、ここが第二王都予定地……なのか?」
何と言うか……区画整理をしたはいいが、長年放置した所為で自然に還ってしまった、みたいな一帯を見渡し、そう呟いた。
軽く足元を確認すると、地面は整地されているようでなだらかとなってはいる。
が、周囲をみれば草や低木が生い茂っているような有様で、見た目はほぼ雑木林といった感じである。
草木の隙間から、何やら人工物的なサムシングが見えるが、それが廃墟感をいっそう強く醸し出していた。
それはもう、打ち捨てられた廃村も斯くや、という有様である。
「放置された年月を考えれば、まぁ、こんなものだろう」
そんな俺に、セリカがそう付け加える。
昼食後、俺に午後の予定はない、という話しをしていたら、ならばと、早速セリカの案内の下、俺達は第二王都予定地へとやって来ていた。
……何故かセレスまで一緒に来ていたがな。
最初こそセレスは食後、研究棟に帰ろうとしていたのだが、王都から第二王都予定地まで徒歩だとかなりの時間が掛かる、ということで移動にはキャリッジホームを使おう、という話しをしたら、急に付いてくるとか言い出したのだ。
ただ単に、キャリッジホームに乗りたかっただけの可能性……あると思います。
実際、移動中ずっと車内を物色していたからな。この子は……
しまいには、構造が気になる、とか言い出して壁とか剥がそうとするし……それは流石に止めたが。
研究熱心も、度が過ぎればただの迷惑である。
「んじゃ、まぁ、取り敢えず周囲を見て回りますか」
というわけで、早速、下見だ。
俺達は、草木生い茂る第二王都予定地を見て回ることにした。
かなり自然の浸食を受けているとはいえ、元は人の手の入っていた土地である。
多少の歩き難さはあるとはいえ、まったく歩けないという程でもなく、それでも草木で覆われ歩き難いような場所は、セリカお気に入りだと言うレイブレードで斬り払いながら進んで行った。
ってか、ソアラが拉致られたエルフ誘拐事件の時のあれこれで渡したあれ、普通に普段使いしてんのか……
で、セレスがそれにメッチャ食いついているんだが……
藪やらツタやらを切り払うセレスに不用意に近づき、危ないとセリカにマジで怒られながらも、それは何だと問うセレス。
セリカからどんな説明を受けたのかは知らんが、鼻息荒くこっちに来るのは止めろ……
そんなこんなで、セレスにあれやこれやと質問をされながら、周囲を見て回る。
そうして分かったことはといえば、僅かばかりではあるが、家などの建物を作っていた痕跡が見られる、ということだった。
ただ、完成している物件は一つとしてなく、その殆どが二、三割程度で工事が中断していた。
そんな中、八割くらい完成している一際立派で大きな建物が目に付いた。
「これはまた随分と立派な屋敷だな。でも、なんでまたこの屋敷だけかなり出来上がってるんだ? 他は中途半端だったのに……」
「ああ、この屋敷は当時、この地区の開発を任されていた貴族が、自分用の屋敷として立てていた代物でな。
他の工事より優先して進めていたらしい」
俺のそんな素朴な疑問に、セリカがそう答えてくれた。
「資金を横領した挙句、公共事業の私的利用とは……中々に肝が座ってる奴だったんだな」
「結果、断頭台に送られてお家が取り潰されたのだから、目も当てられないがな」
おぅ……物理的に首が飛んだか……まぁ、自業自得なので仕方ない、としか言えんわな。
てか、なんでそれだけのことをしてバレないと思ったんだろうか? 普通に考えたら即バレすると気づきそうなものだが……みたいなことを、なんとなくセリカに聞いたら曰く。
最初は、責任者の男一人が細々とこっそり悪事を働いていたらしい。で、これはこれで、案外巧く隠せていたようで、細く長く甘い汁をちゅるちゅるしていたのだとか。
が……
これに気づいた他の貴族共が、あいつばっかずるいじゃないかっ! ということで、じゃあ俺も俺もと次々と横領を働くように。
塵も積もればなんとやら。しかし、積もるものが目に付かない小さな塵ではなく、簡単に目に付くような粗大ごみが積もったとなれば、役人の目に付かないわけがない。
結果、気付かれた時にはとても隠しきれないような状態になっており、全員まとめて断頭台へゴー! というのが、事の顛末だった。
……バカ、なのかな? いや、バカだったんだろうな。でなければ、そんなことにはなっていないはずである。
誰か一人くらい、まともな奴はいなかったのか? いなかったんだろうなぁ……
「にしても、長い間放置されていた割には、建物自体は綺麗に残ってるんだな」
甲子園球場よろしく、よく分から植物のツタに絡まれているとはいえ、綺麗にその佇まいを残す屋敷を見上げ、俺はそんな感想を口にした。
確か十数年だか、数十年だが経っているんだろ、これ?
