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二三一話
しおりを挟む「随分と簡単に終わったわね」
「まぁな」
すっかり綺麗になった土地を前に、セレスがそんなことを言う。
現場に着いてからの作業は早いものだった。
まず、屋敷の周辺の除草をするため、エテナイトを使い生い茂っていた草や低木をサクっと切り払い、一ヶ所にまとめる。
次いで、エテナイト用のアタッチメントウエポンの一つであるフレイムスロワー……要は火炎放射器を装備させ、焼却して終了だ。
ちなみに、焼くのは草だけだ。低木の方は使い道があるので、別の場所に積んで保管してある。
このフレイムスロワーだが、本体はランドセルの様にエテナイトの背面にマウントされており、そこから肩越しに伸びた砲塔から火炎を放射するようになっている。
元はエテナイトに、対集団戦闘能力を与えよう、というコンセプトで制作したのだが……
出来上がってみれば、重量がエテナイトに対して重くなり過ぎてしまい、結果、高い攻撃力を得た反面、エテナイトの特性である機動力が完全に死んでしまう、ということになってしまったのだ。
デカいバックパックを背負い、ヨタヨタ歩いていたのでは良い的だ。
差し詰め、高機動戦闘に特化した軽量機体に、重火器をフル装備しました、みたいな感じだな。
これでは重くて移動速度がガタ落ちするため、逃げる敵は追えないわ、敵からは逃げられないわで、完全に本末転倒であった。
そんなわけで、これは作ったは良いが、結局、実践では一度も役に立つことが無かった失敗アイテムの一つである。
まぁ、こうやって草を焼くのには大助かりだったが……
一応、草を刈り取ったあとの地面も、このフレイムスロワーで根まで入念に焼いておいた。
とはいえ、雑草は生命力が強いので、こんなことをしてもすぐにまた生えて来るだろうが、気休めくらいにはなるだろう。
「さて、んじゃ次は屋敷に絡まったツタだな」
周囲を綺麗にした次は、屋敷本体だ。
「これはまた手間が掛かりそうな状態ね……」
で、屋敷の状態を見て、セレスがそう呟いた。
確かに、所狭しと壁に絡みついたツタは、一見、取り除くの大変そうに見えはするが、多分こっちの作業の方が除草より楽だと思うんだよな……
そんなセリスを横目に、俺は綺麗に草が取り除かれた場所を歩き、屋敷へと近づくと、伸びたツタの一つを軽く摘まむ。
すると……
今まで手にしていたツタが、根元からその先まで、突然ぱっと消えたのだ。
「……今度は何をしたのよ?」
そんな怪奇現象じみた光景を前に、セリスの訝し気な目が俺を見る。
「大したことはしてないよ。ただ、亜空間倉庫に収納しただけだ。
てか、いつもやってることだろ?」
そう答えると、俺は別のツタへと手を伸ばし、次々に亜空間倉庫へとしまって回る。
それが、一続きとなっているアイテムであるのなら、それがどんなに長く複雑な形状だったとしても、インベントリや亜空間倉庫へ収納される際は、一纏めで格納されることになる。
その特性を利用すれば、こうした長く複雑に絡まったツタだとしても、一瞬で除去が可能になる、というわけだ。
今回はツタが長すぎるため、インベントリに収納出来なかったため、亜空間倉庫を利用しているがな。
同じ方法で、雑草や低木も除去出来たが……
低木なら数える程度で済むからまだしも、雑草なんてとてもじゃないが、一本一本こんな方法で除去していられる様な状態ではなかった。
それなら、エテナイトで刈り取った方がずっと早いというものだ。
「……理屈は分かるけど、高度かつ希少な技能を、そんなくだらないことに使う人は初めて見たわ」
「くだらないとはなんだ、くだらないとは。
このツタを手作業で取り除く方が大変だろうが?」
俺の言葉に肩を竦めるセレスにそう言い返しつつ、屋敷をぐるりと回り、絡みついたツタを取り除いていく。
亜空間倉庫がいっぱいになったら、近くにまとめて山を作っていく。
この集めたツタも、草同様焼いてしまおうかとも思ったが、使い道もありそうなので残しておくことにした。
そんな感じで、手始めとなるクリーニング作業は三〇分も掛からずに終了。
これで周囲も屋敷本体も、見違える程綺麗になった。
