最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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二三〇話

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 翌朝。

「お兄さん、いってらっしゃーいっ!」

 俺は朝食を食べ終わると、ミラちゃんに見送られ宿屋を出た。
 目指す先は昨日下見した荒れ地こと、第二王都予定地である。
 今日から早速作業に取り掛かる、というわけだ。

 昨日、セリカにラルグスさんへの言付けを頼んだら、その日の夜にセリカから使用の許諾の連絡があったのだ。
 少しは時間が掛かるかと思ったが、仕事が早いな。ありがたい。

 で、作業をするにも移動しなくてはならず、そのためにはまず街を出る為に街門へと向かうのだが……そこで、見慣れた姿が目に付いた。

「悪い、待たせか?」

 俺はその見知った人影に声を掛ける。

「いいえ。私も今来たばかりだから気にしないで」

 と、そう返事をしたのは、白衣っポイ服に身を包んだセレスだった。

 昨日の帰り際。
 セレスから、俺がマキナバハムートを修理するところを見たい、なんてことを言われたのだ。
 まぁ、俺としては別に見られて困るものでもないから構わないんたが……
 ただ、すぐに修理を始めるわけではなく、まずは修理をするための環境を整えるところから始める、とそう説明はしたのだが、ならその様子も見たい、なんてセレスが言うものだから、ならばとここで待ち合わせをしていた、というわけだ。
 
 一応、本人の名誉のために断っておくが、これも神秘学研究の一環、ということでセレス的には立派な仕事であるらしい。
 決して、サボりではない、と熱弁していた。

「にしても、俺なんかに着いて来ていていいのか? お前はベルへモス関連でやることだってあるだろ?」

 と、街門を潜りながら俺がそう尋ねると、セレスは肩を竦めて首を横に振って見せた。

「それが実はあんまりないのよ。
 現状、私なんかが首を挟めるようなことはないから、全部フューズ様の決定待ち状態ね。
 一応、スグミからベルへモスの甲羅の破片をサンプルとしてもらってはいるけど、それの調査にしたって私より適任の研究者がいるもの。
 勿論、私も興味はあるけど、調べるなら後でもいいしね」

 なんでも、セレスの専門は古代歴史学、所謂ところの考古学と古代魔術学であり、魔獣の素材などの解析は専門外……とまではいかないが、サンプルも少ないということで、ならばとまずは専門家に回すのが筋だろう、と譲ったとのことだった。
 
 セレス自身、専門以外にも各種幅広い分野の知識を深く保有しているが、いくらセレスが超天才だとしても、それ一本を専門に研究している人には、どうしても一歩後れを取ってしまうのだとか。

 まぁ、そりゃそうだろうよ。

 てか、専門外を片手間で研究していて、それで一歩しか離されてないセレスが異常なのである。
 これでもし、セレスに先を越されでもしたら、専門家も立つ瀬がないだろうしな。

 なんというか、これじゃあ、その専門家達も気苦労が絶えないというか、心中穏やかではいられないだうろな……

 何食わぬ顔で背後から猛追してくる天才セレスがいるのだ。
 気を抜いたら抜かれると、必死になって研究している彼らの姿が目に浮かぶ。

「そっかい。んじゃ行くか」
「そうね。今日からよろしくお願いするわ」

 今日から・・……ね。
 こいつ、マキナバハムートの修理が終わるまで、これから毎日ついて来る気だな?

 ということで、街門を抜け、ある程度距離が離れたところでキャリッジホームを出し、二人して乗り込む。

「いいか? 今日は壁板を剥がそうとするんじゃないぞ?」
「分かってるわよ」
「……床とか天井もダメだからな?」
「……わ、分かってるわよ」

 おい、目を逸らすなっ! 
 さてはこいつ。壁がダメって言われたから、今度は床か天井を剥がすつもりだったな?
 研究熱心なのは結構だが、人に迷惑を掛けたらあんやろ?

