最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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二三四話

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 流石に、低木だけでは十分な量の板が手に入らなかったので、そこら辺に生えている良い感じに邪魔な木を黒騎士で切り倒し、クラフトボックスにイン。
 で、追加で板を製造して完成品を近くに積んでいく。
 勿論、木々の伐採に関しては事前に許可を取っている。

「ねぇ? 素材として投入した質量より、加工品として出来上がって出て来た質量の方が絶対多いと思うのだけど、気のせいかしら?」
「うん。気のせいだな」
「気のせいなわけないでしょっ!」

 そうセレスが豪語すると、堆く積まれた板の山を指さした。

 まぁ、種明かしをすれば、俺の場合、生産系のスキルに必要原材料の軽減と、生産物増加に関するスキルがあり、これらがクラフトボックスによる製造にも影響を与える為、こういう結果になるのだが……
 これまた説明が大変なので、するっと流すことにした。流せなかったけど……

「切った木が五、六本なのに、なんでこんなに大量の板材が出て来るのよっ!
 しかも、これっ! 投入した木と別の品種の木材だしっ! どうなってるのよこの箱っ!」
「だから、そういう物だって思うようにしろって。あまり悩むと禿るぞ?」
「えっ? 悩むと禿るの? そんな学説聞いたことないけど……
 でも、確かにおじいちゃんの頭は……」
「……まぁ、冗談だけどな」 

 そして、なにか真剣に悩み始めたセレスにそう告げる。
 てか、この世界にそういう言い回しはないのだろうか? セレスが真剣に悩んでいた辺り、ないんだろうな……

「……」
「って、こらこら! 無言でクラフトボックスをバラそうとするんじゃないっ!
 それ、一個しかないんだからなっ!」

 で、何を思ったのか、突然、セレスが無言のままクラフトボックスをガタガタと揺すり始めた。
 女の子程度の力で壊れるとも思わないが、一応止めに入る。

 クラフトボックスは、そもそもクラフトに興味がないタイプのプレイヤーや、品質の高い物を少数作るタイプのプレイヤーには、ぶっちゃけ大して価値のない、というかあまり縁がないアイテムではあるが、低品質でもいいから大量生産する俺みたいなタイプのプレイヤーには必須なのである。

「さて、一先ずはこれで完成だ」

 節理がぁ……とか、条理がぁ……とか、理がぁ……とか。そんな言葉を呪詛の様に呟きながら、死んだ魚の様な目でクラフトボックスを凝視していたセレスの傍ら、板材の量産が完了。
 なので、次の工程へと移ることに。

「それで、この大量の板材を使って、今度は何をするつもりなの? 石にでも変えるとか?」

 と、その死んだ魚みたいな目を俺へ向け、セレスがそんなことを聞いて来た。
 流石に、いくらクラフトボックス先生でも、まったく別の素材に変えることは不可能である。

「そういえば話してなかったな。手始めに屋根とか窓とか扉とか……そういう物を作ろうと思っててさ。
 雨ざらしのままじゃ、内装に手を付けられないだろ?」
「扉と窓は分かるけど……屋根も? でも、屋根なんて板材だけじゃ作れないわよ?
 まずは屋敷の中に屋根を置く為の梁を建てないと」

 セレスの意見も尤もだ。
 この国における基本的な住居は、外壁などを石で作り、そこに木材で出来た屋根を上から乗せるのが一般的な構造になっていた。
 とはいえ、ただ単に木材を乗せればいいというものでもなく、まずはその木材を安定して乗せるための土台を作らなければ屋根を乗せることが出来ない。
 セレスが言っているのはそういうことだ。

 ちなみに、石造りが主流であるヨーロッパ辺りの家も、屋根は基本木材である。
 なにも石造りの家だからと、屋根まで石で出来ているわけではないのだ。
 遺跡などで、石壁だけが残された住居跡などがよく見受けられるが、あれは木材で出来ていた屋根部分が朽ちてなくなってしまった為だ。
 
 で、現状の屋敷だが、外壁と内部がほぼ完成しており、あとは屋根を乗せるだけ、という状態までは建設が進んでいたみたいだった。
 というか、屋根を乗せる屋台骨までは作っていた様だが、おそらくその時点で責任者達の不正が発覚し施工が中断。
 組んだ屋台骨も長い年月雨ざらしとなり、朽ちて崩れてしまった、といった感じか。

 確かに、これではまずは屋根を乗せる土台から作らなくては、屋根を乗せるのは無理というものだ。
 だだし、それは普通の方法なら、という話しだ。
 生憎と、俺は普通の方法で施工しないので問題ない。

「そこはまぁ、なんとかするさ」
「なんとかって……どうするつもりよ?」
「まぁ、見てなって」

 そう不審がるセレスに適当に答えて、早速、屋根を作る為の準備を始めることにした。
 とはいえ、屋敷の図面などがあるわけではないので、屋根を作るにも、まずは屋敷自体の計測をして、寸法を確認しないことには始まらない。
 しかし、地上にいたのでは、肝心の屋根回りの寸法が確認出来ないので、ここは屋敷全体の寸法から概算で適当に算出。
 当然、こんな雑な方法で計測しているので、かなりのズレがあると思うが、別に大した問題ではない。
 あとでいくらでも調整が出来るからな。そう、俺ならね。

 それに合わせて、今しがた作った板材を複数枚使い、それらをまとめて【結合バンド】で繋ぎ合わせ大きな一枚板を複数作っていく。

「ねぇ? スグミ。もしかして今使っている魔術って、物質干渉魔術じゃないの?」

 板をせっせと繋ぎ合わせていた傍らで、セレスが俺の作業を覗き込みながらそんなことを聞いて来た。

「まぁ、そんなところだな」

 正確には魔術ではなくスキルなのだが……それを話すとまたややこしいことになりそうなので、適当に返事をしておく。

「驚いた……スグミって、こんなことも出来たのね」
「なんだ? こういうことが出来るのって珍しかったりするのか?」

 セレスの反応が気になり、なんとなく聞いてみる。勿論、作業は続けたままな。

「珍しい……というか、物質干渉魔術は難易度がかなり高い魔術で、術者自体の数が凄く少ないのよ。特に、人間種にはね。
 正直、こんな一切継ぎ目がない加工が出来るレベルの術士なんて本当に極一部だけだし、でなければドワーフ族くらいこんなことは出来ないわ……」

 そう言うと、セレスが今加工したばかりの板をさらっと手で撫でた。

「ほぉー、そうなのか」
「そうなのかって、貴方ね……」

 で、そんな気のない返事をする俺に、セレスが呆れた様な視線を向けて来る。
 いや、そんな目で見られてもな……

「いい? 物質干渉魔術を実用レベルで使い熟すのって本当に難しくて、第一種特殊技能魔術に認定されているくらいなのよ?」
「そんなことを言われてもな……それが凄いことなのかどうか、俺にはイマイチ分からんからな……
 そもそも、その第一種なんたらなんて知らんし」

 で、セレス先生に説明を求めた。
 なんでも、この第一種うんたら、というのはノールデン王国が公式に定めている習得困難魔術の格付けなんだとか。
 第一種から第四種まで分類分けされているようで、数字が小さくなるほど高難易度かつ、有用性が高い魔術、ということになるらしい。
 つまり、第一種はスゲー難しい代わりにスゲー有用な魔術である、ということになる。
 逆に第四種は習得は難しいが有用性はそこそこ、って感じのものが分類されるようだ。

「で、この第一種特殊技能魔術を習得ししている人を国家魔術士と呼んでいて、現在は一二八人が登録されているの。
 その中で、物質干渉魔術で国家魔術士になっている人はたったの五人。
 これで凄さが分かったかしら?
 正直、これだけの腕だもの。試験さえ受ければ一発合格でしょうし、国に仕官すれば、一生食べていけるわよ?」
「へぇー」

 確かに、話しを聞く限りでは、凄そうなのはなんとなく分かった。
 要は、司法試験だとか公認会計士だとか、いうところの高難易度国家資格的な立ち位置にある、ということは理解した。
 が、だからなんだ? というのが俺の素直な感想だった。
 別に、そういう資格が欲しいわけでも、この世界で一生安泰に生活したい、というわけでもないからな。
 そもそも、カネに困ってないし……

 にしても、何か以前にも似た様なことを言われた気がするな……あれは何時の話しだったか?