とはいえ、屋敷の内部は依然として荒れたままで、長年にわたり積もりに積もった落ち葉やら枝やら草やら土やらで散乱しているような有様だ。
しかし、掃除をするにも、まずは屋根や窓の取り付けなどといった環境整備が先だろう。
今の開放的な空間のままでは、いくら内部を綺麗にしても、すぐにゴミが外から入って来てしまうからな。
というわけで、だ。
「よし、次は屋根回りの整備だな」
と、亜空間倉庫から取り出しましたるは、一つの大きな箱。
大きさ的には、成人男性が座った状態なら簡単に入ってしまえそうなサイズで、大体、縦横高さがそれぞれ1メートルくらいある。
「ねぇ? その箱は何かしら?」
俺の行く先行く先について回って観察していたセレスが、俺の背後からひょっこりと顔を出し、箱を覗き込みながらそう問いかけて来た。
この子も、最早、箱が出て来た程度では、何も言わなくなったな。
「クラフトボックスって言ってな、まぁ、簡単に言えば“人に変わって物を作ってくれる便利な箱”だな」
「……なにそれ?」
お前は何を言っているんだ? みたいな目でセレスが俺を見ているが、こればかりはそうとしか言いようがないのだから仕方がない。
「まぁ、口で説明するより見た方が早いな。
例えば、ここにさっき回収したツタがあるだろ?」
俺はそう言って、近くに積んでいたツタの山を指さした。
「それをこの箱の中に入れる」
俺が生身で作業をしては、一日がんばっても終わらないの量があったので、そこは黒騎士を出して代わりに作業をしてもらう。
「貴方、こんな人形まで持っていたのね……」
箱の蓋を開き、そこにツタを詰め詰めしていく黒騎士を前に、セレスがそうポツリと言う。
「そう言えば、セレスは黒騎士を見るのも初めてだったか?」
そういえば、草刈りをする際にエテナイトを出した時も、何それ? って聞かれたんだったな。なんてことを思い出す。
「私が知っているのは、前に見せてくれた大きな虫と、馬車を牽いていた鋼の馬。それと、あのドラゴンくらいなものね」
大きな虫とは百貫百足のことで、馬はドーカイテーオー、ドラゴンはマキナバハムートのことである。
「にしても、他の子達には色々と名前が付いているのに、この子の名前はまんまなのね」
そりゃ、闇騎士とか今更恥ずかしくて名乗れねぇっすわ……まぁ、意味は大して違わないけど。
「名は体を表すとも言うし、分かり易くていいだろ?」
「まぁね……」
そんな俺の適当な説明に納得したのかしていないのか。
セレスが何か言いたげな顔で、目下、作業中の黒騎士へと目を向けた。
ふむ。また、これか……
黒騎士を始めて見た奴らって大体、何か言いたげに黒騎士を見ていることが多いんだよな。特に騎士繋がりの人達が。
よし。セレスも何か知っているような雰囲気だし、ここらで一つ聞いてみるのもいいかもしれない。
まぁ、黒騎士がツタを箱に詰めている間は暇だしな。ツタは結構な量があるので、すぐに作業が終わる物でもなし。
というわけで、だ。
「なぁ、セレス。一つ聞きことがあるんだが、いいか?」
「ん? まぁ、私で答えられることならいいけど?」
そんな俺からの問いかけに、黒騎士を向いていたセレスの視線がこちらに向く。
「実は、黒騎士を人に見せるとみんながみんな、今のセレスみたく何か言いたげな雰囲気になるんだよ。特に騎士関係者がな。
何度か何かあるのか聞いてはみたんだが、はっきり答えてくれる奴がいないくな。
セレスも何か知っていそうだから聞きたいんだが、黒い騎士、ってのに何か曰くみたいなのがあったりするのか?」
「ああ、それね……」
やはり何か知っているか、セレスはそう言うと一旦言葉を区切った。
言い淀んでいる、というよりは何と説明したらいいか、言葉を選んでいる、という様な感じか?
そのまま少し待つと、ようやくセレスが口を開いた。
「曰く……というか、伝説というか、伝承というか、教訓というか?」
「つまり?」
「簡単に言ってしまうと、黒い騎士っていうのは、王を殺す騎士のことなのよ」
ん? なんか思っていたよりヤベー話しが出て来たんじゃないか? これ?
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