 と、そんな感じで、キャリッジホームでの移動は、終始、セレスを監視しながらになってしまった。

 道中、ただ監視をしているだけでは暇ということもあり、何気なく世間話をしていたら、話題がセレスの専門分野についての研究の話になった。

「……そんな感じで、人間種なら大体二〇〇〇年前、エルフ種だと二五〇〇年前くらい、というある特定の年代を境目に、それ以前の地層からは、まったく遺骨や生活の痕跡が発見されない、という特異な現象が確認されているわけ」
「ただ発見されていない、という可能性はないのか?」
「勿論、絶対にない、とは言えないわ。でも、問題は遺骨や史跡だけじゃないの」
「と言うと?」
「文化よ。
 まず前提として、私達は古代遺跡を作った古代文明と、ここ数千年で新たに生まれた文明……つまり、私達の直接の御先祖様達の文明ね。は、まったく繋がりのない別文明である、として認識しているの。で、この新しい文明を、近文明と呼んで分けているわ」

 そう、セレスが学者らしく熱く語る。

「それで、この近文明なんだけど、人間種だと最古の遺跡が確認されているのが、今から大体二〇〇〇年くらい前ってわけ。
 でも、その発見された遺跡っていうのが、不思議なことに既にある程度の文化レベルを持っていたみたいなのよ。
 文化というのは、歴史の積み重ねによってのみしか生まれないわ。
 それが突然……そうね例えば今を一〇とするなら、四とか五、なんて高いレベルで発見されているの。
 なのにそれ以前、絶対あったはずの一から三までの痕跡が一切見当たらない……
 ある程度の文化レベルを持った集団が、ある日突然現れる……こんなの、どう考えたっておかしいでしょ?」

 そう言うと、セレスは同意を求めるように、にゅっと身を乗り出し俺へと詰め寄って来た。
 だから近い近い……

 そんなセレスをやんわりと押しやり、ソファーへと座らせる。

 まぁ、確かにな。
 現代だって、歴史のすべてが分かっているわけではないが、どの時代にどういう生活をしていたか、どういう感じて歴史が変移して行ったか、くらいなことはなんとなく分かってきている。
 それが、江戸時代から先がぷっつりと途切れていて、何が何だか分かりませんっ! となれば、そりゃ不自然だろうよ。

 にしても、ミッシングリンク的な歴史ミステリーがこの世界にもあったとはね……ちょっと興味深い。
 ミッシングリンクとは、生物の進化の過程において、連続性が欠如している状態を指す言葉だ。
 例えば、A生物が進化してC生物が生まれたとするなら、絶対に中間となるB生物がいたはずなのに、その痕跡が見つからな、みたいな状態のことをいう。

 まぁ、今回の場合は、そもそも根元が無いぞ? という話しなのだが、似た様なもんだろう。

「こういう現象が、すべての種族で起きている、ということを考えると、やっぱり“ある日突然。まったく別の所から、この大陸に高度な文明レベルを持った人達がやって来て住み着いた”と考える方が自然なのよね。
 私自身、俄かには信じられないけれど、発見される痕跡は間違いなくそれを示しているもの」
「つまり、それが渡り人仮説であり、エルフの言う光の御柱伝承であり、とにかく、その原因が古代遺跡を作った古代文明にあるんじゃないか、っていうのがセレスの研究なんだな?」
「そう。でも、私、というか、おじいちゃ……先代の学部長の研究ね。私はそれを引き継いだって感じかしら?」

 セレスはそこまで話すと、俺が出したバニラミルクシェークに刺さったストローに口を付け、ちゅーっと吸い上げる。

 セレスのじいちゃんが、エルフやワーウルフの集落に行ったりと、古代遺跡に潜ったりと、フィールドワークに精を出していたのも、これらの痕跡を探し求めて、ということらしい。
 この渡り人仮説はまだまだ学会では確度が低いとされる説らしいのだが、セレスのじいちゃんも、そしてセレス自身も間違いないと信じているようだ。

 まぁ、俺っていう実例があるからな……

 この世界で昔。俺みたいに、どういう理由かは分からないが、異世界からこの世界へと引っ張られて来た、みたいなのが大規模な集団単位で起きたとすれば、今みたいな状況になってもおかしくないわけだ。
 そして、謎を解くその鍵は古代遺跡にある……かもしれないと。

 なんにしろ、早く入れるようになるといいんだがな、古代遺跡。

「これ、ホント美味しいわね」
「そりゃよかった」

 なんてことを話しながら、キャリッジホームを牽くドーカイテーオーは、ぱっからぱっから、第二王都予定地を目指すのだった。
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