「へぇー……って」
「そもそも宮仕えなんてガラじゃないからな。遠慮しておくよ」

 俺の答えが腑に落ちないのか、何か言いかけたセレスを遮る様に俺はそう言葉を続けた。
 大体、国に仕える、とは、つまりこの国の女王であるプレセアに忠誠を尽くせるか、ということだ。
 俺個人としては、この国の人達……セレスを始めとして、セリカやラルグスさん、それにブルックやジュリエットなど、色々と世話になっている人も多く居る。
 それに、あの子……プレセアにも好感を持ってはいるが、だかといって、それが即忠誠云々という話しにはなるまい。
 勿論、何か恨みがあるわけでもないので、現在は友好寄りの中立、というのが俺のこの国、ノールデン王国に対するスタンスだった。

「それだけの技術があるのに、遊ばせておくといのも何だか勿体ない気もするけど……」

 学者故の意見なのか、これとも個人的な見解か……
 まだ納得がいかないのか、セレスがもの言いたげな目で俺を見る。
 この子も、どうしてそこまで俺に拘るのか……

「てか、俺が言うのもアレなんだが、そうホイホイ他所の国の人間を宮仕えさせようとしていいのか? って気はするがな」
「あら? 有用な技術や知識を持っている人物を囲い込むなんて世の常じゃない」
「そうかもたが、俺はよそ者だぞ? もしかしたら裏切ったり、良からぬことを考えているかもしれないだろ?」
「そりゃ、普通なら突然他所の国から来て、仕官させてください、って言ったところで門前払いされるのがオチでしょうね。
 それこそ、間者スパイの可能性だってあるわけだし。
 でも、スグミ、貴方は違うでしょ?」

 そう言うと、セレスが真剣な表情で俺を見る。

「誰でも知っているようなことを知らなかったり、かと思えば、誰も知らない様な知識や技術を持っていたり……
 それらを勘案すれば、貴自身が言うように、貴方がノールデン王国の……いえ、この大陸の出身者ではない、というのはまず間違いないのでしょうね。
 仮に、スグミが言う、この大陸の外の大陸から来た、という話しが本当なら、この大陸とは違う技術が存在していて、現在、それを知っているのはこの大陸内に貴方一人だけ、ということになる。
 それが意味するところは……分かるでしょ?」
「……なるほど」

 セレスがこうして俺の雑務に同行したり、それとなく仕官を勧めたりする理由がなんとなく垣間見えた。
 つまり、俺の知識や技術は、セレス達から見ればまったくの未知なものであり、 それらを聞き出し、研究し、解明出来れば、新たな技術革新に繋がる……かもしれない、と考えているわけだ。
 要は、俺を起点としたブレイクスルーを狙っている、ということだな。

 実際、俺はセレス達の目の前で色々しているわけだしな……それも、現在進行形で。

「まぁ、この程度のことなら私だってすぐに思い付くのだから、きっと陛下も同じことを考えていると思うわよ?
 スグミの場合、陛下の目の前で……ではないけど、あのベルへモスとか倒しちゃってるわけだし?
 ていうか、私、陛下から直々にスグミが何をしていたか報告書を出すように仰せつかっているのよね……勿論、今日のことも書くのだけど。
 それが陛下のところまで届けば、きっとこれから仕官のお誘いが激増するんじゃないかしら?」
「うへ……マジか……てか、報告書って……」
「だから、最初に言ったじゃない。これも仕事だって」

 確かに言ってたけど……単なる個人の好奇心とか、サボりの口実ではないかと内心疑っていたりのだが、まさかの政府案件だったとは……

「まぁ、そうは言っても、あまり阿漕あこぎに勧誘して、他所の国に逃げられたら本末転倒だから、そこまで強引な手段は取ってはこないと思うけどね」
「どっちにしても勧誘はされると?」
「多分ね」

 別に、こっちにそんな気はないんだけどな……
 こればかりは、セレスの読みが外れてくれることを願うしかないな。
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