一見した限りでは、傷んでいる風もなく、出来ていないのは屋根とか、扉、窓といったくらいなものだ。
内部を見ていないので、そっちがどうなっているかは分からないが、概ね家として基本となる部分は十分に出来上がっているので、これなら、ちょっと手を加えるだけで直ぐにでも住めそうだ。
「ここは王都の一部となる都市、ということもあり、当時、開発にはかなり腕のいい工夫達を全国から集めていたらしいからな。
これはその名残、といったところだろ」
指揮していたのは三流のバカだったが、実際に作業していたのは超一流の職人だった、ということか。
長年放置されていてこの保存状態なのだからな。それだけで、作業をしていた大工の腕がいかに優れていたか知れるというものだ。
「なぁ、セリカ。この土地を借りるとなった時、この屋敷も好きにしていいのか?」
「構わんよ。そもそも今は管理者もなく、ずっと放置されていた物であり、場所だからな。今更手を入れたからと、何かを言う者もおるまいよ」
ダメ元でそう尋ねると、セリカから思いの外簡単に許可が下りた。
やったぜ!
立地的には、人目につかず、かつ、開発地区の外縁部は森に囲まれている、と概ねここは俺的に条件を満たしたいい場所といえた。
難があるとすれば、土地が派手に植物に浸食されていることくらいなものだしな。
ただ、惜しむらくは王都からそれなりに距離があることが、問題といえば問題だった。
王都からここ、第二王都予定地まで馬車で約一、二時間。
キャリッジホームなら数十分、俺一人がドーカイテーオーで走れば十数分という距離だが、それでも多少移動に時間が掛かることに違いはない。
いくら立地がいいとはいえ、マキナバハムートの修理の為に、毎日この距離を往復すのは面倒だなぁ、と思っていたのだが、これらの建物を自由にしていいのであるなら、この屋敷に手を加え、住めるような状態にした上で、隣に修理用の工房を置けば、移動の手間なく修理に専念することが出来る。
屋敷の改修や、土地の整地など、マキナバハムートの修理以外にやることが増えてしまうが、トータル的には、作業環境を整えた方が効率自体は上がると思う。
住居が作業場の近くにあれば、作業時間自体も長く取れるだろうしな。
それに、屋敷の改修なんて、俺に掛かれば楽勝だ。
一時期、建物のクラフトにハマっていたことがあり、妙に手の込んだ屋敷とか作りまくってこともあるくらいだ。
とはいえ、ここで暮らすとなると自炊も考えないといけないのか……
まぁ、そこは住み込みの家政婦を雇うなりなんなりすればいいか。
自由騎士組合に相談すれば、それなりの人を紹介してくれるだろうし。
といわけで、だ。取り敢えずこの土地を暫し借り受けることに決めた。
それで、ラルグスさんへの連絡だが……少し悪いと思ったが、これはセリカにお願いすることにした。
昨日、ラルグスさん達に貸していた共振リングと鏡は既に回収しているので、俺からラルグスさんに個人的に連絡を取る手段がない、というのもあるが、わざわざこのことの為だけにまた城に集まるというも手間だからな。
そのことをセリカに話すと、「心得た」と快く了承してくれた。
ちなみに、今のところ共振リングを渡しているのはセリカと宿屋の女将さんであるイースさんのこの二名だけである。
こうして、下見を終えた俺達は、王都への帰路へと着いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる